クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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不可解な行動

 あまりにもラル・ミルチが突拍子もないことを言ったので、夢かと思った。だが、この場の空気の重さで現実だと理解する。

 

「……詳しく話してくれ」

 

 声がかすれたが、ラル・ミルチの目を見て言った。山本武では私に気を遣って、話せないかもしれないと判断したのだ。

 

「オレが知ってる情報では、神埼桂はキャバッローネを壊滅――跳ね馬ディーノを殺ったことでミルフィオーレに入隊した」

 

 心臓の音が耳元でなってるのではないかと錯覚しそうだった。それぐらいうるさかった。

 

「ディーノはそんな簡単に殺られる男じゃねーぞ」

「キャバッローネが壊滅した時はまだ、ミルフィオーレ――当時のジェッソファミリーはそこまで大きなマフィアではなかった。それに、神崎桂はキャバッローネと交流があったと聞く。そのためオレ達は神崎桂を危険視した。そして、ボンゴレが何人か送り込んだが、全て返り討ちにあった」

 

 再び、沈黙が支配する。重い空気の中、口を開いたのは10年後の山本武だった。

 

「ツナは――オレ達は治療のための交換条件だったと予想している」

 

 誰のとは言わなかったが、バカな私でもそれぐらいわかる。

 

「……だからツナがすぐに動いたんだ。これ以上、戦わないようにって」

「これはボンゴレでも大いにもめた。結局、9代目も賛成したことでオレ達はキャバッローネの件は目を瞑ることになった」

「……よく、説得できたな」

 

 リボーンの言葉に心の中で激しく同意した。キャバッローネはボンゴレの同盟の中で勢力が3番めに大きいのだ。いくら平和主義な考えでも、説得するのは不可能に近い。内部分裂が起きただろう。

 

「順を追って話せば、オレ達は様子が変だとディーノさんから連絡を受けたんだ。すぐにツナと獄寺が向かった。だけど、その時には遅かったんだ。そして、先に駆けつけていた桂がツナに土下座して頼んだんだ。救ってくれって。

 キャバッローネより勢力が強いボンゴレなら治療法を見つけれるかもしれないという僅かな可能性にかけて」

 

 言葉が出なかった。あの自信満々な兄が土下座したと聞いて……。私は姿を消したんだぞ。

 

「ご、ごめん」

 

 謝って済む問題でもない。まして、泣く資格もない。それなのに、涙が出る。止めたくても止まらないのだ――。

 

 

 

 

 

 

 私が落ち着いたころに、リボーンが質問してきた。

 

「桂がどこにいるかわかるか?」

 

 首を横に振る。私も何をしているかわからない。

 

「この時代に来て、桂と何をしたか教えてくれ」

 

 入江正一のことは黙っていたほうがいいだろう。言葉を選びながら話す。

 

「……注射された。これで病気に罹らないって言われた。後、荷物を受け取った。そこにある袋とバラとこのパンダの匣。炎を注入してもらえばいいって……白蘭に気付かれないように細工してるから、いつでも出しても大丈夫、きっと役に立つからって……」

「……そうか」

 

 初めから兄は白蘭を裏切る気だった。そう感じた。

 

「それで嫌な予感がして、お兄ちゃんを引きとめようとしたら、このパンダに眠らされた。後はリボーン達の方がわかると思う」

「桂はボンゴレアジトの場所を知っていたんだな……」

 

 リボーンの言葉に頷く。私が場所を教えたわけではないのだ。つまり、この情報だけでも、兄は危険な橋を渡っていることがわかる。

 

 なんとかして兄を止めなければならない。恐らく兄は白蘭と敵対する。だが、周りを見渡してそれが不可能だと悟る。山本武は明日には入れ替わる。今から行動を起こしてもらうのは、危険すぎる。リボーンとラル・ミルチの体調を考えれば、無理をさせるわけにはいかない。

 

 こういう時にいつも頼っていたのはディーノである。しかし、彼はもういない。私のせいで――。

 

「……君達は守護者集めに専念してくれ。兄は白蘭を標的にし、イタリアへ行く可能性が高い。日本はあまり影響がないはずだ」

「……桂のことはいいのか?」

「それが最短の道のりのはずだ」

 

 もっともディーノがいないので、雲雀恭弥を誰が鍛えるのかという問題が起きるが。

 

「悪いが、今日はこれぐらいで勘弁してくれ。情報を整理したい。どこまで話していいのか難しいんだ」

「……わかったぞ。だが、無茶はするんじゃねーぞ」

 

 リボーン達の見送り終わると、重い溜息が出た。

 

「お兄ちゃんが、ディーノを殺した、か……」

 

 小さな声で呟いたつもりだったが、部屋に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、私は黙ってリボーン達の会話を聞いていた。悩んだ結果、沈黙を貫くことにしたのだ。もちろん問題があれば、口を出すつもりだが。

 

「白蘭を獲る。単独でな」

「無理だ」

 

 その割に、原作通りのラル・ミルチの暴走に口を出してしまった。困ったものである。

 

 ラル・ミルチに睨まれているこの状況をどうにかしたい。そもそも、私は本当のことしか言っていないのだが。

 

「私が思いつく限りで白蘭を倒す方法は4つ」

 

 私の発言に食い込み気味になった。

 

「だが、その内の3つは限りなく不可能に近い。理由は時期が悪い、私の知識が足りない、ボンゴレを助けるメリットがない」

「その3つは他の奴の協力が必要なんだな」

「ん。全て頼る相手が別にも関わらず、同じ理由で無理なんだ。私の予想では、話をもっていった時点で殺される確率が高すぎる」

 

 復讐者とチェッカーフェイスとシモンファミリーだからな。復讐者はチェッカーフェイスと戦うために、手の内を出すつもりはないだろう。チェッカーフェイスはアルコバレーノの世代交代のみで、わざわざボンゴレのために力を貸さない。シモンファミリーはリングの場所がどこにあるかわからず、現時点でボンゴレに頼られても助けないだろう。そもそも本部がやられたことを考えると『罪』が無事なのかも怪しいが。

 

 しかし、私の知識がもう少しあれば、もっと上手く。さらに交渉することが出来たかもしれないのだ。

 

「じゃ、やることはかわらねぇな」

「ああ。守護者の皆を集めよう」

「お前達はお前達で勝手に動け。オレは行く」

 

 部屋から出て行こうとするラル・ミルチの反応と比べると、2人は私に気を遣ったとわかりやすい。

 

「コロネロの敵を討つ気だな」

「彼は喜ばないぞ」

「お前に何がわかる!」

「君の名前を出せば、コロネロの反応速度が良くなる。だから君を大事にしていることぐらいはわかる」

 

 今度は何も言い返さずにラル・ミルチが出て行った。

 

「わりぃーな、サクラ」

「彼女の反応が普通だ」

 

 ラル・ミルチと入れ違いに沢田綱吉と獄寺隼人が入ってきた。知識通りである。少し違うとすれば、沢田綱吉は私の方に駆け寄ってくる。

 

「大丈夫……?」

 

 心配そうな顔を向ける沢田綱吉にデコピンを2日連続でお見舞いする。未来にきて不安になってるのに私の心配までしなくていい。

 

「君は今から笹川京子達を助けにいくんだ。気合入れろよ」

「え!? 京子ちゃん達を!?」

 

 相変わらず彼女の名前を出せば、反応がいい。わかりやすすぎて苦笑いが出る。

 

「おい! どういう意味だよ!」

「そのままの意味だ。ランボとイーピンが彼女達をつれて、このアジトへ来る。が、敵に襲われてる状況だ」

「大変だ! 急がないと!」

「急ぎすぎるとスレ違いになると思う。君達は山本武からこの時代の戦い方を教わりながら向かえばいい」

 

 私の言葉に疑問を持たないことを考えると、過去から来ている2人は完全にテンパっているようだ。山本武に丸投げしよう。

 

「後は……5丁目の工場跡地に繋がってる入り口があるだろ。そこから出れば大丈夫のはずだ」

「助かった。後は任せろ」

 

 山本武に肩を叩かれながら言われた。彼も気を遣ってくれたのだろう。私と兄のせいでずれてる可能性があるからな。

 

 彼らを見送ったので、机の上にある写真に目を落とす。

 

「何かあるのか?」

「六道骸も元気そうだなと思って」

 

 リボーンがよくわかってなさそうなので、ヒバードの横に写ってるフクロウをトントンと指で叩く。

 

「骸の匣兵器」

「じゃ骸の居場所もわかってんだな」

「一応、な」

 

 私の歯切れの悪い返事を言っても、リボーンは何も聞いてこなかった。どこまで話すかは私の判断に任せているということだろう。

 

 何度も思うが、ここまで信頼されると困る。私はこっそり溜息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 サクラが溜息を出したころ、メローネ基地に居る入江正一はパニックになっていた。入江正一の予定では彼はここに居るはずではないのだ。

 

「桂、戻ったなら報告しろと言っただろ」

「それは難しいね。僕は報告よりサクラの顔を見る方が優先だからね」

 

 入江正一は廊下で偶然出会った桂の返事を聞き、呆れたように溜息を吐く。もちろんフリだ。この基地でサクラの顔を見ることが不可能なのは、逃がした入江正一が1番知っている。そのため、桂はサクラと無事に会えたことがわかる。何も知らなければ、大騒ぎしているはずだ。桂はサクラが安全な時間を稼いでいるのだ。

 

 ただ、サクラから入江正一のことを聞いたのかは判断できなかった。が、たとえ聞いていたとしても、入江正一のすることはかわらない。

 

「君が白蘭サンからある程度の自由を許されてるのは知っている。だけど、ここは僕の基地だ。僕に従ってもらわなければ彼女の治療は――」

 

 濃厚な殺気を向けられ、入江正一は言葉を発せれなくなった。胃がキリキリするが、今のは自身の立場を考えると正しい発言だったと入江正一は自身に言い聞かせた。

 

「僕はやるべきことはしているはずだよ。この前渡されたリストは全て消した」

「……そ、そう」

「だから少し僕はゆっくりさせてもらうよ。久しぶりに日本に戻ってきてサクラが喜んでるんだ。何して楽しませようか悩ましいよ」

 

 桂の発言は狂気と言ってもいい。サクラは寝たきりで、治療のためベッドから離す事も出来なかったのだ。それなのにまるで目が覚めたように話している。過去からサクラが来たことを知っていれば、何も思わないことかもしれないが、桂は寝たきりのサクラの話をする時も、常にこのように話していた。

 

「わ、わかった。次に僕が声をかけるまでは休んでいい」

「それは助かるよ。ありがとう」

 

 礼をいい、桂は優雅にサクラの部屋に通じる道へ向かった。桂が去ったことで、やっと入江正一は息を吐くことが出来た。

 

「大丈夫ですか。入江様」

「……ああ。だけど、なんで白蘭サンはあんな奴を好きにさせてるんだ」

「私どもにはわかりません」

 

 クスクス笑いながら話すチェルベッロを見て、入江正一は溜息を吐いた。本当に白蘭が何を考えているのか入江正一はわからないのだ。

 

 桂を従わせるために、サクラを人質にとっただけならまだ理解できる。だが、サクラの治療施設には監視カメラをつけず、さらに盗聴を妨害する機械を設置する許可まで白蘭は出した。

 

 白蘭の能力を使えば、簡単に突破できるだろう。しかし、そんな様子はない。サクラの容態によって、桂が裏切るとわかっているはずなのに、だ。

 

「桂につけた監視はどうなってる」

「いつもと変わりありません」

「また撒かれたのか……」

 

 桂には部下が数名居るが、彼らは桂を崇拝している。上官である入江正一やボスである白蘭が命令しても何も話さないのだ。もっとも、そんな部下を桂は殺したが。

 

 入江正一は頭をかく。桂はミルフィオーレに所属しているが、独立していると言っても過言ではない。ますます白蘭が桂を放任している理由がわからないのだ。

 

「僕の手には負えない。白蘭サンに報告するよ」

 

 結局、入江正一は桂の行動に悩んでいるフリをし、報告中に少しでも白蘭の考えを読もうと考えたのだった。

 


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