ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記   作:深山@菊花

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お久しぶりです。少し投稿遅れました。では第九十八話です、どうぞ!


第九十八話「500overs」

マルタ島奪還作戦が開始され、ウィッチ達は全員が出動する。現在上空には別行動となるハルトマンとマルセイユの二人を除き、501の全員が編隊を組みながら飛行していた。

そして、作戦予定地に到着したメンバーは下を見る。

 

「…まさかこんな光景を見るとはな」

 

シュミットはそう言って眼前に広がるマルタ島奪還作戦に参加する艦艇群を見た。その言葉に横に居たリーネが質問した。

 

「そんなに珍しいんですか?」

「いや、ブリタニアとカールスラント、そしてロマーニャの艦が並んで艦隊行動をしているからな。私の世界ではこんな光景を拝むことはまずありえないから」

 

そう言って、シュミットはブリタニアのキングジョージⅤ世級を見る。その後方にはヴィットリオ・ヴェネト級、ビスマルク級が続いていた。シュミットの世界で言えば敵対国同士の船が並ぶことなどありえないだけに、この光景は異様と同時に壮観であった。

そしてその先には、大きなドームによって一部分が覆われたマルタ島の姿があった。上空のウィッチからはマルタ島のネウロイに対して攻撃することはこのドームによって現在不可能な状態になっている。

そんな中、編隊の中央に居るミーナがインカムに話しかける。

 

「聞こえる?マルセイユ大尉、ハルトマン中尉」

『ああ、良好だ』

 

ミーナの言葉に答えたマルセイユ。現在マルセイユはハルトマンと共に下――正確には海底に居た。

扶桑の建造した大型潜水艦伊400番型、彼女たちは現在この潜水艦の中に乗っていた。

 

「目標はネウロイによって占拠されているマルタ島、この前扶桑艦隊を襲ったネウロイもここから出現したと予想されるわ。ネウロイは地上で要塞化していて手が出しずらいの。だから内側から潜水艦を使って侵入して倒します」

 

そう、今回二人が潜水艦に乗っているのはその為であった。マルタ島を出来るだけ傷つけずにネウロイを倒す為には、水中から侵入して敵要塞に攻撃を加える方法しかなかった。伊400型潜水艦は潜水空母と呼ばれる艦でもあり、ウィッチ二人を収容するのにうってつけであったのだ。

 

「二人共、準備はいい?」

『いつでも行ける』

『こっちもいいよ』

 

ミーナの言葉にマルセイユとハルトマンが答える。しかし、シュミットはこの返事を聞いて少し気になった。

 

(なんだか二人共ヒリヒリとしている?)

 

シュミットは二人の声――特にハルトマンの声に違和感を感じたのだ。いつものような軽い雰囲気と違い、今回はどこか真剣さが強かったからだ。

 

「作戦開始!」

 

そして、作戦は開始された。伊400はマルタ島を覆っていたネウロイのドームの内部に入ると、浮上をした。

 

「発進!」

 

そして、二人はカタパルトによって撃ち出された。そして二人は上昇をしていく。ネウロイは突然の侵入者に対して攻撃を加えていく。二人は回避をしながらネウロイに対して分析をした。

 

『いっぱい居る…敵数、多分40くらい』

「40!?」

「多いな」

 

40という言葉にリーネが驚く。坂本も単純に内部に潜んでいたネウロイの数が多かったことが少し予想外だったようであった。戦力は単純に2対40、一人当たり20機を相手にする計算になる。

 

『違う、38だ』

『35だよ』

 

しかし、マルセイユが数の訂正をする。続けてハルトマンがさらに訂正、徐々に減っていく数に芳佳は困惑する。

 

「え?どっちなんですか?」

「いいえ、どっちも合ってるわ。敵が減ってるの」

「え?」

「二人が撃墜してるんだ」

 

バルクホルンの言葉に芳佳も理解した。しかし、はっきり言って二人の撃墜速度の速さは異常だった。ブリタニア基地に現れた分裂したネウロイと違い、このネウロイは個の戦闘力も高い。その為こちらのほうが圧倒的に強いのだ。しかし、二人はそんな攻撃に対して高速で撃墜を加えていく。

 

「28!」

「25だ!」

 

子機のビームを掻い潜りながら二人は機関銃の引き金を引いていく。時には互いが交差をしたりしてネウロイを攪乱し、その隙を突いて撃墜を加えていく。

 

「…21!」

「…10!」

 

二人が目指すはコアのあるネウロイだ。その位置はドームの一番上の位置にあり、二人は急上昇をしていく。ネウロイは、させないと二人に対して攻撃を激しく行っていく。しかし、それもあっさりと回避をされて撃墜される。

 

「7…6…5…」

「4…3…2…」

 

そして、ついに二人は最後の子機を撃墜した。

 

『0!』

「残るはコアのみ…!」

 

インカムで聞いていたシュミットが呟いた。

 

「これで!」

「終わり!」

 

そして、二人の放った弾丸ははドーム内に存在していたコアに向けて飛んでいき、そしてコアに直撃した。コアは攻撃に耐えきれずに崩壊した。

コアを失ったネウロイのドームは、形状を維持できなくなった砂のように頂上から外側へ広がるように崩壊を始めた。

 

「見てあれ!」

「凄い…たった二人で…!」

 

芳佳はあっという間にネウロイを倒したハルトマンとマルセイユに驚く。所要戦闘時間僅か数分で決着をつけたのだ、驚かない方がおかしいものである。

しかし、シュミットはドームから出てきたハルトマンとマルセイユを見て疑問に思った。

 

「…まて、二人の様子がおかしいぞ」

「え?」

 

シュミットの言葉に全員が注目する。二人は周りに聞こえない声で何かを話していた。そして突然、離れるように散開をする。

 

「二人共、何してるんでしょう?」

 

芳佳が疑問の声を漏らした時だった。ある程度の距離が離れた二人はまるで戻ってくるように反転をした。そして、マルセイユがハルトマンの後方へ付けると、なんと手に持っていた機関銃を撃ち出した。

 

「う、撃ちましたよ!?」

「ああ、撃ったな」

 

芳佳は思わず大きく驚いた。その言葉に坂本は返すが、目線は二人に向いたままだった。

 

「あいつ…!」

「味方に向かってなんということを!」

「仕方のない奴らだ」

 

皆口々に言うが、誰一人と動くことは無い。

 

「なにを呑気なこと言ってるんですか…実弾ですよ!?」

「二人はウィッチだ。シールドがあるから当たりはしない」

「そ、そうですけど…」

 

坂本が言うが、芳佳はどこか納得できない。元々銃を人に向けて撃つなどという世界から一番遠かった芳佳だ。最近でこそ躊躇いを捨てることができたとしても、やはり心の奥底では人に向けるなど考えられたいことであった。

そんな芳佳にシュミットが言った。

 

「諦めろ宮藤、これは恐らく二人の決闘…譲れないものでもあったんだろう」

「二人の戦いは、シールドを出した方が負け。そして、弾が切れた方が負けだ」

 

その間にも、マルセイユとハルトマンは戦闘をしていく。しかし、その動きははっきり言って恐ろしいものだった。

 

「シャンデルで頭を抑えようとしたのに、ハイGバレルロールで逆に背後を取った!」

「凄い…」

 

その先頭は、今この場に居る者が見ても明らかにレベルが高いと言わしめるほどのものであった。空戦軌道の殆どは高度なものばかりであり、どれも並のウィッチなら決着をつける有効的なものであった。しかし、二人はそんな中何度も相手の背後を奪い合いしていく。

 

「貰った!」

 

ここで、マルセイユが後方を捉え機関銃の引き金を引いた。弾丸はハルトマンへ向けて飛来していくが、ハルトマンはその弾丸を僅かな動きで回避すると急上昇した。

 

「sturm!」

 

ハルトマンは上昇をしながら固有魔法『疾風』を使った。マルセイユは上昇と同時にハルトマンを追いかけていたが、太陽の方向へ上昇したのと固有魔法のコンボを使わされたためその場で回避軌道を取る。

その瞬間、攻防は逆転した。マルセイユの視線から外れたハルトマンがすぐさまマルセイユの後方へ回った。そして、今度は逆にマルセイユに向けて引き金を引く。しかし、マルセイユはハルトマンの攻撃を回避していく。

 

「…決着がつくぞ」

「え?」

 

突然、シュミットが発した。その言葉に一瞬驚く一同であるが、その答えが出た。

並列して飛行していたハルトマンとマルセイユが互いに相手に向けて機関銃を構えた。そして二人はホバリングしながら停止した。

しかし、二人の機関銃から弾丸が放たれることは無かった。

 

「弾切れだ」

「私もだ」

 

ネウロイとの戦闘に続いて決闘を行った二人の機関銃はついに弾丸を使い果たしてしまったのだ。

勝敗はシールドを張った方の負け、もしくは先に弾丸が切れた方が負けである。しかし、どちらも達成することのできなくなった今、この勝負の結果は決まった。

 

「引き分けだね」

「フッ」

 

ハルトマンの言葉にマルセイユが微笑み返した。

 

「…決着ならず、か」

 

そうして、二人の勝敗の結果にまた一つ、ドローの数字が刻まれたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「…一体、どういう風の吹き回しだ?」

 

マルタ島奪還作戦とハルトマン、マルセイユの決闘が行われた翌日、バルクホルンは驚いた様子で自室の中を見る。正確には、自分の使用しているスペースとは反対側のハルトマンが使用しているスペースを見ていた。

そこには、散らかった自分のスペースのゴミを片付けているハルトマンの姿があった。

 

「お前が部屋を片付けるなんて…」

「ごめんトゥルーデ」

 

バルクホルンの言葉にハルトマンがまず謝罪の言葉を述べた。そして、続けて言った言葉にバルクホルンは驚かされた。

 

「…ハンナのサイン貰えなかった」

「っ!」

 

ハルトマンは落ち込みながら言う。しかし、バルクホルンはハルトマンが自分の為にマルセイユと戦ったと理解した。

 

「…もういい、気にするな」

 

バルクホルンには、ハルトマンのその気持ちで十分だった。

ハルトマンが部屋を片付けている頃、基地の滑走路ではJu52が離陸しようとしていた。

 

「随分急ぐのね」

「午後から向こうで雑誌の取材があるからね」

「流石、アフリカの星だな」

 

ミーナの言葉にマルセイユが返す。その内容に坂本はなるほどと言った様子で言った。

ふと、マルセイユはあることを思い出した。

 

「ああそうだ、忘れていた」

 

マルセイユはそう言って、ジャケットのポケットから一枚の写真を取り出した。それは自分の写真であり、そこにはサインが描かれていた。

 

「バルクホルンの妹に送ってやってくれないか?」

「自分からトゥルーデに渡してあげればいいのに」

 

マルセイユの言葉にミーナが言うが、マルセイユは輸送機の階段を上り切った後振り返って言った。

 

「言っただろう、私は忙しいんだ」

 

そう言って、マルセイユは輸送機内にその姿を――消す前に再び戻ってきた。

 

「そうだミーナ、もう一つ」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「あら、ここに居たのねシュミットさん」

「あれ?ミーナ中佐?」

 

格納庫にやって来たミーナを見てシュミットは驚く。彼は今自分のユニットのメンテナンスを行っていた。

シュミットは手を拭きながら立ち上がると、ミーナの方に体を向けた。

 

「マルセイユ大尉を見送った帰りですか?」

「ええ。それと、シュミットさんに伝言を頼まれたわ」

 

ミーナの言葉にシュミットは吹いていた手元をピタリと止めた。

 

「え?誰から?」

「ふふ、マルセイユ大尉からよ」

「え?マルセイユ大尉から?」

 

意外な人物からの伝言にシュミットはさらに驚くが、ミーナにその内容が何だったのかを聞いた。

 

「『今度も私が勝たせてもらう。それまで無様に負けるなよ』だそうよ?あの子に気にいられたみたいね、シュミットさん」

「…」

 

ミーナは笑顔で言うが、シュミットはまた再戦をすることになるのかと考え、ハルトマンの気持ちが若干分かった気がしたのだった。

一方その頃――

 

「やっぱやーめた!」

「え?」

 

ハルトマンはそう言って、先ほどまで手に持っていた本を放り投げるとそのままゴミ部屋と化している自分のテリトリーで仰向けに寝転がるのだった。

 

「えええええええ!?」

 

それを見ていたバルクホルンは、先ほどまでのハルトマンの行動から突然の変化に対して怒るを通り越して呆れて驚くのだった。




特に原作と変わりありません。シュミット君がマルセイユ大尉から少し認められた以外。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!

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