「ちぃ、傷が治らん」
「まだ動くな、傷が治りきってないんだからな」
「チャクラもこういう傷を治すのには向いてないからなぁ」
オーボンヌ修道院での連戦から一夜明け貿易都市ドーターで傷の手当を行っているラムザ一行。
ラムザはアルマがさらわれたことで落ち込んでおり今アグリアスとアリスがそれを慰めに行っている
オーボンヌ修道院では色々な事があった。
あり過ぎる位あった
アルマが連れ去られ
ウィーグラフが聖石と契約を果たし化け物となり
シモン先生から協会の不正を暴くゲルモニーク聖典を託されたのだ
それらを考えるだけでも色々な事がありすぎてたまらない
「エバンズ」
「なんだシーラ」
「あの聖典、本当なんだろうな」
ぽつりと零すシーラ
エバンズも一つため息を零してから
「シモンさんが命がけでラムザに渡して、それとアルマを交換だと言われたからには本物なんだろうな」
「グレバトス教の敬虔な信者って訳じゃなかったがそれでも英雄の聖アジュラの事はそれなりに信じていたんだがなぁ~」
ゲルモニーク聖典
それは聖アジュラが神の御子等ではなくただの間者であった事
そう、神格化された人間ではない存在であった筈の聖アジュラがただの人間であった事を示したものであった
グレバトス教が真実だと信じるものは少なくない
というよりも、この地に住む者たちにとって基本的には経験ではないにしろ信者の一人であるのは間違いないのであった
「俺はそれよりも聖石が化け物を作る道具だった事の方が驚きだったがな」
「ウィーグラフか」
ウィーグラフ
オーボンヌ修道院で確かにラムザが倒したはずだった相手。
だが、聖石が突然しゃべりだし契約を交わしたウィーグラフが化け物へと変化したのであった。
「アルマ誘拐に始まってウィーグラフの化物化、ゲルモニーク聖典どれもこれも正直面倒な事だな」
「アルマ、無事だと良いんだけど」
「ゲルモニーク聖典がこっちが握っている以上、そう易々と手出しは出来んはずだから大丈夫だと思うしかないだろう」
とは言え、やる事が増えてしまったのも事実。
最初はラムザのハーレムを作れればそれで良いと思っていた。
だというのにアルマは誘拐される
ウィーグラフと其の一味は聖石で確実に化物になっているで間違いない
そしてゲルモニーク辞典
今まで信じていた聖アジュラがただの人間で間者(スパイ)だった事
何を信用すればよいのかわからなくなっていく
「取り敢えずは、だ。俺たちはラムザを信じるとしよう」
「だな」
ラムザを信じてここまで来たのだ。
ならば最後まで信じるのが筋というものだろう
傷を手当しながらエバンズはふと妙な声を聞く
「なんだかラムザの部屋が騒がしいが、何かあったのか」
「おぉ!とうとうやったか!」
「おいこら待てや怪我人」
エバンズが思わずシーラの頭を握り締める
握力はそれなり以上あるエバンズ、しかも相手のシーラは怪我人である。
抵抗しようにも抵抗できないシーラ
「あ、あはははは」
「さぁ、いえ、あの二人に何を吹き込んだ。生真面目なアグリアスさんまで巻き込んだのだ、ただ事では無いんだろう?」
「あ、痛い、怪我が、怪我が悪化するぅううぅうう!?」
ぎりぎりと頭を握り締める力を強くしていくエバンズ。
観念したのかシーラがぎぶぎぶと言い、何を吹き込んだのかを言うといったので力を弱める。
ようするに、だ
「ラムザが傷心しているから文字通り”身体”で慰めればよいといったのだな?」
「うむ!ラムザハーレムの為に必要だと思い二人を説得したのだ!あ、痛い!力強めないでぇぇ!」
はぁ、と一つため息を零すエバンズつまり今ラムザの部屋はそう言う事をしている真っ最中なのだろう
確かに落ち込んでいるラムザには必要な事かも知れないがそれをほんとに実行に移すか普通
そう思いながら力をこめてシーラの頭から手を離す
「はぁ、ラムザがねぇ」
「こういう時の女は強いのだ!えっへん」
ここにも女がいるが、どうにも強い風には見えない。
まぁそんな事はさておいてだ
「ラムザたちが動けないというのならこちらで動ける事をしよう。白魔道士探しだ」
「戦士斡旋所にいるかねぇ?」
「いや、其処じゃない。酒場で話を聞いたのだがアラグアイの森で白魔道士と黒魔道士が修行しているとの話だ」
噂話の一環ではない
昨日白黒魔道士の二人の女性がアラグアイの森に行くというのを酒場のマスターが聞いていた。
妙齢な年齢のきれいな女性たちだから良く覚えていたという
「其の二人を説得しに行くぞ」
「なぁ、エバンズさんや」
「何だ、シーラ」
「私、怪我だらけなんだけど」
「本当ならラムザたちと一緒に行くつもりだった計画をだめにしてのは誰かね?」
うぅ、意地悪~!
そんな声を出しながら渋々とアラグアイの森に行く事になったシーラ
ラムザ達、特にラムザには戦力増強が急務と言う事で許可を貰っている。
あんな化物相手に前衛職だけでは勝てない。
やはり仲間が必要だと説いてある。
なので白魔道士と黒魔道士の二人の説得をしに、一路二人はアラグアイの森に向かう事になるのであった。