目をあける。しばらくボーっとしていたが周りを見て、状況を把握する。悲鳴をあげなかったのは、気付薬を吸って起きたからだろう。
私達は無傷で閉じ込められ、沢田綱吉達は入江正一と敵対しているところを見ると、全て上手く行ったのだろう。兄のせいで少し心配だったが、良かった。それに逃げ道がない場所に彼らを誘導したのはいいが、抵抗力が弱いせいか、睡眠薬を吸って真っ先に眠った気がするからな。こっちも少し心配だったのだ。まぁγ達がいないことは気になるが。
入江正一の話を聞きながら、チラチラとディーノが私の様子を見ている気がする。誘導したことを疑ってるのではなく、私の顔色が悪いことを心配しているのだろう。自身でも血の気が引いていると思ってるからな。お人よしのディーノがこの状況で心配するのは当然である。
私はちょうどいいのでこの状況を利用することにした。ディーノは私が自身のせいでこの状況に追い詰められてしまったとショックを受けてるように見えているはずだ。そして、私の顔色が悪かったのは演技だったと勘違いするだろう。
しばらくすると、ディーノが私の顔をはっきりと見た。私に何を聞きたいのかわかった気がしたので、頷く。リボーン達は人柱という話は本当だから。
私でもディーノの手がギリっと力強く握られているのがわかった。赤ん坊ということに不思議は思ってても人柱までと考えてなかった自身に苛立ったのか、話してくれるまでには信頼が足らないことに悔しく思ったのか、はたまた私が思いつかないようなことを考えてるのかもしれない。
何にせよ、ディーノが大事に思ってる――尊敬している師を救えない可能性を作ってる原因の私は、相応しくないのだな、と思ってしまった。
決して叶う恋ではないと思いたいのかもしれない。私の勘が、感覚が、先程の夢が現実になると訴えているから……。
「パフォ!」
シリアス真っ只中であるはずの空間に、能天気そうな鳴き声が聞こえて現実に戻る。
フミ子の近くでチェルベッロが眠っている。銃の音はなかった。
入江正一の見せ場なので空気を読めとツッコミするべきなのか、それとも良くやったと褒めるべきなのか、なんとも微妙である。本人は褒めて褒めてと訴える目を向けるので、善意でやったのだろう。もしかすると、後でいっぱい頼むの内の1つがこれだと思ったのだろうか。私はみんなを回復してほしいという意味で言ったのだが。
とりあえず、先に労う声をかけた方がいいだろう。
「……お疲れ」
「はは……。本当に桂さんは規格外だ……。でも、助かったよ……」
膝が笑い始めた入江正一に、心底お疲れと思った。まさか炎を注入していないのに出てくるとは思わなかったのだろう。それに兄のせいで計画がかなり崩れているだろうから。
グンっと肩を引かれ驚いていると、目の前にディーノがいた。
「説明、してくれ……」
なぜだろう。妙に彼が疲れきっていた。
「入江正一は味方。成長おめでとう。次は本当の目的である白蘭を倒そう」
簡潔にまとめれたことに自画自賛していると、ディーノの背後でワナワナと震えてる人物が多く見えるのは気のせいだろうか。
「殴るなら、あっちで」
指をさせば、彼らは勢いよく振り返った。「ヒッ」という悲鳴は聞かなかったことにしたかったが、恩があるので助けることにする。
「10年後の沢田綱吉と雲雀恭弥も一緒に立てた計画だ。彼だけ責めるのは間違ってると思うぞ。そして多分、ディーノも関わってたと思う」
「僕は生きてることも知らなかったんだけどね。今なら雲雀君と繋がっていたと思えるよ」
「ディーノがこの時代に来るのは予定外だったんだろ? 装置の数は足りるのか?」
「大丈夫。来る可能性もあるって雲雀君から聞いていたから」
10年後のディーノの気持ちがバレバレだったから、恐らくその可能性を考えたのだろう。それは正解だったのだが、妙に恥ずかしい気持ちになるのは気のせいだろうか。それに諦めようと考えていたのに、10年後のディーノを思い出すと可能性があると思ってしまう。……本当にこの気持ちは厄介だ。
「あ、あのさ……サクラはいつから知ってたの……?」
「君と友達になる前から?」
「そ、そうだったんだ……」
「まぁ私のせいでズレてる点が多いけどな」
「ご、ごめん!!!」
この場合、なんと返事すればいいのだろうか。困って眉を寄せるしかなかった。
私のせいで静まってしまったのでどうすればいいのか悩んでいると、リボーンが「正一、もうあいつらを外に出してもいいんじゃねーか」と言った。暴れだす空気ではなくなったのと、空気を戻すために言ったのだろう。入江正一もその意図に気付いて操作したのだった。
装置から出れたので、身体を伸ばす。やはり閉じ込められていた感覚が強いのだろう。開放感がある。
ふと視線を感じたので振り替える。雲雀恭弥にジッと見られていた。
「……なに?」
返事はない。相変わらず扱いが酷い。まだ黙ってたことを怒ってるのだろうか。それとも挑発したことなのか。とにかく、無言でジッと見られるのは居心地が悪い。逃げたくなる。
逃げると気付いたのか、近づいてきたので身構える。こういう時、ボクシングをしたことがないのに、つい構えてしまうのが不思議である。
「な、なんだ。私は手応えがない相手だぞ」
威張っていうのもどうかと思うが、事実である。
「はぁ……」
ちょっと待て。人の顔を見て溜息を吐くとはどういうことだ。失礼すぎる。いろいろツッコミたいが、興味がなくなり去って行ったので良しとする。触らぬ神(魔王)に祟りなしだ。
「恭弥はなんだったんだ?」
「さぁ?」
返事をしながら、来るならもう少し早く来てくれてと思うのは私のワガママなのだろうか。まぁディーノは入江正一から匣を受け取り、フミ子を使ってみんなを治療をしていたので無理な注文だっただろうが。
「ちょっとγのこと聞いてくる」
「それなら聞いたぜ。ツナが知っていた。匣を探しに行ったみてーだ」
沢田綱吉と会っていたのか。ついでにリングも探してるだろう。γにはそのリングは壊れると伝えているからな。
「あ、そういえば気になってたことがあったんだ。ちょっと行ってくる」
大事なことを忘れていたので、入江正一に会いに行く。ディーノも着いてきたようだ。
「神崎さん。いろいろ助かったよ」
「ん。それより聞きたいことがある。彼らを送る時間はあってたのか?」
「え? そりゃ少しは誤差があったけど、大体あってるけど……」
やはり変だな。といっても、考えてもよくわからないが。
「どうかしたのか?」
「10年後の雲雀恭弥に確認すれば今日と話していたが、本来の時間と違うんだ。5日ほどずれている」
六道骸が兄にやられたことで、奇襲する日が早まったはずだった。が、雲雀恭弥は元々その日に乗り込む予定だったのだ。彼は沢田綱吉達を導き、白い装置に着いてから入れ替わる気だった。そして今から来るボンゴレリングを持った笹川了平のおかげで助かることになる。
でも5日ほどずれているはずだ。
入江正一が送る時間はあっていると言う。そこから逆算して計画を立てたのはこの時代の彼らはおかしいわけではない。問題は、修行の時間がこれだけで足りると判断した崩壊された未来の入江正一だ。フミ子の能力を知っていたのだろうか。だが、兄が敵になるかもしれないと思わなかったのだろうか。
……ふと思った。
10年バズーカを使ったにも関わらず、ピッタリ移動できなかったはずだ。その時空のズレを計算して入江正一達は沢田綱吉達の来る時間がわかった。その計算式が知識と違っていたら……?
まさか、私は時空のズレまで影響を与えているのか……?
「おい!?」
「…………悪い」
思わず立っていられなく倒れそうだったところをディーノが支えたようだ。ディーノが慌ててフミ子を呼んでいるが、精神的なものなので効果がないと思う。ただそれを口にする気力もなかったので、されるがままになる。それにフミ子のおかげで眠るのもいいだろう。どう考えても話が大きすぎる。現実逃避したいのだ。
それでも必要なことは伝えるが。
「無線でγ達にそろそろこっちに来いと伝えてくれ。ユニに会えなくなるといえば、とんで帰ってくるだろ」
「まさか……」
そういえば、入江正一は白蘭がやりそうなことは想像ついていたんだったか。なら、安心して任せていいだろう。後は……これも必要か。
「逃げずにちゃんと白蘭のことを彼らに話せ」
息を呑んだ入江正一を見ながら、私は眠りに落ちたのだった。
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無事にイタリアの総力戦も勝ち、喜びも束の間に現れた――真6弔花。
その中に見知った顔がいる。それだけでも動揺してしまうのだが、彼の目は何も映していない。何も見ていないわけではない。背筋が凍るような冷たい目をしていたのだ。
ツナ達でもかなりの動揺が走ったのだ。身内のサクラが知れば、どれほどショックを受けるのか。
眠ってて良かったと思う反面、夢で見ていたのではないかという心配が募るツナ達。
10日後に行われるチョイス。
たった1枚の紙がサクラと桂の命運を握ることにまだ彼らは気付いていない。
未来編(前編)完。
次の話から最終章、未来編(後編)に入ります。
一週間ほど休みますね。
更新ペースはゆっくりでしょう。
そしてキリがいいので、明日か明後日の活動報告にハルハルインタビューを載せます。
ではでは。