哿と婚約者   作:ホーラ

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遅れてすみません


第12話:告白

三年になって、二週間目の朝HR

 

「おかしい…」

 

俺はそう呟かずにはいられなかった。

そう呟かずにいられなかった理由、それは

 

「えー、このクラスの町田さんが残念ながら武偵中を家の事情で転校することになりました。」

 

神奈川武偵中でここ1週間の間に起こっている謎の連続した転校退学だ。

いや、それだけでは別におかしくない要素は少ない。武偵中と合わなくて抜ける生徒は少なくない数いるし、新学期に入って早々は珍しい程度。クラスで不思議がってるやつはほとんどいないしな。だが、俺にとっては明らかにおかしいことにしか見えない。なぜなら……

 

(俺を利用してた女子、5人全員って明らかにおかしいだろ…!)

 

転校退学となった生徒は全員俺を利用してた女子、それも全員だ。明らかに人為的なものにしか思えないだろこんなの……

だがそれを起こした犯人になんのメリットもない。唯一メリットを得るのは利用されていた俺のみ。俺を助けることになるだけだ。犯人の意図がよくわからん。

俺がメリットを得ることでその犯人もメリットを得る……そんな人物誰も思いつかん。

もしかしたら人為的なものだと思い込むのも…ダメかもしれんな。ホームズ好きの銀華の言葉を借りるなら、『事件の見た目が奇怪に見えれば見えるほど、その本質は単純』ってところだ。

『偶々』が重なりに重なった。神様が俺を助けてくれたと考えよう、うん。

 

クラスに帰って来た銀華は相変わらず人気者だ。俺とは大違いだな。まあ、俺も退学した女子達に人気だったがな!

 

(まあ、俺を利用するやつがいなくなったのはいいことだよな…)

 

それを起こしてくれた神様か誰かに向けて、俺は転校していった菊代たちには悪いが感謝を込めて手を合わせた。

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

いや、思ったよりマズイね。たぶんキンジこの転校が人為的なものだと勘付いてるよ。

明らかにおかしいと思うけど、でも証拠はないし、動機も見えないから偶然だと思い込みたい。そんなところかな?

いやー流石にやりすぎたかな。『偶々』親が死んだり、『偶々』工事現場の鉄骨が倒れて来て武偵生命を絶たれる大怪我をしただけなんだけどなあ。

やっぱりこの学校から追い出すのが5人だけなのがマズかったかも。でも、他の人を巻き込むのは趣味じゃないし、うーん。どうすればよかったんだろうね。

まあ、いいっか。私が起こしたとは絶対にバレないし。私は手を下してない。ただ私はきっかけを起こしただけ。それが最初のドミノとして倒れ、最終的には目的のことを成し遂げる。それが賢いやり方ってものだよね。

 

それにしても、午前に行われる一般教養は……退屈。私は夾竹桃に高校までの範囲の勉強を全て習っているからね。

まったく問題はない。

質問されても夾竹桃が教えてくれた通りに教えてあげれば大体の人は理解してくれる。夾竹桃様様。

 

そして午後、場所は教室から強襲科の訓練場に移る。

今日は徒手格闘の組み手で、強襲科の教師陣は見学しながら指導する感じだね。誰とやるかは自由なんだけど…

 

「……銀華頼んでいいか?」

「うん、いいよ」

 

まあ社交性がないキンジが私を頼るのは推理せずにもわかることだからね〜。

キンジに頼られるのは嬉しい反面、私に頼ってばっかりじゃ成長しないとも思う。キンジはお兄さんの金一を超える才能があるんだし、そこをどう成長させるかが今後のキンジの課題かな?

 

「いつでもいいよ」

 

訓練場の広間に移動した私はキンジにそう声をかける。よーいスタートのような掛け声から戦闘が始まるわけじゃない。というかそんなことはほぼない。基本は不意打ちするかされるか、あとは遭遇戦だろうね。

不意打ちでもなんでもするがいいよキンジ。

まあ徒手格闘だから武器は使えないし、不意をつけるのは体のフェイクだけ。

ついでにキンジがこの一年でどれぐらい動けるようになったかチェックしておこう。

 

真剣な目に変えたかと思うと、キンジは5m以上開いた距離を一歩で詰めて来た。

そんなことはあり得ないし、ちゃんとしたトリックがある。

キンジが使ったのは沖縄武術の『縮地法』。

古流武術では『滑り足』の一種。

出ている足の膝の力を抜き、そうすることで体が前に倒れていく。この前に倒れる力を使い、前足を滑らせるように前進。後ろ足はそれに引き付けるように移動させるテクニック。このやり方は大きな筋肉運動が発生しないから動き出しがわからないし、頭もほぼ上下しないというメリットがあるんだよ。

まあ、キンジにこの技術を教えたのは私なんだけど、一年間の間にちゃんとものにしたようだね。HSSじゃなくても使えてるし。

そうして、近づいてくると同時にキンジから放たれる拳。

一年前とは見違えるほどの速さだね……

でも、まだ甘い。

バシッ!

私はキンジのパンチを両手で受け止める。

片手では体格差的にも無理だけど両手なら受け止めることができる。そのパンチの勢いを使って

クルッ

宙返り蹴り(ムーンサルトキック)を放つ。

何の貯めもなしに宙返りは普通は無理だけど、相手の勢いを利用すると回転扉と同じ要領で上手く一回転することができるんだよね。

この技はキンジに見せたことがなかったから決まると思ったんだけど、突き出していない方の左腕でガードされる。そしてガードした勢いで私とキンジの間が空く。

 

絶牢(ぜつろう)……」

 

ぜつろう…?なんだろう。もしかしたら似たような技が遠山家に伝わる武術にあるのかも。でもそんな呟きや驚きが私にとっては隙なんだよね。

私はさっきのキンジと同じように縮地法で距離を詰め、顎に向かってカンフーのようなココ直伝の掌底打ちを放つ。当然キンジにガードされるけど、これはブラフ。ガードして死角となった足にローキックを放つ。

 

「グホッ…!」

 

足をすくわれキンジは背中から倒れる。受身は取れたようだけど完全に足元すくわれたからダメージ0とはいかなかったようだね。

私の本分は足技。バリツも足技系統が得意だしね。それを忘れてもらっちゃ困るよ。

キンジもまだまだやる気なようでばね仕掛けのように立ち上がる。

キンジがまた距離を詰めてきたかと思うと今度は連続攻撃。

正拳突き、足払い、投げ技など織り交ぜて私のガードを崩そうとしてくる。戦い方が一年前と比べて格段に進化しているよ。

成長したね〜キンジ。もしキンジがHSSだったら今の私は勝てないだろうし、『あれ』を使っても倍率はキンジの倍率には及ばないから、あの状態の私ともいい勝負するんじゃないかな?

ま、それはHSSだった場合。

通常キンジにはまだ負けないね。

 

「よっ」

「………え?」

 

そんな声と共にキンジは宙を舞った。そしてバンッ!という音と共に背中から落ちる。

キンジは何が起こったかわからない顔をしているね。

私はただキンジが突っ込んできた勢いを利用して、そのまま投げただけだよ。

そのキンジはまだやる気なようで再び攻めてくるけど、私はとっては投げる関節をきめるなどカウンター気味に戦い、授業後にはキンジは死体のように床に倒れていた。

 

「はい、お疲れ様」

「あ、すまん。ありがとう」

 

今日の授業もこれで終わり。私は近くの自販機で買ってきたスポーツドリンクを渡し、キンジが倒れてる横に座る。

キンジもかっこ悪いところ見せたくないのか気合いを入れて体を起こしたね。

 

「キンジ動き良くなったよ。一年前よりすごく成長してる」

「まあ、一年間何もしてないわけではなかったしな」

 

私に褒められたキンジは顔を背ける。

照れてるのかな?

 

「縮地法もよかったし、私のカウンターの蹴りもガードされるとは思わなかったよ」

「いや、ガードできたのは偶々というか…」

 

たぶん遠山家に似たような技があるんだろうけど、キンジが誤魔化したってことは秘術なんだろうね。

遠山家ってたくさん技あるからそういうのありそうだし。このまま問い詰めるのはかわいそうだし、この話は打ち切ってあげようかな。

 

「ふーん、やっぱりキンジはカウンター型の方がいいかもね」

「…どういうことだ?」

「そのままの意味だよ。キンジは自分から攻めるより受け気味で立ち回ってカウンターの技1発で仕留める。受け気味に回ってもあの状態なら躱せるんだし」

「そうか…」

 

あの状態のとはHSSのこと。私がそういうと、キンジはどこか自分でもそう思っていたような顔をした。どこか思い当たる節でもあったのかな?

私は立ち上がりキンジに対して手を出す。

キンジも私の手を取り立ち上がる。

 

「ねえ、キンジこの後暇?」

「別に予定はないが…どうかしたか?」

「久しぶりに私の家に来ない?久しぶりに落ち着いて2人で話もしたいし」

「…ああ、いいぞ」

 

さて、報復の最終段階に入ろうか。

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

「さっ、さ。上がって上がって」

 

俺は銀華に連れられて入った銀華の部屋は…

き、来たぞ。女子特有のいい匂いが。かなりの間留守にしていたはずなんだが、それでもこのフェロモンというかスメルというかは保たれるもんなんだな。完全に油断していた。

そしてその匂いは銀華特有の、清涼感のある菊のような匂い。

今日の組み手で疲れていたが1発で目が覚めたよ。いい匂いすぎて、ヒス的な恐怖で。

約一年前に来た時と変わらない位置にあるクッション性の高い高級そうなソファーで銀華が着替えてくるのを待つ。少し待つと…

 

「お待たせ」

 

銀華は清潔感のある真っ白なワンピースに着替えて来た。それをファッションショーのモデルかと思うぐらい完璧に来こなしてるのを見て、俺は思わず視線を銀華に固定してしまう。

 

「ん?どうした?」

「……なんでもない」

 

決して見惚れてたわかじゃないぞ……決して。

 

「キンジ何か飲む?」

「せっかくだし貰おうかな、何があるんだ?」

「コーヒーと紅茶があるね」

「じゃあコーヒーで」

「了解」

 

何が楽しいのか知らないがフフフ〜〜♪という風に鼻歌まじりにお湯を沸かし、俺の分のコーヒーと自分の分と思われる紅茶のカップをお盆に乗せ、テーブルに持って来た。そのお盆の上には市販のプリンが何個も乗せられている。

 

「それはなんだ?」

「プリンだよ」

「それは知ってる」

「え?」

 

いかん…会話が噛み合わん。

 

「それはなんだっていうのはな。物の名前を聞いてる意味だけじゃなくて何をするつもりなんだっていう意味もあるんだ」

「へぇー、そういう聞き方も日本ではあるんだね」

 

そう言って銀華はパクパクとプリンを食べ始める。銀華の日本語はすごい綺麗なんだけど、時々こういう日本語の微妙な意味を勘違いするんだよな。

 

「プリン好きなのか?」

「うん。だって美味しいじゃん」

 

美味しいじゃんって…まあ美味しいけど。

そんな市販のプリンを次から次に冷蔵庫から持ってくる。お前んちの冷蔵庫プリンどんだけ入ってるんだよ。

 

「そんなに食うと太るぞ」

 

武偵は体重管理もしっかりしなくてはいけない。プリンはカロリー高いのでそのことについて注意すると……

 

「私は太らないから大丈夫」

 

銀華は全世界の体重増に困っている人を敵に回すような発言をする。まあ、それならいっかと思ったのだが…

 

「あとキンジ、女性に体重の話をしちゃダメだよ。体重は女子にとってデリケートな話題なんだから」

 

プンプンと怒ったように俺にそう注意する。

まあ、本気で怒ってるわけではなさそうだが。

……というか女子に体重聞いちゃダメなんだな。女子に対する暗黙のルール多すぎるだろ。

 

「プリンで思い出したんだけど、イギリスのプリンはね…」

 

銀華は怒りのポーズをやめ、楽しそうにイギリスでここ一年のことを話しだした。

その銀華の話に俺は………没頭してしまう。

話し方が上手いのもあるが銀華にはどこか不思議な魅力がある。

ただそこにいるだけで注目してしまう。何か喋ると聞いてしまう。そういう不思議な力がある。敵味方関係なく惹きつけられる、言葉にできない何かを持っている人物だ。この一種のカリスマ性のようなもので、俺を含めみんなを惹きつけているんだろうな。

 

「キンジのここ一年の話も聞きたいな」

「……そ、そうだな」

 

いきなり話を振られてことばにつまってしまう。でも、昨年度の話なんてヒステリアモードを利用されたことぐらいしか覚えてないぞ…普段の話は週1の電話で話したしな。

 

「ねえキンジ…私に隠してることあるよね?」

「………」

 

銀華は人差し指を立ててそう言う。

 

「初歩的な推理だよキンジ。去年のキンジの声からなんか私に隠し事してるっていう疑念はあった。で、今の私の問いかけて動揺した後、一瞬何かおもいあたるような顔をしたよね。でもそれを私に話さなかった。それで確信したんだよ。ねえ、何を隠してるのかな?」

 

首を傾げながら言う銀華の目は……怖ええ……笑顔なのに見るだけで人を殺せそうな目をしてるやつ初めて見たぞ…

でも話していいのか?利用されてたことは事実なんだが、それを銀華に浮気と捉えられたら、確実にあのキレモードが出てくるぞ。現に半分ぐらい出てるし。

 

「ここまで言って言わないってことは女性関連だね確実に」

 

って、もうバレてるじゃねえか!喋っても地獄、喋らなくても地獄。救いはないんですか銀華さん…

 

「…わかった、話すよ」

 

俺は銀華がキレないことに一縷の望みをかけて去年HSSを利用されていたことを話す。その話を目を瞑って静かに聞いていた銀華の審判を、俺は裁判にかけられている被告人のような気持ちで待つ。そしてしばらくして開けた銀華の目は……

 

「まあ、そんなことだろうと思ったけどね」

 

やったーーーー!怒ってないぞ。何とか一命は取り留めたな。

 

「今回の件はキンジ悪くないしね。責めるのは可哀想だよ。でもそれなら相談して欲しかったなあ」

「いや婚約者のお前には流石に話しにくいだろ…」

「確かにそうだけど、次に何かあったら私に相談してね。それでキンジを利用してた連中は全員やめたり転校したりって本当?」

「ああ。なあ銀華、これが人為的なものかと思うか?」

 

強襲科だけでなく探偵科も兼科している銀華に聞いてみる。

 

「可能性はあるよ。いないことを証明するのが難しいのと同じで人為的なものではないと言い切るのはむずかしいからね。私が調べとくよ」

「ああ、すまん。手間をかける」

 

銀華に借りができちまったな…

 

「ねえ、再発防止のいい方法思いついたんだけど試してもいい?」

「それはいいが、どんな案なんだ?」

「それは明日まで秘密だよ」

 

そういう銀華の笑顔はとても可愛いものだったのだが、なんでだろう、俺はなぜか嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★

 

 

「みんなに発表があります」

 

次の日のHRの前、駒場が教室に入ってくる前に銀華が教壇に立つ。突然のことに俺を含めてみんな銀華に注目するよなそりゃ。

そしてその銀華は、ビシッと俺に向かって指を指す。それにつられてみんなが俺の方を見る。嫌な予感がするぞ…

 

「そこのキンジ、遠山キンジは……私の婚約者です」

 

俺はクラスメイトの驚きの叫び声をBGMに教室を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




銀華がどんどん悪女になっていく…

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