何か音がした気がする。
「っ! 起きたのか……」
ボーッとしているとディーノに声をかけられた。……どうやら私は眠ってしまったようだ。最後の記憶では獄寺隼人とγが戦っているのを見て、彼らは元から相性が悪かったのかと思ったところで途切れてるからな。それにしてもフラグを折ったのに仲が悪いとは困ったものだ。
眠る寸前に何をしていたのかを思い出し終えたので起き上がろうとして気付く。腕に何かコードのようなものがついている。目で追ってみると、点滴だったのでギョッとする。よく考えると、床が冷たくないし硬くない。私はいつベッドに移動したのか。それにディーノの服装が違う。
「やっぱり……覚えてなさそうだな」
不思議そうに首をひねってる私を見て、ディーノが確認するように聞いてきた。全く覚えてないので頷く。少し悩んだようだが、ディーノは話し始めた。
ディーノの話を聞き、思わず眉間に皺がよった。勝手に身体をのっとられたのだ。嫌な気分になるのは当然だ。私はそこまで心が広いわけではない。
とりあえずディーノが預かった紙を受け取り見てみる。が、よくわからなかった。本当に私に理解できる内容なのかというツッコミをしたいぐらいだ。
「今日1日で何とか出来る内容じゃないな」
期待してるかもしれないので、先に伝える。このレベルの問題を解くにはそれこそ入江正一やスパナの協力が必要だろう。ジャンニーニと私だけで解けるとは思えない。まして明日はメローネ基地に乗り込むのだ。時間が足りなすぎる。
「……今、何時だ?」
ふと気付く。私は眠っていたのだ。それこそ点滴が必要なレベルで。ディーノを見たが、答えようとしない。
違和感はずっとあった。私がディーノの服が違うと断言できたのは、スーツを着ていたからだ。この時代にきてから――……今まで私は1度もスーツ姿のディーノを見たことがない。
つまり、彼は乗り込むつもりだったのだ。
「バッ! ……何とかしろ」
怒鳴ろうとしたが、なんとか我慢した。彼の性格はわかってる。それに元々は起きなかった私が悪いのだ。まぁそれでも腕を差し出し点滴を外せと言うのだが。
ディーノは諦めたように針を抜いた。全く、私が起きなければ本気で置いていくつもりだったな。
「彼らは?」
「もう向かってる。恭弥は別だが……」
原作通りのようだ。一時はどうなることかと思ったが。
雲雀恭弥が1人で大人数を引き受けるという話をした途端、沢田綱吉の反対が凄かったからな。なので、私は雲雀恭弥を説得出来れば誰か残ればいいという風に丸投げした。結果、沢田綱吉は修行で咬み殺されるレベルがあがった。ドンマイである。
恐らく彼は強いから問題ないということを身体で教えたのだろう。決して面倒ことを丸投げされたことに苛立ち、沢田綱吉に八つ当たりしたわけではない。……はず。
ま、まぁ大丈夫だろう。彼だってわかってるのだ。入江正一が仲間でこれぐらい想定の範囲内だと言えないことを。……多分。
「本当に大丈夫なのか?」
ブルッとしたのは雲雀恭弥のせいだったので問題ないといい、着替えるためにディーノを追い出したのだった。
扉を開けるとディーノとγ達がいた。流石にもう置いていくことはしなかったようだ。実際は起きてしまったので、置いていっても1人で勝手に行く判断したのだろう。正解である。
「私達も行くぞ」
偉そうに声をかけたが、先頭で歩かずディーノの後を着いていく。我ながら残念すぎる。
ディーノの足が一瞬だけ止まったので覗けば、アジトの出入口のところでクロームが居た。見送りに来たのだろう。幻覚は安定しているが、原作通り彼女は後で行くことになってるからな。もちろんランボは必ず連れて行くようにと伝えている。
「…………」
無言である。クロームは見送りにきたが、あまり接点のない私になんと言えばいいのかわからないのだろう。友達いない暦がほぼ同じなのだ。気持ちは凄くわかる。それでも見送りにきたのは、いい兆候なのだろう。私が黒曜アジトにいる間にちゃんと食事を取って笹川京子達と話せるようになっていたからな。
「この作戦が成功すれば、六道骸の情報がつかめる」
「!」
「いろいろ情報が少なくて、悪い」
「……ううん。気をつけて」
彼女も文句を言わないな。クロームが突入する正確なタイミングがわからないし、六道骸がやられるのを知っていて黙っていたにも関わらず――。
私の考えに気付いたのか、ディーノがいつものように私の頭をガシガシと撫でるのだった。
「ん? なんだ?」
一瞬、私に声をかけたのかと思ったが、ディーノはγに声をかけたようだ。
「……いや、なんでもない」
曖昧な返事だな。だが、私はγの様子を見てなかったので考えてもわからない。なのでディーノを見る。目で大丈夫だと言ったので気にしないことにした。
またこの場所に来ることになるとは思わなかったな。と、思いながら路地の行き止まりに立つ。
「間違いないか?」
ディーノの確認に頷く。γ達もこの出入口は知らないので私が答えるしかないのだ。ここはメローネ基地の隣にある兄のアジトの出入口なのだ。ディーノとγが行き止まりを調べてると、画面が現れ『問題です』という一文が出た。
「なんだ……これは……」
γの呟きに激しく同意する。私も同じことを思ったぞ。
「お前がいれば、簡単に開くという話じゃなかったか?」
「間違ってないぞ。これを解けるのは私の家族ぐらいだからな」
白蘭も能力を使えば、解けるだろう。もっともわざわざ体力を消耗してまで解きたいとは思わないだろうが。
黙々と解いていくと、後ろの方でドン引きしている気配がするのは気のせいだろうか。……問題はランダムで以前解いた問題は2問しかなかったとことは黙っておこう。これ以上ドン引きされたくない。私は兄と違って普通の感性の持ち主だからな。
全ての問題が解き終わり振り向くと、野猿が「すっげー。変な問題を全部解いたぜ!」と言った途端、γに殴られていた。……うん、いいぞ、もっとやれ。
「行くぜ」
ディーノの声に我に返り、緊張しながら私は再び敵のアジトに足を踏み入れたのだった。
慎重に進んでいくディーノに着いていきながら、あたりを見渡す。やはり裏切った兄の手がかりを求めて、探し回ったのだろう。部屋の扉が壊れていた。
そして、とある扉の前で足が止まってしまった。
「この部屋なのか?」
私は頷くこともせず、部屋を見つめる。すると、なぜか眠ってる私に兄が話しかけてる姿がすぐに浮かんだ。返事も出来ない私に、だ。
「……悪い、時間を取らせた」
ディーノが声をかけたそうにしていたので、無理にでも笑うことにした。悠長に話す時間もないのだから。
前を向いたディーノの手が硬く握りしめていたのを見て、少し気持ちが上昇した。
――――――――――――――
γはディーノの手が硬く握られているのを見て、こっそり溜息を吐いた。
γ達が大人しくサクラ達の後についていくのは、メローネ基地との戦いでボンゴレが勝利しなければ、γ達の目的であるユニの奪還が厳しくなるからだ。
サクラと再び出会った時は確かにγにとって状況が悪かった。が、サクラの提案に乗らず、二重スパイという方法もあった。素人同然のサクラや子どものボンゴレと行動するのもやはりリスクが高かったのだ。なので、サクラから話を聞ければ裏切ることもできた。
しかし、γはサクラ達と組んだ。
γが決断した理由は、サクラがユニに似ていると思ったから。似てるといっても顔や能力が同じだからではない。サクラのディーノへ寄せる信頼が自身達と重なったのだ。
その感覚は一緒に行動するようになり、日に日に増えていく。それはγについて来た太猿と野猿も同じだった。
はっきり言って完全に信用するのは危険すぎる。それでも感情がγの判断を鈍らせる。
「(まいったな……。厄介な奴と組んでしまった)」
そんなことを考えていたγがサクラと目が合う。
「最悪の場合、私達を捕まえたと言って身の安全を確保しろよ。……最悪の場合だぞ」
サクラの考えは捕まったとしても、入江正一が向こうにいる限り殺されはしないだろうという意味で言った。しかしそれを知らないγは虚をつかれた。
「(おいおい……オレは敵だったんだぞ)」
サクラは返事も聞かずに振り向いたのを見て、γは再びこっそり溜息を吐く。ユニに害を与えない限り裏切ることは出来なくなるほど情がわいてしまったことに気付いたからだった。
一方、サクラより先に侵入していたツナ達はとある人物と対立していた。その人物と出会うだろうとサクラから話を聞いていたため出会ったことには驚いていないし、ツナはサクラから見逃してもらえる可能性がある策を教えてもらっている。そのため対立する必要はないかもしれないのだ。しかし、相手の言動によりツナ以外は戦う気になっている。特に了平とラルが。
そう、対立している人物はジンジャー・ブレッド。直接手を下したわけではないが、コロネロの仇には違いない相手なのだ。
「ちょ、ちょっと待って!」
倒すために前へ出ているラルに声をかけるツナだったが、止まる気配はない。ラルは怒りを必死に抑えてはいるが、もうジンジャー・ブレッドを逃がす気はさらさらないのだ。
「こーゆー時、どーすれば良かったんだったっけ!?」
ツナは慌ててサクラから渡されたジンジャー・ブレット対策を書いている紙を取り出し読む。戦わずに済むならツナは出来るだけ避けたいのだ。たとえ、相手が悪い奴だとしても。
「えーっと……もし戦闘になりそうだったら『チェッカーフェイス』と叫べ?」
こんな単語で止まるの?と思ったツナだったが、視線を感じ顔をあげる。
「うわっ!?」
いつの間にか目の前にジンジャー・ブレットが移動していて、ツナは驚き尻餅をついてしまう。もちろんすぐに獄寺達がフォローにまわり警戒するのだが、ジンジャー・ブレッドは気にも留めない。先程までの飄々とした態度もなくなり、殺気を放ち別人になったようだ。
「こ、交渉したいんだ。君が探している人物の拠点だった場所の1つを教えるから、オレ達を見逃してほしい」
「沢田!?」
ツナは覚悟を決め、元々伝えるつもりだった言葉を伝える。すぐにラルから反対の声があがるが、ツナも引くつもりはない。ジンジャー・ブレッドと戦えば、無傷では済まないという話なのだ。現にサクラからここで出会えば不意打ちで攻撃されると助言されていたにも関わらず、ラルは回避できなかったのだから。
「……僕と交渉ね」
「そう、なんだ。でも白蘭を倒すまでそれは話せない……じゃなくて、話すつもりはない」
サクラは伝え間違えるなと念を押されていため、ツナは慌てて言い直す。
「フフッ♪ そんな内容で僕と交渉できると思ってたのかよ」
「う、うん。それしか教えてくれなくて……でも時は近いって言ってたよ」
ツナは深く内容をしらない。そのため『時は近い』という意味を話せる日が近いという風に捉えてる。しかしジンジャー・ブレッドには正しく伝わる。勘付かれないようにサクラが言葉に気をつけて話していることに気付いているからだ。
「交渉成立。君達は見逃してあげるね」
パチンと指を鳴らすと、ラルの傷口から蜘蛛が出てくる。そのことに1番驚いたのはラルで、サクラが回りくどいことをしてまで守ろうとしたのが自身だと知る。
……実際はただのサクラのわがままだが。
当然、サクラはラルが自力で解決できることを知っている。が、この時代には匣兵器があるため、呪いを解く可能性があるならば無理をしないほうがいい。そして詳しく話せない分、サクラには負い目がある。自身の精神安定のためにこの戦いを回避したいだけなのだ。
なんとかラルが気持ちを押し殺し、無事にジンジャー・ブレッドとの戦いを回避したツナ達だったが、最後まで「『君達は』見逃してあげる」の言葉の意味に気付くことはなかった。
桂「僕の出番が少なく、寂しい思いをしてないかい? ……そうだろう。そうだろう。さぁ存分に僕を見るがいい!!(パシッ)……ふむ。僕が出てきたのはアジトの出入口を説明しようかと思ってね。みんなも知っての通り、問題はたった10問さ。徐々に難易度が高くなっていくのが特徴だよ。第一問には10問用意してある。その中からランダムで出題するのさ。第二問からも同じように設定してあるよ。つまり、全部で100問あるのさ。簡単だろ? ……難しい? 理解出来そうにないが、しょうがないね。アドバイスしてあげよう。僕は優しいからね! 間違っても1問目からやり直しになるだけだよ。ほら、簡単だろ? 扉を開けることが出来れば、少しはサクラの相手として認めてもいいかなと思ってるよ。最低条件はクリアしてるからね。ああ、本当に僕はなんて優しいんだ!」
作者から一言「桂さんを書きたかっただけです。すみませんでした。ちなみに問題は全て入力式です。……つらたん」