ーーーコセラーム村 村長の家ーーー
まだ日が向こうの山に隠れて薄明るい午前5時頃。
「ふゎあ・・・。どうやら感覚的に季節は春ぐらいかな・・・」
そう言ってテラスに出て欠伸をするこうき。
「でも少しまだ寒いな・・・」
卓也も窓に寄りかかっていた。
「いよいよこの村から出るんだね」
「昨日来たばっかじゃん・・・」
「そうだよね。なんかもう長いこといてる気がするよ・・・」
「まぁ個性がすごいかったからな・・・」
そう言って卓也は昨日の出来事を振り返ってみた。
(村にやってきてマコリットに出会って、村やこの国について知って、変な神話を聞いて、ホクウェルト親子に会って、他の村人とも仲良くなったな・・・)
「さて、下に降りよう。ベレッタを起こして」
「了解」
こうきに指示され、卓也はベレッタを起こした。
「ほら朝だぞ~。おきろ~」
そう言ってベレッタをゆする。
「んぅ・・・」
「おはよう。ベレッタ」
「おはよう・・・卓也」
そう言って卓也を見て微笑んだ。
「さて、今日は忙しくなりそうだ」
「そうだね」
「うん・・・」
下に降りるとマコリットはすでに起きて朝食を作っていた。
「おはよう我が孫たちよ」
「おはようございます。マコリットさん」
「おはようございます」
「おはよう」
マコリットに挨拶され、三人は挨拶を返した。
「ちょうどよかった。朝ごはんができたから呼びに行こうと思ってたんじゃ」
「そうだったんですか。いつもこんなに朝早いんですか?」
「そうじゃ。何せ年寄りはなかなか眠れんのでな」
そう言ってフォッフォッフォと笑った。
「さて、みんなで頂こうかのぅ!」
「「「はい!」」」
この世界の食文化は、日本でいう洋食と殆ど変わりなかった。
そのためか朝食はベーコンエッグにトーストだった。
「なんだかこうきの作ったのと同じくらいおいしい」
「何じゃ。こうきも料理ができるのか!」
「はい。でもマコリットさんほどではありませんが。少しくらい・・・」
「そうじゃったのか。では今度一緒になにか作ってみよう!」
「いいですね!」
二人はそう言ってフフフと笑った。
朝食を取り終え、三人は荷物をまとめた。
「そう言えばマコリットさん」
「何じゃ?」
「この村って馬車とか入って来る事ってありますか?」
「あああるぞ。何せ農業をする上で必須アイテムじゃからな」
「てことは車両が入って来ても大丈夫ってことですね」
「あぁ勿論じゃ。じゃがしゃりょうってなんじゃ?」
マコリットは不思議そうに聞いた。
(まぁあれくらいだったら大丈夫か・・・)
「実は俺たち、ある物に乗って旅をしてるんです」
卓也はマコリットに自分たちの旅について、一部を隠しつつ説明した。
「・・・」
マコリットは説明を聞いて唖然としていた。
「でもこの内容に関しては内密にお願いします」
「おぉ、分かった。しかしすごいなぁ。そんなものがあったんじゃな」
「もう一人の仲間曰く、自分で作ったらしいです」
それを聞いてマコリットは卓也に質問した。
「もしかしてもう一人の仲間ってもしや・・・」
「はい。恐らく、創造の神扱いされる存在かと・・・」
それを確認するなり、マコリットは納得した。
「そうか!そうじゃったか!ならば納得じゃ!」
そう言って卓也の背中を笑いながらバシバシたたいた。
「ではちょっと車両を持ってきますね」
そう言って卓也は家を出て行った。
ブロロロロッ
低いエンジン音が聞こえてきて、家の前辺りまで来て止まった。
「!?」
突然の事でマコリットは驚いて、ドアを開けた。
そして目の前の物体を見て唖然とした。
馬車のようにタイヤが四つあるが、木ではなく真ん中は鉄輪のようなものでその周りを艶の無い黒い何かで覆われている。
車体は緑色で塗られており、前輪付近は平たく、後ろの方は長方形をしてガラスが張られている。
そしてその中から卓也が平然とした顔で降りてきた。
「こ、これがお主らの言っていたしゃりょうってやつかい?」
「はい。俺たちはこれをジープって呼んでます。簡単に説明すると馬車にエンジンを積んだようなものです」
「ほ、ほぅ・・・」
マコリットは驚きながら、ジープを見て回った。
「これはどうやってっ操縦するんじゃ?」
「それはですね・・・」
そう言って運転席のドアを開けた。
「おぉぉぉ!」
そこには椅子があり、その前に丸い輪がついていて、その前に時計の様なものが整然と並んでいた。
足元には足で踏むのであろうレバーのようなものがついていた。
「この足元についているレバーを踏んでハンドルと呼ばれる輪を回して操作します」
「ほぅ・・・到底素人には扱えんのう・・・」
「そうですね。これを扱うには免許と呼ばれる書類が必要ですね。・・・持ってないけど」
最後の一言はぼそっと言った為マコリットには聞こえなかった。
荷物も積み終わり、向こうの山から顔を出し始めた。
三人は家の玄関前に立ち、マコリットの前に並んでいた。
「それでは二日間お世話になりました」
「あぁ。お主らに会えて本当に良かったぞ!」
そう言ってマコリットは泣き出した。
「二日しかたっておらんのに、まるでお前たちが長いこといた気がするぞぉぉぉ!」
「僕もそんな気がしますよ。ここは僕にとって第二の故郷みたいな気がします」
「うぉぉぉぉ!お主らぁぁぁぁ!」
そう言いながらマコリットは三人に抱き着いた。
「この先どんなことがあるか分からん!じゃがもし困った事があったらわしをおもいだしてくれぇぇ!」
「ははは・・・はい」
「寂しくなったらいつでも帰ってきてよいぞ!いつでも遊びに来い!」
「はい。またいつか遊びに来ますね」
そう言ってマコリットは三人を離した。
「では!」
「「「お世話になりました!」」」
そう言って三人は敬礼した。
マコリットも見よう見真似て敬礼した。
そして三人が車に乗ろうと向きを変えると、そこには村人たちが集まっていた。
「君達ー!来てくれてありがとう!」
「またいつでも来てくれー!」
ワイワイガヤガヤと卓也たちを見送りに来ていた。
すると、村人たちの中から、一人の女性が出てきた。
モカルだった。
昨日会った時のように、バスケットを持っていた。
「これ、隣町まで結構遠いでしょ?だからお腹がすいたら食べてね」
「ありがとう!」
そう言ってこうきが受け取ると・・・
チュッ
こうきの頬にそっとキスをした。
彼女は逃げるように人ごみの中に戻っていった。
その瞬間こうきの顔はボンっと音がしそうな勢いで赤くなった。
「へぇ~」
その光景を見ていた卓也はニタニタしながらこうきを見た。
一方ベレッタは、すねたような目でこうきを睨み、アキレス腱を蹴った。
「なんだよ!二人とも!」
「「いいや~(いいえ・・・)別に~」」
「と、取り敢えず行くよ!」
「「了解」」
ベレッタとこうきが車に乗り込み、卓也も運転席側に回りドアを開けて乗り込もうとした時だった。
「卓也」
ふとマコリットに呼び止められた。
「どうしました?」
「これ持っていきなさい」
そう言って札束を渡してきた。
「5万ピックだ」
日本円で5万だった。
「え!?そんなに!?良いんですか!?」
「なぁに孫に小遣い位あげるさ。むしろわしから言わせれば安い方じゃ」
「そ、そうなんですか・・・。まぁ、ありがとうございます・・・」
卓也はその札束をそっと財布にしまった。
そして車に乗り込んでエンジンを掛けた。
ブロロロロッ!
「さぁ神様たちがこの村を旅立たれるぞ!皆でお見送りするぞ!」
ジープは向きを変え、隣町へ続く道に向かってゆっくりと走り出した。
「さようならぁぁぁ!」
「またいらしてくださぁぁい!」
村人たちに手を振られ、見送られながら村を出る。
こうきとベレッタは窓から手を振り返した。
そして村のゲートを抜け、山道をひたすら進んでいった・・・
ジープはやがて広い高原の真ん中の道に出た。
「おぉぉぉぉぉぉぉ」
「きれいだな・・・」
「そうだね・・・」
高原には野生の馬が何頭かいて、草を食べていた・・・
こうきは窓を開けた。
春独特の温かい優しい風が吹いてくる。
「はぁ・・・きもちいいなぁ・・・」
卓也たちの旅はまだ始まったばかりであった・・・
本当だったら隣町に着く予定でしたが・・・
着けませんでした
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読んで頂きありがとうございました!