哿と婚約者   作:ホーラ

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第41話:巫女が見る未来

白雪に電話越しで脅されて帰ると中華料理の皿がずらりと並んでいた。豪華絢爛な食事はもう満漢全席だなこれ。銀華は和食以外作れないから(作れないことはないが壊滅的な味)、白雪にボソッと愚痴を漏らしたことがあるがそれを覚えていたのか。

 

「おかえり、キンちゃん。あれ銀華さんは?」

「銀華はなんか用事を思い出したから、飯は外で食べてくるらしい」

「そ、そう…せっかく作ったんだし銀華さんと一緒にご飯食べたかったなあ」

 

少し伏せ目がちになる白雪。やっぱりこいつら仲いいんだな。最初はあんなだったのに。

 

「ま、大丈夫だろ1日ぐらい。一緒に暮らすんだし」

「そ、そうだよね。キンちゃん食べて食べて」

 

俺が席に着いたのを見て、席に着いた白雪は俺が箸をつけるまで食事に手をつけないみたいなので、お先に酢豚をもらうと……

うまい。肉って感じの肉だな。

そしてこの芳醇な甘酢の味。

銀華の料理も美味いが白雪の料理も美味いな。目玉焼きすら作れなかったアリアとは天と地、いや宇宙とマントルぐらいの差がある。

 

「お、おいしい?」

「ああ、うまいよ」

 

銀華も料理を褒めると喜ぶのもあって素直に感想を口にすると、同じように白雪も幸せ一杯って感じになった。

やっぱり自分の作った料理を褒められると嬉しいんだな。銀華にももっと言ってあげよう。

というか……見られまくってて美味いのに食った気がしない。

 

「白雪も食べろって。なんでいつも俺と銀華の世話ばっかり焼くんだ?」

「それは銀華さんとキンちゃんだからです」

「答えになってないぞ」

「そ、そうだね」

 

あはは、と空笑いをしながら席に着いた白雪。その横では、アリアがピンク髪をプルプル震わせていた

 

「で?あたしの席にはなんで食器がないのかしら?」

「これはアリア」

 

どん。

冷たい声で白雪はアリアの前にどんぶりを置く。

そのどんぶりには盛った白飯に割り箸が突き刺してある。それも割ってない。

 

「なんでよ!銀華がいないんだから、そのぶんあるはずでしょ!」

「銀華さんの分は取っておきます。文句があるならボディーガードを解約します」

 

ぷいっという風に顔を背けた白雪にアリアはギリギリと歯軋りし、がしゅがしゅとご飯をかきこむのであった。

 

 

 

 

日曜洋画劇場を見たい俺と、動物奇想天外スペシャルを見たいアリアがチャンネル争いをしていると玄関の方でドアが開く音がした。

 

「ただいま……って、何してるの…」

 

互いの顔面を掴み合いながらリモコンを奪い合ってる様子を見て、私服の銀華はジト目でこちらを見てきた。制服から私服に着替えてきたのか。

 

「なんの用事だったんだ?」

「昔馴染みとちょっとね」

「仕事か?」

「ううん。ちょっとね…」

「そうか」

 

銀華は自分の家族や夏休みの帰省のことなど時々言い淀むことがある。気にならないと言ったらのは嘘になるが、婚約者とはいえまだ俺たちは他人だ。プライベートなことにズカズカと土足で立ち入っていいものじゃない。

いつか銀華から話してもいいと思った時に話してもらおう。

 

「……で、2人は何してるの?」

「動物奇想天外の方が見たいわよね銀華!」

「いや銀華なら映画だ」

 

お互い人数有利を取ろうと銀華に必死に詰め寄る俺ら。ちょっとその勢いに引きながら

 

「キンジ譲ってあげなよ。映画は見返したいときあるし、録画の方がいいと思う」

「なん……だと……」

「さっすが銀華」

 

ま、まさか銀華がアリア側につくとは。

ふふーんと勝ち誇った感じで民主主義の原則の多数決を振りかざし、動物奇想天外にチャンネルを変えるアリア。おい待て。一万歩譲って動物奇想天外でいいから録画させろ。

またリモコン争いをする俺とアリアを見て、額に手を当てる銀華。そして息を吸い込み

 

「いい加減にしなさい!」

 

ごちんと俺とアリアの頭にげんこつを落とした。いてえ…

 

「そんなどうでもいいことで争わないの!」

「「はい…」」

 

俺はもとより百獣の王のアリアでさえ、この家の生態系トップに君臨する銀華に抗うことはできないらしく、大人しくなる。

その様子はお母さんに怒られる子供のようだな。見た目も子供ぽいし。

 

「あんた。今、失礼なこと考えてたでしょ」

「……そんなことない。いきなりなんだよ」

「そんな気がしたのよ」

 

チッ。

こいつ勘だけは銀華より上だな。

推理力はからっきしなのに、アンバランスなやつだぜ。

そんなこんなをしていたらリビングに白雪がカードゲームみたいなものを持ってきた。

 

「銀華さん、キンちゃん、あのね、これ……巫女占札っていうんだけど……」

「……ああ、この前不知火が言ってた占いか?」

「うん。せっかくだし2人を占ってあげるよ」

「ふーん。どうする銀華」

「せっかくだし、占ってもらおうよ」

「そうだな。頼む、白雪」

 

銀華は女なので占いとかそういうものに興味があるぽい。まあ実際コイツの占いはよく当たるから、聞いておいて損はない。

生物学上には女にあたるアリアもそういうものに興味があるらしく、録画セットしながらテーブルについた。というか、お前も録画でいいのかよ。

 

「まず銀華さんとキンちゃん、どっちから先に占う?」

「じゃあ、実験台としてキンジで」

「おい…まあいいが」

「キンちゃんは、何がいい?恋占いとか、恋愛占いとか、恋愛運を見るとか、あるんだけど」

「じゃあ……数年後、俺の進路がどうなってのか占ってくれ」

 

と注文すると白雪は「はい」と天使のような笑顔で答えた後、カードを星形に伏せて並べ、何枚か表に返し始める。

俺は武偵をやめて、ちゃんと真人間になれるのか。銀華と一緒に一般の高校に転校し、平凡な会社に就職できるのか。

その辺は、占いでもいいから知っておきたいところだ。

 

「どうなの?」

 

横から銀華が尋ねると、白雪は少しだけ険しい表情をしている。

 

「どうかしたか?」

「え、あ……ううん。総運、幸運です。よかったねキンちゃん」

「おい、具体的なことは何かわからないのかよ」

「え、えっと。銀髪の女の子と結婚します。なんちゃって」

 

ニッコリ笑った白雪の表情はかなり作り笑いっぽい。本当の占いの結果はなんだったんだ。気になるな。

 

「じゃあ次は私かな」

 

俺と銀華が占いのために場所を入れ替わると、白雪はさらに真剣な顔になった。

 

「ほうじ……銀華さんは何占いがいい?」

「うーん…キンジと同じく将来のことを占ってもらおうかな」

「あんた、これとの恋占いじゃなくていいの?」

 

俺のことはこれ扱いですかそうですか。

まあ、俺もてっきり銀華は恋占いするかと思ってたけどな。

 

「幸せなことは知らない方がより幸せになれるでしょ。知っていたら幸せでも半減だよ」

 

こ、こいつ…

それを聞いてアリアは呆れたように口をあんぐり開け、白雪は顔を赤くした。多分俺も白雪と同じく顔を赤くしているに違いない。そんな俺らを見て銀華は「?」といった感じだ。

銀華はつまり俺との関係が崩れることは一切考えておらず、俺を信用しきってるってことだ。恋占いとは誰々と結ばれるみたいなものや運命の人とはいつ出会うとかそういうのばかりなはずなのに、銀華は俺とどう幸せになるかの占いと勘違いしているのだから。

 

「じゃ、じゃあ、占うね。銀華さんの将来」

「うん、よろしくね」

 

俺のときと同じようにカードを星形に伏せて並べ、何枚かを表に返し始めた。

だが、表に返していくたびに顔を曇らせていく。その表情は、悪い結果であるが占う前から分かってたような顔だ。それが象徴的だったのは最後の札をめくった時。白雪は顔を俺のときより険しい顔であったが、その顔はどこか、やっぱりと納得しているような顔でもあったのだ。

 

「もしかして、よくない結果だった?」

「う、うん。ごめんなさい!」

「謝ることはないよ。占いは当たる時も当たらない時もあるからね。絶対そうなるとは限らないから、言いたくないなら言わなくても大丈夫だよ」

「まあ、悪いことがあっても助けてあげるから心配するな銀華」

「お、珍しくかっこいいこと言えるじゃんキンジ」

「うん。キンちゃん、銀華さんを助けてあげて。私も頑張るけど、助けてあげて」

 

そう、半泣きで俺たちに言う白雪を見てよしよしと頭をなで慰める銀華。

……よほど悪い結果になったんだな。俺の占いより銀華の占いの方が気になる…

 

「はい、じゃああたしの番!」

 

空気を読めない選手権、イギリス代表のアリアはどうやら占いを早くしてもらいたくてウズウズしていたらしく、流れ的に銀華の占いは終了してしまった。

 

「ところで生年月日とか教えなくていいの?あたし乙女座なんだけど」

「へー似合わないね」

「確かに」

「獅子座っぽい」

「あんたたちねえ……」

 

散々な言われようだが、銀華には勝てない、白雪は護衛対象、俺は銀華が側についているのでアリアの拳銃が出ることはなく、とりあえず正座して結果を待っていた。奇跡だ。

白雪はすごーく嫌そうな顔で札を並べ、ぺらっ、と1枚めくり

 

「総運、ろくでもないの一言につきます」

 

くっそ適当なカンジに言って、片付け作業に入った。占ってないな確実に。

 

「ちゃんと占いなさいよ!あんたそれでも超能力捜査研究科(S S R)でしょ!」

「私の占いにケチをつける気?許さないよ」

「もしかして()るつもり?」

 

ぎろろろろろろ。

と2人が視察戦を開始した。

い、いかん。はやく逃げるか何か手をうたないと。

そう思ってソファーから立ち上がろうとした俺の太ももに、ぽすっと何かが乗った。

視線を落とすと横にいたはずの銀華の頭が俺の太ももに乗っていた。この状態は世に言う膝枕だ。これじゃあ逃げられん。

 

「お、おい」

「銀華さんは今日疲れたのです。今キンジのお膝の上で元気を補給してるのです」

 

なんかよくわからないことを言ってきた。

別にこれぐらいならいくらでもやってやるんだが、状況が状況だ。銀華の頭が俺の太ももに乗ってる限り、俺は逃げることはできん。

そしてどかした瞬間、銀華の機嫌が急降下。俺の目の前で切り札を隠してたとかどうとか言い合いしてるアリアや白雪より怖い、銀華さんの不機嫌モードが出てくるに違いない。

ここで取るべき俺の選択は逃げることではなく、銀華のご機嫌を取ることだと思った俺は、銀華の銀髪を撫でてやる。

 

「髪、綺麗だな」

 

目の前で取っ組み合ってる光景から目をそらすべく、現実逃避気味にそんな思ったことを言うと……

ビクッ。

といった感じで銀華が硬直した。そして俺の顔を見ないようにするためか、ゴロンと俺の太ももに顔を押し付けた。

 

「あ、ありがとう…」

「いや、ただ思ったことを言っただけなんだが…」

「そ、そういうところがもう!」

 

顔を太ももに埋めたままポコポコと両手で叩き始めた。これは怒っているというより、恥ずかしがってる時の銀華の反応だな。横から見える顔は真っ赤だし。

変えるスイッチはよくわからんが、銀華の感情はよく分かるようになった。銀華検定1級ぐらいあるだろたぶん。

照れてるとイジっても照れてないと意地を張るだけなので、よしよしと頭を撫でてやると大人しくなった。目の前の奴らも。

 

「キンちゃん…銀華さん……」

「あー!もうっ!この2人がいるとやりにくいわね!」

 

俺たちの様子を見て白雪とアリアは戦うのをやめていた。まるで大量の砂糖をぶつけられたような顔をしているがどうしたんだ。

 

「ふーんだ!あたしのいないところでやりなさい!このバカップル!」

 

そう言い残すとアリアは俺と白雪にアッカンベー。

ベロを出すと、ふてくされて自室に閉じこもった。そして不審な電波がこの部屋の周囲に飛んでないか調べるため、この前通信科(コネクト)から借りてきた無線機みたいなのを稼働させる。

残された白雪は、ぷすーんとむくれている。

 

「悪口はよくないと思うんだけど、アリア可愛いけどうるさいよね。それにキンちゃんのこと何もわかってないし…男子はみんなアリアのこと可愛いと言ってるけど、私は嫌いっ」

 

と札を片付けながら一息に言った。

白雪はちらっと俺と銀華を上目遣いに見てくる。つまり……俺と銀華にもアリアについて一言言えとそういうことらしい。

実は、俺は、アリアと白雪について一つ発見したことがある

 

「なあ、本当にアリアのことキライか?」

「えっ?」

「いやなんていうか。お前アリアに対してはっきりものを言うじゃんか。俺や銀華に対してはキョドるのに。的外れかもしれんが俺や銀華に対して、どこか白雪は遠慮してるんだよな。でもアリアに対しての白雪は遠慮がない。いや、喧嘩して欲しいわけじゃないけど、実はあれはあれで噛み合ってるのかもしれないんじゃないか?」

 

白雪は基本いい子だ。人の言うことをよく聞く。それはいいこととされており、白雪の評価は高い。銀華と同じく男子にも女子にも、区別なく頼られている。

だが、問題がないとは言えない。

その従順な性格の中には白雪の意思はないのだから。

だけどアリアに対しては自分の意思でぶつかっている気がする。

 

「うん。そうだね。星伽さんは私に遠慮しすぎだよ。御先祖様であった出来事なんて忘れればいいのに」

 

ちゃんと姿勢を直した銀華が白雪に向かってそんなことを言う。

そういや、星伽は銀華の祖先に助けられてたんだな。それもあるので銀華に遠慮気味なのかもしれない。ボディーガードも銀華には頼まなかったし。

白雪はしばしの沈黙の後、ぱっつん前髪の下で長い睫毛の目を伏せながら、

 

「キンちゃんは……本当に私のことよくわかってくれてるね」

「……そりゃまあ、小さい時から一緒にいたからな。間がずっぽり空いてるけど」

「きっと私以上に、私のことが分かってる」

 

さっきより少し柔らかくなった声。

そっと、さりげなく俺たちに近づいてきた

 

「私が見守ることしかできなかった銀華さんとキンちゃんの世界に、アリアはまっすぐ踏み込んでいった。まるで銃弾みたいに」

 

なんだその世界と思ったが、話の腰を折らないためにツッコまないでおく。

 

「最初は跳ね返されたけど、諦めなかった。私は諦めたのに。全体的にキライなんだけど、その一面は凄い子だ…そう思ってるよ」

 

ふむ…やっぱり単純に嫌いというわけではないみたいだな。

 

「だから、私嫉妬しちゃってるのかも。私にはできないことをできたアリアに」

 

嫉妬。

俺や銀華が力を得るために使ってる感情だ。

しかし、あの感情は制御が難しい。銀華でも完全にベルセになると暴走するぐらいだ。

白雪もそれをコントロールできてないということか…

ちょっとここはリップサービスになるかもしれないが励ましといたほうがいいかもしれんな。

 

「あのな、前も言ったが、俺たちとアリアは一時的に組んでるだけだ。俺の幼馴染で銀華の友人のお前が嫉妬する理由なんてないぞ」

「キンジの言う通り、もっと自信を持って星伽さん」

「うん、そうだよね!」

 

俺たちにそう言われぱ、と顔を明るくした白雪。機嫌が良くなったのもあるだろう、俺の昔話を始め、銀華がそれを掘り起こすせいで俺が恥ずかしい思いをすることになった。

そして、その恥ずかしい昔話の最中思い出した。

神社から出ることのできない星伽の巫女を兄さんが『かごのとり』と、哀れむように呼んでいたことを。

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

寝床についた私は、今日あったことが思い出される。キンちゃんの家に引っ越してきたこと、キンちゃんに美味しい料理を食べさせてあげれたこと、キンちゃんの昔話を銀華さんとできたこと。その中でも今日の占いは忘れることができないと思う。

アリアの占いはどうでもいいけど、他の2人の占いの結果が良くなかった。

まずキンちゃん。占いが示したのは

 

『キンちゃんがいなくなる』

 

それも近い未来に。どういうことだろう。キンちゃんは武偵高を辞める辞める言ってるけど本当に辞めちゃうということなのか?

そんなことを思いながら、銀華さんの占いをしたけど結果は、ああ……やっぱり。そういうことか…

避けられない運命なのかもしれない。銀華さんが()()の血を引いているからには。この占いが示すことは。

今、目の前の占札が示した未来は

 

『銀華さんが------』

 




白雪が見た未来が書けるのはいつになるのか…
明日の投稿は多分無理です

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