ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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第百話です、どうぞ!


第百話「ステルスネウロイの恐怖」

「ネウロイは矢じりのように先が尖った形状をしており、そしてコアを二つ両端に保有していた」

「コアが二つ…」

 

ブリーフィングルーム内の中央に立っていたシュミットが即興で書いた図面を張り全体に見えるように黒板へと張って説明をしていた。その説明を聞いていたリーネが衝撃を受けたように言葉を漏らした。

ネウロイを取り逃がしたシュミットとサーニャは、その後基地から出撃したミーナ達と合流した。そして周辺にネウロイを確認できなかったため、一度基地へと戻ってきたのだ。そして、シュミットが説明した今回のネウロイの特徴についてミーナに話すと、すぐさま緊急会議が開かれたのだった。

 

「二回右側のコアを破壊したが、粉砕したはずのコアは僅かな時間で再生をした」

「つまり、コアを同時に破壊しないといけないってことか?」

「現時点ではそう考えるしかない」

 

シャーリーの質問に対してシュミットが推測であるが答える。

 

「そして、サーニャと基地観測員の反応からして恐らくこのネウロイはレーダーに映らない、もしくは映りにくいと思われる」

「映りにくい?」

「そう、恐らくこのネウロイはレーダーなどの電波に感知されにくいんだろう」

 

シュミットの更なる発言にブリーフィングルーム内に僅かな緊張が生まれた。そしてその緊張の中ハルトマンが聞く。

 

「じゃあこのネウロイを捉えるのは難しいってこと?」

「難しいどころか、最悪と言っていいはずだ。なんせ夜間に出現するんだからな」

 

ハルトマンの疑問に対して坂本が言った。

 

「だが、サーニャの魔導針なら僅かに捉えることができた。完全に反応を消すことは恐らくできないのだろう。そうなると、サーニャはこのネウロイ討伐には必須となる」

 

シュミットはそう言ってサーニャの方を見た。しかし、サーニャは僅かに顔を下に向けていた。シュミットはそんなサーニャに少し疑問を持つ。しかし、坂本が口を開いたのでそっちに意識を戻した。

 

「確かにサーニャは討伐には必須だろう。それに夜間哨戒と考えるとシュミットも同伴だ。となると、後二人は欲しいな」

 

坂本はそう言ってウィッチ達を見た。今回のネウロイの特性上、シュミットとサーニャの二人ではネウロイ撃破は不可能と判断し、他のウィッチを昼間の任務から引き抜き夜間哨戒へと組み込むことにするのだ。

 

「ハイハイハイ!なら私もやる!」

 

坂本の言葉にすぐさま一人喰いついた。サーニャが心配なエイラは、手を挙げて自分を推薦するように言う。

 

「いいだろう…よし、宮藤」

「は、はい!」

「以前のように、お前も夜間哨戒に加える。いいな?」

「はい!…え?」

 

坂本の言葉に芳佳はいつものように返事をし、そしてその事実を理解し間の抜けた返事をした。どうやら芳佳は今回の件に自分が回されるとは思っておらず、そのまま返事をしてしまったようだ。

対してシュミットは選ばれたメンバーが以前ネウロイが出現したときのメンバーであると理解し、逆にあまり混乱は起きないだろうと心の中で思っていた。

そして時刻は既に夜の12時を回っており、既に翌日となった。ブリーフィングも終了し、ミーナが口を開いた。

 

「では解散。それと夜間哨戒組は明日…いえ、今日の出撃に備えるように」

『了解』

 

こうして、全員が解散をしたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ブリーフィングが行われた次の晩、シュミット達4名は例のネウロイ討伐に出撃した。しかし、シュミット達はネウロイの反応をサーニャの魔導針で捉えられず、目視確認も天候の関係で曇りのため、夜目が一番効くシュミットでも見つけることはできなかった。そして、更に不運は重なった。

 

『大尉!グリッド西、05地区でネウロイ発見の報告アリ!』

「なにっ!?」

 

基地からの通信にシュミットは衝撃を受けた。ネウロイは自分らに全く捕捉されずに大陸沿いまで移動していたのだ。シュミット達4人は急いで報告された地点へと急行する。

全力で飛行し到着した4人であるが、到着した地域でネウロイを発見することは出来なかった。周辺には厚い雲が複数浮かんでおり、目視でネウロイを捉えるのは絶望的だった。

シュミットもすぐさまそれを理解し、横に居たサーニャに問う。

 

「サーニャ、ネウロイの反応はあるか?」

「…いいえ、ネウロイの反応、ありません」

「そんな…」

「くそっ…」

 

サーニャの言葉に芳佳とエイラから声が漏れる。四人は急いで高度を下げて地上を見る。幸いにも、大陸沿いにはネウロイによる被害は見られず、攻撃した痕跡も無かった。

そして夜間哨戒を終え、4人は基地へ帰投する。シュミットは部屋に入ると備えられたソファーに座る。しかし本来であれば次の夜間哨戒に向けて体調を万全にしなくてはいけないが、彼は明るくなりつつある窓の外の景色を見ながら考え事をしていた。

 

(以前のように四人、それも全員が前よりも強くなっている分比較的楽に見つかると思っていたが…甘く見ていたか)

 

シュミットはそう心の中で思うと、立ち上がって棚に置かれている冠水瓶に手を伸ばす。そして中に入っている水をグラスに注ぐとその中身をあおる。

そしてグラスを再び棚に置き、窓の外をもう一度見た。

 

(今回のネウロイは以前なんかと比べ物にならないぐらい強敵だ…)

 

シュミットの心情は不安だった。新人だった芳佳が強くなっていると同時に、ネウロイも強くなっている。もしかしたら今回は楽に行くどころか、以前より苦戦をするかもしれないという思いを捨てきれないでいた。そしてもう1つ、彼が気にすることはあった。

その時、部屋の入口の方から「コンコン」という音が鳴る。誰かが扉を叩いたのであろう音にシュミットが気付くと、誰が来たのかと思い扉へ向かった。

 

「はい」

 

シュミットは扉を開ける。そして、そこに居た人物に僅かに驚いた。シュミットは部屋の前に居た人物の名前を呼ぶ。

 

「サーニャ?」

「…」

 

シュミットはサーニャの名前を呼ぶ。しかしサーニャはブリーフィングルームで見せた時のように僅かに暗い顔をしており、何かを言おうかとまるで迷っているかのようだった。

そんなサーニャの姿にシュミットは疑問に思う。何があったのかを聞こうとシュミットは一瞬考えたが、無理に聞くのはよくないと結論付けた。

 

「…とりあえず、部屋に入る?」

 

シュミットの問いにサーニャは顔を上げる。そして僅かに間を開けてサーニャは頷く。

とりあえずサーニャを部屋に招き入れたシュミットだが、結局どうしたものかと思う。その間にもシュミットは部屋に備えられたテーブルの椅子に座らせる。そしてシュミットは先ほど同様冠水瓶からコップへ水を汲み、それをサーニャの前に出したら反対側の椅子へ座った。

 

「どうしたんだいサーニャ、こんな時間に部屋に来るなんて…って言っても、大体予想はつくけどね」

「えっ?」

 

シュミットの衝撃の言葉にサーニャは驚いた様子でシュミットを見る。

 

「今回のネウロイが()()()に殆ど反応しなくて、こうしている間にもネウロイが何処かを攻撃しているんじゃないか、かな?」

「――!」

 

シュミットの言葉にサーニャは図星だったらしく、何故シュミットが言い当てたのかと驚いた顔をする。その様子を見てシュミットは「やっぱり…」と呟いた。

シュミットは前日から感じていたサーニャの様子に最初は僅かに疑問を持っただけであったが、今日行われた夜間哨戒でそれは確実な物へと変化した。サーニャは501で一番の夜間哨戒能力を持ち、そして全方位広域探査によってネウロイを捕捉し攻撃する。以前であれば捕捉後は一人で戦闘を行っていたが、今はシュミットが共に飛んでいるためその負担を大きく減らすことに貢献していた。

しかし、そんなサーニャが今回はネウロイを捕捉できないのだ。彼女は内心で不安を持ち始めていた。それは、「今回のようにまた逃してしまい、そして次は何処かが被害を受けてしまうのではないか」というものであった。

 

「サーニャ」

 

シュミットはサーニャの名前を呼んで立ち上がる。そしてそのままサーニャの後ろ側へ回り込むと、彼女を後ろから抱きしめた。

突然の行動にサーニャはビクリと驚いて顔を赤くする。しかし、シュミットはサーニャが口を開く前に話し始めた。

 

「――私はサーニャを信じるから」

「え」

 

シュミットの言葉にサーニャは一瞬何のことかと驚く。しかし、それが自分に対しての励ましの言葉であると理解した。

 

「サーニャなら、あのネウロイを絶対に見つけることができるって信じてる」

「でも…」

 

サーニャはシュミットの言葉にまだ不安を持った様子で問おうとする。しかし、またしてもシュミットの言葉に遮られた。

 

「大丈夫だよ、明日は絶対見つけれる。だってサーニャが居るから私も夜間哨戒で安心して戦えるからね」

 

シュミットはそう言って抱いていたサーニャから離れた。

 

(まったく…私が疑ってどうするんだ…)

 

シュミットは先ほどまで感じていた不安に対して、そしてサーニャのことを信じてあげていなかった自分に対して首を振った。シュミットだけでなくサーニャだって不安を感じているのだ。ここで全員がその思いに飲み込まれてしまえば、ネウロイなど到底倒せるものではない。シュミットはセンチになっていた自分を引っ叩いてやる気持ちで反省した。

対するサーニャは、シュミットの言葉に胸に感じていた不安の錘が大きく減ったように感じた。今回のネウロイは以前とはまるで違い自分の固有魔法で捉えることが全くできず、このままではいつ被害が起こるか分からないという不安が巡っていた。しかし、シュミットはそんなサーニャを信じているのだ。だからこそ、サーニャは信じてくれる人の為に次こそはと、心の中で気持ちを切り替えるのだった。

しかし、サーニャはそう感じたと同時に疑問に思うことが一つ浮かび上がった。

 

「あの、どうしてシュミットさんは私の悩んでいたことを知っていたんですか?」

 

サーニャはシュミットが先ほど自分の心情を正確に当てたことに対してまだ疑問に思っていた。もしかしたら、自分は周りからも分かりやすい表情をしていたのではと、僅かに考えた。

しかし、シュミットの答えは予想外の物だった。

 

「…サーニャだから、だな」

「え?」

 

シュミットは僅かに考える素振りを見せ、そして言った。その言葉にはサーニャは何のことかと思うが、シュミットはそんなサーニャに続けて言った。

 

「サーニャだから、もしかしたらこう考えるんじゃないかなとか、こう思っているんだってのが、サーニャだから分かるって言うか…その、サーニャ以外なら多分分からなかったっていうか…なんていうか…」

 

シュミットは説明が難しいのか上手く言葉に表せないでいた。しかし、窓の外から零れる朝日の光に照らされた彼の顔は、その頬が赤く染まっているということを証明していた。彼はまるでサーニャに問い詰められたときのエイラのような反応をしていたのだ。

そんないつもは見せないシュミットの様子にサーニャはおかしく思い笑った。

 

「フフフッ」

「サーニャ、なにも笑うことは…」

「ごめんなさい。でも、やっぱりおかしくて」

 

シュミットはサーニャが自分を見て笑っていることに少し恥ずかしく思った。しかし、先ほどまで悩んでいたサーニャの表情が和らいだのを見て、心の奥で少しだけ不安が和らいだのだった。

ふと窓の外を見ると、先ほどよりも空は明るくなっていた。そろそろシュミット達は確実に眠らなければならない時間にまでなってきていた。

 

「そろそろ次の夜間哨戒に向けて体調を整えないといけないな」

 

そう言って、シュミットはカーテンを閉める。サーニャも同じタイミングで椅子から立ち上がった。

部屋の中は窓からの光を失い薄暗くなるが、シュミットはサーニャに差し出したコップを片付け始める。

 

「ん?」

 

ふと、シュミットは片付けているときに自分の後ろでサーニャが移動する気配を見せないのに気づいた。暗い部屋の中では彼女の表情を読み取れないシュミットであるが、とりあえず何があったのかと思い聞いた。

 

「どうした?」

 

シュミットは何気なくサーニャに言った。しかし、次の言葉は彼の理性を大きく揺さぶられるものであった。

 

「その、一緒に寝てもいいですか?」

「……え」

 

サーニャのとんでもない爆弾発言に、流石のシュミットも一瞬理解が遅れた。今、彼の心の中では二つの感情が巡っていた。

 一つは、引っ込み思案な性格――最近は大分改善されているが、そんなサーニャがまさかこのようなことを言ったことに対する驚き。

もう一つは、本当にその言葉に対して「いいよ」と言っていいかどうかという葛藤だった。シュミットも、サーニャがアプローチを掛けていることを理解し、その行動について純粋に嬉しく思っていた。しかし彼の中にある良心が今、最後の壁として立ちはだかっていた。

数秒黙った後、シュミットは答えた。

 

「――いいよ、おいでサーニャ」

 

シュミットの理性は、あっさりと根負けしたのだった。




久しぶりに書くと、どうしてこうなった、というような文章を書いていることがありますね。今回がそうでした。
シュミットと関わるうちに段々積極的になってきたサーニャ。尤も、積極的になるのはシュミットの時だけですが。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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