10/5追加文にてアーチャーの守護者編が終わりました
次回から別作品として新たに投稿します
「ここは…?」
気がつけば三百六十度無限に広がる荒野にいた。
天蓋には延々と廻り続ける歯車。生命など赦さぬ灰色の空と緋い大地。
見渡す限り墓標の様に突き刺さる剣を見て、自分が何者なのか、何故こんな錆びれた場所にいるのかを思い出した。
「…ついに至ったのか」
此処は霊長の抑止力、すなわち守護者と呼ばれる者達に与えられる”座”。
その座が私の場合死に際に見た幻、エミヤ◼️◼️◼️が唯一持ち得た心象風景だったのだろう。
そう、エミヤ◼️◼️◼️。正義の味方という理想を追い続けた愚者。
自身のことなど考えず、ただただ誰かの為に走り続けた。その中で何度も裏切られ、欺かれた。助けた人間に背中を撃ち抜かれさえした。それでも、苦痛だと思うことも破綻しているとも気づかないふりをし続けた。
そして最期には救ったはずの人々に裏切られ、民衆に罵倒を浴びせられながらその生涯を終えた。
当然だろう
人間性のない正義漢など大衆の目からすれば正体不明の脅威だ。
なんの見返りもなく悪を裁き人々を守る。
それはすなわち自分達が裁かれる側になればその男は容赦なく正義を執行するというすことに他ならないのだから。
だが
誰かが傷ついていることの方がよっぽど辛かった。
救っても掬っても手の隙間から零れ落ちた無数の澱。
無力だった自分が嫌いだった。全てを救えない自分が許せなかった。誰も悲しませない様にと口にしておきながら、多くの為にと少数を切り捨てた自分を殺したくなる程憎んだ。
だから、ある事件をきっかけに世界と契約した。
死後、奴隷として酷使されようが構わない。窮地にある誰かを救えるのならそれで本望だった。
それに、もう、誰の泣き顔も見たくはなかった。
そして守護者と至った今ならば、今度こそ苦しむ人々全てを助けることが出来るだろうーーーーー…
ーーーーーー夢を見ている。
ぼんやりとした意識のなかで体がひとりでに動き、その場にいる人々全てを殺す夢。逃げ惑う大人も、泣き叫ぶ子供も、なんの躊躇もなく自分が殺していく。
まさに悪夢だ
夢の中だというのに人体を断ち切る感触が、飛び散る血肉が、絶望に満ちた断末魔が妙に生々しい。こんなものは一秒だって耐えられない。
早く覚めてくれと願ったのは、最期に全てを諦め、涙を流し立ち尽くす少女の首を刎ねたのと同時だった
ーーーーー願いが叶ったのか体の感触が戻ってくる、目覚めが近いのだろう。酷い夢を見た。あの少女の絶望した目が脳裏に焼き付いている。あんな地獄を生み出さない為に抑止力の一端になったというのに。
でも、まぁ…
己の無力さによって救えなかった人達を忘れてしまうよりは余程いいかと思った。
目が覚めると地獄にいた。
見渡す限りの死体から零れ落ちる臓物と立ち込める悪臭。生きている者は無く、無惨に切り裂かれたナニカが転がっているばかり。
「…?」
守護者として召喚されたのは推測できた。だがこれでは一体誰を何から救えばいいのかと考えてーーー
何故、自分は剣を握りしめているのか
何故、自分は血に染まっているのか
何故、夢に出た少女の首が目の前に転がっているのか
「ぁ、ーーー」
ーーーーー全てを理解した
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あれから何度も世界を救った
そして理解させられた。守護者は人など救わない。救うのは人類の存命という形の無いモノだけだとーーーーーー
無限に広がる剣の丘に一人の男がうずくまっている
「こんな…違う……オレは…ッ」
崩壊し、消えてしまいそうな自我を、頭を掻きむしり抉ぐる痛みで起こす
地獄を見た
地獄を見た
地獄を見た
体も心もその人生も
死後の安らぎすら投げ出して辿り着いた理想の果てで、地獄を見た
故郷を飛び出し大切な人達を置き去りにした
戦場で救われるべき人々を見殺しにした
理想の為にと屍の山を築き上げた
「その結果が、コレか…!」
誰かが泣いていることが我慢ならなかった
幸せな世界であってほしいと願った
そのために多くの想いを切り捨てた
「こんな…こんなモノの為に…!」
そうして生まれてしまったのは人々に絶望を与え地獄に突き落とす殺戮者
ならば、理想の為に消えていったあの人達は一体何の為にーーーーー
「エミヤ…シロウ……ッ!」
だから憎んだ
誰も救えず、誰かを犠牲にしてまで守護者と成り果てた己を、正義の味方という借り物の理想に憧れ、尊いと考えた嘗(かつ)ての自分を
「ーーーーーーーー」
何処までも聳え立つ
鋼の瞳に確かな殺意と憎悪が宿った
そこに、誰よりも不器用で優しかった少年の面影はない
この時間の概念の無い死の荒野で、錬鉄の英雄は自身への憎しみだけを糧に
終わらぬ地獄を歩み続ける
完結
次作セイバーさん登場
微弓剣ものへ