クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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匣兵器

「寒くないかい? やはり僕の腕の中で……」

 

 兄の言葉を無視し、火に当たる。川平不動産で真6弔花を退けた後にもう1度眠ったので、身体の調子は戻った気がするのだ。それに私がすぐに襲撃されると伝えたため、非常食を持ってこれたのも大きい。温かい物を食べれば、心も身体も休まるからな。

 

「……お兄ちゃん」

「やっぱり寒いのだね! さぁいつでも来るがいい!」

「どう、思う?」

 

 両手を広げる兄を無視し、私は真剣に相談する。頭の良い兄の方が状況をちゃんと理解している気がするのだ。それに私1人で考えてしまうと、自身に都合のいいように考えたくなる。

 

「……そうだね。僕はサクラの力を試した気がするよ」

「ん、わかった」

 

 やはり私はチョイスでやりすぎたらしい。だが、これが最後でもあるし、兄が私の知ってる兄に戻ったので別に後悔はなかった。

 

 まぁ川平不動産でアドバイスしすぎたのは失敗だったかもしれないな。といっても、トリカブトが来るタイミングと桔梗達からの攻撃があると教えたぐらいなのだが。後はほとんど兄がやった。バラをつかってシールドを作り、私を含めた一般人を守ったのは兄だからな。

 

 兄の話によると、バラは地上から離れれば離れるほど強度が弱くなるらしい。そのため地上で守るにはちょうど良かったのだ。1番の心配は桔梗の地中からの攻撃だが、バラのせいでユニがどこにいるかわからなかったため使う可能性は低かった。さらに地面にはバラの根があるため、突き破ってきたとしても前兆があるという。もっとも兄いわく、そんな簡単に突破出来ないらしいが。それでも念を押してシールドの中に兄も居たので、私達は全く問題なかった。

 

 シールドの外はというと、知識通りクロームの匣兵器が活躍したようだ。襲撃のタイミングもわかっていたので、退けるのは楽だったらしい。だから追う案も出たみたいだが、行動を読んでることに驚きもしなかったのでリボーンの判断で深追いするのはやめたのだ。

 

 この真6弔花の反応を兄はユニの予知ではなく、私の力を試したと感じた。正直、私とユニの力は似ているはずだ。ユニとずっと関わっている白蘭じゃなければ、違いに気付かないと思う。本当に厄介な能力だ。

 

 それに大きな問題が起きる。白蘭に気付かれたなら、この後の未来が少し変わるかもしれない。

 

 違う、もう変わっている。ユニと真6弔花は接触がなかったのに、ユニはこの森で最後の夜を迎えるとわかっていた。特殊な炎粉はユニではなく他の誰かにつけられているということだ。

 

 ……兄に相談しよう。

 

 私が全て話しても1番影響を受けないのは兄だ。兄なら私の頭では思いつかない案が出るはずだ。それに私と違って――強い。

 

「あの、さ」

 

 違う。そうじゃない。私の言葉を待ってる兄を見て思った。相談するよりも先に、説明しなければならない。そしてずっと黙っていたことを謝らなければならない。

 

「サクラ、ダメだよ。それは言ってはいけないよ」

 

 気合を入れて顔をあげた私だったが、兄に止められた。

 

「サクラの気持ちもわかるよ。僕もサクラに謝りたいことがいっぱいあるからね。だけど、謝る相手が違うのだよ」

 

 よくわからなくて首をひねる。私のせいで散々巻き込んでしまった兄に謝らなくて、誰に謝れというのか。

 

「過去の僕にだよ」

 

 そっと私の頭を撫でて話す兄は大人だった。

 

「未来のサクラの責任を過去のサクラが背負う必要はないのだよ。それにね、未来のサクラに責任があるとすれば、それは僕の責任でもあるんだ」

「それは、違う」

「違わないよ。僕はずっと気付いていたんだ。サクラが何かを隠してるってね。でも……聞こうとしなかったんだ。ディーノのところに隠れてる理由も聞かずに、僕はずっと探すフリをしていただけだった」

 

 驚き、目を見開いた。兄はずっと知っていたのか。隠し事をしていることはバレているとわかっていたが、まさかディーノに保護されていたことも知ってるとは思わなかった。

 

「僕は何を怖がっていたんだろうね。サクラはこんなにも良い子で、未来の僕のために無茶までしてくれたのに……。だから僕は過去のサクラに謝るのは間違ってると思うんだ。――ありがとう、サクラ。僕を元に戻してくれて」

 

 目頭が熱くなった。

 

 今なら聞ける気がする。兄を元に戻すと決めた時から、ずっと怖くて、目を逸らして、それでも頭の隅で残ってしまってずっと怯えていた。でも今なら大丈夫だと思う。兄は笑って「何を当たり前のことを言ってるんだい?」と返事をしてくれる。もしくは怒るかもしれない。でも否定はしないだろう。

 

「わ、私も怖がってたことがあるんだ」

「家族を巻き込むことかな?」

「それもあるけど、違うんだ。お兄ちゃんに答えてほしいことがあって――」

 

 ザッという砂の音が聞こえ、振り向く。そこにはツナとナッツがいた。ナッツがいるということはブレインコーティングをするために声をかけてに来たのだろう。何もこのタイミングじゃなくても。

 

「沢田君、すまない。少し後にしてくれないかい? 僕達は大事な話をしているんだ」

「す、すみません!!」

「……大丈夫。そっちを済ませよう」

「サクラ、本当にいいのかい?」

 

 兄の言葉に頷く。もう言葉にする勇気がなくなったのだ。今までなら話せたし、一切疑うこともなかったのに、もう簡単に出来ない。兄が示せば示すほど、不安になるなんて思わなかった。

 

「……わかったよ。沢田君、話してみたまえ」

 

 ツナの話を聞いて、兄が立ち上がった。それを見て、思わず手を伸ばす。兄は私を起こすために手を握ったので、起こしてもらった後も離さずにそのまま歩けば兄が嬉しそうに言った。

 

「今日のサクラは、甘えん坊だね」

 

 否定はしない。兄に触れていなければ不安になるのは本当のことだ。

 

 

 

 

 

 

 ユニの予知、私の知識、兄による治療。これによって原作より遥かに安全だ。それなのにどうしてこんなにも不安な気持ちになるのだろう。

 

 夜が明けて戦闘が始まり、爆破音が聞こえるからなのか。または何かが起こるからなのか。ただ兄に触れていないからなのか。原因はわからない。ただ、ただただ怖くてたまらない。

 

「は、はい! ……ヒバリさんとディーノさんがもうすぐ来るって!」

 

 ツナの声にピクリと反応する。ディーノが知識と違い、雲雀恭弥とずっと一緒にいることは知っていたが、このタイミングでディーノも合流するとは思わなかった。大丈夫なのだろうか。ディーノが強いとわかってはいるが、今から混戦状態になるのだ。何が起こるかはわからない。

 

 ポンっと頭に手が乗る。兄の手だった。

 

「僕も行ってくるよ」

 

 慌てて服を掴む。それだけはダメだ。昨日は私の側から離れる気はないから守りの地点には行かないと言っていたじゃないか。

 

「僕の予想だとね、ディーノが死ぬのはまずいと思うのだよ」

 

 誰にも聞かれないように耳打ちした兄の言葉に首をひねる。

 

 昨日の夜に兄には全て話していた。GHOSTの能力、ユニの力、ボンゴレリングの秘密。だから兄は知っているはずなのだ。死んでも生き返ることを。それなのになぜ行くのだろうか。

 

「このタイミングという意味だよ。サクラのおかげで対策はばっちりだしね!」

 

 もしGHOSTに兄の死ぬ気の炎を吸われれば、ツナでも勝てなくなるかもしれない。しかし兄は死んでも指輪――フミ子の形態変化は解かないだろう。だからその対策として私が作った手袋を兄は持って行くつもりのようだ。炎が吸い取られなかったのはチョイスの移動時に証明されているからな。

 

「……それにサクラは僕のために諦めてしまった気がするのだよ。ここで僕が彼を守れば、サクラはまた気兼ねなく接することが出来るだろ? おっと、僕のことは気にしなくていい。僕も恩を返したいと思っていたからね」

 

 兄はいつ気付いたのだろう。好きという気持ちは隠さなかったため、諦めてるとは思わないと考えていたのだが。

 

「僕がわからないと思ったのかい? あんなにも会話を避けていたのに」

 

 兄は私が気付かれたことに驚いたのが不服だったらしい。少し不満そうな顔をしていた。

 

「もちろんサクラを置いていくのは不安だよ。でも、これが僕達を繋いでくれる」

 

 指輪を見つめ、その後に兄の顔を見て私は頷き服を離した。この繋がりがあるから大丈夫だと思えたのだ。

 

「気を、つけて」

「ありがとう、サクラ」

 

 ぎこちなかったかもしれないが、笑って見送れたと思う。戦闘に役立たない私に出来るのはそれだけなのだから――。

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 戦場に着いた桂は真っ先にディーノを探した。

 

「ここに居たんだね」

 

 幻覚で真6弔花を足止め中に無事にディーノを見つけてホッと息を吐く。説得するためにサクラにいろいろ話したが、桂はこのタイミングでディーノに死なれるのが1番まずいと思っていたのだ。

 

「桂!? どうしてここに……あいつはいいのか?」

「心配しなくてもサクラは誰よりも安全だよ」

「だけど――」

 

 さらに言葉を続けようとしたディーノだったが、桂の指に嵌めてあるリングに目がいく。

 

「ん? これかい?」

「……ああ。フミ子じゃねーよな?」

「もちろんだよ。フミ子は君が持ってるじゃないか」

 

 だよな。とディーノは頷く。先程まで雲雀を鍛えることが出来たのはフミ子を持っていたからだ。そして夜明けに間に合うように雲雀を説得させ、フミ子をつかって治療させて眠らせたのだから。

 

 では、それはなんだという風に再び目を向ける。

 

「おや? 知らなかったのかい? ミルフィオーレの幹部にはメイン匣とサブ匣が配られるのだよ」

「それは知っていたが……」

「もっとも僕の場合は同じものを用意しろと言ったけどね。もちろん治療タイプの匣兵器だよ。僕があそこに居たのはサクラを治すためだ」

 

 桂の譲れないところだったのだろう。ディーノは桂の気持ちがわかった気がした。そして同じものを用意させたのは改造すると決めていたからだとすぐに予想が出来た。

 

「お前はそこまでたどり着いてたってことか……」

「それは少し違うかもしれないね。僕がたどり着いた時はもう遅かったよ。でもまぁサクラに会わなければ、閃かなかったと思うけどね」

 

 桂の言葉から、過去のサクラが来てからたどり着いたということがわかる。そして過去のサクラと別れてからすぐに行動を起こさなかった理由は研究をしていたからということも。

 

「能力は同じなのか?」

「まさか。僕がサクラの命を危険に晒すものを渡すと思うかい?」

「っ!」

「そうだよ。これは一方的だ」

 

 つまりフミ子と違い、桂の命が危険になってもサクラに影響はない。

 

「あいつはそのことを……」

 

 ニッコリと笑う桂にディーノは言葉を失った。桂らしいといえば、桂らしい。だが、それはサクラを騙してるのと一緒だ。

 

「サクラのことは心配しなくていいのだよ。これはフミ子より強力だからね。心置きなく戦いたまえ」

 

 戦えるわけねーだろというディーノのツッコミは、幻覚が終了したこととは関係なく桂に届くことはなかった。


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