ありがとうございます。
ゆっくり更新になると思いますが、今日から再開しますね。
では、最終章です。
準備
1日ぐっすり休んだおかげで、体調が良くなった。フミ子の回復が効いたのかもしれない。今度からはちゃんと頼むことにしよう。もっとも、その今度があるのかはわからないが。
「サクラちゃんも一緒に行こうよ」
ご飯を食べていると笹川京子に話しかけられた。全く話を聞いていなかったが、地上散策のことだろう。さっきまで私は部屋に籠っていたので声をかけたようだ。
「……行こうかな」
「本当ですか!?」
彼女達は断ると思っていたのかもしれない。喜んでいた。
「でも、今すぐは無理だぞ」
キョトンとした顔をする彼女達の横で、緊張が走った彼らの反応を見て笑いそうになった。
「安心しろ。悪いことじゃない。ただ、ご飯を大量に作ってから行かないといけないんだ」
「ご飯?」
はてなマークを浮かべる彼らを見て、ついに私はガマンできずに吹き出したのだった。
「……別に着いてくる必要はないぞ」
「そういうなって」
バジルと無事に合流を果たし、地上散策に来たのだが、なぜか一緒にディーノがついてきた。ロマーリオも一緒である。変な時間に眠ってしまったため夜中に目を覚ました私は、ディーノに断りもせず勝手に連絡を取って呼んだのだ。ちょうど時差の関係でタイミングが良かったのもある。
それにしてもロマーリオは元気だな。日本に来てすぐ動けるとは……私ならもう少しゆっくりしたい。
「なぁ。本当にお前は来ないのか?」
「当たり前だろ。君達に付き合う体力はない」
本音である。鍛えるためとはいえ、雲雀恭弥と一緒に行動するのも嫌なのだ。だからロマーリオを呼ぶことに成功したのだ。建前で言っただけでは、恐らく彼らを説得することは出来なかっただろう。
何度か繰り返したやりとりをしていると、家が見えた。地下からは入ったが、正面は見ていない。もちろん普段生活しているだろう場所にも入っていないため、少し緊張した。
「……あんまり変わってないな」
外から見た感じは10年前と同じだった。意を決して家にあがる。
「…………」
無言で進むしかなかった。上手く言葉にすることが出来ない。
私の場合は彼女達とは違う。ほぼ10年前からこの家に私は帰っていないのだ。少し変わっていても10年前と似ていると思っていたのが間違っていたのだろう。
「大丈夫か……?」
お人よしのディーノが思わず声をかけるのも当然だろう。
この家は……もう何年前から誰も住んでいない。
決して埃まみれというわけではない。掃除はしているのだろう。だが、生活をしている家ではなかった。
よく考えればわかることだ。私が両親の立場ならここに住みたくはない。この土地で住んだ期間は短いが、私との思い出があるのだ。ここに住み続けるのは辛いだろう。
「ロマーリオ、2人は……元気だったか?」
「ああ」
私のためにそう答えのだろうか。それとも本当に元気なのだろうか。知りたいが、それを聞く資格は私にはないと思った。もちろん泣く資格もない……。
「ん、大丈夫。また家族揃って住むことができる」
覚悟は――出来た。
「行くぞ」
家から出ようとしたが、ディーノが動く気配がしなかったため声をかけた。私の声にハッとしたのか、慌ててこっちに来る。
ディーノらしくないので少し心配したのが間違いだったのか、ガシガシと頭を撫でられた。急に何をする。
「くっ……」
ディーノを睨んでいれば、変な声が聞こえたので2人で顔を向ける。どうやらロマーリオの声だったようだ。しかし、なぜロマーリオは腰を曲げ、さらに口を手で抑えてまで笑いを堪えているのだろうか。
「どうしたのか? ロマーリオ」
「ボスはやっぱりボスだぜ」
日本語が変だぞとツッコミしたいが、未だに肩を震わせてるロマーリオに言っても理解出来ないと思ったのでやめた。もうロマーリオのことはディーノに任せて私は沢田綱吉達との合流場所に向かおう。カギもディーノに投げればいいだろう。
「先に行ってるぞ」
「おい! ロマーリオ、笑ってないで行くぜ」
「ういっ!」
ディーノがすぐに来たので後ろを振り返れば、ロマーリオが戸締りしているようだ。フォローが出来るぐらいに戻ったらしい。
「ったく、1人で行くなよ」
「平和だとわかってるからな」
「そうだとしてもだ。オレが恭弥の修行を見てる間は大人しくアジトに居ろよ?」
「大丈夫。ずっと引きこもるつもり」
「約束だぜ?」
「ん」
会話をしていた私達は気付かなかった。カギを閉めたロマーリオが「将来が楽しみだ」と呟いていたことに――。
久しぶりの教室である。もちろん沢田綱吉達と一緒だ。
ちなみにディーノ達は雲雀恭弥のところへ向かった。別れ際に再び1人で行動するなと念を押され、心配性が悪化してると思ったのはヒミツである。声に出せば、話が長くなる気がしたのだ。
席に座ると彼らのように叫びはしなかったが、素直に懐かしいと思えた。彼らが授業態度について話をしたくなるのも何となくわかる。それぐらい彼らと過ごす学校生活が日常だったのだ。
「……楽しかったな」
ボソッと呟けば、一斉に振り向かれた。
「な、なんだ?」
「……ううん。オレも楽しかったなって思って!」
「だな! 楽しかったよな!」
笑顔の彼らを見て、素直に頷くことが出来た。本当に楽しかった……。
「……そろそろ行くぞ」
「え? もう?」
「ランボがお漏らしして、君が大変な目にあってもいいなら座ってるけど?」
「んなっ!?」
彼の反応を見て、私はまた吹き出したのだった。
結局、私達はすぐに三浦ハルと合流した。やはりお漏らしは回避したいらしい。もっともよくわかってない笹川京子は着いてきただけだと思うが。
「え? 本当にいいの?」
「たまには、な」
この時代にきて、ランボのトイレの世話ぐらいなら出来るようになった。正確にはランボが私のところにも来るので、覚えるしかなかったのだが。
とにかく誰かが世話をしなければならないので、珍しく私が立候補したのだ。
「ありがとう。助かるよ」
「……気にするな」
ランボを抱き上げ、トイレに向かったのだった。
問題なく全てを済ませ、ランボの手を洗ってあげていると声をかけられた。
「ねぇねぇ、どうしたの?」
最初は何を言ってるのかわからなかった。が、鏡に映った自身を見てランボが心配するのがわかった。コツンと優しくランボの額と自身の額をあわせる。
なんて……私は情けない顔をしているのだろう。
「ごめんな、ランボ」
本で読んだ通りだった。子どもは大人の気持ちに敏感だ。私にされるがまま、ランボが静かにしている。あのランボが、だ。
額を離すときにはいつもと同じに戻ってる。だからもう少しだけこのままで……。
夕方に入江正一達のところへ行けば、忙しそうだった。が、手は止めてもらう。何のために彼女達を送り届け、クロームとバジルを連れてきたのかわからなくなるからな。
「やぁ、差し入れは助かったよ。みんな揃って、どうしたんだい?」
「え? 正一君から大事な話があるって聞いていたんだけど……」
沢田綱吉が確認するように私の顔を見たため、はっきりと「ウソ」と伝える。彼らが驚いたり、暴れたり、それを止めようとする反応に慣れてるため、私は気にせず話しかける。
「入江正一、私は伝えたはずだぞ。逃げずにちゃんと白蘭のことを彼らに話せ、と」
「……うん。そうだね。ごめん……」
私達の会話で何かあるとわかったらしい。彼らは静かになった。
「謝らなくていい。今話さないと後悔すると思っただけだ」
「……ありがとう」
礼を言われることでもない。入江正一が話せなくなるだろう原因は私にあるのだ。
この後、彼らは入江正一の話を静かに聞いていた。
話が大きいので、困惑する表情も時折見せた。が、話が終わる頃にはしっかりとした顔つきだった。恐らく入江正一の気持ちがわかったのだろう。どれだけの覚悟をしてこの戦いに挑もうとしているのかを……。
「話してくれて、ありがとう」
沢田綱吉だけが言ったが、この場にいる誰もが思ったようだ。彼らの顔を見ればわかる。
そして、そこに水を差すのが私である。
「君達はそこまで背負わなくていい」
「ええ!?」
「サクラの言うとおりだぞ」
私が気を遣わなくても、リボーンが話すつもりだったようだ。
「おめーらは正一の覚悟を知ってるだけで十分なんだ。世界の命運なんてでけーこと考えずに、10年前の平和な世界に戻るために戦うんだぞ」
「で、でも……」
「今日、学校へ行った時の気持ちを忘れたのか?」
流石である。リボーンは一緒に行っていないのに沢田綱吉達の気持ちを理解している。
「ここで1つ私から朗報。白蘭を倒せば、10年前の世界にちゃんと帰れる」
「平和な世界に……」
効果は大きいようだ。今まで私は白蘭を倒してからどうなるか、はっきりと口にしていなかった。入江正一が味方になり装置はここにあるが、本当に帰れるかは不安だったはずだからな。
リボーンがニヤリと笑った。私がタイミングを考え、わざと今まで言ってないと気付いたからだろう。まぁ入江正一が倒せば帰れるとは言えなかったのもあったのだが。
「難しく考える必要はねーんだ。お前らが10年前の平和な世界に戻ることが出来れば、ついでにこの世界も救われるんだからな」
「ついでにって……」
呆れながらリボーンにツッコミをしている沢田綱吉だったが、表情が明るい。上手く肩の力を抜くことが出来たようだ。
「さて、スパナは話を聞きながらも手を動かしていたんだ。ジャンニーニは?」
「当然ですよ!」
「じゃ、機動力の案はどうなんだ?」
「そちらもばっちりですとも! スパナに負けてられませんからね!」
何でも私に頼る考えになっていないようだ。ホッと息を吐く。
私が1番心配しているのは考えを止めてしまうことだ。彼らの考えが間違っていれば、私は訂正するだろう。だが、余程のことがない限り簡単に答えを教えるつもりはない。
といっても、私を成長させるためにリボーンが上手く誘導し、教えてる嵌めになってることもあるだろうが。
とにかく競い合ってる2人を見れば、チョイスの提案は任せていいだろう。私は他のことに専念したいしな。
「頑張るか」
「うん!」
呟いたつもりだったが、沢田綱吉が反応した。彼は平和な世界に戻るために頑張るのだろう。……彼らは、だな。
彼らと違った覚悟を秘めていると気付かれないように私は動き出したのだった。