クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

77 / 153
君の名は?

 私は兄の何を知っていたのだろうか。

 

 今まで兄のことは私が1番わかってると思っていた。しかし、ふたを開けてみればこの有様だ。私は兄の表面しか見ていなかったのだ。

 

 そもそも、だ。兄は私のことを本当に好いていたのだろうか。

 

 優しく頭を撫でられた。期待して顔をあげる。が、ここに兄がいるわけがなかった。

 

「……ディーノ、修行は?」

「休憩中だ」

 

 隣に座ったディーノを見て思った。いったい私は何をしているのだろうか。ディーノに気を遣わせて修行の邪魔をしている。

 

 本来なら今すぐに私は出て行くべきだろう。だが、ディーノの体質のことがある。ロマーリオ達がいれば問題ないのだが、こっちには来れないようだ。ディーノが生きてるとばれたことで、キャバッローネのシマでボンゴレ狩りが急増しはじめたのだ。もっとも、想定の範囲内だったらしく何とかなってるらしいが。それに私の両親の保護もしてくれているようだしな。少し話そうかと思ったが、やめた。10年後の私は話せる状態じゃなかったのだ。これ以上、混乱させないほうがいいと思ったのだ。

 

 それにしても――怒られたり、嫌われた方が楽な気がする。

 

 修行で疲れているはずの沢田綱吉達も、私と会うたびに声をかけてくれる。1番私の被害を受けているディーノでさえ、この様子だ。ここにいる人物は優しすぎるのだ。

 

「もう大丈夫。ありがとう」

 

 いろいろ思うことがあるが、これ以上邪魔をしてはいけない。

 

「……ディーノ?」

 

 動かないディーノに疑問を浮かべる。私の声が小さくて、聞こえなかったのだろうか。もう1度口を開こうとしたとき、ディーノから声をかけられる。

 

「10年後のオレはどれぐらいの強さなんだ? いや、何か基準があったほうがわかりやすいかと思ってよ」

 

 強さを教えるなんて難しいに決まってるだろ、という文句が顔に出てたのか、ディーノは言い募った。まぁディーノの言い分もわかる気がする。確かに目標というものがあれば、わかりやすいのである。沢田綱吉の場合は試練を乗り越え、使いこなす。獄寺隼人の場合はSISTEMA C.A.I。山本武の場合は時雨蒼燕流である。

 

「君の奥義はそのムチを死ぬ気の炎で纏い、超高速で振っていた」

「なるほどな」

 

 ディーノ自身も何となくわかっていたのだろう。後は匣兵器だな。ディーノから没しゅ――預かっていた匣を見せれば、彼は納得しながら呟いた。

 

「まっ使いこなせないと意味ねぇよな」

 

 やはり勘違いしているようだ。「少し違う」と教える。

 

「少し、違うのか?」

「ん。大空の匣兵器はデリケートらしい。下手にあけると暴走するし、使いものにならなくなる」

「そうなのか!?」

「知識で10年後の君がそう言っていた。だから正しく開匣すると言ったほうがいいかもしれない」

 

 難しい顔をしながら私が持ってる匣兵器を見ているので、ディーノに渡すことにした。

 

「……いいのか?」

 

 これは持っててもいいのか?という意味なのだろう。恐らく私が預かっていた理由がわかったから確認したのだ。

 

「君の匣だ。それに君なら大丈夫だろ」

 

 私には話を聞いたディーノが興味本位で開けるとは思えない。暴走すれば、どんな被害になるかもわからないのだ。元々、ロープに炎を纏える時点で早めに説明して渡そうと思っていたのもあるが。

 

「ありがとな」

「……別に、君の匣兵器に触りたいからだし……」

 

 気恥ずかしくなり、ディーノがいる方と反対側を向けば、この世の終わりのようにショックを受けているパンダが居た。

 

「……似すぎだぜ」

 

 ディーノの呟きに主語はなかったが、なぜか誰と比較しているか、わかってしまった。

 

 

 

 ディーノが修行に戻ったので、私は気を取り直しパンダと向き合った。

 

 沢田綱吉に匣を開けてもらった後、ラル・ミルチに大空属性の炎をでは治療は不可能だといわれた。が、パンダは治療することが出来た。実際治療したところを見たわけではないが、死ぬ気の炎の色が大空ではなく晴だった。ディーノが開けた場合も同じだったので、この匣兵器自体に何かあるのだろう。

 

 そもそも知識のある私がこの勘違いに気付かなかったのは兄が『きっと役に立つ』と言ったからだ。ディーノの匣兵器と一緒に渡し、10年後のディーノが無事だったことを知った瞬間、ディーノに開けてもらえという意味に思ったのだ。現にディーノが開けても治療が出来るようなので、間違ってはないはずだ。

 

「……ああ! 暑苦しい!」

 

 ついに、鬱陶しいほどに私に引っ付こうとするパンダに文句を言った。考えに集中できないのだ。

 

 私の言葉に落ち込むパンダを見て、罪悪感が募る。誰かと違い、パンダは思わず抱きしめたくなるほど可愛いからだ。

 

 しかし、このパンダは匣兵器なのだ。治癒能力が高いかもしれないが、γと戦おうとしたことを考えれば、出来るはずだ。パンダが戦えれば、ディーノの修行に役立つはずなのだ。が、このパンダはなかなか戦おうとしない。

 

 ナッツみたいに臆病なら理解できるのだが、私から離れようとしない。離れない理由が私を守るためにというならまだ納得できるが、ただ私に抱きつきたいからである。

 

 そっとパンダを抱き上げる。かまわれるのは嫌だが、自ら相手にする場合は問題ないのだ。……自覚している。私はワガママなのだ。

 

「私の頼みを聞いてほしい」

 

 ジッと見つめながら言えば、パンダは頷き大人しく命令を待っていた。ここまでは何度も成功している。

 

 次に、期待をした目で見るパンダに命令をする。すると、その場で落ち込むのだ。

 

 思い返すと今までのパンダの行動は、自発的だった。私の怪我はもちろんのこと、沢田綱吉の怪我も勝手に治療し始めたのだ。

 

「……どうしても名を呼んでほしいのか」

 

 激しく首を縦に振るパンダに困り果てる。私の予想だが、このパンダは頭がいい。緊急事態ならば、こんなワガママを言わず、勝手に最善の行動をするだろう。そうでなければ、私はアジトから出てすぐに捕まっていた。

 

 今まで何度も助けられたので、希望を叶えてあげたい。しかし、パンダの名前に心当たりが無いのである。

 

 とりあえず、玄馬、シャオメイ、パンダマンなどパンダで思いつくのは言ってみたが不発に終わる。密かな期待をして、エリザベスと呼んだがこれも不発だった。

 

 そのため昨日、今まで目を背けていた兄のことを教えてもらったのである。結果、パンダの名前になるようなヒントは無く。私が落ち込むだけであった。

 

 兄のことだから、私が思わずツッコミたくなるような名前をつけると思っていた。でもいくら考えても私がわからないような名前かもしれない。私は兄のことを何も知らなかったのだから――。

 

「わっ」

 

 急に抱き上げていたパンダが暴れ始めたので、慌てて地面に降ろす。すると、ディーノの方へ向かっていく。もしかして、私を気遣い、ディーノの修行相手をしてくれるのかもしれない。期待してパンダの様子を観察すると、ディーノのズボンに噛みつき引っ張っていた。

 

 ……遊んでほしかったのか?

 

 あまりにも残念すぎる行動でしばらくの間脱力する。そして修行の邪魔になるので回収するため立ち上がろうとしたが、やめた。ディーノがパンダを抱えて、私の方へ来たのだ。

 

「悪い」

 

 流石に迷惑をかけたと思ったので素直に謝り、パンダを受け取る。が、私の手に渡ったタイミングで匣に戻った。炎切れなのだろうか。あまりにも戻るのが早い気がする。引っかかるが、とにかく気まずいので出していた手を引っ込め、もう1度謝る。

 

「……悪い」

 

 ディーノは私の頭をポンポンと叩き、再び隣に座った。先程、休憩したばかりのはずだが。

 

「ディーノ?」

「1人にするなって」

「は?」

「桂が怒っていたんだ」

 

 この部屋にはディーノがいたのだ。1人じゃないだろ。それに兄じゃなく、パンダが言ったのだろう。……その前に、パンダは日本語を話せないぞ。

 

 ツッコミを入れるべきか悩み、チラッと隣を見れば、リングに炎を灯した状態で匣と睨めっこしていた。

 

「ここで修行するのか?」

「ん? 邪魔か?」

「……邪魔、ではない」

 

 私の返事を聞き、ディーノは修行を再開した。もう1度パンダを出してもらおうかと思ったが、名前が浮かばないので先に考えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「――今は我慢しろ、なっ?」

 

 近くで声が聞こえたので、目を開ける。……目を開ける?

 

「わ、悪い!」

 

 いつの間にか眠っていた。眠っていただけならまだしも、ディーノの肩を借りて眠っていた。最悪である。飛び退くように離れれば、ディーノと目が合った。

 

「すまん。起こしちまった」

 

 気にした様子もないディーノにホッとした瞬間、耳元に息がかかった。

 

「うわぁぁ!」

 

 情けない悲鳴をあげ、今度はディーノにしがみつく。これでもう大丈夫だと安心したかったが、髪をツンツンと引っ張られた。ディーノは当然だが、このアジトにいるメンバーはそんな手荒なことをしないので恐怖が募る。

 

「デ、ディーノ!!!」

「スクーデリア」

「……スクーデリア?」

 

 恐る恐る振り向けば、スクーデリアが私の髪をムチャムシャと食べていた。

 

「……この行動は?」

「ずっと、遊んでほしそうだったからなぁ」

 

 つまり私がぐーすかと眠っていたせいか。早速、ディーノから離れ、よしよしと撫でてみるとと嬉しそうだ。

 

「匣、よく開けれたな」

 

 私の記憶ではさっぱりだった。つまり眠ってる間にあけたのだ。成長の早さに驚きである。

 

「お前のおかげだぜ」

「ん? どういうことだ?」

 

 私が問いかければ、ディーノは言葉を濁したので睨んだ。

 

「その、な。お前の顔を見てると、あけても大丈夫な気がして……。や、疚しい気持ちがあったわけじゃ――」

 

 睨む力を強めれば、慌てて弁明し始めた。元はと言えば、眠ってしまった私が悪い。が、きっちり釘は刺しておこう。

 

「お人よしの君のことだ。私が眠ってしまったのか、確認するために顔を覗いたんだろ。それに、君が『子どもの』私にやましい気持ちを持つわけないしな」

「あ、ああ……」

 

 同意したので、これで大丈夫だろう。少し強調しすぎたかもしれないが。とりあえず、さっさとこの話題から離れるのがベストである。

 

「名前、すぐにわかったんだな」

「ん? 10年後のオレも同じ名前をつけたのか?」

 

 スクーデリアを撫でながら頷く。やはり簡単にわかるものなのだ。兄の好きなものは私という基準で考えるのが間違っているのだろう。しかし、私がツッコミたくなるような名前ではない場合だと、何も思いつかないのだ。

 

「桂は必ずお前が思いつく名前をつけるぜ」

「……思いつくのは全部試した」

「お前が1番いいと思った名前は?」

「エリザベス」

 

 即答してしまった。兄の匣兵器はエリザベスという名前が1番面白く合ってると思ったのだ。

 

「エリザベスってことはメスだったのか」

「? エリザベスはオスだろ」

 

 あの足はおっさんだ。

 

「ん? エリザベスは女性名だぜ?」

「……ディーノ、開けてくれ」

「任せろ」

 

 現れたパンダを見る。スクーデリアと仲が良さそうな姿を見て、落ち込んでるところをスルーすれば、このパンダは可愛い。それに兄も「可愛いだろ?」と言っていた。つまり、このパンダはメスなのだ。

 

 まさか、と思った。そんなバカな、とも思う。恐る恐る私はその名を口にした。

 

「……フミ子」

「パフォ!」

「そっちかよ!?」

 

 嬉しそうに返事をしたパンダに勢いよくツッコミしてしまったのは、兄のせいだと思う。

 




銀魂ネタでした

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。