クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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崩壊

 息が切れる。普段から運動すれば良かったと後悔した。ディーノの言うとおり体力をつけるべきだったな。

 

「いたぞ! こっちだ!」

 

 また見つかったようだ。慌てて走り出す。街中で見つかったため相手が匣兵器を使えない、もしくは匣兵器を持ってないぐらいの下っ端だったことに運が良かったのか、それともヒロインではない私はすぐ見つかると法則に嘆けばいいのか――。

 

「パフォ!」

 

 まぁ運がいいほうだろう。追いつかれそうになると、兄のパンダが眠らせてくれるのだ。晴の活性でなぜ眠らせれるかはわからないが。

 

 それより気になるのはなぜ小さいままなのだろうか。自力で走ってくれるので問題がないといえばないのだが、大きくなって私を運んでくれると嬉しいのだが。

 

 突如、目の前でバチッという音がして顔をあげる。

 

「こりゃ外れのほうだったか。いや、ある意味当たりか?」

 

 空から降りてきた人物に顔が引きつる。最悪だ。リボーンの手紙にヒバードを追いかければ、γによって獄寺隼人と山本武が重体に陥ると書いたことを考えると、騒ぎを起こした私の方にくる可能性が高い。最初から危険とわかっていたことではないか。

 

「さて、大人しく話してくれれば楽だが、その匣兵器はどこで手に入れた?」

 

 答えるわけにはいかない。これ以上、兄に迷惑をかけれない。

 

「だんまりか。まぁいい」

 

 いったい何がいいのか。答えはすぐにわかった。γが私に手を伸ばしてきたのだ。連れて行くのか殺すのかの二択だろう。

 

 連れて行かれるなら、兄と会えるかもしれない。が、ブラックスペルではなくホワイトスペルの方が安全だった気がする。さっさと捕まっていた方が良かったかもしれない。γは危険すぎる。

 

「パフォ!」

 

 手が私に届く前にパンダがまた助けてくれたようだ。しかし、γは眠る気配を見せない。

 

「あいにく、効果はねぇ。その技は急激な晴の活性により、身体がついていかず眠りに落ちる。それさえわかれば対処は簡単だ」

 

 γは炎で盾をつくり、パンダの炎に当たらないようにしていた。そういうカラクリで眠っていたのか。驚きながら、頼みの綱がなくなったことに気付く。万事休すである。もっとも、パンダは技が使えなくても私を守るつもりのようで、一歩前に出た。時間を稼いでくれている間に逃げたほうがいい気がする。

 

 しかし、その望みも立たれる。パンダが匣に戻ってしまったのだ。γが何かした感じはない。恐らく炎切れだ。そもそも兄の注入だけで今まで良くもっていた方である。

 

 一歩ずつ下がろうとしたが、足がもつれて尻餅をつく。動けなくなったところに手が伸ばされ、ぎゅっと目を閉じた。

 

 しかし、痛みも衝撃もなく頭を撫でられた。どういうことだと思っていると背後から溜息混じりの声が聞こえた。

 

「ったく、1人で無茶するなって何度も言っただろ?」

 

 気付けば、涙が頬を伝っていた。振り向かなくてもわかる。私の頭を撫でるのは兄を除けば、彼しかいない。

 

「っきみ、が、いないから、だ」

「それは……すまん」

 

 理不尽な私の文句にも彼は謝った。本当にお人よしである。いつの間にか腰に手をまわされたと思えば、立ち上がっていた。今度はしっかり歩けそうだ。

 

「王子様が登場ってか? しかし、おめーは死んだはずだ。……桂の仕業か」

 

 γの声に今の状況を思い出す。泣いてる場合ではない。涙を拭きながら考える。

 

 目をつぶっていたのでよくわからないが、彼が現れたことによりγの動きが止まっただけだろう。そして、まだ振り返ってないので絶対とは言い切れないが、γの言葉と背後から感じる気配で彼は10年後の姿だ。

 

 つまり、兄はディーノを殺してなかったのだ――。

 

 いろいろ話を聞きたい。しかし、そのためにはγをどうにかしなくてはいけない。

 

「まぁいいさ。話は痛めつけた後だ」

 

 腰にまわしていた手の力が強まる。安心するが、片腕で何とかなる相手なのだろうか。

 

「そのリングでいつまで持ちこたえるかな」

 

 背後から歯が食いしばる音が聞こえた。それだけで状況が悪いと理解する。咄嗟に声が出た。

 

「ポケット!!!」

 

 単語だけだったが、腰に回してる手の感触で気付いたのだろう。ディーノはすぐに私のポケットから、匣兵器を取り出し炎を注入した。

 

 わかっていたが、驚く。目の前に大きな馬が現れたのだ。驚くのはしょうがない気がする。そして、それは相手も同じだったようで、動きを止めた。もっともγは大空属性の調和を警戒しているのかもしれないが。

 

「……ディーノ」

「わかってる」

 

 私がこの匣兵器を使えといった時点で気付いていたようだ。そもそもディーノの匣兵器なのだ。私よりこの匣兵器の特徴を知っているのは当然だ。

 

 なら、後は時間を稼ぐだけだな。ディーノだけなら問題ないかもしれないが、私がいるのだ。少しでも時間はあったほうがいい。

 

「近いうちにユニは元に戻る」

 

 目を見開いたγを合図にディーノが動き出し、馬にまたがった。そしてディーノは再び私の腰に手を回し、馬に乗せて駆け出したのだった。

 

 

 

 

 

 知識通り、数ある匣兵器の中でトップクラスの速さのようだ。目立つため、いろんな敵に追いかけられるが、ぐんぐん離している。

 

 問題があるとすれば、尻が痛い。後でパンダに治療してもらおう。他にも私は横乗りだった。馬に乗るのも初めてな私にはハードルが高すぎる。結果、ディーノにへばりついている。

 

 少し早い気がするが、ドクッ、ドクッというディーノの心臓の音が聞こえる。本当に生きている――。

 

「もう心配なさそうだぜ。大丈……!? 悪い、怖かったに決まってるよな……」

 

 泣いてる私にディーノはまた頭を撫でた。だが、それは逆効果だぞ。もっと涙が止まらなくなり、焦っているディーノに説明する。怖くて泣いてるわけじゃないのだ。

 

「ぢがっ――」

「……悪い。オレも桂が今どうしてるかは詳しくわかららねぇ。多分白蘭のところに向かった。心配するな。あいつは強い。けどな、お前が何かあれば、あいつは揺らぐ」

「ぢがぅ――」

 

 確かに私は兄のことを知りたかった。が、この涙は違うのだ。

 

「ぎみが、いぎでで、よがっ――」

 

 最後までは言えなかった。強く、そして優しく抱きしめられたのだ。そのおかげで、私の涙腺は完全に崩壊した。

 

 

 

 私が落ち着き始めるとディーノはゆっくりと離してくれた。正直、とても助かる。完全に落ち着いてしまうと顔から火が出そうな気がする。

 

 まだ少しエグエグと喉を鳴らしていると、私の顔にディーノの手が添えられた。どうやら、手で涙を拭おうとしているらしい。しかし、それは逆効果だった。顔に触れた手が温かくて再びディーノが生きていると感じるのだ。ウソではないと証明するために、私の顔に添えているディーノの手に自身の手を上から重ねる。また涙が出そうだ。

 

「……サクラ」

 

 出そうだった涙が引っ込む。今、私の名を呼んだのはディーノなのだろうか。なかなか私好みの色っぽい声だった。確認するために重ねていた手を離して見上げると、ディーノが息を呑んだ。いくら泣きすぎで変な顔になってるとはいえ、失礼である。

 

 睨むとディーノは手を離し、項垂れるように私の肩に額を置いた。

 

「犯罪、だよな――」

 

 ボソッと呟いたディーノの言葉に首をひねる。いくら私が不細工な顔をしてもディーノはそういうことをいう男ではない。では、いったい何が犯罪なのだろうか。

 

 しばらく考えていると、ディーノが背筋を伸ばして私の頭を撫でた。誤魔化されている気がする。

 

「とにかく降りるか。このままだとまた感知されて見つかる」

 

 今の状況を思い出し、慌てて降りようとしたが、降りれるわけでもなく、結局ディーノに降ろしてもらった。

 

「スクーデリア、ありがとう」

 

 ディーノが匣に戻す前に声をかける。この馬がいなければ、かなり危なかった。兄から預かっていて本当に良かった。

 

 スクーデリアがこっちに来るので、首をひねる。何か変なことを言ったのだろうか。しかし、ディーノの匣兵器が私に危害を加えると思わないので、動かずジッとすることにする。すると、私の頬に擦り寄ってきた。気にするなと言ってるのだろうかと勝手に解釈し、恐る恐るたてがみに触れ撫でた。嫌がる素振りを見せないので、しばらくサラサラな毛並みを堪能する。私が気が済んだタイミングでスクーデリアは匣に戻っていった。

 

 振り返りディーノを見ると、リングにチェーンを巻いていた。そのリングは私が知らないリングにみえる。私がリングに興味を持ったと思ったのか、渡してきた。やはり知らないリングでγが言ったとおり、あまり性能はよくないのだろう。

 

「君の本当のリングは?」

「……砕かれてるだろうな」

 

 それがどういう意味かは私にでもわかる。ディーノのリングは代々キャバッローネに受け継がれていたはずだ。そして、砕かれたことに兄が関わってることも、私のせいだということも安易に予想できることだった。

 

 動かない私の手を引き、ディーノは何があったのかを語った。

 

 

 

 

 10年前、ディーノは電話で私の声を聞き、すぐさまリボーンに連絡をしたらしい。無事に見つけることが出来たが、首を振るだけの私を見て、リボーンとディーノの判断で日本を離れさせたようだ。そして、私が居場所を教えることに頑なに拒んだため、2人は折れたらしい。まぁ月に一度は手紙を書くことを条件につけたみたいだが。

 

 初めは外にも出なかったらしいが、ディーノと一緒なら少しずつ外に出かけるようになったらしい。そしてある日、道端で私は声をかけられた。声をかけたのは兄の留学先のルームメイトだった。

 

 彼曰く、ほぼ毎日のように私の写真を強制的に見ていたのですぐにわかったらしい。何とも恥ずかしい話である。

 

「その時に気付くべきだったんだ。桂が留学していた時期ってことは、お前の写真は小学生の頃だった。いくらなんでも無理があったんだ」

 

 言われて見ると、おかしな話だなと思った。いったいいつ話しかけられたかは聞いていないが、少なくても5年はたっているだろう。5年もたてば、普通はわからない。歳をとっていたならまだしも、私は子どもだったのだ。

 

 結果、その日を境に私は体調を崩した。

 

 その後は山本武から聞いた話とほぼ同じだった。もっとも、兄とディーノは組んでいたようだが。2人が組んだ1番の理由は、私がディーノに意識を失う前に「白蘭に気をつけろ」と言ったからだった。その白蘭がタイミングを見計らったように兄の前に姿を現れたのだ。自分なら治療できるかもしれないと言って――。

 

 ディーノが死んだという証拠として、リングと匣は白蘭の手に渡らせた。私に渡しながら説明する必要はないのだが、わかりやすくていいとする。そして、似たような体格の男の死体を用意して誤魔化し、今までディーノは私の家の地下で住んでいたらしい。

 

「バカ、だな」

 

 話を聞いて、その一言がすぐ頭に浮かんだ。

 

「白蘭が危険とわかっていただろ。そもそもなぜ交渉しようと思ったんだ」

「それは……あのままだとお前が――」

「だったら尚更だ。私が死ぬ前に残した言葉だぞ。それだけでどれだけの危険人物か、君ならわかるだろ!」

「承知の上だ」

 

 平然と返すディーノに苛立ちが募った。

 

「君はキャバッローネのボスだろ!? たとえ兄と組んでいたとしても、君がいなくなれば、住人やファミリーはどうなるかわかっていたのか!」

「オレの最期の頼みを聞いて、桂はオレのシマとファミリーには手を出さない、そういうシナリオだった。オレがおちれば、ボンゴレがすぐに駆けつけるのはわかっていたしな。それにロマーリオ達は今でもシマに残ってみんなを守ってくれてる」

 

 開いた口がふさがらない。今、私と話しているのは本当にディーノなのか? 彼は住民とファミリーをあれほど大事にしていたのではないのか。

 

「……君には失望した」

 

 勝手なことを言ってる自覚はある。誰のせいかもわかっている。だが、ディーノが住民とファミリーを天秤にかけて、私を選択したことが許せなかった。ましてディーノはいったい何年の間、隠れて生活していたのだ。

 

「そうだな。ボスとしての選択は間違ってる。だけどな、お前を選択しなくても結果は同じだったんだ」

「……どういうことだ」

「後からわかったことだが、オレは白蘭に目をつけられていた。いつからかはわからねぇ」

 

 どういうことだ。白蘭が警戒するのはボンゴレだろう。それなのになぜディーノが真っ先に目をつけらたのだ。

 

 考えられるとすれば、パラレルワールドの私のせいだ。お人よしのディーノに頼み、私はいろいろしたのだろう。その結果、白蘭に警戒された。単純な話である。

 

 しかしそれは後にわかったことである。言い訳に過ぎない。納得できるわけがなく、再び私はディーノを睨んだ。しばらくするとディーノは諦めたような顔をした。

 

「……オレが耐え切れなかったんだ。お前が――サクラが死ぬことに――……」

 

 思考が止まりかけた私を無視するかのように、ディーノは話し続ける。

 

「サクラが倒れた時、オレはボスじゃなく1人の男だった。だからロマーリオにキャバッローネを頼み、オレの首を差し出してサクラが助かるならそれで良かった。……ファミリーのみんなに怒られたよ。シマのみんなもオレの気持ちなんかバレバレだってな。首を差し出すんじゃなくて、男なら一緒に帰って来い。それまでシマのことは任せろ。そう言われたんだ」

 

 とてつもなく、顔が熱い。これはまるで――。

 

「いつからかはわからねぇ。気付いた時にはもう――」

 

 頬に手が添えられ、私は真剣な表情のディーノから目を逸らすことが出来なかった。

 

「サクラ、オレはお前のことが――」

 

 ゴクっと喉がなった気がする。そして、周りの音が聞こえなくなるぐらい、心臓の音がうるさかった。

 

 そしてついに私はおかしくなり、ボワンという変な音まで聞こえた。

 

 そう、『ボワン』という音だった。

 

「……ディーノ」

「やっぱりこの時代に居たのか。無事みたいで……少し顔が赤いな。大丈夫か?」

 

 過去から来たディーノを見て、私は思いっきり脱力した。

 


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