ブラック・ブレット ~絶対希望少女~ 作:私はサーバルキャットの佐原だよ
西暦2021年。
突如全世界に出現した寄生生物〝ガストレア〟との戦争に敗北した人類は、ガストレアが避ける特殊な磁場を発する金属〝バラニウム〟で作られた巨大な〝モノリス〟を建造しモノリスの結界で囲われた〝エリア〟内での生活を強いられていた。
日本も国土は荒廃し〝東京〟〝大阪〟〝札幌〟〝仙台〟〝博多〟〝塔和〟の六都市のエリアに別れてしまっていた……。
それから約十年後の西暦2031年
東京エリアの都心の一等地である事件は密かに幕を開けた……。
◆◆◆
<――緊急事態発生。緊急事態発生。地下研究ブロックに侵入者。当該ブロックの研究員は直ちに退避し全武装警備員は速やかに侵入者を排除してください。繰り返します>
天井も壁も一面が白色で統一された清潔感のある通路にサイレンと共に女性の電子音声の放送が流れていた。
「おやおや。都内の一等地とはいえ廃校にしては警備が厳重すぎやしないかね。そうは思わないかい小比奈?」
シルクハットを被り赤いタキシードを着て顔には仮面をつけた男が言った。
その男の側には黒いドレスを着た小学生くらいの赤い瞳の少女が黒い刀を両手に持って立っている。
「パパ、この辺の雑魚はもう全部片付けたみたいだよ?」
少女が男に報告する。
その二人の立っている周りには警備員だった物が幾つも幾つも倒れていた。
警備員達の体には刀傷や銃痕が残っている。
二人がやったのは明らかだった。
白い通路の床は真っ赤な血に染まっている。
そんな死体だらけの通路を二人はまるでゴミを踏むかのように死体を踏みつけ進んでいた。
「私立希望ヶ峰学園……二年前に生徒のスカウトがままらなくなり閉校した日本の最高峰教育機関……だがその地下には巨大な秘密研究所があり今も元気良く活動していると、これはどういうことなのか……ん?ここは」
仮面の男は呟いた。
通路をしばらく進んだ二人の目の前に今までの通路よりも広い倉庫の様な場所にたどり着いた。
見ると壁際に幾つものバラニウム製の黒い大きな檻が置かれている。
「パパ!おっきな檻が沢山置いてあるよ!」
少女が檻の側にかけよって眺める。
仮面の男も興味深そうに檻を見つめた。
「どうやら、この檻には最近までガストレアが入れられていたようだ。これは……ますます、先に進むのが楽しみだね」
それから二人はすぐにまた移動を開始した。
広い倉庫を前へと歩き続ける。
やがて倉庫の一番奥に高さ五メートル横十メートル位の巨大な扉が現れた。
二人は扉を見回す。
少女は扉に近づいて手を触れた。
「この扉、バラニウムでできてる……そう簡単に壊せないよ?」
「それは困るね」
二人は少し悩んだ。
しかし、その時だった。
扉がなんの前触れもなく大きな轟音を上げながら開き始めた。
「パパ、扉が開くよ!」
「おや?どうやら、私たちを招待してくれるみたいだ」
仮面の男と少女は笑みを浮かべた……。
扉を潜るとそこは先程の倉庫よりも遥かに広く天井も遥かに高い薄暗い部屋だった。
二人は中に入るとすぐにその部屋の異様さに気がついた。
二人は部屋の中央を見つめる。
その、広い部屋の中央には不似合いな病院にある様なベットが一床置かれていた。
そして、そのベットの上には一人の黒いスーツを着た黒髪のロングヘアーの青年が座っていた。
青年の両目は少女の様に赤い瞳だった。
薄暗い部屋の闇に青年の瞳は輝いている様に見える。
そんな青年を見た二人はベットから十数メートルの所まで進んで止まった。
「……あなた達は誰ですか?」
青年は部屋に入ってきた二人を鋭い目線で見つめ口を開いた。
「フフフ……これは失礼。私は蛭子影胤という。こちらは私のイニシエーターにして娘」
「蛭子小比奈、十才」
蛭子影胤と名乗った仮面の男に続いて少女が自身を蛭子小比奈と名乗った。
「…………」
青年はなにも言わずに二人を見続ける。
「おやおや。せっかく自己紹介をしたのに君はしないのかい?」
「…………」
青年は退屈そうに何も答えない。
「……パパ、こいつムカツクから斬ってもいい?」
小比奈は青年を睨み付けた。
「よしよし、だがまだ駄目だ。もうしばらく我慢しなさい」
「うぅ……」
影胤に止められた小比奈は残念そうにする。
「君は明らかに男の様だが瞳が赤いね。君は〝呪われた子供達〟なのかい?」
「…………」
仮面の男は青年に話しかけるが青年は相変わらず何も答えなかった。
「……あくまで何も喋る気はないみたいだね。小比奈、前言撤回だ。彼を切るんだ。殺しても構わない」
「はいパパ」
小比奈はそう返事をした瞬間、両手の刀を構えて青年に向かって素早い動きで突撃を仕掛けた。
小比奈と青年の距離が一瞬で縮まり小比奈は青年が自分の刀の打撃圏内に入るのを確認すると青年の首に向かって刀を降り下ろした。
しかし……、
「えっ――――」
次の瞬間、小比奈の視界は反転していた。
「ぐはっ――――!?」
小比奈の体全体に痛みが走る。
小比奈には何が起きたのか一瞬過ぎて分からなかった。
左側の頬に冷たい床の感触があった。
小比奈は床に倒れていた。
頭と腰に青年の脚が置かれ起き上がろうとしても強く押さえつけれ動くことができなかった。
流石に今までいろんな敵と戦ってきたが小比奈にとってこんな事は初めてだ。
小比奈は刀で青年の足を切りつけ脱出を考えたが既に小比奈の両手には刀はなく青年が片手で2本とも奪っておりそれはできなかった。
「……ツマラナイ」
青年はそう呟いた。
小比奈はそれを聞いて無理矢理体を動かし脱出を試みた。
「こ、この――――ぐあっ!?」
しかし、青年は小比奈の動きを頭にのせている足を上げて降り下ろし小比奈の動きを止める。
すると、パチパチパチと影胤の方から拍手の音が響いた。
青年は影胤を見る。
影胤は青年に向かって拍手をしていた。
「フフフ……想像以上だよ。まさか小比奈を一瞬で倒すとは。一瞬過ぎて何が起きたのか解らないほどだったよ。さすがは、希望ヶ峰学園が密かに造り出した、ありとあらゆる才能を持つ〝超高校級の希望〟といったところかな?〝カムクライズル〟君。どうだい、私の仲間にならないか?」
「…………」
カムクライズルと呼ばれた青年は影胤を見つめる。
影胤はカムクラの返答を待った。
そしてカムクラは口を開いた。
「……ツマラナイ……何故、僕が貴方の仲間にならなければいけないのですか?」
「カムクラ君はこの世界が退屈だと思わないのかい?」
「……僕にとっては全てが退屈です。そして……貴方も僕にとってはツマラナイ存在です」
「それは残念だ。では、君にはここで死んでもらおう」
影胤は懐から拳銃を取り出した。
それを察知してかカムクラも同時に懐から拳銃を取り出す。
そして、銃声が響き渡った――。
◆◆◆
「ああ、問題ない――対象は無事確保した。これより回収ポイントに――」
男が誰かと話す声が車のエンジン音のなか青年の耳に聞こえてくる。
相手の声は青年の耳には聞こえてこないため恐らく無線機か携帯電話で話しているであろう事は容易に想像できた。
一方、それを聞いている青年はどうだろうか。
青年は両手をロープで縛られ口には布が巻き付けられ喋れないようにされて車の後部座席に倒れている。
「おい、そいつ、妙なことしてないだろうな?」
「はい――様、大丈夫です」
しばらくすると先程の男が後部座席に向けて喋ってきた。
その男の声に反応するように幼い少女の声が発しられている。
その少女の声は倒れている青年の横から聞こえてきていた。
青年は目線をそちらに向けた。
そこには狭そうに座席に座る小学生位の年齢に見える〝赤い目〟の少女が見える。
その少女の手には現代の日本では〝普通に見かける〟ようになった銃が握られていた。
「へっ、何が〝超高校級〟だよ。ただのガキじゃねぇか。こんなのをどうして上の連中は欲しいんだろうねぇ。まぁどうでも良いか」
男がめんどくさそうに青年に向けて言い放った。
青年は車の窓ガラスに目を向ける。
窓の外には夜なのに明かりのついていないビルが幾つも見える。
雨が降っているらしく車内には水の打ちつける音が響いていた。
道の状態も非常に悪いらしく先程からガタガタと上下左右に車が揺れている。
(外周区かな……回収ポイントとか言ってたし〝また〟ヘリとかに乗せられるのかな……)
青年は落ち着いたようすで思考する。
今日、青年は街中で誘拐された。
どういう経緯でこうなったかは連れ去られる前に薬で眠らされた為、覚えていなかった。
目覚めた時には既にこの状況だったのだ。
青年にとってこの様な〝不幸〟は良くあることだった。
二年前に〝あの学園〟が〝閉校〟してからというもの青年の持つ〝才能〟を狙ってヤクザや他のエリアの工作員が 何回も青年を拉致しようとしていたからだ。
そして今、青年がいると思われる場所は外周区と呼ばれており東京エリアの一番外縁部に位置する場所でガストレアの支配する地域に一番近い場所だった。
(はぁ……ボクみたいなゴミクズを連れていったって何の役もたたないのになぁ……ツイてない)
青年はとりあえず、やることもないので二人組を観察することにした。
男の方は運転席に居るため見えないが少女の方を見て考察する。
暗くて良く見えないが少女の眼は赤く光っているようだった。
(小学生位の女の子……赤い瞳……銃……二人組……なるほど、今回はボクを捕まえるために民警を使ってきたという訳か……)
少女は青年の視線に気がついたのか青年の方を見つめ返した。
「…………」
でも、それだけだ。
何を言うわけでもない。
少女と青年はしばらく互いを見つめていたが少女の方から先に興味をなくしたように目線をそらした。
「いひひひ……」
運転席の男が下品な笑い声を上げる。
「これで、報酬が入ればオーストラリアかアメリカ辺りで一生、遊んで暮らせるぜ。そうすればテメェをIISOに返品して、俺は晴れて気持ち悪りぃ赤目ともおさらばだ!ひひひひ」
「…………」
運転席の男の発言に対し少女は顔色ひとつ変えなかった。
その少女の様子はまるで慣れているかのようだと青年は思った。
(まあ、そりゃそうだよね……)
青年は車外の窓の方へと目を向ける。
相変わらず車は外周区を走っているようで廃墟のビル群が暗がりに見えた。
ただ、先程よりも緑が多くなってきた気がする。
その時だった。
(ん?……あれは…………)
窓の外で一瞬、何かが光った気がした。
青年は窓の外に目を凝らす。
すると、そんな青年の異変に気がついたのか少女も窓の外を見た。
「――――っ!?」
少女は窓の外を見てしばらく見つめると声にもならない驚きの声を上げ、すぐに運転席の方に身を乗りだした。
それに対し運転席の男は怪訝な声を上げる。
「あぁ?何だよ急に」
「様、車のスピードを上げてください!!」
「はぁ?何言ってんだテメェ?何で俺様がテメェの指図なんか受けなきゃ――――」
男が青年にとって耳障りな悪態をつことしたその瞬間。
ズドンッ!!と大きな物音がして青年の視界は反転した。
天井が逆さまになり床が天井になりまるでシャッフルされてるかのごとく車が揺れる。
「ひぃ!?な、何が起きてんだ――――!?」
男の困惑と悲鳴の混ざった声が大きく回転する車内に僅かに聞こえた――――。
「イタタタ…………」
青年は雨が降り続ける中、頭を押さえながら立ち上がった。
全身に痛みが走る。
立ち上がった青年はまず最初に自分の手足を見た。
(手と足の縄は……切れたみたいだね……)
青年は腕を組む。
そして辺りを見回した。
青年が居るそこは車の中ではなかった。
ボロボロになったコンクリートのビル群、ボロボロの道路……青年が居たのは外だった。
前を見ると先程まで乗せられていたと思われる車があった。
青年は車に近づく。
結論から言うと車はグシャグシャになって横転していた。
青年は顎に手を添えた。
「一体何が起きたのかな……?」
流石の青年も何が起きているのか理解ができなかった。
青年は車を注意深く観察する。
後部座席の窓ガラスが大きく割れていた。
それを見て青年は自分が何故、外に居るのか理解した。
(なるほど。車が横転した時に幸運的にも車外へ投げ出されたのか。ツイてたね)
次に青年は運転席を見るとあの男が血を流して完全に絶命していた。
エンジンの方を良く見ると大きな穴が開いている。
(銃痕……かな?と言うことは……)
青年は後ろを振り向きビル群を見つめる。
(……いや、ボクを殺すつもりならとっくに殺しているか……て、あれ?そう言えばあの女の子は何処に……)
青年は後部座席を覗きこんだ。
(やっぱり居ない……ボクみたいに外に投げ出されたのかな……?)
青年が辺りをもう一度、確認するがやはり、今見える範囲には居ないようだ。
(脱出した……?いや、いくら〝呪われた子供達〟でもあの状況でそんな事ができるのかな?もしボクと同じ様な〝才能〟の持ち主ならできるかもしれないけど……)
青年がそんな事を考えていたその刹那だった。
「――――。――――……」
声のようなものが聞こえた気がした。
(…………向こう側か)
青年は声のようなものが聞こえた車の裏側の方へと歩いた。
「――――。――――……」
青年の予想通り少女は車の裏側で倒れていた居た。
「…………」
青年はその光景を悲しそうに無言で見つめる。
「――――。――――……」
少女は声にもならない声を口から漏らす。
頭からはどす黒い血を垂れ流し口からは血の泡を吹いている状況だった。
少女の下半身を見るとその部分の出血が特に酷いようでその傷の原因は誰が見ても分かる程で少女のまだ幼い下半身は明らかに横転した車に完全に潰されていた。
だが、流石は〝ガストレアウイルスを身に宿した呪われた子供達〟
意識ははっきりしているようで少女の赤い瞳はしっかりと冷たい雨が降り続ける空を見つめていた。
青年は少女の側で膝まつくと少女の瞳を見つめた。
少女が朦朧とする意識の中、青年に気がつき目線を向ける。
「やぁ。君、大丈夫?なわけない、か…………ごめんね」
青年が申し訳なさそうに口を開く。
すると、少女も反応した。
「――――あ、な、ゴボッ……」
何か喋ろうとしたのか少女は口から血を吹き出す。
「無理はしない方が良い……とは思うけど……たぶん君も薄々分かってるよね……いくら君が〝呪われた子供達〟だとしてもこの傷はさすがにね……だから、喋るなとは言わないよ。何か言いたいことがあるなら不甲斐ないけどボクが聞くよ。君のパートナーは死んでしまったからね……」
青年の言葉を聞いて少女は口をパクパクと動かす。
それを見て青年は少女の口元に耳を近づけた。
少女は最期の力を振り絞って口を開く。
「――――な――なぜ――――あ、あなた――が――――謝る――の、ですか――?悪い――のは――――私、達――なのに――――」
少女がか細い声で青年に聞く。
それに対して青年は少女の頭を撫でた。
「ボクには君が嫌々やらされていた様に見えたけどね……でも、君達がボクを拐ったのは事実だからね。でもね、ボクが謝りたいのはそういう事ではないんだよ。ボクが謝りたいのは君のような才能溢れる娘をボクの〝幸運〟に巻き込んでしまったことを言ってるんだよ」
「――い、意味が――――わか、りません――――」
「……簡潔に言うとね。ボクは〝幸運〟なんだよ。そして、ボクの〝幸運〟は他人を巻き込むんだ。〝不幸〟にね……そして、君はボクと一緒にいたせいで不幸に巻き込まれたんだよ……だから、謝ってるんだ。君のような素晴らしい才能を持つ娘を巻き込んじゃってさ……本当に最低だよ」
「――――へ、変な――人――」
少女は表情を緩め青年に初めて笑みを浮かべた。
「ようやく笑ったね」
青年も笑顔で返す。
「――あ、あなたは――――良い――人、ですね――私の――パートナーとは――大違い――――です」
「君のような娘にそんな事を言われるなんて嬉しい限りだよ」
少女は笑みを浮かべているが段々先程よりも苦しそうにし始めた。
「――――あ、あの――最――期に――一つ、良いです――か?」
少女が冷汗をかきながら青年の訴える。
青年はそれに対して真剣な表情をした。
「……言ってみて」
少女はボソッと今にも消えそうな声で青年に呟いた。
青年は目を瞑り、少女の声を聴き漏らさまいと耳を澄ます。
「――――………………」
少女は静かになった。
青年は少女の赤い瞳を覗きこむ。
しかし、少女の瞳には既に光はなかった。
痙攣していた体も動いていない。
青年は少女の動脈に手を当て少女の死を確認すると少女の開いたままの瞳を手で覆い静かに瞼を閉じる。
「……じゃあね」
そう言い残すと青年は静かに立ち上がりその場から離れていった……。
青年は車から離れた。
車から離れた青年は腕を組み廃墟のビル群を見上げる。
「……そろそろ出てきたらどうかな。流石のボクも悪趣味だと思うよ?」
青年は〝誰か〟に向かってそう言った。
もちろん、青年の目には人の姿など見えていない。
だが、青年には確信があった。
そしてその確信は事実へと姿を変える。
「――失礼しました。お邪魔かと思いましたので」
青年は後ろから声をかけられた。
多数の足音と共に……。
青年は後ろを振り向く。
「……車を狙撃したのは君達だね?」
「すいません。このままでは完全に誘拐されてしまうところでしたので」
振り向いた先に居たのは数名の全身黒ずくめの装甲服を身を包んだ者達だった。
青年と一番近い所にいる者は手にノートパソコンを持っているだけだがその後ろの取り巻きはサブマシンガンを装備した者と暴徒鎮圧用シールドを装備した者に別れていた。
青年は声を発したノートパソコンを持った装甲服の人物を見つめる。
顔は警察の機動隊が装備しているような暴徒鎮圧用ヘルメットで見えなかった。
しかし、防弾ジョッキの突起や声から喋っているのは女ということだけは理解できた。
「ボクを助けた……てことで良いのかな?正直言ってあの状況じゃボクも死んでておかしくはないと思ったんだけど」
「申し訳ありません。確かに私共も当初はこの救出作戦に疑問を感じていましたがこれは〝博士〟の指示ですのですので……」
博士という単語を聞いて青年は目を細めた。
「詳しくは〝博士〟にお聞きください」
そう言うと女はノートパソコンを開き画面を青年に見せつけた。
そして、青年はノートパソコンの画面に映し出された人物を見て目を見開いた。
<今の話は全て聞かせてもらっていたよ。君は変わらないね>
そのノートパソコンから発しられた声は男のものだった。
青年はニコッと笑う。
「なるほど……幸運のボクならこれぐらいでは死なないという前提の作戦だったという事なんですか〝先生〟」
<流石だね。理解が早くて助かるよ。君とこうして話すのは最後の学期末試験の時以来かな?>
ノートパソコンの男は親しげに青年に話かける。
「そうですねぇ……あのあと学園が閉校してしまいましたからそうなるでしょうね。それで〝学園〟の先生が今更何の用なんですか?」
<まぁ良い、簡単に説明しよう。端的にいうと今回の誘拐事件は君を試す為に学園が行った言わば〝試験〟だ。そして、君は試験に合格した>
「……つまり、この誘拐は先生が仕組んだと?」
<いいや、誘拐は利用させてもらっただけだ。誘拐の計画事態は大阪エリアが行ったもので我々とは関係がない>
「……今はそういう事にしておきます。試験に合格したボクをどうするつもりなんです?」
<書類を渡すんだ>
「どうぞ」
機動隊の一人が黒いファイルを手渡す。
青年は受け取ったファイルを開いた。
そこには数枚の書類が入っていた。
青年はパラパラと書類をめくり目を通す。
「……これは、どういうことなのかな?」
青年は目を細くしてノートパソコンに言う。
<そこに書いてある通りだよ。君にはこれから〝民警〟になってもらおうと思ってね>
青年が敬語をやめた事には触れず〝先生〟は声を楽しそうに弾ませて言った。
「なぜボクが〝民警〟を?」
<君もいつまでも無職のままじゃ困るだろう?学生の〝就職先〟を心配するのも〝学園〟の仕事だとは思わないかね?>
「悪いけど思わないよ。ボクは何らかんら言って生活できてるからね。それでもボクに〝こんな〟話を持ってくるという事はそれなりの理由があるはずだと思うんだけど違うかな?さっき先生は〝試験〟だと言ったけど、これって今回の件に関係しているんじゃないかな?」
<――さすがだ。さすがだよ君は。さすがは私が見込んだだけの事はある>
「それじゃあ、今度こそ理由を教えてくれるよね先生」
<もちろんだとも>
そう言うと先生は真意を口にし始めた。
<実は君には民警となってある人物と行動を共にしてもらいたいんだ>
「ある人物?」
<聞けば君なら絶対に顔色を変えて喜んで引き受けてくれる筈だよ>
ノートパソコンからでる声はまるでサプライズを楽しむ様な無邪気なトーンへと変わる。
<誰よりも〝希望〟を愛する君ならね……>
「希望……」
先生の〝希望〟と言う単語が聞こえた瞬間、青年は眉間をピクッと動かした。
<君も思わないかい?今のこの世界には〝希望〟が……君の言葉を借りると〝絶対的〟な希望が必要なんだとね……>
そして先生は青年に言う。
<そう思うだろ?狛枝凪斗君――>
不甲斐ない文章ですが読んでいただき嬉しく思います(`・ω・´)キリッ
ですが、勢いで書いたものですので
次回はいつ投稿できるかはまだ不明ですヾ(。>﹏<。)ノ
ご意見、ご感想、等々は出来る限りお返事しようと思っています(^・ω・^)