全く、さじ加減が難しい問題ばかり押し付けられてる気がする。しょうがないことだと思うが。
「……ユニの様子がかわったのは白蘭に飲まされた薬のせいだ。そしてその効果がもうすぐ切れる」
γは私の話をどこまで信用するのだろうか。少し考え、ディーノに視線を送る。目が合ったので大丈夫だろう。
「こっちの都合上、あまり深くは話せない。が、君には選択してもらう。ボンゴレと組むのか組まないのか」
「……ガキの話をすぐに鵜呑みすることは出来ない」
まぁ当然の判断だろう。
「君がここに現れたのは私の一言が気になり、片っ端から私達が関係しそうな場所をまわっていたんだろ。そして、彼女のことになると気性の荒い君が大人しくこっちの指示に従ったのは、逃げられる確率が高いと判断したからだ。君はディーノの匣兵器を見ているからな」
指示を出したのは私だったが、γの性格からして大人しく従ったことに違和感があった。そこでγの立場から考えてみればすぐにわかった。彼にとって話を聞けず逃げられるのはもっとも避けたいことではないか、と。
恐らく私の出した案は悪くない内容だったのだ。もちろんリングを外し殺される可能性もあるだろう。しかしここには素人同然の私が居る。ディーノがこの場で殺す可能性は低い。悪くない賭けのはずだ。
そして何より彼は先程の戦闘が響いてる。私でもわかる。血の匂いがする。
「私達はグロ・キシニアをつかってメローネ基地を攻略するつもりだった。が、君のせいで予定が崩れた。その穴を埋めるためには手段を選ぶつもりはない。ここまで言えばわかっただろ。君に拒否権はない。――なめるな」
兄やディーノだけじゃないんだ。私のせいで、何人もの犠牲が出ていることに気付かないわけがないだろ。そこまで私はバカではない。
私の言葉で空気が張り詰めた。僅かでもγが動けば、ディーノは攻撃するだろう。あれだけ挑発したのだ。ディーノが動かなければ取り返しのつかないことが起きるからな。なぜなら私はたった一撃で死ぬ自信がある。
「……わかった。お前らと組む」
「ん。早速だが君に頼みがある」
「ちょっと待て。そんな簡単に信用するな」
私がγに頼もうとすれば、ディーノから注意が入った。私は思わずポンッと手を叩く。1つの段取りが抜けてしまっていた。
「大事なことを君に話すのを忘れていた。私はこれ以上彼女の袖を濡らしたくはないと思ってる」
「袖?」
ディーノが聞き返してきたが、私は頷くだけにする。この言葉だけの方が彼によく伝わるはずだからな。
「……くっ、はははは」
γがいきなり笑い出した。ディーノはさらに警戒を強めているが、もう問題ないだろう。
「嬢ちゃん、オレを試したのか?」
「いや、どちらかというとこっちの覚悟を伝えたかった」
「そうか」
話が進む私達にディーノがついていけなくなってる。しょうがないので説明する。
「さっきの言葉で私がユニのことをどれだけ知ってるか教えたんだ。彼女達はわかりにくいからな。あれだけで十分だっただろ?」
「彼女達?」
「そう、彼女達だ」
「……ああ。十分だ」
ディーノには意味が伝わらなかったが、γの態度を見て深く聞くのはやめたようだ。その代わりなぜそっちを先に話さなかったのかと聞かれた。
「理由はさっきも言ったとおりこっちの覚悟を知ってほしかったから。彼には1度メローネ基地に戻ってもらうつもりなんだ。でも、そこで彼は揺さぶられることが起きるはずだからな。いくら私が口で伝えたとしても彼は悩むと思ったんだ」
「……お前も未来がみえるのか?」
「一応」
説明するのも面倒になったので、ついに肯定した。まぁ定期連絡で、クロームと合流した日に六道骸からの幻覚が途絶えたと聞いたときに、沢田綱吉達に私が予知夢を見ているのは間違いないと判断されたしな。その割には今日γと出会う夢を見なかったのだが。
「あ」
そういえば、夢でγと行動するシーンがあった。私はてっきりメローネ基地で出会って説得したのかと思っていたが、このタイミングで先に接触していたのか。全くわかりにくすぎる。
「どうかしたのか?」
「夢の内容に納得したことがあった。後でちゃんと報告する」
ディーノもこの場で聞くべき内容ではないと判断したらしく、深く聞いてこなかった。
「話をする前に……フミ子、眠らせない程度で頼めるか?」
せめてγを応急処置レベルで治療するべきだろうと思ったのだ。難しい注文をしたが、フミ子は頷いたので問題なかったようだ。
γとの打ち合わせは思ったより簡単に済んだ。それも当然で私がわかる範囲が少なすぎるため、γの判断に任せることが多すぎるからだ。まぁ私の予想が大きく外れていなかったのもあったが。
そう、γが戦っていた相手がグロ・キシニアだったことだ。
ちなみに一応味方同士なのになぜ戦ったのかと聞いてみれば、なりふり構ってなかったらしい。情報が少ない中で、こんな場所でグロ・キシニアと出会えば聞き出したくなるのもわからなくもないが。
とにかくグロ・キシニアをγがやったため、γは裏切り者として報告されるだろう。後先考えず行動しすぎである。今まで必死に隠してきたのはなんだったのだ。まぁ殺せば証拠は残らず、ボンゴレがやったと勘違いするという考えで行動しているんだろうが。相変わらずマフィアの考え方は物騒すぎる。今はグロ・キシニアの息があったことを喜ぼう。死んでもらっては困る。
……雲雀恭弥がクロームに向かって言った言葉と同じことを考えているな。なぜ相手がグロ・キシニアなのだ。絵を想像してしまい、気持ち悪くなった。最悪である。
下を向いた私を見て、ディーノは悩んでるのかと思ったらしく、安心させるために私の頭をガシガシと撫でた。γが見ているので、手を振り払ったが少し気分が上昇した。……我ながら単純である。
そんな感じで私の頭では少し脱線していたが、口から出る言葉は真面目な話だった。
γには何事もなかったようにメローネ基地に戻り、匣兵器を受け取ってもらう。そして、すぐさま私達のアジトに来る。後はグロ・キシニアに裏切り者と報告されるのを待つだけである。
はっきり言って作戦という作戦でもなかった。打ち合わせが短く済んだのは当然のことだった。
それでも地味にすることがある。
まずγに発信機がつけられているのかの確認だ。裏切り者と判断されず、ただのマフィア内のトラブルと思われていれば、他の作戦を考えなければならない。まぁ問題なく付けられていたが。念のため、発信機はこっちで預かることにした。γに付けっぱなしの場合、もし彼の身に何かあった時に困るからな。
次にグロ・キシニアをフルボッコ。口に出せば、もの凄く軽い言葉だろう。しかし実際にはエグイ。身体を動かせないように、しゃべれないように顎の骨を砕くのだ。それも気絶している相手にだ。外道である。これは私に気を遣ったのか、γが手を下した。正しくは私に見せずにγとディーノだけで行うつもりだったが、私がいなければディーノはドジなのでγが全てやったはずだ。彼らが実行しているであろう時間は、私も頭が嫌なループに陥っていたのでフミ子を抱きながら過ごし、疲れて戻ってきたγを見て気付いたのだった。これについては本当に悪いと思った。
最後はもしもの場合について。例えば匣兵器を受け取れなかった時はどうするのかという話だ。ここは正直にγに話した。匣は幻騎士から渡されるのだが、幻騎士に預けた時のユニは正常なのかはわからない、と。これはユニがγが死なないように戦力の底上げのために渡したのかもしれないし、幻騎士が勝手にもってきたのかもしれない。原作でも詳しくは書かれてはないのだ。
ユニが逃げている時にγが助けるとわかっていたから渡したのかと考えたが、ユニの様子を考えれば可能性は低い。戦力の底上げだった場合、γ対獄寺隼人の戦いはなくなるため渡す必要がなくなる。結局いろいろ悩んだが、わからないものはわからない。4日たっても渡されないようなら、私達と合流という話になった。
後は細かいことだった。γとの合流は今私達が使ってる無線を渡すことで決まった。つれてきてもいいのは太猿と野猿のみ。当然のことながら、合流時に怪しい反応があれば合流は不可。この合流時の危険な役は私達がするんだろうなと遠い目をしていれば、フミ子がポンポンと私を叩く。……適任がいた。
フミ子は私に害をなすと判断すれば容赦しない。もしもの時は相手を眠らせてもいいし、防がれても自身を治療すれば簡単に死ぬことはない。そしてフミ子は基地の場所を覚えているし、レーダーにうつらない。
それにもしフミ子がスクーデリアに乗ることが出来れば、もっと安全だ。危険と判断すればスクーデリアに乗って逃げればいい。さらにスクーデリアの匣をフミ子が持っていれば、逃げ切った後はフミ子が自力で戻ってくればレーダーにうつらないので無事に戻れる可能性は高い。もちろん2つの匣を失うリスクはある。が、私の夢ではメローネ基地でγと組んで行動していたことを考えると保険にかけすぎなぐらいだ。
γがいるので念のためスクーデリアのことを伏せてディーノに話せば、少し悩んだが悪くないという返事だった。やはり合流時が1番危険だという考えは間違ってなかったようだ。本人もやる気のようだし、連絡をもらえばフミ子がそっちに向かうということになった。γが胡散臭さそうな目でフミ子に向ければ、どこから取り出したのかわからないが笹を食べながら転がっていた。残念すぎる。
他にも頼み事をしたが、最終的にはγの判断に任せるといい、私達は別れた。見張りをつけることは叶わないので裏切る可能性もあるのだ。アバウトぐらいがちょうどいい。
γを見送った後、ディーノの意見を聞いてみた。
「裏切らねぇだろうな。あいつは裏切り者扱いになれば、ユニって子と会うためにはオレ達と手を組むのが1番いい。裏切り者扱いにならないためには、グロ・キシニアを殺すしかない。そのタイミングは今しかない。基地に戻れば手を出せる可能性が低いからな。多少の状況が悪くなっても裏切れねぇ。まぁ、あいつがユニって子をどれだけ大事にしてるかによるが……。その心配はしなくていいんだろ?」
それについては自信を持って頷く。
「それにな、予知されると思ってしまえば、下手な行動はできなくなるんだぜ?」
ついディーノを凝視してしまった。自身が裏切る可能性を低くしてることに全く気付かなかったのだ。
「やっぱり気付いてなかったのか」
ディーノに頭をガシガシ撫でられたが、今度は手を振り払わない。嫌な夢ばっかり見ているだけで、役に立ってるのかわからなかったが、今はっきりと自覚できた。
思わずディーノの服を掴み、下を向きながら声を出す。
「ほ、ほめても何も出ないぞ」
「……そうだな」
数滴、何かが落ちたことにディーノはツッコミしなかった。