Re:“r”EKI   作:Cr.M=かにかま

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第一章 結

 『何かお困りかしら?』

 『もしかして、失業しちゃったとかそんな感じ?』

 『うーん、拠点は基本的に持ってないかな。あ、でも実家は隣町、家出中だし』

 『私?私は、黒森レキ』

 

 ─思えば、出会いはなんてことのないことだった。

 

 『蓮見のおっちゃんは私をナンパしてどうするつもり?』

 『だって、蓮見さん紳士でしょ?いくら私が誘ったとはいえ、女の子にリードさせるつもり?』

 

 少女の興味は次第に移ろう。

 

 『─最低、だよね。あんな状態の母さんをさ、置いて家出するなんて。しかも二年近く、だよ?一日や二日じゃないんだよ、なのに、なのに─』

 『私だ、って!お父さんに、会いたい!あっちの世界に、探しに行きたいよ、蓮見さんがせっかく誘ってくれたのに、蓮見さんがあっちの世界の人だから、チャンスが来たと、思ったのに!─』

 

 ─少女が選択する未来。

 それは─

 

 

 ※

 

 メーヴァに鐘の音が鳴り響く。

 カンカンカンカン、と汽笛の音がハーモニーを奏でる。

 

 「こんなにも空が赤いのは、随分久しぶりですね」

 「いつもと違うだけでこんなにも新鮮な気持ちになるんだな」

 「少々不気味ですがね」

 

 メーヴァ軍警団、支部長アラジンが手にしたランタンを撫でるように擦る。

 その隣で空を見上げるジャンヌ、二人とも若輩ゆえにこのような現象は新鮮に感じている。

 

 「で、本当によかったの、レキ?」

 「それはこっちの台詞なんだけど」

 

 二人の背後には黒森レキがベンチに腰掛けている。

 両手は自由が利かないように鋼鉄の枷が取り付けられている。

 

 「この三日間、貴女に対する処罰が下されました。私から何も言うことはありません」

 

 彼女の身柄が軍警団本部になったことでアラジンができることは何もない。

 

 「あくまでも、仮釈放だ。魔女から調書が取れたら、君の刑も重いものにはならないだろう」

 「……あのおばばから話聞くのは大変だと思うよ」

 「問題ない、こっちにもプロがいる」

 

 今は留守だがな、と小さく漏らす。

 

 「……蓮見さん、今日帰るんだよね」

 「あぁ」

 「なんか、あっさりしてるなぁ」

 

 カラカラと笑う。

 思惑がどうあれ罪は罪、自らの罪と向き合うことを決めたレキはこの世界に留まることを決めたのだ。

 

 「─また、会えるかなぁ」

 

 見送りに行く選択肢もあったが、彼女は選ばなかった。

 これ以上彼のことを、父の背を追い続けていては未練ばかりが沈殿する。

 区切りをつけるためにも、母と向き合い、罪と向き合い、何より自分自身と向き合うことを黒森レキは決めたのだ。

 

 「さぁな」

 

 駅から風が吹いた。

 汽笛と共に汽車は走る。

 

 「それで、私はいつ牢に戻ればいいの?」

 「本部の牢に引っ越しだ、ここにはもう戻れない」

 「なら、今のうちにお世話になったし、掃除しとかなきゃね」

 「いい心掛けだ」

 「これから旅立つ相棒が小言多い人だったからね」

 

 彼が進むのならば、私も進む。

 黒森レキは俯くことなく、上を向きながら仮釈放の時間を終えた。

 

 

 ※

 

 鐘の音が響く。

 

 

 ※

 

 【西弐歴23年度11月10日16時56分発】

 

 【イヴ→アダム】

 

 「本当に、あった」

 

 賑わう駅のホームの隅っこにて、蓮見征史はかつてヌンクで見た宙に浮く時刻表を探していたところ運良く見つけることができた。

 アレイスター曰く、三つの駅のどこに出現するのかわからないとのことだったが、一つ目のメロンの駅で発見できた。

 

 「……そこにほんまに時刻表があんの?蓮見はんがおかしくなったわけやのうて?」

 「まぁ、彼ならあり得るでしょうけど」

 「おいこら」

 

 ケルトの可能性が高いとアレイスターが予想していたが、現在ケルトは封鎖状態。

 アレイスターの権力(ないに等しいが)を持ってしても立ち入ることはできなかった。

 

 ならば、と次の予想を立てたときに白羽の矢が立ったのがここメロンである。

 七つのうちの三つ、アレイスターが過去確認した時刻表の出現場所である。

 

 初めて行く場所ということもあって、蝶々と夜々、ヒルコに同行を頼んだ次第である。

 

 「お店が少し寂しくなるわぁ」

 

 店長である蝶々が煙管を蒸かしながら、

 

 「シフト組むのが楽になります」

 

 夜々が真顔で告げる。

 

 「あんたなぁ…」

 「気にせんで蓮見はん、これ照れ隠しやさかい」

 

 二人を見てると、かつての妻を思い出す。

 この世界に残ることを決めたレキ、無理矢理にでも連れてきたかったが、彼女の意思を無視するわけにもいかない。

 これで最期となると少し名残惜しい、共にアダムを目指していたが、このような形になってしまったのは少し残念である。

 

 「蓮見さん、切符買わなくていいの?」

 「あ、そうだ」

 

 時刻表が出現してる間に改札を潜る、それがアダムへと帰る道筋である。

 

 「改めて、お世話になりました店長」

 「気にせんでええのに、律儀な人やわ」

 「性分なんでね」

 

 ジャンヌへ借金も返済、この世界への未練はほぼ失くなったと言える。

 

 「それじゃ、さよなら」

 

 ─三人に見送られながら、改札を潜った。
















 この世界において、わかったことが三つある。

 一つ、アダムとイヴにおいて時間の流れが違うこと。
 二つ、イヴという世界の歴史はアダムに比べて浅いこと。

 三つ、アレイスターを信用するな。

 迷い込んだ冒険家、R.K

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