クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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念のため。
『流血注意』。ほんの少し『残酷な描写』です。


舞う男

 ひらり、ひらりと舞う。それは見とれるほど美しく、尋常でない男の動きに疑問をもたなくなるほどだった。

 

 桂は空を飛ぶ匣兵器を使わずに移動する。細かな動きが出来なくなるからだ。もちろん匣兵器を使えば炎の節約という面では大きい。が、桂には有り余る死ぬ気の炎が体内に流れているため、デメリットが存在しない。

 

 白蘭の指示は、第一に敵の標的の抹殺。その次に邪魔する者がいれば、排除すること。このたった2つである。実は今の桂には簡単な指示しか出せないのだ。相手を壊すことしか興味がなく、連携というものも出来ない。味方ともども消してしまう。一歩間違えれば、白蘭さえも危うくなる存在だった。

 

 その桂を上手く使えている理由は、白蘭が桂の本能を引き出し教えたからだ。答えがわかれば至極簡単なのだが、これに気付くまでは白蘭でも苦労した。

 

 サクラを先に殺してしまうと桂は生きる意味を失う。この後にサクラのことを忘れさせても意味はない。何もかも破壊するという暴走が始まるだけだ。サクラが生きている状況で敵対した場合の桂の強さを知っていなければ、その暴走の巻き添えで死んでいたと白蘭が断言するほど危険だった。

 

 しかしサクラが生きていれば、桂は最後には必ずツナ達の味方につく。最終的にはサクラの気持ちを優先するからだ。過去の入江正一を使い、10年前から計画をたてることは出来たがその時にはもうサクラとツナ達は友達だった。妨害するには遅い。

 

 あらゆる方法を探った。白蘭はなんとしてでも桂を手に入れたかった。破壊する桂の表情、動き、全てに魅了されたのだ。

 

 そして見つけた――。

 

「この兄妹って、面白いよね」

 

 モニターで観戦していた白蘭が口を開く。

 

「サクラちゃんがピンチになると桂が出てくるし、桂がピンチになるとサクラちゃんが必ず出てくるんだ。素晴らしい兄妹愛にも見えるけど、実際はどうなんだろうね」

「と、いいますと?」

「僕の勘だけどあの2人の間にあるのは兄妹愛じゃないと思うんだ。もちろん2人は正真正銘血の繋がった兄妹だけどね」

「ニュニュウ~。びゃくらんの話、よくわかんない」

「僕がいいたいのは、あの2人には何かあるってことだよ。そしてそれを今から壊すんだ♪」

 

 サクラの記憶だけが簡単に消えるのも関係しているだろうが、その何かに興味はない。白蘭がほしいのは殺人兵器の桂なのだ。

 

 白蘭の予定では桂の頭脳が必要なくなれば、すぐにでも壊す手筈だった。それが正一の邪魔により、過去のサクラと入れ替わってしまった。サクラに動かれると桂が手に入るリスクが高くなるため、白蘭が自ら指導する羽目にもなった。

 

 早く完成させたい。そう思っていたが上手く行かない。

 

「んー、やっぱり楽しみは少し遅くなっちゃうかなぁ」

 

 桂の前に現れた男を見て、白蘭は残念そうに呟いた。決して桂が負けるとは思ってはいない。尚且つ、彼が現れる可能性が高いと思っていたのだ。

 

「でも、桂が倒す方が楽なんだよね。彼も面倒だし」

 

 桂と雲雀が対峙している姿を見ながら白蘭は呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 気配を感じ、バイクから降りた雲雀はイヤホンを壊した。これ以上指図を受けるのは耐え切れなかったのだ。ただ、ほんの少しだけサクラの話を聞いていても良かったと思えた。この広いフィールドで指示もなく敵と出会えるかはわからなかった。もっとも今から相手する敵のことで頭がいっぱいになるので忘れるのだが。

 

 待つこともなく雲雀の視界に桂が入ったのだが、向こうは気付かない。――否、雲雀に興味がないのだ。

 

「ふぅん」

 

 すぐさま雲雀は増殖した小さなロールを桂が壊そうとした囮に当てる。ここでやっと桂は雲雀を認識する。そしてトンファーを構えた雲雀は、邪魔する者だった。桂は排除するために動き出す。

 

「はじめようか」

 

 雲雀は一切躊躇するつもりはない。桂との再戦を彼はずっと望んでいた。不意打ちで攻撃しなかったのも、勝負だからだ。ただし今回は命をかけて。

 

 互いが相手に向かっていき、交差する。その僅かな間に金属音が5回響いた。

 

「……?」

 

 雲雀はほんの少し首を傾げる。互いに怪我がないのはわかっている。全ての手を止められたが、相手の攻撃も全て防いだ。気になるのは、桂の両手にナイフが握られていることだ。

 

 桂の能力を考えれば、素手で問題ないはずだ。武器を持ったとしてもナイフを選ぶ理由がわからない。桂のスピードを考えると重量があるものや長物よりナイフの方が確かに良い。しかし、それを選んだならなぜ追撃しなかったのか。

 

 気にはなったが、雲雀はあっさりと考えを放棄した。偶然なのか、何かあるのかは戦っていけばわかることなのだ。考え込む時間があれば、戦えばいい。雲雀は駆け出した。

 

 相手の攻撃範囲の一歩手前で遠心力を使い、トンファーを振り下ろす。重い一撃だが、これで桂の両手を防げるとは思ってはいない。だが、一瞬のスキを作り懐にもぐりこむ時間はある。その時間を使い、雲雀はもう片方のトンファーで横から殴りつけた。

 

 鈍い音が響く。雲雀の一撃で桂の腕がおかしな方向へ曲がった。が、その腕を使って雲雀の首元にナイフが迫る。腕が折れた程度ではすぐに完治してしまう。

 

 焦ることもなく雲雀は桂の身体に蹴りを繰り出す。桂を離しナイフが届かないようにするためだ。が、雲雀の足は空を切った。桂が攻撃を中止し、下がったのだ。

 

 再び距離が出来る。

 

「ねぇ、本気出しなよ」

 

 挑発に取れるが、雲雀は大真面目だった。桂の強さはこんなものではない。一方的にやられた時の方が強かった。なぜなら雲雀の蹴りに当たったとしても、桂には関係ないはずだ。そのため雲雀は次の攻撃も用意していた。にもかかわらず、桂は下がった。はっきり言って無駄な動きだ。

 

「…………」

 

 桂からの返事はない。だが、笑った。

 

 ゾクリとする感覚に雲雀は襲われ、思わず桂から距離をとる。それは正解だった。いつの間にか先ほどまで雲雀が居た場所に桂が居る。

 

 目を離したつもりはなかった。桂が居たであろう場所は地面が陥没し、石が空を舞っている。ただ、桂は足に力を入れ迫っただけだった。

 

 雲雀は防戦一方になる。何とか急所を逸らしているが、徐々に追い詰められていく。ボンゴレ匣を使ったにも関わらず、だ。

 

 雲雀とてバカではない。このままでは一方的にやられると感じ、ボンゴレ匣の形態変化のアラウディの手錠で桂を捕まえようとした。締め上げても桂なら回復するかもしれないという考えもあったが、スピードを殺すには問題ないと思ったのだ。

 

 そして多少手傷を負ったが、手錠はかかった。増殖し桂の動きを封じることにも成功した。が、それは一瞬だった。

 

 手錠に亀裂が入り始めたのだ。調和による石化のような現象だったが、近くにいた雲雀には何が起きたのかはすぐに理解できた。雲の炎を上回る晴の炎を手錠に流し、力技で壊したのだ。

 

 戦ってる雲雀にはわかった。あの時より桂は弱くなった。しかしそれを圧倒的なポテンシャルだけで自身を追い詰めてるのだと。

 

 桂は舞う。桂が舞えば、石や埃、そして血しぶきも舞い上がる。しかし桂の服には何もつかない。それはもう芸術のようで、相手が強ければ強いほどそれらは舞う。気付けば、戦っている相手すら魅了する。そしてそれは相手に止めを刺すまで続くのだ。

 

 その舞が突如止む。雲雀ではない。彼はもう立ってるのがやっとだ。桂には声が聞こえたのだ。その声が先程より大きな音で桂の耳に届く。

 

「お兄ちゃん!」

 

 視線を向ければ、額に汗をにじませた少女がいた。桂は少女の声や状態には興味はない。その胸から出ている炎に注目した。

 

 桂は笑った。とても嬉しそうに。

 

 優先順位は標的の抹殺。もう邪魔することは出来ないであろう雲雀にはもう用がない。

 

 駆け出そうとした桂だったが、少女の姿はそこにはもうなかった。しかし、近くにはいた。桂の前に顔を出したくせにスケボーに乗り少女は逃げていたのだ。当然桂はそれを追う。

 

 少女が乗っているのは電動スケボーらしいが、桂から逃げるにはその程度のスピードでは話にならない。が、邪魔が入る。壁からレーザーが放たれたのだ。が、桂はそれを防ぐこともせず進む。人の気配を感じないのもあるが、怪我は直ちに治るのでこの程度ならば防御すら必要がないのだ。それでも少女が逃げるルートにレーザーが放たれるのは邪魔になる。少女が建物を使い、レーザーから放たれた瞬間に視界から外れるのも、なかなか追いつかない原因だ。

 

 しかし、いつまでもレーザートラップがあるわけがない。ゆえに桂は少女に追いついた。

 

 背後から敵の大空と正面から基地ベースが桂に迫っているが、少女に止めを刺すには十分な時間だ。

 

 急に目の前に現れた桂に少女は目を見開き、反射的にスケボーを止めることしか出来なかったようだ。そんな素人相手に桂は時間をかけない。ただ、ナイフを心臓に突き刺すだけだった。

 

 いとも簡単に口から血を流しながら少女は崩れ落ちていく。あっけないものだった。

 

 だが、突き刺す瞬間に少女の一言が耳に残った。

 

「私の、勝ちだ」

 

 崩れ落ちていくはずの少女の目はまだ死んでいなかった。


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