クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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分断 2

 揺れが止まった。思ったより時間が短かったな。

 

「……もう大丈夫だ」

 

 ディーノの声に我に返り、距離をとる。といっても、抱きかかえられている状況なので、ほんの少ししか離れることが出来ないが。

 

「わ、悪い……」

 

 とりあえず、しがみついたことを謝る。緊急事態なので謝らなくてもいい気もするが、あれは抱きついたといってもいい。恥ずかしい気持ちを抑えるためにも謝ったほうが精神的に楽なのだ。

 

 しかしそんな私の焦りに気付かず、ディーノは顔を覗き込んできた。ち、近い……。

 

「怪我はないか?」

「……ぁ……ぅ……」

 

 なんだ、その中途半端な返事は!!と心の中で自身でツッコミをしているが、そろそろ限界だ。緊張しすぎで涙が出そうである。

 

「パフォ!」

「ぅぐっ!?」

 

 どこから湧いてきたとツッコミしたいが、フミ子の体重全てが鳩尾にクリーンヒットしたのでそれどころではない。ディーノは慌てておろし、咳き込む私の背を撫でてくれた。

 

 私は咳き込みながら、フミ子を見る。ディーノが匣から出した素振りは一切なかった。炎を全て使わず残していたと結論する。なんて自由気ままな匣兵器なのだ。全く、主は誰だ。まぁ心配しているようなので怒りはしないが。……べ、別に身内びいきではないぞ。

 

「もう、大丈夫」

 

 いろいろ、と。そう心の中で付け加えながら、ディーノを見る。……うん、大丈夫だ。おっふと言わなくて正解だったと思えるぐらい大丈夫だ。

 

「γ達は?」

 

 やっと周りを確認できた私はγ達がいないことに気付く。そういえば、何か叫んでいたな。ディーノに説明してもらえば、γ達と分断されたらしい。正しくは野猿と太猿が分断されたそうだったので、γが無理に彼らの方へ行ったらしい。全く、無茶をする。どうせ無茶をするなら、彼らをこっちに引っ張ればいいものの……。と、思うものの何も出来なかった私が口に出せるはずもなかった。とりあえず、健闘を祈る。

 

 改めて周りを確認すると、違和感があった。部屋と部屋との継ぎ目に段差があるのだ。匣兵器としての役割があるこの基地では、全ての部屋が立方体に作られている。段差が出来るはずがないのだ。

 

 さらに私達の前には扉が2種類ある。入江正一が、選択する道など用意するだろうか。

 

「妙だな」

 

 ディーノも同じことを思ったらしい。壁を触って確かめていた。その隣でフミ子も触っていたので、つい和んでしまった。

 

「パフォ」

「これは……!」

 

 ディーノが驚いているので近づく。いったい何があったのだろうか。

 

「バラ?」

 

 バラにしか見えないのに、思わず確認してしまった。壁の隙間からバラの花が咲いていたのだ。驚くしかない。

 

「この隙間にカビが生えていたんだよな?」

「ん。晴の活性でそれを利用して動く仕掛けだったはず」

 

 しかし実際にはカビではなく、バラが咲いていた。

 

「……桂の仕業だ。バラの花が咲いたのは今フミ子が炎を流したからだ。桂はこの基地の仕組みに気付いて、罠をはっていた。それでも基地が動いてしまったのは、成長するのに時間がかかったからだ。お前はそれをオレ達に教えたかったんだろ?」

 

 フミ子が頷いた。

 

 兄は思ったのだろう。この匣兵器を使うのは緊急事態だ。例えば、私達が乗り込んだ時とか。

 

「入江正一は焦ってるだろうな」

 

 心の中で合掌する。……後で、胃薬をあげよう。Drシャマルが用意してくれた物だから、少し良くなるはず。

 

「だろうな。まっ、オレ達も困っちまったけどな」

 

 それもそうだろう。移動させられる予定で行動していたのだ。他人事ではない。

 

 先程までのように動くべきだろうか。しかし安全な方ばかり進み、目的地にたどり着かないのも困る。せめて現在地がわかればいいのだが。……いや、まてよ。

 

「ディーノ、私の感覚では移動した時間が短い気がする」

「それであってると思うぜ。オレには基準がわからないから確信を持って言えねーが、桂のせいであまり動かせなかったのは間違いないだろう。床がずれてるのがその証拠だと思うぜ?」

 

 その言葉を信じて地図を見る。そしてディーノに質問する。この部屋の前後はどのように動いたのか、を。

 

 もちろんそれだけでは情報が足りない。

 

 先程の部屋でいた私の恐怖。恐らくあの場所のままだと、もっとも会いたくない相手と遭遇することになったのだろう。この基地でもっとも会いたくないのは、幻騎士――。

 

 しかし幻騎士は山本武と戦うはずだ。知識で戦っていた。γが味方になった時点でそれはズレているかもしれないが、私が入江正一なら幻騎士とぶつけるだろう。2人は剣士なのだから。つまり幻騎士は山本武と戦うはずだった場所に移動している途中だったと考えるべきだ。

 

 2人がぶつかり戦ったであろう場所は、わかる。雲雀恭弥と幻騎士が戦った場所と同じなのだ。研究所は移動していないので、知識と照らし合わせれば割り出せる。

 

 他にも細かなヒントを見逃すな。知識では入江正一が匣兵器を起動すると決めたのは、獄寺隼人達が研究所に目前だったからだ。

 

 逆算だ。逆算して、全ての条件を当てはめろ。

 

「お前……」

 

 無数の選択の中では最短の道を探せ。入江正一の頭の良さを信じろ。

 

 難しく考えるな。ただの変則立体パズルだ。

 

 周りに空洞がなければ移動が出来ないんだ。大きく考えすぎるな。コンパクトにそして全体を見るんだ。

 

 違う。これをこっちに移動すれば行き詰る。

 

 落ち着け。ミルフィオーレの立場に居る入江正一の気持ちになれ。優先順位は研究所の安全だ。

 

 考えろ、考えろ、私には知識があるんだ……!

 

「っ! ディーノ、わかったぞ!!」

 

 まるでピースが当てはまったように理解し、喜びが爆発した。もちろん、全てがわかったわけじゃない。だが、おおよそだが今どこに自身がいるのか、この部屋の近くには何の部屋があるのか理解できた。完璧に理解するには歩いて部屋を確認していくしかないだろう。それでも入江正一が動かそうとしたルートがわかったのだ。これはディーノに報告するしかないじゃないか!

 

「ディーノ?」

 

 首をひねる。ディーノは私と違い、何か不安そうに見える。

 

「……1人で行くな、頼むから――」

「一緒に行くに決まってるだろ。私が1人で行くと思ってるのか?」

 

 全くディーノは何を考えてるのだろうか。思わずさえぎって言ってしまったじゃないか。まさか私が敵陣に1人で向かっていくと思ってるのか。そんな危ないことはしないぞ。

 

 ……いや、その、数週間前のことは忘れたわけじゃないぞ。反省している。……ごめんなさい。

 

 急にオドオドしだした私を見て、ディーノが笑った。失礼である。まぁ謝りながら頭を撫でたので許してあげよう。私は心が広いのだ。

 

「それで何がわかったんだ?」

「そうだ! ディーノ、聞いてくれ!」

「わかった。わかった。だから落ち着け、なっ?」

 

 なだめられたが、再び喜びを爆発させた私にはきかず、興奮しながらディーノに説明したのだった。

 

 

 

 

――――――――――――――

 

「どうなってる!?」

 

 自身の思ったとおりに基地を動かせなくなった正一は、原因を探っていた。

 

「ダメです!! 無数の枝が頑丈に絡まりブロックの移動ができません!!」

「なんだって!? 枝……、桂の仕業か!?」

「恐らく」

「くそっ! いくら白蘭サンのお気に入りでも野放しにしておくべきじゃなかった!」

 

 正一は苛立っていた。演技ではなく本当に。本来の目的はこの戦いで彼らを鍛えること。正一はこの戦いで死んでしまった場合はしょうがないと割り切っているが、救える命は救うつもりだ。その手段として用意していたのが正一の匣兵器だった。

 

 それが本来なら味方のはずの桂に妨害された。

 

 桂は正一が味方と知らなかったので、その行動を責めるのは無理がある。だが、苛立つのは苛立つのだ。

 

 それでもまだ正一は冷静だった。すぐにまだ使える機能を調べ始めた。

 

「やるしかない……」

 

 限られた機能で正一の戦いが始まる。

 

 表向きの優先順位はボンゴレの排除と研究所の安全。しかし本来の優先は彼らを鍛え、研究所というゴールに向かってもらうこと。しかしそれを成功させるためには幻騎士を倒さなければならない。他のミルフィオーレは正一でも何とかなるだろう。だが幻騎士がいれば、たとえツナ達がゴールに辿りついたとしても助からない。それほど力に差がある。

 

「幻騎士に繋げてくれ! 今の揺れですぐに気付くはずだ! 研究所までの最短ルートを伝える!」

 

 まずは1人になった山本が戦う予定だったが、それは出来なくなった。2つに分断してしまった彼らのどちらに幻騎士を向かわせるかは、正一の判断に委ねられた。

 

 

 

 

 

 一方、スパナに捕まっているツナは少し前まで落ち込んでいた。

 

 サクラに全力を出せとアドバイスをもらっていたのに、負けてしまったのだ。もっと死ぬ気になれば勝てたんじゃないかという気持ちが大きく、後悔する気持ちを抑えられなかった。

 

 それでもスキを見て逃げ出そうとしたり、次は負けないと思えるようになったのはツナが強くなったからだろう。リボーンと出会う前のツナだったら、どうせオレはダメツナだしと諦めてしまっていたのだから。

 

「(みんな、大丈夫かな……)」

 

 獄寺達と一緒に行動していた時はサクラの話通りだった。自身の失敗さえなければ、上手くいったのではないかという後悔が再びツナを襲う。が、すぐにその気持ちを押さえ込む。先ほどの地震――正一の匣兵器を使った後はサクラにも予測が難しいと言っていたのだ。その匣兵器を使われた今、落ち込んでいるヒマはなくなったのだ。

 

 スパナの様子を見つつ、ツナは死ぬ気丸を探す。正一の匣兵器の影響でドラム缶が倒れ、どこにあるかわからなくなってしまったのだ。幸いにもグローブは近くにあったが、死ぬ気丸はどこかに転がってしまった。

 

 手錠からのびている鎖の音を立てないように立ち上がり、ゆっくり移動しながら探す。その甲斐があって、死角になっていた場所で見つかる。喜んで手を伸ばした時に――。

 

「ボンゴレ」

 

 ――話しかけられた。

 

 ビクリと身体が跳ね、恐る恐る振り返る。ばっちりと見られてしまったらしく、ツナは絶対絶命のピンチだった。

 

 数秒、見つめ合う。先に視線を逸らしたのはツナだ。正しくはツナが先に他の人の気配を感じ、振り向いたからだった。

 




没ルート。
主人公はディーノさんと分断され、γ達と行動。
そのルートで半分ほど書いたけど、気に入らなくて全部消した。
ディーノさんが心配でうろたえる主人公は可愛かったんですけどねww

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