クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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危機感

 あれからパンダ――フミ子はディーノの修行を手伝ってくれている。フミ子の戦い方は男らしかった。正直、メスだと思えない。

 

 肉を切らせて骨を断つという諺がある。守るものが居なければ、フミ子はその諺に相応しいような戦い方をする。ただし、肉を切らせてもすぐ治るのだが。戦ってる方からすれば、嫌な相手だろう。私はフミ子に頼んでる立場なのですぐ傷が治るので少し気が楽だ。もっとも、精神的には疲れると思うので、夜には思いっきり甘やかせている。

 

 そしてディーノいわく、フミ子は兄のミニチュア版らしい。悪く言えば劣化版である。兄よりも弱いし、傷の治りが遅いのだ。ただしこれは戦闘に関して、である。

 

 フミ子は治療が得意なのだ。戦闘しながらだと傷の治りが遅いが、治療だけに専念すれば早いのだ。問題があるとすれば、治療のレベルにあがるにつれて強制的な眠気がくることとだろう。もちろんそれは悪い点ではない。私が外に出ても逃げれたのはこの特色を生かしたからだ。γには防がれたが、初見ではかなり有利だろう。

 

「だけど、小さい」

「大空の炎では無理なのかもな」

 

 私の呟きにディーノが反応したようだ。私も原因はそれだと考えていた。フミ子は晴の匣である。大空の炎をでは100%その特性を引き出すことは出来ない。元々、大空の炎で晴の特性を生かしている時点で異常なのだ。

 

「笹川了平に頼むしかないか……」

 

 兄が居ない今、彼に頼むしかない。

 

 ……兄は大丈夫なのだろうか。10年後のディーノが私に何かあれば兄は揺らぐといった。私はそれを守ってこのアジトで大人しくしている。が、嫌な予感がする。

 

「ああ。小さいままでも戦力としては十分な気もするが、用心するに越したことはねーからな」

 

 ディーノの言葉で我に返る。また思考がずれた。

 

「少し違う。大きくなったフミ子の能力を知りたいだけで――」

 

 炎の注入はディーノがいい。と続きそうだった言葉をなんとか呑み込んだ。私はいったい何を思ったのだ。……私と笹川了平の交流が少ないからである。ただ、それだけだ。

 

「能力? 他にもあるのか?」

 

 ディーノを見て、頭によぎった言葉を私は頑なに封印し、返事をする。

 

「フミ子は頭がいいと思う。だから気になった。私をこのアジトに運ぶために眠らせたけど、何時間も眠らせる必要があったとは思えない」

「……よし、聞きに行くか」

「は?」

 

 兄に聞ければ話は早い。しかし、それが出来ないから困ってるのだ。

 

「恭弥なら知ってるかもしれねーだろ?」

 

 ポンッと手を打つ。そういえば彼は10年後だった。こっちのアジトに顔を出さないのですっかり忘れていた。

 

 聞かなければいけない話があったのでディーノの意見に賛成し、雲雀恭弥のアジトに向かったのだった。

 

 

 

 

「何の用」

 

 相変わらず酷い扱いである。声は素晴らしいが。

 

 雲雀恭弥の機嫌をとるのはディーノに任せて私は室内を見渡す。知識でわかっていても、地下に和の空間があることに驚きなのだ。この前は見る時間がなかったしな。

 

「神崎桂の匣兵器? 僕が知ってると思うかい?」

 

 兄の名前が聞こえたので慌てて振り向いたが、残念な結果だった。だがまぁ納得できた。匣の特性を知られれば不利になる。教えているとすれば、仲の良かった笹川了平か10年後のディーノだろう。

 

「でも彼が死ぬ気の炎の研究をしていたことは知ってる」

「兄が研究?」

「彼の死ぬ気の炎が特殊というのはもう聞いているよね?」

 

 雲雀恭弥の言葉に頷く。ディーノの話によると、兄はリングを嵌めなくても晴の活性の炎を出すことが出来た。そして炎を体外に出して傷を癒すことよりも、体内で自身の傷を癒すほうが得意だと聞いた。だからフミ子の匣をつかっているのかと私は考えたのだ。

 

「死ぬ気の炎の譲渡だったかな」

「恭弥、そんなこと可能なのか!?」

「知らないよ。でも君も手伝っていたはずだよ。神崎桂の死ぬ気の炎を譲渡できれば、病を治せた可能性があったからね」

 

 死ぬ気の炎――生命エネルギーを譲渡する。ディーノの言った通り、可能なのだろうか。しかし、これで私の家に行くべきだということがはっきりした。10年後のディーノが手伝っていたのだ。必ず何か残っているはずだ。

 

「……手伝って……くれるわけないよな」

 

 当然というように彼はお茶を飲み始めた。返事も返さないとは相変わらず扱いが酷い。

 

「オレがいるだろ?」

 

 確かに大空の匣兵器を開けることができたならば、最悪の場合は何とかなるかもしれない。ムチの方もラル・ミルチと戦うことが出来るぐらい進んでいる。正直、ここまでディーノが短時間で強くなるとは思わなかった。だが、不安なのだ。

 

「いや、いい」

「心配するな。これでも強くなったんだぜ。10年後の恭弥にだって負けねーよ」

「へぇ」

 

 素晴らしい美声だった。10年後の彼が興味を持ったときの反応はこれほど破壊力抜群なのか。心の中でガッツボーズしながら「ほ、本気にするなって! わかりやすく言っただけだぜ!」と焦ってる声はスルーする。例として彼の名前を出したディーノが悪い。

 

「本当に君はすぐ逃げる」

 

 今度は溜息交じりの美声を聞けて再び感動していると、雲雀恭弥と目が合った。僅かに口角が上がった気がする。そう思ったときには腕を引っ張られバランスを崩した。

 

 ――君もそう思うよね?

 

「ふぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 奇声をあげて耳を隠しながら距離をとれば、勢いよく背中に襖が当たった。

 

「大丈夫か!?」

 

 ディーノの声は無視する。なぜなら私にもいったい何があったのかわからない。気付けば、色気のある声で囁かれた。とりあえず、私は行動を起こす。

 

「ま、まいりました……」

 

 絶対服従の土下座である。ディーノに何があったのか聞かれるが、必死に首を横に振る。答えれる内容ではない。いや、内容は答えれるが、反応の理由を詳しく語りたくはないと言ったほうが正しい。

 

「恭弥、何をした!?」

「さぁね」

 

 ペコペコと土下座していると、なぜかディーノがムチを取り出した。……雲雀恭弥が嬉しそうなのは気のせいだろうか。もしや、と思う。

 

「デ、ディーノ! 別にたいした内容じゃないぞ!」

「それのどこがたいしたことじゃねーんだ」

 

 困ったことにお怒りである。

 

「危険ですので、こちらへ」

 

 いつから草壁哲也は私の隣に居たのだろうか。いや、私から近づいたといったほうが正しいか。せっかくの和式が……と思いながら、草壁哲也の後ろに移動する。

 

 自身の安全を確保してから草壁哲矢に止めないかと聞いてみた。笹川了平の時は必死に止めていたはずだ。

 

「いつものことですので……」

 

 少し疲れた様子で答えた草壁哲也を見て、2人が再会すればバトルすることが予想できた。ドンマイである。少し同情したので話題を変えることした。

 

「そういえば、リングのことは言ったのか?」

 

 リングを使って戦っているので心配になった。もっとも心配するだけで、止めはしないが。私がこの2人のバトルを止めれるわけがないからな。

 

「はい。ですが、恐らく心配ないかと……。恭さんは生活を支える代わりとして、リングを要求していたので」

 

 たとえ師匠であっても、ただでは動かない。流石雲雀恭弥である。恐らく用意はロマーリオ達がしていたのだろう。ディーノは動けないからな。

 

 ますます苛烈になっていく2人の戦いを観戦しながら、なぜこのようなことになったのかと考える。普段から強気で過ごしてるのがいけなかったのか。そもそも、だ。雲雀恭弥が私になぜあんなことをしたのか。

 

 ……雲雀恭弥にもバレバレだったのか!

 

 10年後のディーノのせいで、ややこしいことになった。そして、今のディーノが怒ってる理由は深く考えないほうがいいだろう。彼は普段の私と違うため、心配して怒ったのだ。「いつからかわからねぇ」とか言っていたが、まだである。実際に10年後のような甘い雰囲気は1度も感じたことはない。だから違うと結論づけて私は再び封印した。

 

「……いやああああぁ!」

 

 手で顔を覆う。ディーノの件が私の中で片付き、安心して気付いた。

 

 なぜ、雲雀恭弥は囁いたのだ。

 

 ディーノの方に意識が行き過ぎて気付かなかった。10年後の雲雀恭弥に、声フェチと……バ・レ・て・るーーーー!

 

 無理だ。羞恥で死ねる。一刻もここから逃げ出すために、私は沢田綱吉のアジトへ走り去ったのだった。

 

 

 

 

 

 適当に入った部屋のスミで長い間体育座りしていると、リボーンがやってきた。

 

「みんな、おめーを探してるぞ」

「……それは悪い。お腹が減ったら戻る」

 

 今すぐいつも通りするのは無理なのだ。時間がたてば恥ずかしいという気持ちは治まったが、1人でいると兄のことを考えてしまい、動くことが出来なくなった。これは下手にテンションをあげてしまった弊害なのかもしれない。

 

 気を遣ってくれたのか、リボーンは何も言わずに部屋から出ようとした。が、つい名を呼んでしまい引き止める。

 

「なんだ?」

「お兄ちゃ――」

 

 途中で口を閉ざす。リボーンにそれを言ってどうするんだ。どうすることも出来ないのだ。

 

「言っていいんだ。声に出していいんだ」

 

 顔をあげて扉の方を見れば、息を切らしたディーノがいた。そして、近づいてくるディーノを私はどこか他人事のようにボーッと見ていた。

 

「泣いていいんだ」

 

 いつものように頭を撫でられた瞬間、我慢していたものがあふれ出した。

 

「お兄ちゃんが、お兄ちゃんが、待ってって言ったのに止まってくれなかった。幸せになれってなに。会いたい、会いたいよ……!」

 

 私の言葉に全て「そうか」とディーノは相槌を打った。決して会いに行こうなどという無理な約束はしなかった。だから本音を言い続けれたのかもしれない。

 

 

 

 落ち着いて顔をあげれば、ディーノとリボーンだけではなく、沢田綱吉達の姿もあった。取り乱した姿を見られたと思うと顔を逸らしたくなるが、先に言わなければならないことがあった。

 

「わ、悪い。修行の邪魔をした」

「……強くなるから! オレ達、強くなるから! だからサクラはもっとオレ達を頼ってよ!」

 

 すぐに返事は出来なかった。なんと答えればいいのかわからなかったのだ。

 

「おめーら、気付くのがおせーぞ」

「なっ!?」

 

 私も彼らと一緒に叫びたくなった。なぜリボーンは挑発してるのだ――。

 

「おめーらは危機感が足りてねぇ。おめーらはサクラの用意した安全な道をただ歩いてるだけなんだ。サクラが無茶なことを言わねぇのはおめーらが弱い――覚悟が足らねぇからだ。事実、黙ってることがあるだろ?」

 

 リボーンの問いに思わず目を逸らす。知識と違い、彼らは怪我をしていない。そのためすぐに個別トレーニングを始めることが出来た。が、私は何も言わなかった。γとの戦いを回避したため、彼らはこの時代に馴染むのにもっと時間がかかると判断したのだ。

 

 そして何より私は沢田綱吉の試練について、何もアドバイスをしなかった。

 

「言い訳するんじゃねーぞ。ディーノはすぐに気付いた」

「ま、オレも恭弥と戦えるところを見せねぇと安心させることは出来なかったけどな」

 

 驚きながらディーノを見ると、頭を撫でられた。

 

 確かに彼の成長は早いと思っていた。だが、私のためとは思わなかった……。それにさっきの戦いも――。

 

「サクラ、こいつらにもう1度アドバイスしてくれねーか?」

 

 リボーンに言われ、沢田綱吉達の顔を見る。彼らは真剣な目をし、手に力拳を作っていた。ディーノをチラっと見れば頷いたので、私は口を開いたのだった――。

 


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