今日の訓練も終わり、キンジと食事の後の会話を楽しんでいる時…
プルルルル
私の携帯が鳴る。
知らない人や父さんだったら無視しようと思ってたけど、知り合い。それも中々私に近い位置にいる人。
「キンジ、ちょっとゴメン」
「おう」
キンジに一言入れて電話に出る。
「もしもし」
『銀華先輩。今、時間大丈夫ですか?』
「うん。いいよライカ」
電話相手は少し前まで仮戦妹だったライカ。
『先輩って、
「うん。そうだよ」
『もし、時間があれば稽古をしていただけませんか?』
緊張気味にライカが言ってくる。
そんなに緊張しなくてもいいのに。まあ気持ちは分からなくもないけど…ライカから私は、今まであんまりお願いされることはなかったからね。ライカは勇気を振り絞って電話を掛けてきたのだろう。最近私も忙しいし、迷惑かと思ったのかもしれない。
気にしなくてもいいのに。なんたって今、私とライカは…
「うん、いいよ。なんたってライカは私の
『本当ですかっ!ありがとうございます!えへへ…戦妹か//』
画面の向こうでにやけている姿が想像できるよ。
『場所は佐々木志乃の家で明日なんですけど』
「明日ね…うん。大丈夫」
『じゃあよろしくお願いします』
「はいはい。じゃあまたね〜」
そんな会話をして、電話を切るとなんかキンジに懐かしむような目で見られた。
何か変わったことしたかな?
「キンジ、どうかした?」
「いや、頼りにされてるお前を見るの中学ぶりというか、なんか懐かしく思ってな」
「むー、馬鹿にしてるでしょ」
「いやいや!馬鹿にしてないぞ。俺からしたら、普段のお前子供っぽいが、中学時代は色々頼りにされていたしな…ってイタイイタイ」
「子供っぽくないもん」
キンジのほっぺを引っ張り、不服という意味を込め、私は頰を膨らます。
「イテテ…まったく、そういうところだぞ」
「ふん」
そこまでじゃないけど、腕を組んで、『私、不機嫌ですよアピール』をするけど……
「さっきの電話火野からだろ?そういや、なんで火野を戦妹にしたんだ?」
そのアピールは格好だけと見破られたようで、普通に話しかけてくる。
うーん、キンジも私のことだんだんわかってきたみたいだね。見破られるのは悔しくもあるけど、嬉しくもあるよ。
「まあ、最初蘭豹先生に頼まれた時は、引き受けるつもりはなかったんだけどね。あの言葉を聞いて、戦妹にすることにしたんだよ」
「あの言葉?」
「本気で戦ってくださいっていう言葉だね。手加減して下さいなら、言われたことあるけど本気で戦ってくださいって言ってきたのはキンジとライカだけだから」
カッツェやパトラですら、本気の私と戦うのは勘弁してほしいみたいだったからね。ぶっちゃけ、気に入ったら合格というのは建前。
もうすでに
まあ、一応実践の実力は日曜日に、
「そうか……男子がアミカにならなくてよかったな……」
「ん?何か言った?」
「いやいや、なんでもない!」
キンジの最後の方の言葉が小さくて聴き取れなかったけど…ちょっとなんて言ったか気になるね。
「で、さっきのライカからの電話はカルテットでの指導が欲しいんだって」
「あー…お前に指導してもらえるのちょっとずるくないか?銀華の推理力だったら、どういう展開になるかわかるだろ」
「…わかるけど、敵の細かい配置とかは言わないつもりだよ。言っちゃったら、成長しないからね」
「確かに…お前もちゃんと戦姉してるじゃないか」
ニヤニヤ顔でキンジが言ってくる。
「なんか、ムカつく〜」
ニヤニヤしてるキンジの顔に軽くデコピンするけど、戦姉になったからには、私も頑張るよ。うん。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
私は今日、
……おっと、自己紹介がまだでしたの。
私は島麒麟。
中学3年の
ライカお姉様の戦妹にもあたりますわね。
ライカお姉様はラクーン台場で誘拐された私奴をかっこよく助けてくれた王子様みたいな人で、私は頑張ってライカお姉様にアピールして、今の位置を勝ち取りましたの。
……まあ、私の紹介はほどほどにして…
なんで佐々木邸を訪れているかと言いますと、実は先日、カルテットの対戦相手の高千穂班と一悶着ありまして…特訓をしようとなったのですが、それを見越して武偵高の合宿施設が高千穂の名前で借りられており、裁判所で高千穂一族と犬猿の仲らしい佐々木様がご自宅を合宿施設として提供してくださったのですの。
白金台にある佐々木様のご自宅はまるでお城みたいで私はおろか、ライカお姉様や間宮様も目をキラキラさせていたようですの。
夕食後、佐々木様が司会進行で、メイド様に手伝ってもらい、カルテットのルールをおさらいも兼ねて説明してくださったのですけど…
ルールは『
麒麟達は蜂、対戦相手の高千穂班は蜘蛛のフラッグで相手の目のフラッグを突いたら勝ち。でも…
うひぃ…。蜂はキライですの!
そしてエリア内にあるものはなんでも使って良いっていうルール。これはちょっと厄介ですわね。
「シンプルだね」
「だなぁ」
シンプルなルールでわかりやすいように、間宮様やライカお姉様は思っていらっしゃるけど…
「確かにこの競技は一見シンプル…ですが、隠匿、強襲、逃げ足、チームワーク--いろいろな能力が試されますわ」
目の旗を守る。持って逃げる。隠す。
それを攻める。追いかける。探す。
争奪戦には攻め側も守り側もチームワークが要求されますわ。そして、もちろん旗を持って逃げる時に接近されたり、接近した場合は戦闘になりますの。なのでチームの戦闘力も問われますわ。私が間宮様とライカお姉様にそう進言しますと、
「その通り!やるじゃんりんりん、流石あたしの教え子だぁ!」
「ライカ…もうちょっと状況を推理する癖をつけたほうがいいよ…」
私達がいるオーディオルームに弾むような声とちょっと沈んだような声の二つが飛び込んできましたわ。この声の片方は私が呼んでおいた方ですわね。
その方向に私達が振り返るとそこにいたのは、やっぱり…
「理子お姉様!」
私の去年の戦姉だった理子お姉様がいらっしゃって、懐かしさについ、思わず飛びついてしまいましたわ。再会を懐かしみたいですけど、間宮様達に先輩を紹介する方が先ですわ。
「ご紹介しますわ!私の元戦姉。探偵科の二年生、峰理子お姉様ですの!」
私の紹介に間宮様達は目を奪われるのも無理はないですの。理子お姉様は美人で、一目で誰にでも気に入られそうな愛嬌があり、身体の
「へぇー、この子がライカの今の戦妹で、理子の前の戦妹か」
「そうです。銀華先輩」
こちらを見る銀髪の美人な方がライカお姉様の戦姉で、噂に聞く……
「一応、知り合いが半分ぐらいいるけど自己紹介しとこうかな。私は北条銀華。よろしくね」
これがあのシルバー。銀華お姉様なのですね…
人と人の情動を利用して工作を行うCVRには異性間の人間関係を扱うⅠ種と同性間の人間関係を扱うⅡ種があり、私はⅡ種に在籍していますわ。なので私は女性の身体的特徴やスリーサイズなどを正確に見分けることができますの。それができないと、思わない所の地雷を踏み抜いたり、相手を落とすことなんてできませんから。
私の目には銀華お姉様のスリーサイズが上から、86-57-83。いいものをお持ちですの。長い銀髪は眉毛などを見ると地毛で肌も白く、美をこの世に表したようなお方ですの…
「ライカ、今度の訓練は組手とかじゃなく、推理ドリルでもやろうか」
「う、うっす…」
声は元気がない様子ですけど、麒麟にはわかりますの。ライカお姉様は銀華お姉様に会えて嬉しいと言った様子ですわ。
むー。ライカお姉様が銀華お姉様に憧れてるとは言っても、頑張って私が落としたライカお姉様を勝手に独り占めしないでほしいですわ…というか推理ドリルとはどんなものなんでしょう…?
「
場の空気を一切合切スルーしながら、スクリーンへ理子お姉様は近づく。
「確かに。懐かしいよ」
銀華お姉様も理子お姉様の問いかけに答えるように言いましたけど…
「先輩方は毒の一撃の経験者なんですか?」
「うん、そうだよ」
「りこりんとしろろんは毒の一撃で戦いあった敵なんだよ。まありこりん達がぼろ負けしちゃったけどね」
「それは本当なんですの、理子お姉様!?」
理子お姉様は戦闘能力も高く、作戦立案能力も高いですの。相手が銀華お姉様でもぼろ負けするとは思えませんわ!
「いやー、りこりん達も頑張ったんだけど、しろろんのチームはチートだったんだよね。Sランク3人いたし、まじ無理ゲーだったよ」
「「「「Sランクが3人!?」」」」
「そう、こんなのRPGとかの強制戦闘にあったら負けイベだと思っちゃうでしょー?」
Sランク3人はチートですの…そんなの当たりたくないですの…
「いやいやいや、理子たちのチームはSランク1人いたし、他もAランク3人でしょ?十分強いよ」
「Sランク3人Aランク1人は強いじゃなくて、ズルだよ、しろろん」
理子お姉様と同じような目線を他のメンバーにもされ、少し居心地が悪くなったのか……
ゴッホン
銀華お姉様は一つ咳払いして
「うーん。敵はたぶんこの工事現場に陣取るだろうね」
人差し指を唇にあてながら、地図を眺めながら、顔を逸らしながら呟きました。話を逸らそうとしてますわね。
「勿体ぶらずにしろろんの推理で、どういう展開になるか教えてあげればいいのにぃ」
「それをしたら、面白くないでしょ。あと私の推理料はちょっと高いよ?」
「戦妹特権で値引きしてあげればいいじゃん、アゼルバイジャン」
「私は格安にはしない」
「ケチー、鬼、悪魔、銀華ー!………ってイタイイタイイタイ!ギブギブ!」
銀華お姉様と理子お姉様がじゃれ合いをし始めましたの……
「あのー……」
遠慮しながら佐々木様が声をかけると、理子お姉様の首を締めていた銀華お姉様は、ハッとした様子で腕を離し、
「推理は教えてあげないけど、鍛えてはあげるよ!」
こっちにクルッと振り返りつつ、男女ともに虜にしてしまいそうな、完璧なウインクを見せますけど、そうやって
庭に移動した私たちは--武偵憲章5条、行動に
佐々木様は、高千穂班にいるおかっぱの双子対策として、メイド二人の攻撃を防ぐ特訓。
間宮様はなぜかわからないですけど、乗馬マシンによる騎乗訓練。そして私とライカお姉様は…
「目隠ししたライカお姉様を私が攻撃し続けろと……?」
「うん。ライカはこの4人の中で一番強いからね。不利な状況になっても仲間を信じて、時間を稼ぐんだよ」
私が攻撃、ライカお姉様が防御で私がひたすら攻撃し続ける組手。しかもライカお姉様は目隠しされ、反撃も禁じられガードしかできない状況。これはあまりに酷ですの…
「流石にこの訓練はライカお姉様に…」
「よせ、麒麟」
「お姉様…」
「この人はアタシの戦姉だ。先輩の言うことは必ず意味がある。この特訓も絶対無駄にはならない」
「…はい、わかりましたわ」
そうお姉様が言うなら麒麟は頑張るしかありませんのよ!
「じゃあ、お姉様行きますわ」
「ああ、来い!」
特訓は始まったばっかりですの!
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「まさか、しろろんまでいるとは思わなかったなあ」
「島さんの今の戦姉で、今の私の戦妹のライカに呼ばれてね」
「正式に呼ばれたなら、チャイム鳴らせばよかったじゃん」
「いや、大きな家すぎてインターホンとか見当たらなかったからね…」
元戦妹の島麒麟に、カルテットの相談で佐々木志乃の自宅に呼ばれてみたら、家の前でウロウロしてる紅華を見つけるとは思わなかった。紅華は潜水艦生まれ潜水艦育ちだから、理解できないないこともないけど…
特訓の指導の後に銭湯かと思うレベルのお風呂に入った後、今アタシと紅華は紅華の車で帰宅途中だ。
「あ、そういえばりんりんとライちゃん嫉妬してたね。しろろんも大変だ!」
島麒麟は紅華とライカの仲良くする姿に。
ライカは島麒麟とアタシが仲良くする姿に。
「え?なんで私が大変なの?」
「そうだったね…」
そうだった。紅華はギャルゲーに出てくるような鈍感系主人公タイプ。なんで嫉妬してるとかわかるわけなかった。キンジも鈍感系主人公だけど、この二人よくあそこまでラブラブするようになったなマジで。
「それで、しろろんなら
「当たり前でしょ。理子がちょっとした小細工をするのも推理できるよ」
「流石。まあ、あの子にあんなことさせたらわかちゃうかー」
「助けてあげるのはほどほどにね?」
「はーい」
銀華モードの紅華は基本的にお姉さんぽく振る舞うのは発見だな。アタシの中では紅華の姿の方が付き合い長いから、違和感バリバリなんだけど。アタシは研鑽派だから、その姿はあまり知らないけど、イ・ウー|主戦派の元リーダーは伊達じゃない。
「あとその満足そうな顔をしてるのを見ると、四世のこともわかったぽいね」
「うん、ばっちし!」
人の精神は、その人の育てし者に宿る。アリアの戦妹のあかりのことをみたら、アリアの様子がばっちしわかった。『
「あ、それでね。バスジャックの件だけど日付決まったよ、
「そうか、キンジの件は協力してあげるけど、私との約束覚えてるよね?」
「キンジは殺さないというやつだね。わかってるよ」
キンジを殺したら、確実に私も
わかってる。わかってるよ。
紅華にとって一番大事なのは、一緒にイ・ウーで戦っていた仲間でも、自身の能力で助けた私でもなく……
『キンジ』
だということはね。
……まあいいや、次の作戦はもうすぐだよ。
次回、やっとバスジャック編