季節は完全に夏となってしまい、太陽が容赦なく私を焼くこんな時期。
太陽もそんなに頑張って暑くする必要はないと思う。この季節だとどうにも太陽を嫌いになってしまいそうだけれど、太陽が頑張ってくれているお陰で植物たちが元気に花を咲かせているのだ。そう思うと憎むわけにはいかなくなってしまう。難しいものだね。
さてさて。何をしようか。
湖近くの草むらに寝転がり、私はそんなことを考える。
今日も今日とて暇だ。チルノと大ちゃんはいつものように寺子屋へ行ってしまい、先日知り合った魔理沙とは、あれから会えていない。四葉を探していたら、何時の間にか魔法の森へ迷い込む。という、なんとも間抜けなことをしてしまった私。結局四葉は見つけられなかった。でも、まあ、魔理沙に会えたんだったら、四葉以上の発見が出来たような気もする。結果オーライだ。
――閑話休題。
そんなことがあった私だが。
暇なのはよろしくない。今の時間は丁度お昼頃だろうか。すっごく高いところに太陽があるし、きっとそうなんだろう。ずっと太陽を見ているのは非常に目に良くない。直接なんて、眩しすぎてとても見ていられたものじゃあないが。
……太陽、か。
太陽と言えば、暑くて眩しいのと一緒に、あの花のことを考える。
それは、太陽の移動に合わせて花の向きを自分で変える、面白い花。
太陽――日を向く花。
向日葵。
その花のことを思い出すと、当然、あいつのことも思い出す。
そう言えば、今年はまだあいつのところに行っていないじゃないか。今頃の時期、きっと向日葵も咲いていることだろう。
……うん。用事が出来た。
これで、さっきからずっと私を苦しめてきていた暇からも逃れられる。
お腹も空いてきたけど丁度良い。あいつのところへ行って何か御馳走して貰おう。
よーし、そうと決まれば早速出発だ。
あ、でも、ちょっと待てよ。
こんなに日差しも強い日には、やっぱり何か日よけになるものが欲しい。
ということで、私は一旦家に帰り、随分と昔から使っているお気に入りの麦わら帽をかぶる。うんうん、しっくりくる。夏だけの期間限定とは言え、随分昔からかぶっているんだ。この帽子にはかなり愛着もある。
少し大きい気がするのはいつものこと。はあ……全然成長してないなぁ、私。
そんな自分にちょっと落ち込みながらも、私は直ぐに、あいつの家へと向かって一直線に飛んで行った。
――――――
「おお! 咲いてる咲いてる!」
飛び始めてから暫く。
目的地である、太陽の畑が見えてきた。
かなり広大な太陽の畑に咲いているのは、太陽の花。
大量の黄色い花が、畑一面を覆い尽くす姿は、まさに圧巻と言えるだろう。
――すとん。と、そんな沢山の花の中に、ふわりと着地。
私はちっこいから、こんなに大きな向日葵達に囲まれると、周りが向日葵以外見えなくなる。
大きくて黄色い花は、青空に良く映える。流石は夏の季語ともなっているくらいだ。夏との相性は抜群だね。
うん。今年も綺麗に咲いているねぇ、君達は。
まあ、それもそうか。この向日葵達はあいつが育てているんだもの。ふふっ、君達は頑張って咲かないといけないよねぇ。だってあいつ、怒ると怖いもん。
「あら? 誰が怖いのかしら?」
こんなにあっつい夏の日に、凍えてしまうような絶対零度の声が聞こえた。
さ、さあ? 誰のことでしょうねー?
あんまり見たくはないけれど、無視をするとさらに声が冷たくなる。
それは大分嫌なので、すこしぎこちなく振り返った。
「やあ、久しぶりだね。幽香」
「ええ、久しぶり。千九咲。中々現れないから、今年はもう来ないものかと思っていたわ」
四季のフラワーマスター。風見幽香が其処に立っていた。
「今年も元気に咲いてるねぇ。この向日葵達は」
「ええ。きっと、頑張って咲かないと怖い誰かに怒られてしまうのでしょうね」
「…………」
日傘を差して頬笑みながら言う幽香。
確かに笑っている筈なのに、目がまったく笑っていません。少しキレてますね、コレ。ヤバい!
「やっぱり綺麗だよね! 青空に向日葵って!!」
「ええ、そうね。でも、赤い色とも相性が良さそうじゃない? 例えば……血とか」
「…………」
そんな訳ないだろうが。血と向日葵が合っていてたまるか。無理矢理にもほどがある。自分が赤を見たいだけだろ。
「あ……まあその話はともかく、さ。向日葵達に何か、変わったところとかなかった?」
話題を変える。この人ったら直ぐに暴力に訴えてくるものだからかなり怖い。昔だったらどうか知らんけど、今の私じゃあ抵抗する間もなく一回休みにされる。幾ら私が妖精で復活するのだとしても、命は大事にしたい。
「いえ。今年も特に変わったところはなかったわね。見ての通り、立派に咲いてくれたわ」
「あ、そ、そう……」
話題終了。早すぎるわ。まあ、あの幽香のことだから、結果は質問する前から分かってはいたけど。それにしたって終わるのが早すぎる。畜生、十秒も持たないじゃないか。
さて、次の話題を考えないとだ。何にしようか。
昨日何食べた? とか言ってやっても良いけれど、これもこれで話が長く続かなそうだ。そうなると、もっと話が続くような話題。
……ああでもちょっと待てよ。
幾ら話が続いたところで、幽香の機嫌が直らないんじゃあ意味がない。此処は一つ、何か面白いジョークでも言って、場の雰囲気を和ませたほうが良いんじゃあないだろうか。よーし。それだ。それしかない。
とびっきりの面白い話を……ヤバい、そろそろ何か言わないと変に思われる!
「幽香。見てて思ったけれど、君、少しお婆さんになった?」
勿論嘘。妖怪は幾ら歳を取っても姿が変わることはない。つまり、お婆さんになることは絶対にない。私が考えた最高のジョークだ。面白い! ……か如何かは分からないけれど、これで幽香の機嫌も良くなったことだろう。私が怒られることはもうないのだ。
ほら、幽香も顔は下を向いていて見えないけれど、肩が震えているよ。
きっと私のジョークのあまりの面白さに、笑いを堪えきれないんだろう。
流石私。ふふっ、如何だ。この頭の回転の速さ。やっぱり私は馬鹿ではない。わたしったらさいきょーね!
「……げる」
ん? 幽香今何か言っ
「千九咲。そんなにお望みなら遠慮なくぶち殺してあげるわ。感謝しなさい」
顔を上げた幽香は、額に青筋を浮かべ、明らかに普通ではない恐ろしい笑みを浮かべていた。
……ありゃ? 私もしかして、地雷か何か踏みました?
「待ちなさい千九咲ぁ!!」
「――ごめんなさいー!!?」
それから、大妖怪と、妖精である私の鬼ごっこが始まった。
低空飛行で飛んで逃げる私の後ろには、轟音と共に此方に向かって走ってくる幽香。マジ怖い。
太陽の畑からは抜け出し、今は林の中を突き進む。
周りの木々が逃げる過程で非常に鬱陶しいが、向日葵に被害を出さないようにするためだ。仕方がない。
しかし、そろそろヤバい。
何て言ったって向こうは幻想郷最強候補、風見幽香。能力などではなく、純粋な戦闘力のみで今まで勝ち上がってきたような存在。
対して此方は、ただの植物の妖精。
妖怪と妖精じゃあ、出力が違うんだ。
そろそろ追いつかれそうな気がする。
もう無理かもしれん。
「あははッ! 大人しくしなさい!! 今日と言う今日は貴方にお灸をすえてあげる!!」
……いや、もう少し頑張ろう。
あれにつかまったら果たしてどうなるかわからん。
ふむぅ。仕方がない、か。
このまま逃げていても、いずれつかまる。
だったら、かなり力を使ってしまうけれど、
――能力を使用するしかない。
幸い、辺りの状況はとても良い。
さて、あまり気乗りはしないがこんな状況だ。割り切るしかない。
今の力でどれくらいいけるのかは分からないけれども。少しの足止めくらいになったら良い方かな。
良し、それじゃあ――
――――――
メキメキッ。と、辺りの木が動き始める。
二本。天に向かって真っ直ぐに伸びていた木が途中から折れ曲がり、猛スピードで走る幽香の目前に、かなりの勢いで迫る。
「――ッ!!?」
突然の出来事に驚きながらも、幽香は迫りくる二本の木に対抗するため、持っていた傘を振るう。
妖怪。それも、大妖怪とも言われているほどの力を持つ幽香の、傘を利用しての本気の打撃。
二本の木は傘が当たった瞬間に、バラバラに砕け散った。
「やっぱり。幽香のそれ、どんな傘だよ」 ――一振りで二本の木を砕く幽香も大概だけれどね。
苦笑しながら、そう言葉を零すのは小さな妖精。……まあ、私だけども。
畜生。折角能力を使ったのに足止めにもなりやしない。流石は幽香。
――どうしたものか。
今のが現状、私が放てる最大の攻撃だった訳だが。
それがあっさりと破られてしまった今、幽香から逃げるのは流石に厳しいと言える。
幽香さん、全然走るスピード変わってないもの。こりゃあキツい。
「もう一回!!」
今度はもっと太い奴!!
さっきと同じように、二本の木を倒して幽香にぶつけるように動かす……が、
「ありゃ?」
動いた木は一本だけだった。
どうやら私の妖力がきれてしまったらしい。
倒れた木はあっさりと幽香に粉砕され、私の体からは力が抜けていった。
妖精の私ではここら辺が限界らしい。
もう飛んでいることすら出来ない。
私の体は降下を始めた。
段々薄れていく意識の中、誰かに受け止められた。
目の前には幽香の顔。
「もう……無茶して」
そう言った幽香の顔は、静かに笑っていた。
いや~、ごめんね。迷惑かけて。やっぱり幽香は強いなぁ。
向日葵の花言葉は、『貴方だけを見つめる』とか『憧れ』
私は昔から、強い幽香に憧れて。本来の意味とは違うけれど、幽香だけを見つめていたんだ。
……弱くなったなぁ、私も。
この作品はほのぼのだが、バトルがないとは言っていない。
な~んて、どうせ大したものにはなりませんけどね。