短いですし読まなくてもいいですが、「っぽいもの」なので伏線は入ってます。
無機質な目。
腕から血が流れていても、痛みも感じないようだ。ただ、そこに居る。
……少し違う。感情というものを知らないだけで、子どものように無垢なのだ。
そして、その子どもに覚えさせようとしているのだ。壊すことを――。
「くっ」
観察をしていた骸だったが、相手と比べられないほどの自身の傷の大きさに思わず声が出る。
「うん♪ 問題なさそうだね♪」
この場に相応しくないような明るい声が響く。発したのは白蘭だった。
「……彼に何をしたのですか?」
しらばく会っていなかったが、骸は目の前にいる人物と何度も会ったことがある。正直、骸は彼と関わっていい思い出はない。それぐらい苦い思い出ばかりなのだ。
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彼の妹を傷つけたことがあったため、妹の消息がわからなくなった時に真っ先に疑われたのだ。いったいどうやって探してるのかわからないが、骸が憑依した人物の前に現れる。これから作戦を決行する時にも現れたりもする。
いい加減、関わっていないとわかっているはずだ。それなのに骸の前に彼は現れる。そのため骸は彼に聞いてみたのだ。彼の返事は――。
「僕とサクラが関わったことがある人物の中で、君が1番性格が悪いからさ!」
胸を張って答えた桂に、つい骸は攻撃をしかける。骸は目的のためには、手段を選ばない。が、苛立ったのだ。
「おっと、危ないじゃないか。……ふむ。しょうがない。話してあげよう。僕が探しても見つからないんだ。誰か協力者がいるのは間違いないよ。僕達の知り合いの中で、それが可能な人物を考えれば簡単さ。協力者はディーノだ」
攻撃の手を止める。骸もあまりの桂の鬱陶しさにサクラの居場所を掴んでいた。そしてどこかで切り札として使おうと考えていた。が、桂はもう知っていたのだ。
「サクラは意味も無く姿を消したりしない。何か理由があるんだよ。僕から会いに行ってはいけない。困らせたくはないからね。だから、その時が来るまで僕はサクラを探し続けるんだ」
「……それと僕の前に現れるのは関係あるのですか?」
「君の性格が悪いからさ」
先程とは違い、桂は真面目なトーンで言った。そのため骸はあまり苛立たなかった。桂の言いたいことがわかったというのもあったが。
「サクラの邪魔をする可能性が高いのは君なんだ。目を離すわけにはいかない」
「……あなたはどこまでも妹バカなのですね」
「ほめてもらっても困るね!」
胸を張って答える桂を見て、骸は溜息をついた。
桂の性格からして、骸が手を出さないと言ってたとしても聞かないだろう。桂を殺るにはリスクが高すぎる。桂の弱点であるサクラはキャバッローネが守っている。何より、桂は邪魔をしにくるが骸の作戦に致命的な邪魔をしたことがないのだ。サクラさえ関わらなければ、本格的に邪魔する気はないのだろう。
「ここまで来れば、堕ちても治りませんね」
骸の呆れた言葉に桂は嬉しそうに笑ったのだった。
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骸は到底信じられなかったのだ。あの妹バカの桂が、このような状況になってるのか。
ユニとは、違う。
彼女は無機質な目のままだ。桂は感情を1つずつ覚えようとしている。
「彼って自信過剰でしょ。僕が用意した飲み物を警戒せずに飲んじゃうぐらいにね♪ まっ彼は毒が効かないから、飲んでも大丈夫と思ったんだろうけどね。実際にユニちゃんと同じものを飲ませても上手くいかないんだ」
桂なら、敵陣であっても優雅に飲む。骸のアジトで勝手にくつろいでいる姿を目の当たりにしたことがある骸は妙な自信をもってしまった。
問題は毒やユニに飲ませたものでも効かない桂がなぜこのようなことになってるのか、だ。
「怪我してもすぐ治っちゃうし毒も効かない彼だけど、あることをすればすぐにおかしくなっちゃうんだ」
もったいぶるように白蘭は話す。が、骸は反応しない。少しでも身体を維持し、情報を聞き出したいのだ。
「骸君はもう限界みたいだし、教えてあげるよ。答えは記憶の消去」
「……まさか」
「その、まさかだよ♪」
今の桂はサクラを忘れている――。いや、忘れたから桂はおかしくなった――。
しかし、そんなことはありえるのかと骸は考える。桂は魂さえ壊れない。それなのにサクラの記憶を忘れた。桂は死んでも治らないと思わせるほどの妹バカのはずだ。
「顔に出てるよ、骸君♪ でも僕も不思議なんだよねー。何をしても効果がないのに、あれほど大事にしていたサクラちゃんの記憶は簡単に消えるんだ。……まるで、サクラちゃんの記憶がないのが当然のように――」
骸には真実はわからない。が、この状況を伝えるべきだ。たとえサクラの記憶がなくても、桂を止めることが出来るのはサクラしかいない。
根拠もないが骸はそう確信した。そして、随分桂に毒されているとも思った。
しかし骸が余裕をもったのはここまでだった。実体化を解いてずらかることも出来ず、自身に振り下ろされる桂の手を見るはめになったのだ。
「その感覚を忘れないうちに、どんどん行こうか♪」
血まみれの手を見つめていた桂が、ゆっくりと頷いた。
その様子を見て白蘭達は笑みを浮かべたのだった。