注意:アンチヘイト、キンジ強化
アドシアードの閉会式は魔剣が裏で暗躍していたことを感じさせないような華やかさで終わった。特に変わったことと言えば、まだ弱って激しい運動ができない銀華の代わりに、白雪がチアガールとして出たということぐらいか。いきなりの出場で演技は大丈夫かと思ったが、流石優等生白雪。舞台の上では完璧なチアを披露していた。
星伽の制約を破ってしまった白雪は、3度も4度も同じ!というアリアの押し文句に押されて、もうやぶれかぶれになってチアへの参加を了承したのだ。
もうお前は『カゴノトリ』なんかじゃない。
自分の羽で大きく青い空を羽ばたく鳥になったんだ白雪。
打ち上げがファミレスってのはどういうことだ。俺たちバンド男共の一次会もここだったんだぞ。という俺の抗議はいつも通り無意味で、俺、アリア、白雪、銀華の4人による二次会は、学園島唯一のファミレス、ロキシーのボックス席で行われている。ちなみに俺の横は銀華、対面はアリア、その横が白雪という具合だ。
魔剣を逮捕できたので、アリアの母親--神崎かなえさんの刑期を一気に短縮できる流れになったらしく、アリアが上機嫌で『ここはあたしがもつわ』と宣言したが、お前貴族ならもっといい店に招待しろよ。
という言葉は出せるわけがなく、この店で一番高いステーキセットを頼み、不満ですという気持ちをさりげなく表しておく。
各人の注文が終わり(ももまん丼ってなんだよ)、おしぼりで手を拭いていると、
「「?」」
アリアと白雪の様子がちょっとおかしい。 お互い見つめあった後、何か言い出そうとしてやめている。
なんだこれはと思って、横の銀華を見るが
--フリフリ。
首を横に振る。
銀華にもわかっていないようだ。
「「あの」」
白雪とアリアがハモった。
「ア、アリアが先でいいよ」
「あんたが先に言いなさい」
「外そうか?」
銀華が対面の白雪に言うと、白雪は首をふるふると横に振り否定した。
「え、えっと。あのね…キンちゃんと銀華さんにも聞いて欲しいの。私どうしても、アリアにいっておかなきゃいけないことがあるから」
その言葉に俺と銀華は頭の上で疑問符を浮かべる。銀華がそう言った仕草をするのは珍しいな。
「あの…この間、キンちゃんが風邪を引いた時、私嘘をついていました」
「嘘?」
「うん……あの時、お薬買ってきたの私じゃないの」
「え」
銀華がお礼言っとくようにと言っていた相手は白雪じゃなかったのか。
……もしかして銀華に薬を渡したのは
「アリア、だったのか」
「……」
「まったくもう……キンジは」
無言のアリアを見る白雪は、本当に済まなそうにしていて、銀華もやれやれと言った感じで首を横に振っている。
俺のことをチラ見したアリアは
「な、なーんだ!そんなこと」
アリアはわざとらしく両手を頭の後ろで組み、大きく体を後ろに傾けた。
ちょっと赤くなってこっちを見てる。
「銀華もちゃんと伝えなさいよ!あたしが買ってきたって」
「私は言ったよ。ちゃんとお礼を言っておくように。キンジが勝手に勘違いしただけ」
あ。
強襲科の屋上で、アリアが言ってたセリフはこういうことだったのか
「話があるっていうから、もっと大変なことかと思ったわ」
やはりあの薬を持ってきたのはアリアだったらしい。
「イヤな女だよね私。でも…イヤな女なままでいたくなかったから…ごめんなさいっ!」
ぺこりと頭を下げる白雪。
顔を下げられたアリアは白雪の顎に手をやり、白雪の姿勢を戻させる。
「別に気にしてないわ。はいこの話は終わり!この後にも話があるんだからさっさと済ませちゃうわよ。白雪、銀華に言いたいことがあるんでしょ?」
「う、うん」
そう言った白雪は今度は銀華と向かい合う。
「あ、あのね。銀華さん。もし良かったらだけど……銀華さんが認めてくれるならだけど……」
「ああ、もう!じれったい!さっさと言っちゃいなさいよ!」
なかなか言い出せない白雪の背中をアリアが押し出し、その言葉に勢いづいた白雪はその勢いのまま
「
銀華に向かって頭を下げた。
ああ、なるほど。
銀華は上級生、同級生、下級生など関係なく基本苗字にさん付けで人のことを呼ぶ。
だが、何人かの身近な人間は名前を呼び捨てにしている。それは銀華が心を開きかけてる証拠であり、その人達には銀華は甘い。
だが、銀華はなぜか白雪のことを『星伽さん』と呼んでいた。白雪は名前で呼んで欲しかったんだろう。それを聞いた銀華は人差し指を顎に当て、可愛く少し悩んだ後…
「……これでいい?
「はい!」
そう銀華が言うと、白雪は向日葵が一気に開いたかとこちらが錯覚するほど笑顔になった。
銀華に名前呼び捨てにされたのがよほど嬉しいらしい。
えへへといった風に笑う白雪は美人なのもあり可愛いが、すこしキモいな。
「今度はあたしの番ね」
「う、うん」
強引に銀華と白雪の話を終わらせるアリア。そのアリアは姿勢を正し、
「白雪。あんたもあたしのドレイになりなさい!」
ピシッと放たれたそのセリフに、白雪。俺。銀華。そして近くにいた男子数人が固まる。
「ありがとう、白雪」
おい、アリア。
頭大丈夫か?前後の文脈が完全におかしいぞ。
「魔剣を逮捕できたのは、3割あんたのおかげよ。4割はあたし。2割レキ」
「私とキンジは1割しかないの?」
「あんたは勝手に突っ込んで人質になってるし、キンジは最後にちょっと働いただけじゃない!」
こ、こいつめ…ナチュラルに俺たちのことをディスりやがって。
「あたしわかったの、あのジャンヌダルクの戦いはあたしたち1人ずつなら負けてた。3…いえ4人がかりでやっと倒せた。それは認めるわ」
その4人は誰なんだよと思いチラッと銀華を見ると、銀華はなぜか悪い笑みを浮かべていたが、俺の視線に気づき、すぐいつもの表情に戻った。なんだったんだ今のは。
「あたしたちの勝因は信じあい、力を合わせたことよ。ジャンヌのように超能力者だった場合、あたしたちだけじゃ正直キツかったわ。でも、あたしにない力を持ってるあんたが居たから勝てた。つまり、あたしのパーティーに特技を持った仲間が加わるのはいいことなの」
あの
少しはマシになったじゃないか。
「というわけで契約満了したけど、あんたはこれからもキンジや銀華と一緒に行動すること!はいこれキンジの部屋の鍵!」
「ありがとうアリア!ありがとうございます!キンちゃん!」
神速でカードキーをしまう白雪、ボックス席から転げ落ちる俺、文句があるの?と二丁拳銃を出すアリア、まあいいじゃないと認める銀華。三者三様ならぬ四者四様の反応を見せていると注文が届き、二次会が始まるのだった。
二次会を終えた俺たちがファミレスロキシーを出ると、左腕の袖を…
クイクイッ。
と小さく引かれた。
「?」
疑問に思い振り返ると、銀華の右手が俺の袖を掴んでいた。その顔は小さく俯いており、少しだけ顔を赤くしている。
「…キンジ」
「ん?どうした?」
「……このあと少し付き合ってくれない?」
少し遅い時間だが三次会をやりたいってとか?
「コーヒーや軽いものなら…」
「うん!」
「じゃあ…アリアと白雪も」
前を歩いていたアリアと白雪も誘おうとするが
「あたしはいいわ。今日は疲れたし」
「う、うん。私も今日は帰ります。ごめんねキンちゃん」
2人に断られてしまう。何か空気を読んだって感じだったな。何の空気を読んだのかわからんが。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
むぅ。
キンジの朴念仁。
久しぶりに
優しいキンジなら誘うと推理できてたけど、そこは私のことを推理して欲しかったよ…
でも2人は空気読んでくれたっぽくて助かったね。あの協調性がなくて空気が読めない世界代表だったアリアも空気が少し読めるようになって、成長してる。
「えい」
「いてっ」
私、不満ですという気持ちを表すためにキンジの額に軽くデコピンする。
「いきなり何すんだよ」
「朴念仁のキンジにお仕置き」
「??」
キンジの頭にはハテナマークが浮かんでいるけど、教えてあげないもん。
「じゃあ、行こっか」
せっかく久しぶりのキンジとの2人の時間なのに、怒ってばかりいるのは良くない。キンジの手を取って、私は目的地まで歩いていたが……ふとあることが気になった。
キンジと繋いでいる手がいつもより強く握られている。私の気のせいかもしれないけど、ちょっと痛いし、たぶん気のせいじゃないよね…?
「キンジ……ちょっと痛い」
「す、すまん」
そういうと私と繋がれている手の力が弱くなる。
どうやらキンジも無意識だったぽい。
うーん、どうしたのかな?
キンジに関しては推理が働かないから、推理もできない。これが惚れた弱みってやつなのかな?
思い返せば、私はキンジに一目惚れだったわけじゃない。キンジの婚約者という立場に置かれ、キンジと会うに連れて心が惹かれていった。
心理学の一説には、異性との距離は、会う回数が増えるごとに縮まっていく。人には何度も会う異性を『自分と同じ生活圏で行動している=2人の間に出来た子供を一緒に育てられる=遺伝子を安全に残せる相手』と見做す本能があるから。
男性経験がなかった私もこの本能に基づき、最初は好きじゃなかったけど理子風に言うと、チョロインのようにキンジに恋したというわけである。
(でも……それだけが理由じゃない気がするなあ…)
なんとなくそんなことを考えながら、2人で並んで歩いていると目的地に着いた。
私たちが向かっていたのは、学園島の縁にあり、東京湾を見渡せる広場。私が星伽さん…白雪と決闘した場所。
「ここか?」
「うん、ちょっと待ってて」
キンジをベンチに座らせて、近くの自販機で缶コーヒーを買う。
キンジも私も微糖派だから、同じものを買って座っているキンジに一本渡す。
「サンキュー」
「ううん。助けてくれたお礼だから、気にしないで」
「……助けるのは当然だろ?す……大切な人なんだから」
後半は私が聞き取れないぐらいの声量でキンジそう言うのを聞きながら、私はキンジの右隣に座る。私が右手で缶コーヒーを飲んで、ふぅと一息ついているとキンジは右手を私の左手の上に乗せてきた。
ああ…やっとわかったよ
ジャンヌ戦からキンジは私のことをすごい気を使ってくれるし、たぶん氷漬けにされた私が相当ショックだったんだろう。
私のことをそんなに思ってくれてるなんて嬉しいけど………
…………うん。
罪悪感がすごいね。
父さんを除けば誰も気づいていないだろうけど今回、私が捕まったのはもちろんワザと。
銀華状態でもジャンヌごときに負けるわけがない。何せあの分身技は紅華の私とジャンヌの共同研究によって作り出した技なんだから。
私がワザと捕まったのはキンジが私のことを本当に思ってくれてるのか確かめるため。
今までだったら、私のことを思ってくれてるのは確信を持てたんだけど、アリアが出てきてどうしても不安になってしまった。
結果としてキンジの気持ちはわかったけど、心配させちゃったみたいですごい申し訳ない……
「銀華。お前バスジャックの時、言ったよな。私たちは2人で1人って。なのにどうしてお前は1人で突っ込んだんだ?」
「……」
キンジ怒ってるよ……
捕まっても殺されないように、『殺すな』という約束で予め保険はうっておいたし、私的にはノーリスクの作戦だったけど、キンジ的には相当心にきたらしい。
「お前は推理があってるかどうか確かめるために、1人で突っ走る傾向にある。あと危険なところだとわかると、仲間を思うがあまり1人で突入する癖もな。その行動のすべてが悪いとは言わんが……少しは俺たちを信用しろ。お前は人に信用されるが、人を心の底から信用してはいないからな。その点に関してはお前はお前のことを信用してる
キンジの言葉に私は何も言い返すことができない。
私は身近な人をどうも甘やかしてしまう節があるらしいが、それは人を信用できていないから。
ありがたいことに私の元には人が集まってきてくれる。
だが、その人たちと仲良くなっても私の元を去ってしまうのではないのかという不安が拭えない。
……先に私と父さんを置いて天国に行ってしまった母のように。
自分に近ければ近いほど、別れは辛い。
だから、母が死んでから私は全ての人に心を開くことはない。
心を少し開くのは私が名前で呼ぶ本当に身近な人のみ。その人たちでさえ、私は完全に信用できていないのだ。
そう……婚約者のキンジでさえ。
「お前のことを一番わかっている俺だから言える。お前は社交的で人と仲良くなるのは上手いが、実際は最近成長したアリアより『
「……うん」
最後は優しい口調に戻り私の頭を、なで……なで………と撫でてくれる。
やっぱりキンジは優しい。こんなことされたらもっと好きになってしまう。キンジのことを信用できなくて試すようなことをした醜い私のことをこんなに信用してくれてるなんて。私には出来すぎた婚約者。
「月が綺麗ね」
私が急にそんなことを言い出したので、キンジは空を見上げた。今日の月はそこまで大きくなく綺麗というほどでもない。この点からキンジでも推理できたようで、少し顔を赤くしながら、
「………死んでもいいぞ」
そう返してきた。私の気持ちはちゃんと伝わったみたい。
「まあ、実際は死なせないけどね。キンジは私が守るよ」
「何言ってるんだ、お前。敵に捕まった囚われのお姫様はどこの誰かな?」
「……じゃあ、もう一回捕まったら助けてくれる?」
「いつもの俺は姫を守る精鋭騎士……ほどの戦力はないが、三等兵ぐらいの活躍はしてみせるさ」
「ううん。キンジは三等兵なんかじゃない。私の王子様だよ」
「姫様と王子様ってなんかメルヘンチックだな…」
「いいじゃない。最初は親の判断で婚約者にされたけど……2人はだんだんお互いに惹かれていくっていうストーリー。おとぎ話にありそうな設定でしょ?」
「そうだな。だから……」
そう言ったキンジは横に座ってる私の方に向いて--
--キス、してきた。
口と口を塞ぎ合う形になった2人の声が消え、波の音と木の葉の音だけが公園を包む。
「だから、俺のことを信用してくれるかい?銀華」
甘くHSSになったキンジが微笑みながらそう言ってくる。その笑顔に同じく甘くHSSになっていた私は
「……うん……私はキンジのことを信じるよ……だから守ってね……王子様」
本能的にそう言ってしまうが、キンジに隠し事をしている私の心はズキズキと痛んでいた。
キンジ強化(恋愛方面)
次はブラド編。銀より紅の出番が多いかも…