Re:“r”EKI   作:Cr.M=かにかま

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お ひ さ


14.種明カシ

 魔女の捕縛。

 軍警団団長、桃太郎が大々的に宣言することによって、情報はイヴ全域にまで伝わった。

 人々を恐怖に陥れた【骸】流通の主犯格、根源を抑えたと言ってもいい。

 直接捕縛にあたった軍警団のジャンヌ・ダルクはレフボーイの記事により、大々的に取り上げられた。

 

 「まったく、誰がここまでしろと…」

 「いいじゃないですか、姉御! せっかくの大手柄なんだ、軍警団の面子も守れるってもんでしょ!?」

 「否定はしませんが、貴方に言われるのは何だか否めないですね」

 「心配しなさんな、俺は真実しか伝えない。 それがジャーナリストってやつさ」

 

 自称、ジャーナリストを名乗るレフボーイはジャンヌと旧知の仲である。

 一眼レフの頭をした異形の彼は軍警団を全面的に支持し、軍警団、特にジャンヌのために裏で活動している。

 ジャンヌでは行けない場所にレフボーイが赴き、レフボーイの行けないところにジャンヌが行く。

 道は違えど、真実を追い求めるという形で二人は協力関係にあり、上司であるホークアイや桃太郎にも知られるわけにはいかない仲である。

 

 「レフボーイ、そろそろ私は本部に戻ります」

 「あいよ、今後ともご贔屓に」

 

 スキャンダルももちろんだが、軍警団が情報改竄をしてるという印象を広めるわけにもいかない。

 二人は五分も経たないうちに会話を打ち切り、その場を後にする。

 

 軍警団、ヌンク本部に戻ったジャンヌは足早に会議室へと進む。

 既に会議室には桃太郎、ケルベロス、ダルマと幹部達を中心にアラジンも召集されていた。

 

 「待ってたぞ、ジャンヌ。 ホークアイは今別件で遠征だからな、お前には代理を務めてもらう。 といっても、今回の議題では嫌でも中心になるだろうよ」

 「…はい」

 「さて、主役も遅れてやってきたんだ。 魔女の一団、その残党共の処置と一掃についてだ─」

 

 魔女を名乗る老婆を捕えて二日が経過していた。

 しかし、事件はまだ終わらない。

 

 

 ※

 

 会議が終わり、ジャンヌはそのままアラジンと一緒にメーヴァへと向かった。

 

 「ご足労お掛けします」

 「とんでもない、貴方の協力があって事態は落ち着いたんだ。 それに─」

 「……心中、お察しします。 しかし、我々も生き残るためです」

 

 軍警団メーヴァ支部。

 魔女、黒森レキを収監しているスペースへと向かい、一連の事件を終わらせる必要がある。

 魔女と名乗る老婆、この件の中心である人物の身柄は現在本部にあり、ケルベロスを中心とした軍警団本部の人間が情報の引き出しを行っている。

 

 「許されざる大罪人とて、相手は老体だ。 ケルベロスの馬鹿がやり過ぎなければいいが…」

 「それは不要な心配ですね」

 

 アラジンの言葉の対象は魔女に向けられてなのか、あるいはケルベロスに対する信頼からの言葉なのかはわからない。

 

 「蓮見君は?」

 「仕事だ」

 「彼にも協力をお願いしたかったのですが」

 「あまり市民に頼りすぎるのも、どうかと思いますよ」

 

 市民の盾である軍警団がこのような体たらくでは、盾になんてなれやしない。

 

 以前にやってきたときと何も変わってなかった。

 手入れはされてるものの、最低限に抑えられ衛生面では少し心配がされる。

 しかし、罪人のためにそこまでする必要がないという考え方自体はジャンヌも同意であるが、それが知人と同じ顔であれば話は変わってくる。

 

 「……また、あんたか」

 「レキ」

 「─の、一部。 というか、もう知ってるんでしょ?」

 

 不要な問答はよせ、黒森レキの影法師はそう囁いているように思えた。

 

 「あの子はどうしてるの? まさか、私と同じような仕打ちさせてないでしょうね?」

 「レキは見張りを付けた上での実質自宅謹慎、君から話を聞いた上で待遇も変わる可能性はあります」

 「……そりゃ、責任重大」

 

 当初、黒森レキ本人も軍警団の牢に収用する予定であった。

 しかし、実母の訴えと魔女に加担していた専属医師の証言も相まって、扱いは軽くなったともいえる。

 

 「そろそろよろしいでしょうか?」

 「……貴方は、少し空気が読めないですね。 アラジン支部長殿」

 

 檻の向こうの少女も深く頷いた。

 

 

 ※

 

 軍警団に身を置くジャンヌの仕事はまだ終わらない。

 メーヴァ支部を後にして、汽車で本部まで戻るために駅に向かい改札を通る。

 

 (……ここも特に異常無し、か)

 

 居候の言ってたこと、見えたものが少し気になったが深く考えても仕方なさそうだ。

 本部に戻り次第、ケルベロスとの情報交換、上司であるホークアイ、桃太郎への報告書の作成、諸々休む暇がない。

 

 現場が終われば報告記録のための書類仕事。

 ジャンヌが知る由ではないが、それはアダムだろうがイヴだろうが変わらないことである。

 特に直属の長であるホークアイは現在別任務のため本部、ひいては【骸】事件から一時的に離れている状態にあるのだ。

 

 本部での雑務を終えると、ヌンクロードにて見知った顔と遭遇する。

 

 「蓮見」

 「ジャンヌ、すっごい隅だな」

 「貴方は元気そうだ」

 

 件の居候、蓮見はどうやら買い出しの途中だったらしい。

 あの事件の後、蓮見とマングースは重要参考人として軍警団本部で過ごしていた。

 蓮見本人は解せぬ、といった様子だったが巻き込まれた一般人として扱われたこともありあっさり釈放となった。

 

 「……マングースの奴は─」

 「彼女は【骸】売買の疑い、いや、事実がある。 残念ながら私でもどうすることもできん」

 

 本人からの供述であれば尚更だ。

 軍警団の取り調べに対しても、受け答えがハッキリとしてくるためスムーズに事実確認、一団の残党の手がかりを掴むことができている。

 しかし、彼女も末端も末端。 根幹に辿り着くまでには時間が掛かりそうだ。

 

 蓮見とジャンヌは帰路につく。

 向かう先は一緒なのだ、なんの問題もない。

 

 「……昔、同じような事件があったって聞いた」

 「えぇ、私も話を聞いただけですが」

 「人間ってのは、どうして同じ事を繰り返すのかねぇ」

 「…それをさせない為に私がいます。 過ちを、繰り返させないために」

 

 聖女ジャンヌダルク。

 隣を歩く存在が時々何者なのか、蓮見自身忘れてしまうことは多々ある。

 そのたびに思い出しもする、そんな人の元で居候してる俺はなんなんだろうなと。

 

 「レキは大人しくしてますか?」

 「さすがに強面のおっさん二人に見張られながらの生活だと、大人しくせざるをえないだろ」

 「そうです、ね」

 「どこぞの恐れ知らずの婆さんと違ってな、俺でもチビる自信あるわ、あんな生活」

 

 不憫に思えた蓮見は相棒に一つ、林檎をお土産に買って帰ることにした。

 

 

 ※

 

 魔女と名乗る老婆は動機を語る。

 

 そもそも【骸】とはなんなのか、どのようにしてあのような毒物が生まれることになったのか。

 

 老婆にはどうしても苦しめ殺したい相手がいた。

 

 魔女は言葉を紡ぐ。

 

 “人喰い”、と。




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