私達がくだらないことをしたため、空気が元に戻った。……良し、としよう。話を進めなければならないのだから。
「彼女が元に戻ったなら、わかるだろ。大空のアルコバレーノにはチョイスを無効に出来る権限がある」
「ええええー!?」
沢田綱吉の大きな声が、いつの間にか悲鳴にかわった。見なくてもわかる。リボーンがやったのだろう。その間に私は視線を送る。打ち合わせをしていなかったが、頷いたのでわかってくれたようだ。
これで彼女達は大丈夫だろう。少しばかり省略したため、白蘭達が手を出すタイミングが早くなるはずだからな。それに基地ユニットを動かしたため、知識と違って超炎リング転送システムの場所から離れているのだ。先に手を打たなければ、彼女達の身が危うくなる。
後は……と、考えようとしたその時に自身の身体が舞った。
痛くはない。が、止めどなく溢れる血に死を悟る。フミ子の形態を解いた私がバカだったようだ。ディーノに一般人の彼女達を保護しろと目で伝えたのも間違いだったらしい。
兄が私を助けるために空を舞った。が、恐らく間に合わない。私は血を流しすぎた。
「…………」
だからせめて白蘭が兄の後ろにを居ることを教えようとしたが、口をパクパク動かすだけで声が出ない。喉もやられてるようだ。
心臓が刺された時も思ったが、痛くはない。致命傷だったため、痛覚がマヒしてるのかもしれない。まぶたが重くなり私はそっと目を閉じた。
「う゛お゛ぉい!!」
「――っ!」
声に驚き目を開ける。そして首をひねった。私は死んだのではなかったのだろうか……?
身体をペタペタさわる。特に何も問題なさそうだ。
周りを見渡すといつの間にかユニを守るために戦うと決めたところまで進んでいた。流れを知ってる私は退屈で眠ってしまったのだろうか。本当に……?
なんとなくだった。ただ、なんとなく私は近くにあったスケボーにのり移動した。
地面が割れる。私が今まで居た場所に恐竜が現れた。
「……はぁ、はぁ」
驚きすぎて周りの音が聞こえない。自分の息遣いだけが耳に入る。
後一歩遅れていれば、桔梗の地中からの攻撃で私は死んでいた。恐怖で頭がおかしくなりそうだ。
「逃げろっ!」
その声をきっかけに兄が動き出し、私はいつの間にか横抱き状態だった。安心し顔をあげた私だったが、兄の表情を見て慌てて首の後ろに手をまわした。
少しでも私の熱を感じ、生きていると感じれるように――。
「……すまない、サクラ。僕が油断したせいで怖い思いをさせてしまったね。もう大丈夫だよ」
話す声がいつもの兄だったので、何度も首を縦に動かす。
周りが慌ただしく動いてる様子から、逃げるために争いが始まってるのかもしれないが、私は兄にしがみつくのを止めなかった。……いや、止めれなかったのだ。
「サクラ、このまましっかり捕まっておくんだよ」
コクリと頷くと、風を感じた。そーっと覗き見ると、視界いっぱいにバラが広がる。
以前にも同じようなことを感じた気がする。しかし今回はバラの花だけじゃなく、ツルもあった。そしてそのツルには白蘭や真6弔花が絡まっていた。
「……凄い」
兄が走ってるようなので、全体がよく見えるようになって気付いた。範囲が広い。……広すぎる。私が思わず不安を忘れ呟いたほどである。
本当にどこまで広がるのだろうか。白蘭達は少しずつ移動しているのでわかりにくいが、置いていってしまったスケボーがあるので一目瞭然だ。
「……お兄ちゃん」
思ったより低い声になった。だが、もし私が考えていた通りなら、怒らずにはいられない。そして私の機嫌の悪さに気付いたのか、兄は肩を跳ねて言い訳し始めた。
「サクラの喜ぶ顔が見たくて……」
どうやら私が危惧していた通りだったようだ。兄は私が凄いと言ったため調子に乗ってバラを大量に咲かせたらしい。
「真面目に逃げろよ!?」
「それについては問題ないさ。僕は大真面目だよ。サクラの命がかかってるからね」
それなら炎を無駄に消費するなと言いたい。
「それにほら、目的地だよ」
私は後ろを向いてる状態なので気付かなかったが、超炎リング転送システムのところまで来たようだ。他のみんんは大丈夫なのだろうかと思ったが、兄の背からは白蘭達しか見えなかったので、私達が最後尾だったようだ。彼女達はディーノの誘導で基地ユニットに乗って移動しただろうしな。
「サクラ」
「なんだ?」
「ここでお別れだ」
ちょっと待て。そう言葉にしようと思った時、兄に優しく抱きしめられた。
「あれの攻略方法を彼が知らないとは思えない。すぐに追いつかれる」
私を降ろしながら話す兄はとても真剣で声をかけることが出来なかった。
「時間があれば、もう少し伝えたい言葉もあったんだけどね」
近づいてくる白蘭を見ながら兄は残念そうに呟き、そして駆け出した。
「……待って、お兄ちゃん!」
また、だ。また伸ばした手が空を切り、兄は私の言葉に見向きもしない。
「お兄さん!」
私の声で気付いたのか、炎を込めようとしたツナ達が叫んだ。
誰か、誰か止めてくれ。誰でもいい。……お兄ちゃんを!
「――骸の、骸のパイナップルバカーーー!!」
思いっきり叫んだ。……訂正しよう。思いっきり叫んでしまった。
「あなたが僕のことをどう思ってるか、よーくわかりました」
兄よ、戻ってきてくれ。白蘭より彼に殺されそうだ。謝ろうかと思ったが、どう考えても怒ってるので不満を口にすることにした。
「カッコつけようとして出てくるのが遅いからだ」
「クフフフ」
武器の向ける方向が変だと思うのは気のせいなのだろうか。パイナップルバカに敵の位置を教えた方がいい気がする。私の安全のために。
「方向がわからなくなったのかい? 敵はあっちだよ!」
いつの間にか兄が戻ってきていた。そして私が考えていた内容まで伝え、さらに骸を白蘭の方向へ身体を押した。流石、兄である。
「……この兄妹はどこまで人をバカにすれば済むのですか」
少し悩み、兄と目を合わせて揃って返事する。
「さぁ?」
怒りを我慢をしながら白蘭の相手をする骸を見ながらドンマイと思った。
「君なら大丈夫さ! さぁ、サクラは安全な場所へ移動しようか」
「ん」
兄にエスコートされながら、私は基地ユニットの中に移動する。
「沢田君、もう大丈夫だよ!」
「え……。あ、はい」
一緒に基地に入り、ひょっこり顔だけ出してツナに伝えた兄はやっぱり大物だと思った。
――――――――――――
超炎リング転送システムが無事に起動したことを見送った骸は逃げる準備を始める。
「君をやった相手を助けるとはどういう心境だい? 骸クン」
「特にどうも思いませんよ」
淡々と告げる骸に白蘭は挑発する。
「骸クンも丸くなったなぁ~」
「クフフ」
しかし、あっさりと骸は聞き流した。
地味にだが、桂との付き合いは長い。ふざけた態度をとってるように見せて、桂は反省していたことぐらいわかるのだ。その証拠に小言を言わなかった。冗談だったがサクラに武器を向けていたのに。
さらに押し付けるように見せながら、桂は死ぬ気の炎を送ってきた。今までサクラを傷つける可能性のある骸には1度もしたことはなかった。それだけ骸にこの場を任せたことが申し訳ないと思っていたのだろう。
ただ、骸でもわからない桂の行動があったが。
「……まぁいいでしょう。僕の目的は果たされました。大空のアルコバレーノがあなたの手に渡らなければ充分ですから」
そう1人で納得し、桂のおかげで回復していた骸は、白蘭に止めを刺される前に消えたのだった。
「うーん」
残された白蘭は不満そうな声をあげる。ユニに逃げられたのも不満だったが、桂を野放しにしてしまったことが1番気に食わなかったのだ。
そんな彼の元に、守護者が集合する。
「申し訳ありません! 白蘭様!」
白蘭の不満を感じ取り、その原因である桔梗が頭を下げる。
「しょうがないよ。僕もあれを避けれるとは思わなかったし」
桂が元に戻った時、白蘭は桔梗にサクラを殺すように命令していた。桂を殺すにはそれが1番早いからだ。ユニを傷つけず、さらに桂に気付かれずにサクラを殺せるのは地中からの攻撃が1番確率が高いはずだった。
「ユニちゃんの仕業かなぁと思ったけど、そんな時間はなかったんだよね~」
偶然という一言で片付けていいのか。
チョイスといい、何の変哲もない一般人レベルのサクラが何度も偶然を起こし助かり続けれるとは思えない。
サクラのことは桂に関係するため多少は調べている。どこの未来でもツナ達から離れ、ディーノと一緒に居た。だからこの世界もすぐにサクラを寝たきりにすることが出来たのだ。
「……跳ね馬?」
なぜサクラは跳ね馬と一緒に居たのだろうか。
初めはただの家出にディーノが協力し、途中から離れれなくなったと考えていたのだ。白蘭が何もしなければ、二人は恋人関係の未来に行くはずなのだから。
しかし、本当にそうなのだろうか。
ディーノの性格はどの世界でもほぼ同じだ。そもそも世界が違うからといって性格が違うということはほぼない。そうでなければ行動パターンが変わってしまい、この世界以外の全てを白蘭が攻略するのは不可能だ。
何かきっかけがあれば、変わっていくだろう。だが、小さな生物が一匹死んでしまったところで世界が止まるわけではない。逆も然り、世界が変わるようなきっかけに関わらなければ、影響を受けるものではない。
その点、ディーノは不思議な存在だった。性格はほぼ同じにも関わらず、行動パターンが大幅に違う。彼に影響を与えるような大きな事柄も特になかったはずなのに、だ。
「やっぱりサクラちゃんは桂の妹ってことなのかな?」
確信はないが、それが1番説得力がある。
ついに、白蘭は気付いてしまった。
余談だが、世界を跳べる白蘭がこんなにも時間がかかってしまったのは、ディーノの情報操作が大きい。さらにどの世界でもサクラはディーノの世話になっていたのだ。違いがなく、そう簡単に気付けるものではなかったのだ。
「まっ、することは変わらないんだけどね♪」
サクラに何か力があるかもしれないが、所詮サクラ自身は無力だ。何度も殺せたのだ。それは間違いない。そして、ユニを得るために邪魔になるだろう存在の桂を消すためには、サクラを消すのが1番手っ取り早い。
「ユニちゃんを捕まえるのに桂が邪魔してくるなら、遠慮なくサクラちゃんを殺ってね」
必ず桂はユニよりサクラを選ぶ。匣兵器のおかげで死なないかもしれないが、桂の動きを止めることは出来るのだから――。
――――――――――――――――
誰もいなくなったはずのチョイス会場で少しマヌケな声が響く。
「うわー、凄いバラだねー」
ふらりと現れた少女は桂が作ったバラを見て声をあげる。しかしすぐに持っていた刀でバラを斬り始めた。
「あった、あった♪ スケボー見っけ♪」
嬉しそうに少女が抱きしめたスケボーはサクラが置いていってしまったものである。
「おーサクラちゃん、ばっちりだね。あの難しい説明でよく作れたなー」
のんきに感想を漏らしながら、少女は誰もいない道で乗り心地を確かめる。少女の目には包帯が覆い、何も見えてないはずなのに、だ。
「あー、はいはい。わかってるよー神様。って、私も一応神様か」
誰かと会話するように呟く少女はかなり怪しいものだった。もちろん少女は気付いていない。
「まぁ適当にどこかで過ごすよ。下手に見ちゃうと手を出しそうだし。……ダメなんだよね?」
数秒後、少女は大きな溜息を吐いた。
「これでも納得して手伝ってるんだよ? だからこれ以上は謝っちゃだめだよ。お父さん」
最後の言葉を呟いた瞬間、少女はニコニコと嬉しそうに笑い、次にスケボーに乗りながら空を舞ったのだった。
「まぁせっかく会えるのに、役割が死神っぽいのはちょっと……とは思うけどね」
少女がツナ達の前に現れる時は、近い――。
一応、補足。
最後のは読者サービス?です。
ネタバレになっちゃった人はごめんなさいw
わからない人はわからなくて大丈夫です。
サクラサイドで必要なことは書きます。
ちょうど設定が良かったから彼女を使っただけです。
作者の反省。
(日常編の時に調子にのって出そうと考え、流れを決めたのを後悔してます。こんなに見る人が増えるとは思わなかったんだ……)