クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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資格

 ふあああ。とあくびがでる。

 

 どうしても知ってる内容だと退屈に感じてしまう。10年後のディーノじゃなく過去のディーノが話している違いはあるが、ほぼ同じになるだろう。詳しい話は聞いていないが、全員入れ替わってしまったので、年長であるディーノが仕切ることになったしな。

 

「じゃぁツナ! お前から修行内容を言っておくぞ」

「は、はい!」

「大空の匣はデリケートっていうのは理解したな?」

「……はい」

 

 ディーノが先に伝えていたはずなのに、昨日の夜に開けて暴走させたらしい。沢田綱吉が落ち込むのは当然だな。

 

「開匣しても大丈夫と思ったら、開けるんだ」

「もう少しヒントを出せよ」

 

 思わずツッコミを入れてしまった。知識とあまりにも違い過ぎる。

 

「そう言うが、オレは大丈夫だと思ったから開けたからなー」

 

 なんということだ。未来のディーノと違う開け方をしてしまったがために、上手くヒントを教えれないようだ。

 

「ディーノさんはどうして大丈夫だと思ったんですか?」

「ん? 確か――」

「正しく開匣できるまで1人。匣兵器と一緒にいて、トラブルが起きても使い手もずっと一緒にいること。それがヒント」

 

 ディーノの言葉を遮って、早口で正しいアドバイスを教える。ディーノが開けれるようになった時のことを詳しく話されれば、私がダメージを受ける。

 

「でもディーノさんはその時サクラといたんじゃ?」

「ディーノが開けた時、私は眠ってた」

 

 沢田綱吉の疑問にすぐさま答える。ディーノの見せ場を減らしているかもしれないが、こっちは必死なのだ。腕にもたれてたということは絶対に話させない。

 

 うーんと悩み始めた沢田綱吉をみて、上手く回避できたことに喜ぶ。さっさとディーノに話を進めろと目で訴える。

 

「ツナの疑問もわかるけどな。オレもこいつと一緒にいなければもっと苦労した気がする。けどな、起きていればいつまでも気付かなかったと思うぜ。オレがいえるヒントはここまでだ」

 

 ディーノのヒントを聞いて、なんとなくだが理解できた。私の存在はきっかけにもなかったが、匣兵器と向き合っていなければ気付かなかったのだろう。私が起きていれば、その僅かな違いに気付かなかったのかもしれない。

 

 沢田綱吉の修行の話が終われば、ラル・ミルチやγ達が手伝うことになる以外は特に変わったことはおきなかった。

 

 

 

 もっともこの問題が起きるのだが。その日の夜に起きたボイコットである。当然私の答えは決まっている。

 

「サクラもそっちなのー!?」

「当たり前だろ。美味しい料理を食べたいからな」

「そんな理由ー!?」

 

 何を言ってるのだ。食欲は3大欲求の1つとされてるんだぞ。重要である。

 

「じゃ、頑張れ」

「え!? 助けてくれないの……?」

「さっきも言ったが私は彼女達の味方。それにジャンニーニ達の手伝いで忙しい」

 

 この理由で家事を免れているのだ。手を抜けるわけがない。一応女子ということで睡眠時間は確保させてもらっているが、やることが多すぎる。彼らの目を盗んである物を作ってるのも原因の1つだと思うが。

 

「そうですよ、10代目。サクラさんのおかげで随分助かってるんですから」

 

 もっと褒めてもいいんだぞ。と思いながら、相変わらずの女子力の低さに遠い目をしたくなる。服装もつなぎ率が高いしな……。

 

 軽く溜息を吐いてから、彼に頼られたので案だけは出す。

 

「彼女を頼れば?」

「オレも彼女達の味方だ」

 

 無茶をしなかったため知識と違いラル・ミルチが起き上がれるため、声をかけてみれば女子の味方だったらしい。まぁその可能性もあったため特に驚きはしなかったが。

 

「γ達は?」

「これはボンゴレの問題だろ。オレ達は好きにするさ」

 

 確かに、と思った。γ達が沢田綱吉達を手伝う義務はない。家事全般で世話になってる女子達の手伝いの方がまだ可能性があっただろう。

 

 知識と違うところはディーノの存在ぐらいだが、彼は戻ってこないと思うしな。

 

「……文明の利器、カップ麺がある」

 

 ショックを受けている沢田綱吉達を放置し、私はお風呂に入ることにした。

 

 

 

 身体を伸ばしながら、ゆっくり浸かる。細かい作業をしていたので疲れてはいるが、体調はいい。あの夢を境に全く見なくなったのが関係しているようだ。やはりあの夢の通りに進むのだろう。

 

 ……違う。あの夢の通りに進ませるのだ。そうすれば、私の願いは叶えられる。

 

 それにあの夢は場面が途切れることもなく、チョイスの流れを――私の願いを叶えられるまでの流れを全て見ることが出来た。ヒントは十分にある。必ず、成功させる。

 

「フミ子」

 

 プカプカと湯船に浮かんでいたフミ子を呼べば、クロールでこっちに来た。いったい兄は何を仕込んでるんだとツッコミしたくなった。

 

「……フミ子は私を救うために作られ――生まれたのか?」

「パフォ!」

「兄は、当然リスクがあることを知っていたんだな?」

 

 威勢のいい返事はなかったが、フミ子はコクリと頷いた。これで大空の炎でもフミ子の能力を使えるようにした理由もわかった。そしてフミ子の能力を最大限に発揮出来るのも兄だけにした理由も……。

 

「……バカ。バーカ、バーカ。お兄ちゃんのバーカ」

 

 風呂場で喚けば気が晴れるかと思ったが、むなしくなっただけだった。

 

「……それに、私もバカなんだよな。お兄ちゃんと一緒で」

 

 もしかすると私の方がバカなのかもしれない。兄は実行しなかったのだから。でもまぁ似たようなものだろう。兄はフミ子の能力が不完全でまだ実行できなかっただけだからな。

 

「なぁフミ子、私ってやっぱりブラコンか?」

「パフォ」

「少しは悩めよ」

 

 あまりにも返事が早かったので、ついツッコミをしてしまった。でも事実なのでしょうがないのかもしれない。

 

 

 

 

 チョイス前日、リボーンとディーノに呼び出された。同じ部屋で眠ってはいるが、時間が合わないから声をかけたのだろう。

 

 だが、何かあっただろうか。ボイコット事件も知識通り終わったしな。まぁ話を聞いた彼女達にまた抱きしめられ泣かれてしまったのだが。それ以外には特に変わったこともない。

 

 それに私がぐっすり眠るため、予知をみていないとわかってると思うのだが。チョイスのことについては話す気はないと宣言している。その時に彼らは反対しなかった。だから彼らは聞いてしまうと負ける可能性が高いと判断したはずだ。それなのに、このタイミングで呼び出すのか。

 

 部屋に入ると2人が待っていた。どうやら私が最後だったらしい。時間前だったので、謝らないが。

 

「なんの用事だ? 忙しんだが」

「サクラ、あの紙の内容をおめーはもう理解してるんじゃねーのか?」

 

 相変わらずズバッと確信をつく男だ。ディーノだけならまだしも、リボーンを騙せることは出来ない気がする。

 

「理解したけど、必要ないと判断した」

「それを決めるのはお前一人だけじゃねぇ」

「彼らは関係ないだろ」

 

 呆れながら言い返す。フミ子は兄の匣兵器で私のために置いていったのだ。このことに関しては沢田綱吉達にとやかく言われる筋合いはない。

 

「あの紙を受け取ったのはオレだ。聞く権利はあるだろ?」

 

 やられた。先に理解したのか確認したのはそのためか。

 

「……あの紙は捨てたから覚えてない」

 

 これもウソではない。流石にあの複雑な式を覚えるのは厳しい。理解したとしても再び書けるかは別だ。

 

「ここにある」

「……そんなに信用なかったのか」

 

 まさか書き写してるとは思わなかった。

 

「それは違うぜ。信用はしている。だけどな、お前の性格もオレは理解してるつもりだ。一人でまた抱え込む気がしたんだ。お前は家族のことになると視野が狭くなる。……あいつもそれがわかってオレに渡したんだろうな」

 

 あいつというのは私をのっとった人物のことなのだろう。余計なことを……。

 

「正直に話してくれ。入江達からじゃなく、オレはお前から聞きたい」

 

 私が話さなければ彼らに渡すということなのだろう。それは……困る。彼らが理解できれば、沢田綱吉達に知らされる。そうなると私の願いは叶えられなくなるかもしれない。

 

 リボーン達は譲歩してるのだろう。私が黙ってる内容は厄介だと気付き、それでも沢田綱吉達に知らせないようにしているのだから。

 

 ここで私が選択できるのは3つ。入江正一達が理解できないと賭けて話さない。正直に話す。最後に――ウソをつく。

 

 私の中で葛藤が起きる。どれが正解なのだ。チョイスの流れは夢で見たが、ここの判断はわからない。グルグルと浮かんだ言葉がまわり続ける。

 

 そんな私の肩に手を置き、目を合わせて彼は言った。

 

「そのまま返すぜ。……そんなに信用ないのか?」

 

 どうして私は彼に弱いのだろう。どうして私は彼を好きになってしまったのだろう。

 

 たった数日。たった数日で私は後悔してしまった。

 

 原作キャラを好きになるつもりはなかったのに。こんなにも大事な存在になるなんて思わなかった。

 

 それでも、それでもやっぱり私は自身が1番大事なのだ――。

 

「……ディーノ、私のために死んでくれるのか?」

 

 答えをわかって聞いた私に、彼を好きでいる資格はもうない。

 


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