目が覚め、リビングに向かう。やはり自身のベッドだとよく眠れた気がする。……戦いが終わったので精神的に楽になっただけかもしれないが。
大空戦の最後はあっさりと終わった。
ヴァリアーが私達を人質にし道連れにしようとしたが、クロームが起きたことで形勢が傾いたのだ。そして、すぐにランチアが現れたのも大きいだろう。
そういえば、「報告します!」という感じの流れがなかったな。まぁ特に問題はないだろう。
とにかく決着がついたため、私は彼らの保護を受けなくてもいいということになり、久しぶりに家に帰ってきたのだ。
そして、今日は相撲大会の勝利を祝うパーティである。名前が違うのはランボが入院しなかったからだろう。
実はこのパーティが楽しみだったりする。
ご飯を食べ終わり、少々浮かれ気分で準備していると兄がやってきた。
「準備は出来たかい!?」
「……お兄ちゃんも行くんだ」
「当然だよ! 笹川君が勝ったのだよ! 僕が祝わなくてどうすんだ!」
男の友情というものだろう。まぁ関係のない黒川花もいるので別に問題はないか。
兄が両手いっぱいに何かを持っていた。中身は恐らくケーキだろう。楽しみである。しかし、仕事はいいのだろうか。
「仕事、ちょうど休みでよかったな」
「そういえば、サクラには話してなかったね。仕事はやめたよ」
「は?」
「父上の仕事を手伝うことにしたんだ」
あっさりと言った兄に驚く。せっかく留学したのに仕事を辞め、さらに分野が全く違うお父さんの仕事を手伝うとはどういうことだ。まさか――。
「お父さんの具合が悪いの……?」
「ん? 心配しなくても父上は元気だよ!!」
恐る恐る聞いてみたが、大丈夫らしい。しかしそれならば兄が手伝う必要があるのだろうか。
「でも今日は最後の休みだよ。明日からは父上の仕事で忙しくなる。だから、サクラはしばらく大人しく過ごすんだよ」
「……私が暴れるような言い方だな」
「しばらくはケーキを作る時間もないからね」
ちょっと待て。まるで私に甘いものを与えないと駄々を捏ねるようではないか。……少しだけ否定できない気がする。だが、私はそこまで我慢できない子どもじゃないぞ。
「お兄ちゃんが決めたなら、私は応援するだけ」
「ど、どうしてなんだ……!」
兄が急に叫びだすため、怪訝な目を向けてしまった。もしや、あまりにも感動しすぎて、ついにおかしくなったか。
「どうして僕は荷物を持ってるんだ! サクラを抱きしめれないじゃないか!」
本当に兄がケーキを持ってて良かった。公衆の前で抱きしめられるのは勘弁である。
ご飯を食べる前に、沢田綱吉のところには挨拶した方がいい気がする。兄とわかれ、声をかけに向かった。
「お疲れ様」
「う、うん。ありがとう」
「それは私のセリフ」
よくわかってなさそうなので、ちゃんと伝えることにする。
「君は約束を守っただろ。だから、ありがとう」
「や、負けるわけにもいかなかったし……」
顔を赤くしながら答えるのを見て、本当に褒められることに慣れていないなと思う。
「それでもありがとう」
真っ赤になった沢田綱吉を見て、もう十分伝わっただろうと満足する。後はヒロイン達に褒められればいいだろう。
用件がすんだので、モグモグとひたすら口を動かす。ただで食べれる高級寿司は最高である。
「ハハッ! 親父の寿司を気に入ってくれて嬉しいぜ!」
山本武に声をかけられ、頷く。本当に美味しいのだ。
「そうだ! 神崎! 説明しろ!!」
「んーん?」
獄寺隼人に聞かれ、何を?と言ったつもりが、口の中に詰め込みすぎたようだ。言葉になっていない。
「……後でいい」
後でいいなら、話しかけるな。私は忙しいのだ。山本武が私達のやり取りをみて笑っていた。いつもならイラっとするが、今回はしょうがないことだ。自覚している。
「喉、詰まらすぜ?」
「んーんーん」
今度はディーノに心配されたので、大丈夫と答えた。また言葉にはなっていなかったが。お茶を渡されたので、一服することにした。
「ん、次は――」
「楽しみにしているところ悪いが、ちょっといいか?」
「なに?」
寿司に釘付けになりながら、返事をする。次のターゲットを探しているが、耳は傾けてるつもりだ。
「今日の夜にはイタリアに戻らねーといけねーんだ。リボーンもいるから大丈夫と思うが、気をつけろよ?」
「……ん、わかった」
明日にはそのリボーンがいなくなるため、返事が遅れてしまった。しかし、ディーノは寿司に集中していると勘違いしたようで、深く聞いてこなかった。そもそもディーノが聞いてきたとしても何もできないしな。それにディーノは忙しいのだろう。今回の事件を知っているディーノはボンゴレの建て直しに手伝うことになってるはずだ。それでもパーティに顔を出すのは沢田綱吉達を安心させるためだろう。
「何かあったら、連絡しろよ?」
「助かる」
沢田綱吉達がいなくなれば、もし何かあった時に頼れるのはディーノになるだろう。忙しいかもしれないが、ここは頼るしかない。私の返事にディーノは満足したようで、頭をガシガシと撫でたのだった。
ディーノと話が終わったので、お寿司に意識を戻そうとしたが、兄の気配がないことが気になった。いつもディーノが私にかまうと、ライバル意識を燃やしていたはずだが。
周りを見渡すと壁にもたれている兄がいた。パーティとかになると張り切るタイプなのだが。
「どうしたんだ?」
「……サクラが大きくなったと思っていたのだよ」
何か変わったところがあっただろうか。キョロキョロと自分の身体をみたが、いつも通りである。先ほどの行動を思い出すと、口いっぱいにお寿司を食べていた。……どこに大人になったと思うところがあったのだ。しかし、感傷的になってる兄を見ると思うところがあったのだろう。少し悩み、口を開く。
「前に言ったけど、兄は私の兄。たとえ私が大人になったとしても、お兄ちゃんには甘えるつもり」
家族だからな。歳をとっても気をつかわず甘えれる存在だろう。
「困った子だね」
兄に優しく撫でられ、恥ずかしくなって逃げることにする。兄はそんな私の反応を見て笑っていた。
パーティから2日たった。つまり沢田綱吉がリボーンを探す日である。
「彼らの旅路に幸多からんことを――」
「サークラちゃん!」
急に部屋の扉を開けられ、上機嫌なお母さんにテンションについていけない。私の心の中では今シリアスなのだが。
「お出かけするわよー!」
お母さんは私の気持ちに気付かないらしい。いつものことだな。流石についていく気はしないので、断ると続くお母さんの言葉に一瞬思考が停止した。
「今、なんていった……?」
「ふふ。ビックリしたでしょー! サクラちゃんを驚かそうと思って黙ってたのよ。まっ契約の関係で詳しく話せないのもあったんだけどね」
お母さんに返事が出来ない。私はそれどころではないのだ。
「さぁ、行くわよ! 今日はお父さんとお兄ちゃんの晴れ舞台よ! でもお兄ちゃんはおまけになっちゃうけどね」
「会場って、どこ……?」
「並盛商店街よー」
お母さんの呼び止める声を無視して、走り出す。しかし、走り出したのはいいが、どうすればいいのかわからないのだ。
「そ、そうだ。電話……!」
ケイタイを取り出し、兄に電話をかける。が、繋がらない。
考えればわかる。イベントが始まる前は忙しいはずだ。いくら兄でもすぐに電話には出れない。
なぜ気付かなかったのだろう。お父さんの仕事の関係で引っ越してきたのはわかっていたはずだ。たとえ、わかっていたとしても何も出来ないかもしれないが、対策ぐらいは出来たはずなのだ。
いや、今からでも遅くはない。間接的に関わってるだけなのだ。お父さんはただ地下商店街の空間のデザインをしているだけだ。もちろんデザインだけじゃなく、現場に行って力仕事とかも必要だとは知っている。恐らく兄は主にそっちの手伝いになるだろう。しかし、それを考えると嫌な予感しかしないのだ。
とにかく相談しなければ――いったい誰に……?
白蘭の危険性を話さず、頼めることなのか。無理だ。どうしても話さないといけなくなる。話せば、ボンゴレ匣が出来ない未来になる可能性が高くなる。黙ってることしか、出来ない……。
10年後の私が姿を消したのは……関わらせないためなのか……?
私が消えれば、両親や兄は仕事が出来るだろうか……?
「わ、私は、彼らじゃなく、家族を選んだのか……」
声が震えた。ボンゴレ匣が出来る未来を作るためだと、自分に言い聞かせることも出来る。でも、話せなかったのは彼らを信用できなかったからだ。
着信音が響く。兄が着信履歴に気付いたのだろう。ほとんど無意識に通話ボタンを押した。
「――っ!」
息を呑む。兄だと思っていた。まさか彼からだと思わなかったのだ。私の様子が変だと気づいたのか、心配するような声が聞こえた。
「た、助けて……」
ずるいと思う。頼らないのに助けてという。これ以上は話せなくて通話をきった。
ついに、私は歩くことも出来なくなり立ち止まってしまう。
そして、身体に何か当たった――。
VSヴァリアー編・完
未来編(前編)は6月上旬に予定しています