クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

86 / 153
お久しぶりです。
大変お待たせしましたー。

トラブルがない限り、5日連続更新です。


分断 1

 無事に警備システムを破壊できたことにホッとするツナだったが、ラルに一喝される。

 

「破壊したことで敵に気付かれたんだぞ! 気を抜くな!」

 

 すぐにツナが気を引き締めた姿を見て、ラルは余計な一言だったと気付く。そしてもう1つ気付いた。ジンジャー・ブレットとの出会いのせいで1番冷静さに欠けているのは自身だと。

 

 ふと肩に手を置かれる。了平だ。

 

 師匠がコロネロで、この世界で生きた了平の手だ。ラルは振り払うことはしなかった。それにラルが薄々勘付いていることに了平は気付いているのだろう。

 

 移動しながらラルはツナ達を観察する。彼らは気付いた様子もない。

 

 サクラがこの中で1番の足手まといをラルと判断したことに……。

 

 実際は戦闘を回避できるなら回避した方がいいというサクラの安易な考えだ。しかし、次のポイントへの移動のための囮をラルが担当しようとすれば、サクラがツナでなければならない、と言ったのだ。

 

 当然、自称右腕の獄寺は反対した。ツナを1人で危険に晒すわけにはいかないのだ。しかし、サクラの一言で押し黙る。

 

「彼じゃないと死ぬ」

 

 サクラの顔にある隈はただの寝不足じゃないと知っていれば、誰が反対できるのか。ツナに対してのアドバイスは「全力でやれ」という至極簡単なものだったが、サクラの意見が覆ることがなかった。

 

 つまり、ラルはこの短い時間で2度サクラに庇われていることになる。ラルが勘違いするのも無理はない。

 

「……バカか」

 

 思わず出た言葉はたった一撃で死んでしまいそうなサクラに向けてだった。

 

 

 

 

 

 

 

「くはっ!」

 

 路地裏で1人の男が少年の首を絞めていた。

 

「早く吐きたまえ」

 

 首を絞めているにも関わらず、男は少年に問う。男は誰もが見惚れるような顔だったが、あっさりと首の骨を折りそうなぐらい目には狂気を含んでいた。

 

 そう、ここは10年前の世界。

 

 首を絞められている少年は入江正一で、男は桂である。

 

 普段の桂ならば、素人の少年にここまで手荒なことはしなかっただろう。しかし、今回はいつもと違う。サクラの居所が掴めず何日もたっている。やっとのことで見つけた手掛かりを前に我慢することなど不可能だったのだ。

 

 もういっそのこと殺してしまおうか。手掛かりは彼の自宅を調べればいいじゃないか。桂は手に力を入れようとした時に鈴のような声が聞こえた。

 

 ――お兄ちゃん。

 

 慌てて手を離し周りを見渡すが、誰もいない。居るのは咳き込む少年だけだ。

 

「……うん、そうだよね。サクラ」

 

 我に返った。桂の腕があれば、気付かれずに少年の家に入り探ることだって出来る。サクラが悲しむ方法を選ばなくていいのだ。

 

 再び桂は少年の首に手をあてる。そのことに少年は肩を震わせるが、痛みは来ない。どちらかというと暖かい……。

 

「すまなかったね」

 

 少年の治療を終えた桂は手を離し、去ることにした。これ以上少年の前にいても怖がらせるだけなのだから。

 

「ちょっと待ってください! か、神崎桂さん!」

 

 いきなり現れ、首を絞めた男を呼び止めたことに桂は疑問を感じる。が、止まらない理由はない。復讐してきたとしても桂には返り討ちに出来る強さがある。

 

「その、僕にもよくわからないんだけど……これを渡さないとダメみたいなんだ……」

 

 手紙だった。

 

 少年は桂が受け取ったことに一先ず安堵する。一先ずなのは、手紙には一言しか書いていなかったからだ。先ほどまでの桂の行動をみれば、再び首を絞められるかもしれない。が、渡さないという選択は少年にはない。脅迫されているからだ。

 

 はっきり言って、好きな子の名前を暴露されてるより首を絞められる方が問題なのだが、子どもだからなのか、桂に謝られたので大丈夫と思ってしまったのだ。

 

 再び桂は少年に手を伸ばす。ビクりとした少年を見て一瞬手を止めたが、少年の頭に優しく撫でた。

 

「ありがとう」

 

 手紙を大事にしまって、今度こそ歩き出す。

 

 桂はもう焦ることはなかった。手紙にサクラの字で『待ってて』と書いていたのだから――。

 

 桂にはサクラがどこに居るかはわからない。が、『待ってて』と言ってるのだ。つまり必ず桂の前に戻ってくる。それだけ十分だった。

 

 しかし、桂は知らない。この手紙は白蘭によって崩壊した未来から送られたもので、その未来ではサクラが死んでいることを……。

 

 これは姿を消したサクラが約束した月に一度の手紙で書いたものだった。桂に向けて出せなかった時のものをディーノが捨てず残していたのだ。もちろん残っていたのは運もあっただろうが、ディーノがサクラのために大事に保管していなければ、とっくの前に消失していたものだろう。

 

 崩壊した未来の正一は桂の危険性を身をもって知っていた。過去の自身をつかって、ツナ達に10年バズーカを当てた新たな未来を作ると決めた時、正一は桂の存在に悩んだ。

 

 10年前の桂ならば、ツナ達の味方だろう。サクラは入れ替わって元気になり、未来の自身が解放すれば人質ではなくなるのだから。

 

 だが、白蘭は桂を壊す方法を知っている。

 

 新たな未来の桂も壊されてる可能性が高いが、たとえ入れ替えたとしても同じことを繰り返すだけなのだ。それならば新たな未来の自身の作るだろう装置の負担を減らすことにした。もっとも、手紙が見つからなければ、計画に支障をきたす可能性が高いので未来にさっさと送っていただろうが。

 

「サークーラー!」

 

 こっそり渡してきたことを思い、探すフリを続けることにした桂はこのことに気付くことはなかった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 ブルっときた。

 

「……こっち」

「本当に大丈夫なのか……?」

 

 γの呟きはスルーする。ディーノがフォローしているし大丈夫だろう。私はそれどころではないのだ。何度も悪夢を見たせいか、分かれ道などを選択するときに1つ以外の道は悪寒が走るのだ。夢の内容を書いたノートを持ってきたが、身体で覚えているようだ。……多分。

 

 だがまぁ、大丈夫だろう。実際に私達が突入した時点でメインルートの封鎖が始まっていたが、まだ誰とも会っていない。

 

 もっとも封鎖が始まったのがジンジャー・ブレッドが報告したなのか、交渉によって見逃されて警備システムが破壊されたことで気付かれたのかはわからないが。やはり電波が悪すぎる。連絡を取りたいものである。

 

「こちら、サクラ。予定通り進行中」

『…………』

 

 返事がないと妙に恥ずかしい気がするのは気のせいだろうか。

 

「全然使えねーな!」

 

 相変わらず思ったことをはっきり言う男である。しょうがないので、野猿に説明する。

 

「使えないように見えて、ボンゴレアジトには届いてる時があるんだ。そろそろ沢田綱吉がやられるはずだから、こっちの情報だけでも教えたほうがいいと思うしな」

「……今、変な言葉が聞こえたのは気のせいか……?」

「ん? ボンゴレアジトに届いてることか?」

「そっちじゃねぇ!」

 

 なぜかディーノとγからのダブルツッコミがやってきた。不思議である。

 

「ツナがやられるってどういうことだ!?」

「教えたら君達は止めるだろ?」

 

 ガクッとディーノは項垂れた。お疲れである。

 

「オレ達がボンゴレと組んでるのは利害が一致してるからってわかってるのか?」

 

 γの言葉を聞いてディーノは私を守るように移動した。忙しそうである。

 

「これも予定通り。もう1人、仲間に引き入れる」

「……相手は誰だ?」

「心配しなくても幻騎士のような裏切り者じゃない」

 

 考え込んでるγにもう少し教えることにしよう。変な気をおこしても困る。それにディーノが私を守りながらも沢田綱吉の心配をしてそうだしな。

 

「彼を仲間に引き入れなければ、この戦いは負ける。だから沢田綱吉を行かせたんだ」

「はぁー……ったく、わーったよ。お前がそこまで言うんだ。ツナじゃねーといけねぇんだな」

 

 警戒しながらも納得するとは器用なものだ。問題のγ達はどうだろうか。

 

「……こっちでいいのか?」

「ん」

 

 γ達が歩き出したので、ディーノと目が合い、私は笑ったのだった。

 

 

 再び歩き出した私達だったが、γ達が前に出たことによりディーノが1番後ろで警戒する形になった。当然、私はど真ん中である。

 

 そのため私の異変に誰よりも先に気付いたのはディーノだった。

 

「γ、ちょっと待て!」

「……違う! 走れ!!!」

 

 私の震え方が尋常じゃないことに察し、ディーノがγを呼び止めようとしたが、間違いである。今すぐこの場所から離れなければならない。

 

 この中で1番走るのが遅いのは私だ。つまり最後尾にいるディーノも、このスピードに付き合うことになり遅くなる。このままではまずい。

 

 同じようなことを思ったのか、ディーノが謝りながら私を抱き上げた。慣れたものである。……横抱きというのは勘弁してほしかったが。

 

 ゴゴゴという音が聞こえ始めると、床が動き出した。あまりにも揺れがすごく、飛んでいきそうだ。慌ててディーノにしがみつく。

 

「兄貴!」

 

 太猿と野猿の声が聞こえ、その後すぐにディーノが「あいつら……」と言った。しがみつくことに必死な私は、揺れが収まるまで何が起きてるのかわからなかった。

 




ちょっと三人称が多くなります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。