クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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バカな子

 横抱きは彼らにとって基本なのだろうか。視界の端に見えるものは気のせいだと結論し、兄におろしてもらう。

 

「本当に大丈夫なのかい? サクラは血を流しすぎていると思うよ」

 

 やはり気にしてるのだろう。兄は心配そうな顔をしていた。

 

「危ないと思ったらちゃんと声をかける」

「……もし僕に任せてもらえるなら快適な移動を約束するよ」

「お兄ちゃん以外、誰に頼むんだ」

 

 何を言ってるんだという風に兄を見ると、目をパチパチさせていた。

 

「サクラはディーノにしてもらったほうが嬉しいはずだからね」

 

 盛大にむせた。

 

 兄が慌てて背を撫でてくれるが、睨みつける。小声で誰も聞かれなかったから良かったものの、ばれていたらどうするつもりだったのか。……まぁ兄がそんなミスをするとは思えないが。

 

「間違っているかい?」

「……間違ってはないけど……」

 

 ボソっと呟けば、兄が満足そうな顔をした。やりにくい。

 

 目をそらせば、雲雀恭弥が学校に向かっているところだった。誰も落ちていないのだが、心配だから行くらしい。身体はボロボロなのによくやる男だ。

 

 恐らく彼は兄が治療すると言っても拒否するだろう。なので、迷ってそうなディーノで行って来いと目で伝える。私も一緒に行ってもいいのだが、彼は嫌だろう。特に兄に負けた後なのだ。私が行けば、兄もついていく気がする。まぁ学校に現れる可能性もゼロではないしな。

 

 私の考えが読めたのか、ディーノは頭をかきながらこっちに来た。

 

「すまん! 桂、こいつを頼む!」

 

 律儀な男である。早く行きたいのに、わざわざ声をかけるとは。

 

「君が頭を下げる必要なんてないさ。僕がサクラを守るのは当然のことだからね」

 

 気のせいだろうか。兄にしては口調がきついと思う。いつもの兄なら「当然だよ! 僕がいれば百人力さ!」と返事しそうなのだが。

 

「お兄ちゃ――お、おい!」

 

 兄に声をかけようとしたが、リボーンに引っ張られる。赤ん坊の癖に力が強すぎるぞ。本当に彼らの身体はどうなってるんだか。

 

「ほっとけ。あいつらだけの方が話が進む」

 

 リボーンがいうのだから、そうなのだろう。気にはなったが、私は引っ張られるままボンゴレアジトに入ったのだった。

 

 

 

 ボンゴレアジトに入ってすぐに着替えた。本当は風呂に入りたいが。

 

「あれ? もう着替えたの?」

 

 どうやら彼らはまだ食堂に居たようだ。

 

「ん。君達も急いだほうがいいぞ。もうすぐ襲撃されるからな」

「えーーー!?」

 

 何を驚いているのだろうか。白蘭の能力はかなり前から知ってるはずだろ。ツナの叫びを聞いていると兄の姿が見えた。もうディーノとの話は終わったらしい。リボーンの言う通りである。

 

「おや? ここに居たのかい?」

「服。ディーノのだけど、別にいいだろ」

「急いだほうがいいんだね。わかったよ」

 

 理解力が高くて助かる。器用にバラで簡易更衣室を作り、いそいそと着替え始めた。流石、兄である。ただ、そのバラの後始末はどうするのだろうか。……今はいいか。

 

「着替えてる時間がもったいないんじゃ……!」

「その服で逃げる気か? 目立つぞ」

 

 γ達のような大人ならまだしも私達は中学生なのだ。街中だと浮いてる気がする。同じことを思ったのか、私の言葉に彼らはすぐに動き出した。忙しそうである。まぁそういう私達も移動するはめになるのだが。食堂がどうなってるかは書いてなかったからな。着替えている場所の近くの方が安全だ。

 

「似合ってるかい?」

「ん、念のため移動するぞ」

 

 誰も文句言うことなく着いてくる。本当に理解力が高くて助かる。

 

「サクラさん、あの――」

「悪いが先に質問させてもらうぞ。最後の戦いは森なのか?」

「――はい」

 

 つまり流れは変わってないと見ていいのだろう。γ達の存在を確認されているが、なんとかなるのか。いや、なんとかするのか。

 

「やはりあなたは私と一緒で未来がみれるのですね」

 

 ブツブツ呟き始めた私にユニが声をかけてきた。ユニはどこまで知っているのだろうか。疑問が顔に出ていたのか、ユニが教えてくれた。

 

「正確にはわかっていません。でも予知をしてサクラさんが現れると、未来が広がるのです」

「……君に負担をかけてたみたいだな」

 

 こっちも必死だったので謝る気はないが、悪いとは思った。

 

「いいえ。ありがとうございます。あなたのおかげで直接返すことが出来ました」

 

 いったい何のことだろうかと思っていると、ユニはγに匣兵器を渡した。まさかまだ持っていたとは……見つからないはずだ。

 

「すみません、γ。あなたが探していたことを知っていましたが、どうしても私から返したかったのです」

「問題ありません、姫」

 

 また2人だけの世界が出来上がった気がする。もうそろそろお腹一杯になるぞ。そして兄よ、また羨ましくなって何かしようと考えているな。

 

「……しょうがないね。今回は諦めるよ。サクラ、これをつけるんだ」

 

 睨みが効いたのか、諦めたらしい。そして素直に受け取ろうとしたが、兄が持っているものを見ると指輪だった。思わず2度見をし、手が止まった。これはフミ子の匣兵器だ……。

 

「僕が安心して戦えないのだよ。それとも僕とお揃いが嫌かい?」

 

 おどけながら兄は話していたが、真剣な気がする。だから渋々受け取って、つけることにした。

 

「ありがとう、サクラ」

 

 褒められるように頭を撫でられたが、足手まといの私が悪いと思う。謝ろうとしたが、襲撃が来てそれは叶わなかった。

 

 その代わり別の言葉を伝える。

 

「抱っこ」

「――くっ! サクラが可愛すぎる!!」

 

 床をダンダンと叩き出した兄を蹴ってもいいだろうか。もう少し空気を読め。兄ならスクアーロが攻撃を防いでることに気付いてると思うのだが。

 

「大船に乗ったつもりでいたまえ!」

 

 何でもいいからさっさと移動しろよと思いながら頷く。兄はあっさりと私を横抱きしに、走り始めたのだった。

 

 そして、楽をしていている私はというと……眠気と戦っていた。やはり血を流しすぎたらしい。

 

「……ツナ」

「どうしたの?」

「スクアーロに無線。型を使うな、他の世界で攻略されている」

「わ、わかった!!」

 

 伝えないほうがスクアーロは安全だろう。だが、彼は教えなかったことに気付けば、怒るだろう。そういう男なのだ。命より強さに誇りを持ってる。

 

「お兄ちゃん、10分後に起こして」

「……わかったよ」

 

 溜息をつきながら返事したのは、本当はもっと眠ってほしいのだろう。

 

「死ぬなよ……」

 

 眠る前にもう1度振り返り、私は呟いた。死んだとしても問題ないと知っていても願わずにはいられなかったのだ。

 

 

 

 

 

 腕が痛い。兄にしては手荒な起こし方な気がする。そう思いながら目を開けると、兄は誰かを睨んでいた。10分ぐらいは大丈夫と思ったのは間違いだったのだろうかと考えたが、兄もリボーンと一緒で川平のおじさんを警戒しているようだ。……先に文句を言うか。

 

「痛い」

「!? すまない! サクラ!」

 

 抱きかかえてる私を揺らさずに頭を下げるとは器用だな。

 

「とりあえず警戒を解け」

「大丈夫なのかい? サクラを疑ってるわけじゃないのだよ。ただ、あまりにもタイミングが良すぎてね」

「この場所に決めたのは君達だろ」

 

 呆れて言えば兄は警戒を解いたが、リボーンはまだ銃を向けたままだった。

 

「サクラ、本当に問題ねぇんだな?」

「敵対しなければ大丈夫」

「……わかったぞ」

 

 しぶしぶという風に手を下ろしたリボーンを見て溜息を吐く。何度も思うが、私を信用しすぎだ。敵対するようなことをもうしているとは考えないのだろうか。もっとも教えるつもりはないが。

 

「じゃぁあたしはこれで失礼するよ」

 

 その言葉に顔を向けると、目があった。合格という意味なのだろうか。

 

 兄はこの世界を壊す可能性がある。まぁこれはトゥリニセッテを使って壊さないので見逃してもらえたのだろう。問題は私の存在だ。彼は恐らく気付いてる。私が正体を知っているのに黙ってることを。

 

 少し悩んだが、考えを放置することにした。不合格と判断すれば、彼はすぐに私を殺せるはずだからな。考えても無駄だ。

 

「ソファー」

 

 そんなことより、これからのことを考えた方が有意義である。去っていく彼のことを気にせず、私はおろしてと兄にお願いしたのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 一方、そのころ学校では雲雀がディーノにケンカをうっていた。

 

「目障りだ」

「おい、恭弥。そういうが、その傷だと真6弔花を1人で相手するのは無理だぜ」

「保護者面しないで」

 

 普段のディーノならば笑って聞き逃しただろう。だが、彼は桂に言われた言葉が耳に残っていた。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

『どうして僕に頼んだんだい?』

『そりゃ、お前ならあいつを守れる強さも覚悟もあるからで……』

『その選択はあってると思うよ。でもその前にどうしてサクラを説得しなかったんだい?』

 

 一瞬だが、ディーノは言葉に詰まる。サクラは雲雀の気持ちを考えて、視線を送ったと気付いていた。だから追いかけると決めたのだ。

 

『サクラの力に、もう僕は予想がついてる。だからすぐに従ってしまう気持ちもわからなくはないよ。でも君はサクラを守ると決めたんじゃなかったのかい?』

 

 サクラが嫌だといえば、桂に任せる選択もあったのだ。

 

『君はサクラに甘えすぎている。沢田君の方がわかっていそうだ。彼は頑固そうだからね』

 

 桂は話しながらも仕方のないかもしれないと思っていた。自身が壊れていた間、サクラを支えたのは彼だ。誰よりも一緒に過ごした分、徐々に気付かなくなったのだろう。しかし、言わずにはいられなかった。

 

『雲雀君の傷は僕のせいだ。でもこの状況を作ってるのは僕だけの責任じゃない。――君は彼の師匠なのだろ?』

 

 雲雀が群れることを嫌いなことは知っているなら、サクラを守りながら彼の面倒を見るのは不可能だとわかっているはずだ。選ばなければならない未来を作らないようにもっと彼を鍛えることは出来たのではないか。桂はそう言っているのだ。

 

『サクラはバカな子だよ。力がないのに、みんなを守ろうとしているんだ。だからディーノ……サクラに頼られてる君は判断を間違っちゃいけないんだ。もしもの時に死ぬのはサクラからだ』

 

 今までは上手く行ったかもしれない。しかし、次も成功するという保証はどこにもないのだ。

 

 現にサクラの力がなければ取り返しのないミスをしていた。フミ子の力を解いた状態で、ディーノはサクラの頼みを聞いて一般人の彼女達を保護したのだから。

 

 桂にも油断があったので口には出さなかったが、ディーノはそのことに気付いた。

 

『しばらくの間、サクラのことは任せるがいい』

 

 ディーノは基地の中に入っていく桂を見ることしか出来なかった。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 保護者面。確かにそうかもしれない。だが、怪我をしている雲雀を1人にする選択もできなかった。

 

「……恭弥、強くなってもらうぜ」

「はぁ。今度はなに?」

「前はツナのためって言っただろ? 今回はこの世界のため。お前は風紀のためかもしれねぇが……。まっ、それは今はいい。今度は――オレのために強くなってもらうぜ」

「ふぅん。僕は君を咬み殺せるなら文句はないよ」

 

 やる気満々の2人にロマーリオ達が思わず声をかける。今はそんな場合じゃないと。

 

「心配すんな、ロマーリオ。その時は治してやるよ」

「必要なのは君じゃないの?」

 

 止まらないと気付いたロマーリオと草壁はやれやれと肩をすくめるしかなかった。10年前から来た2人なのに、いつものが始まった、と……。


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