クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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念のため。『流血注意』です。


接触

 基地ユニットを移動させながら、入江正一に説明する。ツナ達が兄のもとへ行っているが、たどり着くのは雲雀恭弥だけになると。ちなみに彼らは別々のルートで向かっている。全滅を避けるためだ。それに敵の数よりこっちの人数が多いのも別れた理由だ。瞬殺されない限り、必ず1人はすぐに標的のところへいけるはずだからな。

 

「綱吉君と山本君は、足止めされるんだね?」

 

 頷く。恐らく雲雀恭弥が出会える――チョイスに参加することになったのは白蘭が手をまわしたからだろう。彼はディーノの弟子だからな。私のせいでディーノが目を付けられたほど変わったなら、弟子である雲雀恭弥が1番影響を受けるはずだ。そして私は兄のことが1番わからない。素直に彼がボンゴレリングを渡すとは思えないことを考えると、チョイスで彼を無気力化した方が手っ取り早いのだ。まぁ入江正一にはこんな詳しく話す気はないが。

 

「雲雀恭弥を助けるためには私達が動くしかないんだ」

「それなら、僕だけが行けばいいんじゃ……」

 

 標的である私が近づく必要がないと思っているのだろう。しかしそれではダメなのだ。

 

「今の兄はこの炎にしか興味を示さない」

 

 入江正一が行ったとしても、雲雀恭弥を殺し、邪魔しに来た彼を殺すだけだろう。

 

「だから私が兄をひきつける。入江正一は雲雀恭弥を回収してくれ」

 

 基地ユニットに隠していたスケボーを取り出す。対策を立てていることを見れば、入江正一も簡単に反対できなくなったようだ。それにしても入江正一は凄いな。会話の合間を見て音声を切り返し、ツナ達のサポートをしているのだから。

 

「で、でもそれじゃぁ、神崎さんの安全が……!」

「言っただろ。チョイスは負けるのが正解だと。それにこれは私にも利点がある」

「え?」

「兄を元に戻す」

「なんだって!?」

 

 このタイミングで彼らの近くに敵が現れるので、一旦会話は中止になる。知識と違い、彼らは同時に対戦することになるので、流石に会話しながらでは難しいのだ。それでも基地ユニットを動かしながら通り道にレーザートラップを取り付けていくのだが。

 

「ひ、雲雀君!?」

「鬱陶しくてイヤホンを壊しただけだ」

 

 心配しているであろう彼に真実を話す。それにしても相変わらず扱いが酷い。慣れていない入江正一なんて胃をおさえてるじゃないか。Drシャマルの薬で治りかけたのに、かわいそう。

 

 他人事に思いながら、彼らが戦闘に入ったので話を再開する。

 

「兄を戻すためには雲雀恭弥がキーになる」

「雲雀君が?」

「ん。彼なら私に止めを刺してる時に、兄を拘束することができる」

「止めってダメじゃないか!」

「それしか方法がないんだ。私と兄ではスペックに差がありすぎて触れることも出来ない」

 

 兄を戻す条件に接触が必要とわかったので、入江正一は押し黙る。彼もわかっているのだろう。私が話すルートが最善だと。なんだかんだいいながら、私の手伝いをしているからな。

 

「君ならもうわかってるだろ。どこに向かえばいいのか」

 

 外に出る準備をしながら声をかける。レーザートラップの位置で私の進むルートがわかるのだ。この位置から兄に気付かれないように雲雀恭弥を回収し、私に追いつけるルートは1つしかない。

 

「僕のせいで……!」

「白蘭はそうかもしれないけど、兄は違う――」

 

 私の中である仮説が生まれているが、話す必要はないと判断した。――違う、考えたくもないのだ。

 

「――とにかく、君の腕を信用したから実行するんだ。頼んだぞ。兄が元に戻れば、私への治療は間に合うんだからな」

 

 レーザートラップの操作出来るのは彼しかいない。イヤホンで会話できるが、空間把握能力と状況把握能力は必須である。そして同時進行で雲雀恭弥の回収と説得をしなければならないのだから。

 

「……僕に任せて!」

 

 覚悟を決めた入江正一の声を聞きながら外に出る。出る前にチラリと見たモニターでは、ツナはトリカブトを倒したと勘違いしているところだった。ヒントを教えようか一瞬頭をよぎったが、夢と違うことをするのが怖かったので止めた。山本武は問題ない。勝てないと宣言され、さらに話を聞けば複数で挑んでも一歩のところで負け、そのことに腹が立ったスクアーロが鍛え上げたのだ。知識より強くなってるかもしれない。それでも位置の関係で間に合わないのだが。

 

 外の空気を目一杯吸い込み吐いた。スケボーを走らせながら自身の状態を確認する。やはり緊張はしている。するなというのが無理な話だ。この機会を逃せばチャンスはない。

 

 白蘭は兄の戻し方を知っているかはわからないが、私と接触させるのは避けたいと思っているはずだ。夢で見た雲雀恭弥との戦い方でもわかる。兄は武器にしか接触を許していない。あれは私に止めを刺す時を意識して戦い方を教えたのだろう。

 

 そのことを踏まえると私の予想では白蘭は知らない気がする。悪夢を見始めたころに、兄に刺される夢を何度も見たのだ。どうしても白蘭は兄の手によって私に止めを刺したいのだろう。しかしそれをチョイスで実行するにはリスクが高すぎる。

 

 いや、そうじゃないのか。ボンゴレ匣が出来た未来、のっとった人物にヒントをもらえたからリスクが高く感じるのだろう。白蘭は私が生き残った場合の経験をしていないのだから。

 

 考えながら進んでいると、兄と雲雀恭弥の姿が見えた。兄を呼んだつもりだったが、声がかすれた。夢で見たときは大事なシーンでミスるなよと思っていたが、緊張で喉がカラカラだったので回避できなかったことだったらしい。

 

 ゴクリとツバを飲みこみ、もう1度声をかける。

 

「お兄ちゃん!」

 

 兄の顔は見ない。見れば、私は動けなくなる。私を知らない顔で兄に見られるのは何よりも怖いのだ。だから私は声をかけてすぐに逃げ出した。

 

 怖い、怖い。

 

 普段の私はこんな無茶をしようと思わない。

 

 兄を――お兄ちゃんを戻すんだ。

 

 それだけを思い、スケボーから落ちないように走り続ける。道さえ間違えなければ、入江正一が私と兄の位置を見て上手くやってくれるのだ。

 

 無我夢中で走り続けると、急に兄が私の前に現れた。思わず急停止する。転ばなかったのが奇跡な気がする。そして顔をあげれば、視界に基地ユニットが見えた。屋根に乗ってるのは彼なのだろう。私に助けられた借りを返しにきてくれたようだ。

 

「私の、勝ちだ」

 

 多分、私は笑っていただろう。気付けば心臓にナイフが刺さっていたが、何も思わなかった。必死にまだ終わってないと言い聞かせ、崩れ落ちそうになる身体を気合で踏ん張り、手を伸ばす。

 

 触れようとすれば、逃げようとする兄が拘束されていた。

 

 頬に手が触れる。

 

 たった、これだけのことでいい。

 

「サ、クラ……?」

 

 ああ。兄だ。いつもの兄だ。私は『お兄ちゃん』と返事できただろうか。口の中がいっぱいで上手く話せてない気がする。

 

「僕が……、僕が……やった……?」

 

 ダメだ。このままじゃダメだ。伝えなければ、兄が壊れてしまう。それに夢で見た叫びは聞きたくない。

 

 だからもう1度手を伸ばそうとしたが、空を切る。視界が変わっていき、青空が見えはじめた。

 

 その代わりとても温かいものが触れた気がする。ああ、ツナの身体があったかいのか。

 

「……ごほっ」

 

 おかしいな。うまく話せない。夢で見た私はどうだっただろうか。もっとはっきり話せたはずなのに。

 

「お兄さん! サクラを治して! お兄さん!!!!」

「僕が……僕が……」

「標的の炎を厳密にチェック致しますのでおさがりください!」

 

 あまり耳元で叫ばないでほしい。私の言葉が届かないじゃないか。

 

「おさがりください!」

「うるさい!!! お兄さん、サクラを治して!! まだ間に合うから!!」

「僕が……サクラを……!」

 

 うるさすぎる。あまりにもイラっとした。

 

「耳元で叫ぶな! 兄もぶつぶつ言ってないでさっさと治療しろ!」

 

 スパーンといい音が響き、静まり返る。

 

 ……うん。つい、やってしまった。夢と違い、感動的にはならずハリセンで兄を殴ってしまった。

 

『サクラ……?』

 

 珍しく兄とツナの声がかぶった。立ち上がってる私に何かいいたいのだろう。話は後で聞く。とにかく治療してほしい。私は大丈夫だが、このままでは彼が危険だ。

 

「ごほっ」

『サクラ!? 血が……!』

 

 声をかぶらせるんじゃなくて、早く治療してくれ。そう思いながら、ゆっくり倒れはじめる。

 

「サークラー!?」

「お兄さん、早く、早く治療して!!」

「任せたまえ! サクラ、しっかりするんだ! 僕の腕の中で死ぬのはもっと歳をとってからだよ!」

 

 もうツッコミする力がないようだ。ディーノのおかげで簡単には死なないと考えていたが、出血多量で死ぬ可能性もあるんだったと今更ながらに気付いた。

 


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