クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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頑固

 先程まではふざけた感じだったが、今は黙々とディーノが歩いた道を進む。1度、黒曜ランドで経験していて良かったとつくづく思った。命が狙われている状況で、ぶっつけ本番で出来るとは思えないからな。

 

 ディーノが手で私を制したので立ち止まる。私にはさっぱりわからないが、何かあるのだろう。

 

「並盛神社近くで戦闘音がする」

 

 ディーノの耳はいったいどうなってるのだろうか。まだかなりの距離があるぞ。不思議に思いながら、戦闘音について考える。しかし、さっぱりわからない。私の行動のせいで、雲雀恭弥とγの戦いのフラグは折れたからな。ただ、少し気になることがある。γは「こりゃ外れのほうだったか?」と言ったのだ。つまりもう1つ何かあったということだ。

 

 獄寺隼人達のために伝言を残したが、私を探してるのかもしれない。

 

 一歩踏み出そうとして、ディーノに肩を掴まれる。そして、首を横に振られた。確かに私が今行ってどうなる。獄寺隼人達じゃない可能性もある。そして、もし彼ら達だった場合、私は足手まといだ。

 

「……悪い」

 

 バカな行動しかけたことに謝れば、フッと笑った。大丈夫という意味だろう。

 

「任せる」

「ここから他の出入口は距離があるんだな?」

 

 私が知っている出入口はという意味で頷く。まぁ全てを知っていたとしても、負傷者を抱えて戻るのは危険という距離だったのだ。素人の私が動くのと負傷者は然程変わらないからな。どっちを選んでも危険になるだろう。それならば、負担を背負ってるディーノに判断してもらった方がいいと思ったのだ。

 

「このまま進むぜ。戦闘音がするってことは味方もいる可能性が高い。もちろん危ないと判断すれば引き返す」

 

 異論はないので頷く。先程から声を極力出さないのは、気付かれる可能性があるからだ。実際に私がわかる範囲でも、何度か追手をやり過ごしている。近くに敵がいるか判断できない私は話さないほうが安全なのだ。

 

 再び、ディーノの歩いた道を黙々と進む。彼の背中を見て安心する反面、少し怖いと思った。

 

 

 

 

 

 

 並盛神社に到着した。戦闘音は彼らの仕業だったらしい。少し遠くに倒れてる太猿、野猿、γを見ながら思った。γをやれるのは彼ぐらいしかいないので、この惨劇の犯人は雲雀恭弥で間違いないのだろう。ということは、γは私達と別れてからこっちに向かったのか。やられ損である。もっとも、私の去り際の発言が関係しているかもしれないが。彼からすれば、少しでも情報を集めたいだろうからな。

 

「また失敗したか?」

 

 私の言葉にディーノが反応したが、スルーする。今はアジトに戻るのが先決なのだ。

 

 少し悩みディーノの腕を掴んで引っ張った。彼だけ残されてしまうと困るのだ。ディーノは抵抗もせずに、私について来る。別に嵌めるつもりはないが、もう少し警戒しろと思う。

 

「これは……」

 

 幻覚の隠し扉に気付き、ディーノは驚くような声を出した。ちなみに私はここに入り口があるのを知っているが、入り方までは知らないのでキョロキョロしている。沢田綱吉のアジトのような造りならいいのだが。

 

「あった」

 

 探しているものが見つかったので、思わず声が出てしまった。少し考え、ディーノにここへ手を置けといった。

 

「これって指紋認証じゃねーのか? オレでも大丈夫なのか?」

「わからない。けど、私より確率は高い」

「ん? ここはツナのアジトなんだろ?」

 

 そういえば、話していなかった気がした。

 

「違う。10年後の雲雀恭弥のアジト」

「恭弥の!? そっか、教え子だもんな」

 

 妙に嬉しそうなディーノにさっさと手を置けと睨む。そして、彼が手を置いた瞬間、ピピッという音がし、警報のアラームがなった。

 

「……まぁそうだよな」

 

 どこか諦めたディーノの反応を見て、声をかけることにした。

 

「置いていくぞ」

「いや、だけど――」

 

 ディーノの反応を無視し、私は扉を開ける。

 

「ちょっと待て!? さっきの警報はなんだったんだ!?」

 

 私が知るわけないだろう。ピピッと扉が開く音がしたから私は入ろうとしただけである。

 

「君の存在が不愉快だからだよ」

 

 ディーノから目を離し前を向けば、ムスっとした雲雀恭弥が居た。そして、思った。美声のレベルがあがっている。

 

「生きてて良かった……!」

 

 場違いな言葉を発し、2人から視線を感じるのは気のせいである。

 

「ん、ん! やっぱり君は驚かないんだな」

「……着いてきなよ」

 

 咳払いして誤魔化し、雲雀恭弥に話をふれば否定をしなかった。つまり、私の考えは間違っていなかった。雲雀恭弥は死んだはずのディーノの指紋登録をしていた。彼もディーノが生きていると知っていた人物なのだろう。

 

 10年後のディーノの話を聞いて少し疑問に思ったのだ。私の家の地下で隠れ住んでいたが、食事とかの問題があるはずだ。兄が用意していた可能性もあるが、そんな危険なことは出来ないだろう。私の両親の可能性もあるが、買出しの量などでバレる。そのため協力者は他に居ると思ったのだ。沢田綱吉の可能性もあったが、彼の方が可能性が高い。なぜなら、未来でも彼は並盛を牛耳ってる。マフィア関係者を使わず、根回しが出来る人物なのだ。

 

 よくやるな。と本気で思った。彼はいったいどれだけ知らないふりをしているのだ。……人のことは言えない気もするが。

 

 雲雀恭弥についていくと、ボンゴレアジトにたどり着いた。原作通り話をしに行こうとしたタイミングなのだろう。沢田綱吉を咬み殺すタイミングともいえるが。

 

「サ、サクラ! よかったー! ディーノさんと無事に会えたんだね!」

 

 雲雀恭弥の横から顔を出すと沢田綱吉とリボーンに安堵され、罪悪感が募った。

 

「ディーノがうまく説得したんだな」

「説得というより強制終了になっただけだ」

 

 話の流れで10年後のディーノが彼らに連絡していたとわかる。が、彼らはまだ知らないようなので指をさして教えた。

 

「ディ、ディーノさんも入れ替わってるー!?」

「ん。困ったことになったんだ」

「え? ってことは……サクラの知ってる未来と違うの?」

 

 沢田綱吉の言葉に驚き、目を見開く。リボーンをみれば悪びれもせず「緊急事態だったからな」と言った。

 

 一歩ずつ後ずさる。が、背中に何かがあたりこれ以上は下がれなくなる。原因はディーノの身体だった。

 

「はぁ……。出直すよ、赤ん坊」

「わりーな、雲雀」

 

 ちょっと待て。君は空気を読むようなキャラじゃないだろ。それに、沢田綱吉を咬み殺すフラグは折れたかもしれないが、話を誤魔化すことも出来なくなったではないか。

 

「あいつも気にしてるってことだ」

「……私の能力が必要になるかもしれないからだろ」

 

 ディーノにツッコミすれば、頭を優しく撫でられた。

 

 ――パシッ。

 

 部屋に響いた。

 

 驚いている沢田綱吉とリボーンの姿が目に入る。が、恐らく私の方が驚いている顔をしているだろう。自身でもディーノの手を叩いてまで、振り払うつもりはなかったのだ。

 

 後ろで息を吐く風を感じ、振り向くのが怖くなった。謝ろうと思っているが、喉が鳴るだけで声が出ない。

 

「ディ、ディーノさん! サクラも悪気があったわけじゃ……!」

 

 私の驚いた顔をばっちり見てしまったためか、沢田綱吉がフォローにまわったようだ。彼もディーノの溜息が聞こえたのだろう。無理もない、わざと吐いたような溜息だったからな。

 

「心配しなくていいぜ。こいつの性格はわかってる」

 

 怒っていないようだ。そのことに安堵したのが間違いだったようで、肩をつかまれ無理矢理振り向かせられたことには、かなり驚いた。

 

「この時代のことはまだ何も知らねぇ。お前がいなかったらアジトに辿り着くことさえ出来なかっただろう。それに未来への恐怖を抱く気持ちもわかる。だけどな、もう少し頼ってほしいんだ」

「……もう、頼ってる」

 

 ディーノは私を真っ直ぐ目を見て言った。だから正直に話した。

 

 この時代に来て、彼にどれだけ頼っていたかわかった。未来の私が困っても、私が未来に行くことになっても、ディーノがいるから何とかなると思っていた。ディーノが死んだと知り、私の選択肢は大幅に減ったのだ。

 

「すまん。オレの言い方が悪かった。――もっと頼れ。まだまだ大丈夫だぜ。ツナもそうだろ?」

 

 振り返れば、急にディーノに話を振られて慌てている沢田綱吉がいた。

 

「……大丈夫に見えない」

 

 呆れながらツッコミすれば、沢田綱吉の視線が定まった。

 

「オレ、この時代に来て、いっぱいいっぱいだった。だけど、そうじゃなかったんだ。ずっとオレはいっぱいっぱいでサクラが苦しんでるのも全然気付かなかった。……ううん、本当は気付いていた。でもディーノさんとリボーンは事情を知ってるみたいだし大丈夫だって勝手に思っちゃったんだ。神崎さんがアジトから出て行って、リボーンから話を聞いて、オレ後悔しかしなかったよ。ごめん、オレが頼りないばっかりに――」

 

 謝られると気まずい。確かに私は幼くて優しすぎるため、彼を頼りにしなかった。事実なのだが、彼と目を合わせることは出来なかった。なぜなら、頼れば必死に応えてくれる人物だと私は知っていたのだ。知識とは関係なく、だ。

 

「オレを――オレ達を守ってくれてありがとう」

 

 乾いた笑いが出た。私は礼を言われるようなことをしていない。全て私が原因で起きた事である。ただの尻拭いをしているだけなのだ。決して褒められることではない。

 

 だが、妙に嬉しかった。

 

「……私のせいで、君達が死ぬかもしれないんだぞ」

 

「私のせいで、未来が大幅にずれてるぞ」

 

「私のせいで、君達の負担が多いんだぞ」

 

「私の知識が役に立たないかもしれないぞ」

 

「私は自身の命を優先するぞ」

 

 

 

 他にもたくさん彼らにいろいろ言った。二人揃って否定したり大丈夫だという。ついに私は折れて呟いた。

 

「君達は頑固すぎる」

「おめーもだぞ」

 

 ずっと私達のやり取りを黙って聞いていたリボーンのあまりにも的確なツッコミに私達は笑いあったのだった。

 




すみません、次の更新は3日~4日後です。
ちょっとライブへ行ってきますw

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