現在ボクは長く垂らした銀髪と栄養失調を起こしてそうな、青白く痩せた身体が特徴的な男の人と対面し座っている。かれこれ15分位何も話さずこの状態である。
そろそろボクも居心地が悪くなってきた。元々忍耐力にはあまり自信がないんだ。男の人が最初に出された紅茶を飲む。つられてボクも
気を紛らす為に紅茶を飲む。あまり味が感じられない。また少ししたら、秘書のようなスーツっぽい服の女性が入室してきた。
「失礼します。」
「どうぞ。あぁレイラ、やっと正式なのが出来たかい?」
「はい。こちらです。どうぞ。」
いまいち状況が理解出来ないけど、秘書の方はレイラさんって言うらしい。そして、何か書類のような物を渡していた。それを切っ掛けにやっと会話が始まった。
「お待たせして申し訳ございません。どうもこんにちは。私はレンジャー養成学校『鷹ノ眼学園』の学園長、カイル=グラン=ウィンチェスターと言います。ギルドからの書類、拝見させてもらいました。ホシカワツクヨさん、ようこそ『鷹ノ眼学園』へ。」
なんだかかなり丁寧でゆっくりとした口調だ。年下であるボクに対してるとはあまり思えない態度で話している。どうもこの人はこのなりで学園長らしい。まだ若そうなのに。などと考えている間にも学園についての説明は進んで行く。
「ツクヨさんには此れからこの学園に、特待生として編入してもらいます。因みに拒否権は存在しません。国の方針ですので。」
「はぁ...」
拒否権無しって、えぇ?人権とか確立されて無いのかな?なんにせよ色々と疑問が絶えない。
「と言うことでギルドの依頼を受けられる年齢になるまで、この学校で能力を磨いて頂きます。レイラ、よろしく。」
「はい、秘書のレイラ=ルセイオスと申します。ツクヨさん、編入準備を致しますのでどうぞ此方へ。」
そのまま部屋を出て行ったレイラさんについて行き、向かいの部屋に入った。そして制服の採寸や、学園内でのルールや時間割等々の話を聞いたりした。因みにレイラさんも銀髪でショートヘアである。ちょっとだけキリッとした目で、眼鏡を掛けている。如何にも秘書って感じの人だ。
「では、明日より編入です。教室は第2棟3階の1-Cです。遅れず来てください。また、学生寮が学園の隣にあります。鍵を渡しておきますのでそこで暮らしてください。」
「は、はい。ありがとうございました。」
かくしてやっと1日目が終わった...しかし不安しかない!どうしてこうなった感が満載なのだ!と言うか今日明日で編入できてしまうとは…驚きだ。因みに学生寮は本当にすぐ隣だった。
考えてもしかたがないので諦めて思考を放棄し、自分の部屋に入ろうとした時に事件が起きた。ネームプレートを見る限りボク以外の名前がある。なんとルームシェアだったのだ。しかもなんの手違いかしらないが、一緒に住むのが男子なのだ。大事だからもう一回。男子なのだ!何故分かったかって?名前の文字の色が違ったからね。名前は…ゼン=リーフェイル?何はともあれ一旦諦めるしかないか。最悪学園に頼めば部屋位何とかしてくれるだろう。などと考えつつ鍵を回し部屋へ足を踏み入れる。
「お邪魔しまーす...」
って言うけどこれから住む自分の部屋なんだよね〜。男子の住んでいる部屋だから少し警戒したのだがまだ例の男子は居ないみたいだった。其れだけは神様が慈悲を下さったのかな?まぁ待つとしよう。 テキパキと準備と片付けを済ませ、二段ベッドの下に陣取る。部屋の中はよく掃除がしてあって中々の清潔感を保っていた。
因みに何故下のベッドかって?そりゃあ下なら襲われてもすり抜ければ逃げやすいじゃないか!だって男子だよ?何が起こるか分からないじゃないか!と言うか上はなんか荷物置いてあったしね。色々考えていると、待つ事既に20分程度経っていた。しかし、一向に帰って来る気配が無い。
...どっかで野垂れ死にしてるのかな?其れはそれで有難いけど...なんて言うボクの希望論をぶち壊しながら『彼』は部屋に入ってきたのだった。
☆☆☆☆☆
「ただいま!我が家!あー今日も疲れたわぁー!」
今日も朝から実習実習実習実習実習…やめてほしいね!…まぁ、座学一日よりはマシだけど。
そう言う訳で疲れを癒す唯一のオアシスが我が家(学生寮の部屋)なんだよ!
あ、因みに俺の名前ゼン=リーフェイルっていうんだ!…え?誰に喋ってるんだって?気にしたら負けだよ!てか声に出してないしな!ガハハ!
ー風呂場ー
「いやぁ〜風呂が気持ち良いですわー。」
まぁ風呂が沸いてたのは何故か気になるけど、気持ち良いからなんでもよし!え、女の子が居たって?やだなぁ〜そんなの幻覚にきまってますよ。俺の部屋に女の子なんてきたらもう…うへへーになっちゃうよ。うへへーが何かって?想像にお任せしますよ。まぁお腹も減ったし、あんまり長く入っていると上気せるからそこそこで出よう。
☆☆☆☆☆
「……………解せぬ。」
何故だろう彼は一回こっちを見たはずだ。鈍感なのかな?いや、あれは現実から逃げた目だった。
そうだ。そうに違いない。そうであろう。その筈だ。
「はぁ…ボクやっぱ一人部屋が良い。」
そんな事を呟き自分の不運を嘆いていると、風呂の扉が開く音がして黒髪を濡らした男が出て……
「服を着ろぉぉぉぉぉおお!!」
「ぶべらっ!」
なんで裸!?パジャマか部屋着位着ようよ!情景反射的な感じで殴っちゃったじゃん!第一君の部屋とはいえ家の中で裸で髪も乾かさず出てくるのか!?普通は違うよね!?しかもさっきボクの事見てたよね!?なんで子供とはいえ女の子の前に裸で出てこれるの!?羞恥心とかないの!?欠損してたの!?忘れたの!?どっかに捨ててきたの!?あれ?なんかニヤニヤした顔がボクを見てる………ん?
「赤くなってる幼女がいるぞ。かわゆい。へぶ!」
「うるさい!」
あぁ、また殴っちゃったじゃん。変なこと言うから。
「いてて。容赦ないなぁ。ん?と言うか痛いのか。幻覚じゃない…本物?……本物!?」
そう言って独りでに理解した変態はドタドタと別の部屋に走っていき、ものの10秒ほどでジャージに着替えてでてきた。そして戻ってくる勢いそのまま滑り込み土下座をかましてきた。すごいキレイに決まっている。
「ごめんなさぁあい!」
顔がすごい。ペンキでも被ったかのような赤さだ。こう言うのを、真っ赤と言うのだろう。
「うるさい。近所迷惑です。」
「あっはい。申し訳ございません。」
今回は仕方ないから許してやるか。
「はぁ...まぁいいけどさ。次から気をつけてよね。」
「了解であります!」
なんなんだこの子。態度だけじゃなく喋り方まで変わってるぞ。側から見たら変人もいいとこだよ。正直に言って少し怖い。
「と、取り敢えず一緒の部屋っぽいから自己紹介でもしよっか。」
「はい!自分の名前は……」
「はい!待った!ちょっと待った!…その喋り方やめない?」
「わ、分かった。」
「よし。じゃあ再開で。」
「えーっと…俺の名前はゼン=リーフェイルって言うんだ。因みにクラスは1-Dだ。…最底辺だけど突っ込むなよ!んで、得意な武器は『ショットガン』だ。取り敢えずよろしく。」
ここにきてまた一つ分かったことがある。あ…リーフェイル氏がどアホって事じゃないよ?それは皆んな知ってるから。 何かっていうとクラスの事についてだ。リーフェイル氏が1-Dで自分は最底辺と言っていた、と言う事はクラスは何らかの成績順で上から{A} {B} {C} {D}と言うように分けられているはずだ。因みにボクは1-Cらしい。…うん。編入生だしね。下から二番目でも仕方ないよね。しかしこの世界について聞きたいことが物凄く沢山ある。丁度いいから自己紹介の後にこのアホ=リーフェイル氏に色々と聞こう。
「はい、じゃあボクの番だね。ボクは星河月夜。クラスは1-Cで編入生だよ。よろしく。」
編入生だと言ったときにリーフェイル氏が悩んでいた。何を悩んでいたんだろう。
「おう。よろしく。」
リーフェイル氏は尚も何か言い淀むかのように難しい顔をしている。しかし何かを決心したかの様にボクに確認の様な質問を投げかけてきた。
「いきなりで悪いんだがツクヨって転生者だよな?」
「……は?」
どう言うことだろう。転生っていう概念があるのかな?それとも何処かの偉い魔法使いの方が意図的に召喚でもしてるのだろうか。しかし、もう既に破天荒な生活の予感しかしない。どう足掻いても避けられそうに無さそうだ。まぁ何はともあれ極めつけはこれ、
『この世界には転生者なるものが存在するようだ。』
明らかに大丈夫じゃない響きだよね。特典の超絶恐ろしい能力で戦争とかしてそうだよね。マキノさんはリブラムは"比較的"平和って言ってたけど、こんな能力持ってる人がわんさかいる世界だったら平和な場所なんてないと思った方がいいよね。
学生寮の一室にて話す幼女のその幼い顔には、歳に合わない苦虫を噛み潰したような絶望の色が浮かんでいた。その表情は自分の行く末を理解した物なのか、それとも只、ルームメイトに絶望していただけなのか。それは知る由のない事である。さて、これからはそんな幼女が戦争の道具にされながらも人間として成長して行く物語を語って行こうか。
深くなっていく夜の闇の中、学生寮の一室だけは光が洩れその光はその夜消えることはなかった。