注意:三人称視点+ライカ視点
「えええええええええ!!」
ライカの叫び声が広場に響き渡る。そんな驚くライカの横にいたあかりは
「あの…1つ質問いいですか?」
銀華に対しておずおずと話しかけた。
「貴女は?」
「ライカの友人の間宮あかりです」
「…間宮さん。よろしくね。質問は何かな?」
首を傾けながらそう聞く銀華を見て、優しそうな人だなあとあかりは思う。あかりの戦姉のアリアも優しいところはあるがどちらかというと厳しい人だ。同じ強襲科Sランクと言っても色々な人がいるのだろう。
「1週間だけ
特別なことがない限り戦姉妹の契約は1年間続く。そのことを知っているあかりはそこに疑問を覚えたのだ。
「この学校には
人差し指を立てて説明する銀華の説明を聞いてあかりはなるほどと納得する。その様子を見てあかりからライカに向き直した銀華は
「ところで…火野さん大丈夫?」
そんな風に話しかける。叫び声の後、完全にフリーズしていたライカであったが、そう話しかけられると
「は、はい!大丈夫ですッ!」
慌ててそう答える。
武偵高は封建的であるので、上級生の質問を無視することはありえない。
まして、尊敬する先輩の問いだ。ライカが慌てるのも無理はない。
そんな様子を見て、銀華はクスッと笑い、
「間宮さん、ごめんね。ちょっと火野さん借りるよ」
「わかりました」
あかりに許可をとる。
そんな様子を見てあかりは疑問を覚えた。
(本当にこんな優しそうな人が、アリア先輩と同じSランク…?)
武偵高の教官をやっつけるからには、蘭豹みたいな屈強な大女。武器もただの銃じゃなくてバーズカ砲とかと思っていたのだが、想像とほとんど真逆。偽物かと思ったけどライカがあんなに緊張してるのを見ると本人だと認めざるをえない。
(どこかあの人に似ているな…)
あかりはアリアと同じぐらい尊敬する人物がいる。私の命を助けてくれたあの人と姿は全然違うが、どこか雰囲気が似ていると、武偵手帳の中に
あかりと別れたライカが連れてこられた場所は、先ほど銀華が蘭豹と戦った闘技場。
「よかった、まだ空いてたよ」
闘技場の中央へ向かってトテトテと走る銀華の後をライカも追う。
先ほどからライカは銀華に目を奪われっぱなしだ。憧れの先輩が私を見てくれてる。名前を呼んでくれる。
(人間は……自分にないものに、憧れるんだよなぁ)
そう。
銀華は身長が高く男っぽいライカにはどうしても手に入らないものを持っている。
ライカが欲しくてたまらない、『かわいらしさ』を。可憐さを。愛くるしさを。
―――どうせ自分の身にそれが備わらないのなら、せめて……
手元に寄せ、愛でたり憧れるような、行為をしたくなってしまうものなのだ。人は。
「…火野さん、さっきからぼーっとしてるけど本当に大丈夫?」
振り返った銀華が再び心配するような声でライカに声をかける。
ただ喋るだけでも迫力があり、存在感があり、一気に呑んでしまうほどのアリアの声と違い、銀華の声は優しい。武偵という事実を知らなければ、女優やアイドルか何かにしか見えないだろう。
「は、はい!ぼーっとしてしまいすみません!」
だが、銀華はSランクの武偵だ。繰り返すことになるが武偵高は封建的であり、質問に答えないと、下級生は上級生にボコボコにされることすらあるのだ。
ライカが再び慌てて勢いよく答えたのを見て
「あ、そうだ」
銀華は右手のグーの形の手をパーの形の手にぽんっとうちつけ、何かを思い出したように言った。
「火野さん」
「は、はい」
「仮の
「わかっています」
ライカはまだ銀華と戦姉妹になるということを実感できていない。ので今度はしっかりと返事を言うことができた。まあ普段に比べて口調が硬いのは仕方がないことだろう。それを見た銀華は
「まあ、そんな硬くならずに。いきなりのことで驚いたかもしれないし、私のこと怖い人かとおもってるかもしれないけど取って食ったりはしないから、ね?」
緊張をほぐすようにライカにそう言う。
それで少し緊張がほぐれたライカはちょっと顔を赤くした。どこか照れるように。
「じゃあ…あの一つお願いしてもいいですか?」
「ん?何かな?」
「苗字じゃなくて、ライカって読んで欲しいです」
「うん、わかったよ。
初めて名前を呼んでもらったことにライカは感動する。憧れの人が、武偵高のスターが、手の届かない存在だと思っていた人が、自分の名前を呼んでくれているんだから。
「じゃあ、まずは
「は、はい」
だが、その感動はこの言葉によって一瞬のものとなり、ライカは顔を引き締める。
「試験内容は………そうだね。ライカは強襲科だからエンブレムでいいか」
一人で銀華は納得しているが、エンブレムとは強襲科推奨の戦姉妹試験勝負。30分以内に戦姉となる上級生から武偵高の校章の描かれた星型の「エンブレム」を奪うことができれば、戦姉妹契約が可能となる。
そのエンブレムを銀華はなんと右腕に貼った。このことにライカは驚きを隠せない。
「…本当にそこでいいんですか?」
右腕のエンブレムは一番取りやすい場所だ。柔道のように組み合えば、組み合う手は相手のちょうど肘や腕付近を掴むことになり、その掴む位置を変えるだけで、簡単に取ることができるだろう。現にあかりと戦姉妹試験勝負をしたアリアは、懐に潜り込まなくてはいけないため取りにくいわき腹に貼った。
「うん。だって一番ここが取りやすいでしょ?」
銀華は腕を組んでニコリと不敵に笑っている。つまり組み合うまでもないということだ。
闘争心の強い武偵高生としては2年と1年、相手は憧れの先輩という立場ではあるが―――少しカチンと来る。
当然それは銀華がライカが心置き無くかかってこれるよう敢えて挑発したのだろうが―――
「甘く見てくれるぜ」
普段の口調に戻ったライカが、制服の中からナイフを抜く。
「じゃあやろうか」
銀華が青色の携帯を操作しつつ開いて見せる。
画面にはタイマーが表示されており、カウントダウンを始めたところだった。
残り29分59秒。
「―――いくぜ!」
口火を切ったのは当然ライカ。腕を組んでいる銀華にナイフを使う振りをしながら掴みかかった。そしてエンブレムが貼られた右腕に左手を伸ばすが―――
「!?」
右手のナイフが消えた。ほんとうに消えたわけでは無い。下からの素早い蹴りの衝撃により上空へ舞い上がったのだ。そしてエンブレムを狙った左手は―――
バシッ
蹴りの勢いを使い、最小限の動きで躱す銀華に手首を掴まれる。
掴まれた瞬間、もう
そして1秒後、ライカの身体は一回転して―――
バタンッ!
と地面に倒れる。
銀華の力では無い。ライカ自身の力で。
(つええ…!)
関節を曲がらない方に捻られれば、人は勝手に自分の力で倒れこむ。合気道にも同じような技があるが、バリツの技にもある。銀華は蹴り技しかないように思われてるが実は違う。投げ技や関節系のバリツも極めた上で蹴り技も習得しているのだ。
ライカは受身はとったが、手首はまだ痛みが残っている。右手は蹴られた痛み、左手は関節技を極められた痛みで。
「武器は、何をされても離しちゃだめだよ」
飛んで行ったナイフを蹴って遠くに滑らせつつ、銀華がそう教えて来る。その隙をチャンスと見たライカは地を這うようなローキック。それが銀華の足にクリーヒット。
Sランク相手にも攻撃を当てることができると喜んだのも束の間、銀華のすくい上げられた体は宙返り。かかと落としが、とっさにあげたライカのガードする腕を吹き飛ばす。
(やべえ…!)
ライカは追撃が来るかと思い身構えたが……
追撃が飛んでくることはなかった。
銀華は手を口に当ててクスクス笑っている。
「無防備な後輩を蹴り飛ばすなんてことはしないよ」
その銀華の笑みは人を魅了する笑みで、昔のライカもそれに魅入られたのだが…
今のライカは違った。
「銀華先輩」
対面する銀華に向かって呼びかける。
「ん?何かな?」
そう答える銀華に対して
「私を舐めないでくださいよ」
挑発した言葉を振る。
ライカは銀華と立ち会うことを以前から密かに望んでいた。
憧れの先輩と戦いたい。
私を認めて欲しい。
私を少しでも知って欲しい。
「………」
銀華は黙ったまま目を瞑っている。
ライカも銀華と自分じゃ途方も無い実力差があるのはわかってる。
先輩が後輩に本気の実力を見せないのもわかっている。
だが手加減だけはして欲しくなかった。
そんなので、待ち望んだ初めての対戦を終わりたくなかった。
「そうだね」
再び声を発した銀華の雰囲気は、もう先ほどまでの優しいものじゃなかった。
ただ一言喋るだけでも迫力がある。
先ほどの優しい声とほとんど変わらない。
だが、存在感がある。ライカが一度見たアリアと同じように。
―――これが一流の人間たち。
「キンジにも昔、演習も手加減せず本気で戦うべきだって言われたことあるの、最近忘れてたよ」
再び目を開けた銀華の左目はいつもの瑠璃色ではなく、紅色。
ライカはこの銀華を知っている。というか東京武偵高では有名な話だ。
銀華が本気を出すと片方の目が紅色の
「もう手加減とかしないけど……死なないでよ?」
圧倒的なオーラを放ちながら、そう忠告してくる。
そんな銀華を見てライカは怯えより歓喜が上回った。
ちゃんと一人の対戦相手として本気になってくれたことに。
「いくぜ!」
そんな掛け声とともにライカは再び銀華に掴みかかろうと地面を蹴った。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
銀華先輩はアタシを連れて、先輩自身の自室がある女子寮に向かった。
アタシが今から向かうのは、先輩ファンクラブの中では聖域とされていて、アタシは見たことがないが超高額で何枚かの写真が出回っているだけの情報しかない秘密の花園、先輩の部屋だ。
「ライカ、大丈夫?なんか震えてるけど」
「だ、大丈夫っス」
緊張と興奮で体が震えるのを抑えきれない。さっきの戦姉妹試験勝負ではエンブレムを取るどころか体に触ることすらできずにボッコボコにされて、体が痛いのもあるけど……
だって、あの銀華先輩の部屋だぞ。
銀華先輩のファンクラブにとって一度は訪れたい場所ランキングで一位を獲得するぐらい、先輩のファンの中では訪れたい場所。
そして、先輩の部屋ってことはそこで暮らしているんだ。もしかしたら誰も知らない情報をえることができるかもしれない。
そんなことを考えながら私は女子寮のエレベーターに乗り、先輩の後をついて行く。
「ここだよ」
女子寮の607号室の前で先輩が立ち止まり、カードキーを使ってドアを開ける。
確か607号室って…家賃が30万とかする707号室のVIPルームには劣るものの、かなり高い部類に入る部屋じゃなかったか…?
「はい」
先輩はアタシに部屋を開けたカードキーを手渡してくれたので慌てて手を出す。
「戦姉妹は、まず部屋の鍵の共有から始めるらしいんだよ。一応今は、私とライカは戦姉妹ってことだから。もし本当の戦姉妹にならなかったら返してもらうけどね」
つまり、このキーを、本当の戦姉妹になるかを決めるまでの1週間という制約があるが、貸してくれるということだ。
「は、はいっス!」
私はカードキーを両手で体の前に持ち、勢いよく返事をする。
そして二人で入っていった部屋は…広い。
一人暮らしでは使いきれないほどの部屋があった。3LDKかそれ以上だろう。アタシのワンルームとは大違いだな。
「広いなぁ…」
思わず口をついてでた私の感嘆に
「確かに無駄に広いんだよねえ、ここ。今年の初めに引っ越したからここしか空いてなかったんだよ」
そんな裏情報を付け加えてくれる。
「じゃあ、私部屋着に着替えるから座ってて」
先輩は私にハート型のクッションが置いてあるソファーを指差してそう言うけど……
え?もしかして先輩の私服姿見られるのか?
武偵高では平常時もすぐに動くことできるように防弾制服を着ることを推奨されてるんだが、それを嫌う人もいる。先輩もその一人かもしれない。
3分ぐらい期待して待つと、でてきた先輩は
「か、可愛い…」
つい、声がでてしまった。
トップスは肩まわりまであるたっぷりフリルのついたものだが、ボトムスは膝丈スカートで大人しめな雰囲気になっている。
ありがとうとお礼を言う先輩は少し照れててさらに可愛い。この可愛さずるいでしょ。
アタシが見惚れているとさらにキッチンにかかっていたフリフリのエプロンを着た。
「何するんっスか?」
「ん?料理だけど。何が食べたい?和食しか作れないけど」
「もしかして先輩の手料理っスか…?」
「そうだよ。嫌だったかな?」
「全然そんなことないですッ!」
「うーん。時間がかかるものは作れないから……焼き魚とかでいいかな?」
「大丈夫です!なんでも食べます!」
先輩と仮戦姉妹にしてくれた蘭豹先生。本当にありがとうございます。もしかしたら夢かもしれないと思って、頰をつねるが痛い。本当に現実のようだ。
料理を作る先輩を見つめるのもどうかと思うので、視線を外して部屋を見渡す。
部屋には高そうな棚や机とかあるし、やっぱり先輩ってお金持ちなんだなあ…
そして棚の上には写真立てがある。
ふと気になり、近づいて見るとその写真には…
「っ!?」
今までどんな写真でも見たことのない笑顔をした先輩が写っていた。今までアタシが見てきた笑顔が10だとしたら、写真に写った銀華先輩は100の笑顔だ。
そして、横にいるのは……遠山先輩。
「その写真はね。2月にラクーン台場に行ってきた時の写真だよ」
キッチンから顔を出した先輩にそんな声を掛けられる。
ラクーン台場とは、台場に楽天資本で造られたホテルつきのアミューズメント施設だったよな。こそこそ買い集めた少女漫画でよく見た遊園地デートというやつだろうな。遠山先輩と先輩が婚約者ってことは有名な話だし。
「遠山先輩とはよくこういうところに行くんですか?」
「うーん…あんまりいけないんだよね。私もキンジも忙しいから」
「あー、確かにそうっスよね」
まあこの二人は任務をよく二人っきりでこなしてるらしいし、デートみたいなものなのかも。
というか先輩…遠山先輩のこと大好きだな…
遠山先輩と写ってる写真超笑顔だし…
「先輩」
「ん?」
「遠山先輩のどこが好きなんっスか?」
興味本位でそんな質問をすると……
先輩は、全身の力が微妙に抜けたようにふにゃふにゃしつつ、
「あのね、あのね。いっぱいあるんだけど。まず見た目。私のお気に入りの写真で待ち受けにしてるんだけど…これ!かっこいいでしょ!普段はあんまりやる気なさそうにしてるけど、いざとなったらやる気になってその姿もかっこいいんだよ。あと優しいところも好き。あとはね。あとはね……」
先輩はその後も延々と『キンジのどこが好きか』を語り続けた。聞いているうちに関係ないアタシまでむず痒くなるほど、賞賛、礼賛、絶賛の嵐だ。
先輩の世界から想いが溢れて止まらないらしい。
銀華先輩の普段は優しくて、戦う時はかっこよくて、惚気モードになるとこうなるところも…………
可愛くていいなあ……
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
(一体なんなんだよあいつは!?)
今日1日、俺の猫探しの任務についてきやがって。邪魔なだけだっちゅうの!
それに、命令通りせっかくマック買ってやったのに殴られるし。銀華と同じ女子とは思えん。銀華と飯食ったほうが5億倍楽しいぞ。そしてそのピンク髪の居候は戦妹を見に行くと言って、留守にしている。抜け出すなら今だ。
(銀華に慰めてもらうか…)
あいつは今日任務はなく、家にいたはず。腹もへったし、ご飯を食わせてくれといった旨のメールを送るとわかったといったメールが返ってきた。
アリアという拳銃モンスターから逃げるために、銀華のところに避難すべきだろう。
銀華の部屋は徒歩5分のところにあるが、それまでにピンクのモンスターが出るかもしれないので、銀華が持つ自動運転の車を迎えに呼んで、女子寮まで移動した。
銀華の部屋に着くと、俺も持ってる合鍵でカチッと鍵を開ける。ドアを開けたら、玄関には―――見慣れない靴があるな。女物らしいが、銀華は履かないであろうブルーのスニーカーが銀華の靴と共に並んでいる。いったい誰だろう。
イヤだなー銀華以外の女子いるの。銀華以外の女子はそこまで得意じゃないのに、またあの凶暴ツインテールのせいでトラウマを植え付けられそうだよ。
とはいえここで帰っても戦妹の元から返ってきた
「銀華、きたぞ」
見ればダイニングのテーブルにはご飯が並んでおり、リビングのソファーには銀華がハート型のクッションを抱いて座っていた。
「キンジ、いらっしゃい」
嬉しそうな顔をして席を立った銀華は防弾制服ではなく、私服を着ていたが、これはいつものことだ。
キッチンから水が流れる音がしていたので覗き込んでみると、銀華と喋っていたのは
「………」
後輩の火野ライカか。女子にしては背の高い火野は、金髪碧眼の日米ハーフだ。本人は公言していないが、こいつの父親はヒノ・バットというアメリカじゃ有名な武偵で―――こいつも強襲科1年の中で有望株とされていて、蘭豹のお気に入りなんだよな。あとこいつは男嫌いらしい。女が苦手な俺とは真逆だな。でも、男の俺と目があっても、こいつ別に嫌な顔しなかったぞ。もしかしたら男嫌いっていう噂は間違ってるのかもしれんな。
「これ食っていいのか?」
「うん、電話が来たから作ったの。キンジが来ることは推理できていたから3人分作っていたしね」
でた、お得意の未来推理。便利だなあそれ。
「じゃあ、アタシ帰ります…」
火野ライカは洗い物を銀華の代わりにしていたようだが、それが終わったようで退散モード。やっぱり男嫌いなのかもな。
「じゃあまた明日ね〜」
飯を食おうと席に座った俺の対面に座って手を振る銀華は―――
口調とかはいつもの銀華なんだが、声色が若干尊大というか、後輩の前では少し偉ぶってるムードがあるな。俺しかわからんと思うが。
「突然来て言うのもなんだが、何で火野が銀華の部屋に居たんだ?」
いただきますをした後、対面に座って俺を見る銀華にそんな質問を投げかける。
「ライカは私の戦妹になったんだよ。1週間だけかもしれないけどね」
「あー
「風魔ちゃんを戦妹にしてるキンジに対抗して、男の子を戦弟にしても良かったけどね」
非難するような目で俺を見てくるのではぁとため息を吐く。
「その話はもう何度もしただろ…」
神奈川武偵中の後輩の女子である風魔を戦妹にしたこと、まだ言うのか…。
「私も優しいからね。それぐらいは許してあげるよ。うんうん」
笑っているけど目は笑ってませんよ、銀華さん。
その後、お腹が空いていたのもあり、黙々と銀華の作った飯を食う俺だが―――
銀華は自分が作った料理を食べる人を見つめる特徴がある。女子に見つめられて食べるのは恥ずかしいものだ。
なので食べ終えたところで、俺はさっきの反撃の意味も込め、
「―――ごちそうさま。こんな料理、俺以外の男に作るなよ?」
とケチをつけておいた。武偵はやられたらやり返すものだからな。
すると銀華は目の前でティーカップで上品に飲んでいた紅茶をちょっとのどに引っかけ、
「えほっえほっ。ぴょえーっ」
口に手をあて、目を丸くしている。どうした?
「……驚いた。キンジにも独占欲ってあったんだね。私嬉しいんだけど」
「???」
え……何の話?妙に感激したようなお顔をされてますけど。
「もちろんだよ。キンジにじゃなきゃ、こんなことしないよ」
銀華は―――モジモジしながら、紅茶の残りを一気飲み。何が嬉しいのかテーブルの下で足をパタパタさせてるぞ。
うーん。ディスコミュニケーションしてるなぁ。銀華とは時々起こることなんだが…まあいいや。銀華の機嫌が良くなるのはいいことだし。
ご飯を食べ終わり、ソファーに移動した俺らは横並びにくっついて座っている。
「それにしてもキンジ、よく今日来られたね。神崎が見張ってるはずなのに」
「ああ…戦妹がどうとか言って出て行ったから抜け出して来た」
自宅から抜け出すって家出するみたいだな。一人暮らしで家出って意味不明だけど。
「あー、神崎の戦妹ってあの子かな」
「知ってるのか?」
「今日会ったからね」
強襲科に行ったのか銀華。最近あんまり行ってなかったようだし、何かあったんだろうか?
そんなことを考えていると…
「ど、どうした!?銀華」
横にいた銀華が俺の胸に飛び込んで来た。
「キンジ…他の人のところに行かないでね…」
「いきなりどうしたんだ?」
「だってこの2日、ずっと神崎と一緒にいるんじゃ、不安にもなるよ…」
ああ、そんなことで不安になってたのか。
「俺はあいつに付き纏われてるだけだ。俺が銀華の元からいなくなるわけないだろ」
「ありがとう、キンジ」
そんなことを言ったら--ちゅっ。頰にキスされた。
「………っ………」
「寝るよ、キンジ」
そう言って銀華は立ち上がる。
銀華のキスはいつもと変わらなかったのだが…どこか寂しいと言ってる気がした。
ライカの口調AAと本編じゃ全然違うのすごい困る。