クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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止められない

 私の誘導でディーノと行動していると、沢田綱吉と合流しないのかと聞いてきた。やはり心配なのだろう。しかし、それはきっぱりと拒否する。

 

「下手に近づきたくない。彼がX BURNERを完成させた時、近くにある部屋を4つほどぶっ飛ばすからな」

「……そうか」

 

 ディーノも納得したようだ。会いに行って巻き添えを食らえば本末転倒だからな。

 

「私はγ達と合流したいな」

 

 移動しながら部屋を確認しているので、入江正一が動かした配置が完璧に判明しつつある。が、それでも難しいだろう。

 

「あいつらも移動してるだろうからなー」

 

 そうなのだ。いくら部屋の配置がわかっても、γ達の移動までを予測するのは出来ない。ルートが複数もなければ合流することも可能だっただろうが。

 

「幻騎士の部屋に向かってもいいが、彼らがたどり着くかは別だしな」

 

 γは知識と違い、幻騎士から匣兵器を返してもらってはいない。これからの戦いにγは必要と思ってるはずだろう。正直、私はあっても戦力面では対して変わらないと思っているが。

 

 もっとも、持っておきたい気持ちはわかる。

 

 その気持ちがわかったからこそ、基地に1度戻るγにアドバイスをしたのだ。入江正一がメローネ基地の指揮を取ると宣言したときに、反対せず姫のためには何でもするという意思を示せば、幻騎士と接触すれば渡される可能性は高い、と。

 

 しかしそれは叶わなかった。γは実行したが、幻騎士と接触したが渡されることはなかったのだ。そのためγは私の指定した制限時間と天秤にかけ、諦めたのだった。正確には、私というより匣とユニを天秤にかけたのだろうが。

 

「行ってみるか?」

 

 γ達と合流できた方が、ディーノの負担が減る。会える可能性があるのなら行きたいが、時間は大丈夫だろうか。……特に恐怖を抱かないので、行っても問題ないようだ。ディーノの提案に私は頷いたのだった。

 

 しばらく進み、とある部屋に足を一歩踏み出した時に、私の身体に衝撃が走った。尻餅を付き、イテテテと思いながら顔をあげると血が落ちたのが見えた。

 

「ディーノ!?」

「来るな!!」

 

 駆け寄ろうとした私だったが、ディーノの気迫のこもった声にひるむ。

 

「甘い甘いバァ~~♪」

 

 この場の雰囲気に合わない声が聞こえ、私は発信源を探すために顔をあげた。

 

「……ジンジャー・ブレッド」

「予定とは違ったけど、まぁいいよね」

 

 ゾクリと恐怖が走る。頭の中ではなぜここにジンジャー・ブレッドがいるのかと考えているが、言葉を発することは出来なかった。

 

「さぁ僕の知りたい情報をはいてもらうよ」

 

 私を隠すように前に移動したディーノの傷を見て、心臓の音がうるさくなった。

 

 そんな中でもパチンという指を鳴らす音ははっきり聞こえた。

 

「いやああ!!!!」

 

 悲鳴のような声だったと思う。何か考えて発した言葉ではなかった。

 

 足に力が入らず、その場にへたりこむ。涙を流れるだけで何も考えれなくなった私を救ったのは、頬に触れた熱だった。

 

「――ぃ! おい! しっかりしろ!」

「…………ディーノ?」

「ああ! オレだ! わかるか?」

 

 焦点が定まらない私に何度も声をかけていたのかもしれない。視界に映ったディーノはどこか焦っていて、私が頷いたのを見てホッと息を吐いていたのだから。

 

「フッフフ♪」

 

 脅しだ。私がジンジャー・ブレッドの指を弾く行為の意味を知っていると確信してやったのだ。

 

「フミ子、動くな!」

 

 仕掛けようとしたフミ子を止める。私のために行動しようとしていたのに、きつい口調になってしまった。

 

 全て私のミスだ。

 

 私は見誤ったのだ。ジンジャー・ブレッド――復讐者がどれだけチェッカーフェイスに復讐したいと思っていたのかを。

 

 ジッと彼を見る。彼は私の心配しながら警戒を続けていた。私は白蘭を倒せば生き返ることを知っている。だけど今、彼を失うことが耐えられない。今ならわかる。10年後のディーノの気持ちが……。

 

 心が、折れる。

 

 彼がいなければ、彼が私の心を守ってくれなければ、兄を救う希望を持つことも出来なかった。それぐらい彼は私の中で大きな存在なのだ。彼が死んでしまえば、私は再び動けなくなる。

 

 ――違う。

 

 ただ。

 

 ただただ。

 

 好きなんだ――。

 

 どんな理屈を並べても、この感情には勝てない。話せば、未来が変わってしまうかもしれない。アルコバレーノ達を救うことが出来ないかもしれない。でも、ディーノには生きてほしい。

 

「話す! 話すから――」

 

 ビキッ、ピキッと壁が割れ始めたことに驚き、言葉が続かなくなる。そして、轟音と共に魔王が降臨した。

 

 彼のバックには増殖し大きくなったハリネズミがいて、魔王に相応しい派手な登場だとのんきに思ってしまった。

 

 その魔王はジッと私達の顔を見た後、ジンジャー・ブレッドに目を向けた。そして、ハリネズミをジンジャー・ブレッドにぶつけた。

 

「なんでだよ!?」

 

 思わずツッコミをしてしまい、ゆっくりと魔王がこっちに振り向く。ゴゴゴゴと効果音が聞こえそうなのは気のせいだろうか。だが、それでも言いたいことがある。

 

「一歩間違えば、ディーノが死んでいたんだぞ!?」

「っ!?」

 

 沢田綱吉達にはジンジャー・ブレッドの攻撃は食らうなというアドバイスしかしなかったので、そのことを知ったディーノは驚いていた。が、とりあえずスルーである。なぜなら完全に動かなくなってるからいいものの、もし操ってる人形が壊れていなければ、ディーノは助からなかっただろう。復讐者は闇の炎しか使えないので、人形がなければ成長させることは出来ないだろうからな。

 

「それが何? それまでの男だっただけの話だよ」

 

 口をパクパクするしかなかった。何を言っても、通じない気がする。魔王だからか!

 

「お前のアドバイスを聞いていたのに、攻撃を食らったオレが悪かったんだ」

 

 おかしい。私が変なのか。なぜディーノも魔王の味方をする。

 

「パフォ」

 

 ポンッと私をたたき、慰めるようとするフミ子を見て、私は思いっきり脱力したのだった。

 

 

 

 

 私が復活した頃には、雲雀恭弥は居なくなっていた。先に進んだのだろう。あまり時間がないからな。

 

 ディーノはというと、ジンジャー・ブレッドの形跡だったところから匣兵器を回収していた。炎切れするまでは使えなくても持っていた方がいいと判断したようだ。ディーノが気付かなければ、私もそうしていただろう。

 

「……赤くなっちまったな」

 

 戻ってきたディーノに言われ、首をひねる。

 

「すまん。オレのせいで……」

 

 ディーノの手が頬に触れ、泣いたことだと察した。しかし、ディーノに責任があるとは思えない。あの攻撃はランダムに増え続ける防ぎにくいはずだ。熱反応に気付いたラル・ミルチでさえ、カスっていたのだから。さらに狙いは私だった。感謝はしても、責めることはない。

 

「……怪我」

「ん? これぐらい問題ねーよ」

 

 まだジンジャー・ブレッドの匣が戻ってないので、フミ子で治療することが出来ない。もしかしたら大丈夫かもしれないが、怖いからな。

 

 咄嗟にリングの炎で防いだため、かすり傷程度で済んでよかったのか。それとも、私のせいでディーノが死ぬかもしれないところだったと考えた方がいいのか……。

 

「ディーノ……」

「どうした?」

 

 声が少し震えてしまったためか、ディーノが心配そうにしていた。

 

「ごめん。今回、わからなかった」

「なんだ、そんなことか。こういう時のためにオレがいるんだ」

 

 私の頭をガシガシと撫でながらディーノは言う。が、この道を進むことを決めた時に私は恐怖を感じなかったのだ。見過ごせる内容ではない。

 

「大丈夫だ。助かってる」

 

 されるがまま頭を撫でられながら思った。この戦いが終われば、ロマーリオに来てもらおう。白蘭は小休止といい、手を出さなくなるから問題ないはずだ。

 

 復讐者が自ら来ないのはジンジャー・ブレッドと繋がってるのを奥の手として残しておきたいからだろう。準備が整えれば、復讐者は来る。私のそばに居るのは危険すぎるのだ。

 

 彼に何かあると私は耐えれない。

 

「……ありがとう」

 

 珍しく素直に伝えることが出来れば、ディーノは驚き、そしてふわりと笑った。こういう顔を見れるから、苦しいのに止められない。

 

 どうか、どうか好きになったことだけは後悔させないでくれ、と心の中で祈ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 相談した結果、私達は幻騎士の部屋を諦め、雲雀恭弥の後を追った。彼がこのアジトで暴れ始めたので、もう時間がないと判断したのだ。

 

 スクーデリアに乗ったのもあるが、雲雀恭弥が壁を壊していったので追跡が楽で、すぐに追いつくことが出来た。問題は部屋を見ても全く状況が読めないことだった。

 

 満身創痍。

 

 雲雀恭弥以外のボンゴレ勢にピッタリ当てはまる言葉だ。いや、彼女達は大丈夫そうだな。肩で息をしているだけのクロームを見ると、ボロボロの彼らと違い、少し遅れてやってきたのだろう。草壁哲也とランボは元気そうだしな。

 

 対して敵はというと、肩で息をしていたがまだ戦えそうである。

 

「総力戦になったのか?」

 

 入江正一もハラハラドキドキだろう。私もこの状況は予想外である。

 

 胃薬は絶対に渡そう。と頭の隅に思いながら、雲雀恭弥を見る。

 

「小さいな」

 

 思わずボソッと呟けば、睨まれた気がする。彼も年頃の男だったようだ。

 

 くだらないことは頭の隅に追いやり真面目に考える。10年後の雲雀恭弥が戦った時間はなかったと思う。私達はそれほど遅れてはいないはずだ。……珍しい。彼が時間配分を間違えるとは。いや、少し違うのか。ディーノを助けるために貴重な時間を割いたのかもしれない。

 

 入れ替わってしまったので真意を確かめることは出来ないが、私がすることは1つだろう。

 

「雲雀恭弥、足元に転がってる匣にリングの炎を突っ込んだ方がいいぞ」

「……へぇ。いい度胸だね。僕に命令するんだ」

「命令じゃなく、提案だろ。あーそうか、あの時は偶然で今は出来ないのか。悪い」

 

 激しく炎が吹き出た。わざと挑発したのだが、背中に嫌な汗が流れる。ディーノが後ろにいるので、やめてほしい。死にたくなる。

 

「雲の人、後ろ!」

 

 クロームの叫びで幻海牛を防ぐことが出来たようだ。知識通りに進むと思い黙っていたのだが、さらに私に向かっての殺気が増えた。

 

「提案も命令になるみたいだからな」

 

 再び挑発する。実はこの挑発する未来をみた気がするのだ。何が何でも匣をあけてもらうぞ。ディーノもそれをわかっているのだろう。特に止めはしない。まぁ雲雀恭弥が私に攻撃を仕掛ければ手を出すと思うが。

 

 結局、雲雀恭弥はムスっとした表情で匣に炎を突っ込んだ。それを見て、ディーノに小声で指示を出す。

 

「至急、草壁哲矢の方に集めてくれ」

 

 至急と言ったので、何も聞かずディーノは動き出した。ただ、私を降ろさずにディーノが降りるとは思わなかったが。おかげで慌てて手綱を握る。

 

 ど、どうすればいいのだ!?

 

 頼りない騎手にも関わらず、スクーデリアは草壁哲矢の方へ移動してくれた。頭のいい馬である。偉そうに私の前に座ってるだけのパンダと違うな。

 

「パフォ!?」

 

 どうやら心の声が駄々漏れだったようだ。ドンマイである。

 

「この後にいっぱい頼むことになるから、今は戻ってて」

 

 ショックを受けていたフミ子だったが、大人しく匣に戻っていった。やはり炎が残ってさえいれば、勝手に戻ったり出てきたりするのか。なんて自由気ままな匣兵器なのだ。誰かさんにそっくりである。

 

「始まったか」

 

 暴走である。……しまった。呟けば良かった。腕が落ちてしまったようだ。

 

 若干ショックを受けながら、やるべきことをする。基地を動かせない入江正一の代わりに、彼らを脱出不可能な部屋に連れていこう。

 


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