「極限に楽になったぞ!」
サクラが渡した解毒薬を1番最初に飲んだのは、意外にもあまり話したことがない笹川了平だった。理由は単純で、仲の良い桂の妹が言ったからである。
「待ってろよ。ヒバリィー!」
なぜサクラが解毒薬を持っていたかという疑問には気付かず、了平は薬を受け取らなかった雲雀を助けに行くという使命に燃えていた。
「む、忘れるところだった! 極限太陽!!」
ギリギリのところでリングが必要と思い出し、派手にポールを倒す。そして、了平はベッドに拘束されているため問題ないだろうと判断し、ルッスーリアの解毒をし、雲雀の元に向かったのだった。
次に解毒薬を飲んだのは獄寺だった。サクラが渡したのもあるが、Drシャマルが用意したのた。少し効果があればいいという思いで飲んだのだった。その結果――。
「……治った?」
獄寺が疑問を口にするのは無理はない。多少ふらつきはあったが、先程まで感じていた痛みが全てなくなったのだ。いくらDrシャマルが用意したといっても、これは明らかにおかしなことだった。この解毒薬をDrシャマルに頼んだサクラのことが頭によぎるが、考えている時間はない。ランボの解毒薬は獄寺が持っているのだ。
しかし、その数秒が命取りとなることもある。ドコォォ!と爆音がし、嵐のポールが倒れたのだ。それは原作より早い時間だった。了平が倒したポールの音をXANXUSに聞かれてしまったのだ。
「しまっ……!」
ベルフェゴールの前に嵐のリングが転がる。すぐさま獄寺がダイナマイトを投げるが、負傷しながらも解毒されてしまった。獄寺は戦ったからこそ、相手のしつこさを知っている。簡単にランボの元に行かせてはくれないだろうと――。
「つーか、なんでお前元気なの?」
「やるしかねぇ!」
獄寺がダイナマイトを構えた時、ある人物の姿が目に入る。その人物はベルフェゴールに向かって、武器を振り下ろした。殺気を背後から感じたベルフェゴールは咄嗟に転がるように避ける。ベルフェゴールが攻撃した相手の顔を確認したのを見て、その人物は口を開いた。
「僕は彼らと違い、強いからね」
ベルフェゴールの疑問に答えながら、挑発した。獄寺隼人も一緒にだが。
「校内で死なれると風紀が乱れるんだ。……さっさと行きなよ」
続く言葉に文句をのみこみ、獄寺は屋上に向かうことした。足止めのため、ベルフェゴールにダイナマイトを投げて雲雀に叫んだ。文句はのみこんだが、どうしても一言だけは伝えたい言葉があったのだ。
「この借りはぜってぇいつか返す!」
雲雀はそれについては返事をしない。
獄寺を助けたのは、あくまで1番死にそうなランボが校内で死なれるのは困るからである。何より、サクラの言動のおかげで、薬が必要になる事態に陥り、自力で解けるとわかっていたのだ。それだけわかれば、毒にやられる前から、それ相当の覚悟は出来た。そのため、借りはあるようでない。
「さぁ、はじめようか」
雲雀は獰猛な笑みを浮かべ、トンファーを構える。理由はわからないが、獄寺の投げたダイナマイトはナイフの軌道線上ではない、不自然な切れ方をしたのだ。とっくの前に、雲雀の興味は獄寺の言葉よりベルフェゴールに移っていた。
先に動いたのはベルフェゴールだった。現在の状況を確認するスキはないが、リングを持っていない状況でも獄寺は解毒できたのだ。他の守護者も解毒していると考え行動した方がいいと判断したのだ。
あらゆる方向から雲雀にナイフが襲う。絶体絶命のピンチのはずだが、ディーノと散々戦った雲雀には、直線的な攻撃をさばくほど簡単なことはなかった。ただし、ナイフの先にワイヤーがついていなければ――。
「うししっ」
頬から血を流れる雲雀に追い討ちをかけるように、再びナイフを投げ始めるベルフェゴール。しかし、それは失敗だった。
雲雀は全てのナイフを撃ち落したのだ。
そして、ギィィィと耳につく音がなる。これは雲雀が頬をきった場所にトンファーをおろし、ワイヤーに引っかかった音だった。
雲雀はもう2度も間近で同じ現象を見ていた。そして、投げたダイナマイトがナイフの軌道線上で切れなかったことに獄寺は驚きもしなかった。ナイフに何かあると違和感を覚えるには十分だったのだ。
「ワイヤー、なのかな?」
淡々とした口調で確認する雲雀に、ベルフェゴールは恐怖を感じた。殺し屋としての己の勘が警報を鳴らしたのだ。
「パース!」
ベルフェゴールは少しでも時間稼ぎとし、もう1度ナイフを投げる。雲雀が撃ち落している間に、XANXUSが偶然にもあけた壁の穴から1階へ飛び降りたのだ。
しかし、飛び降りた先も安全ではなかった。雲雀を探していた了平と解毒を終えた山本に挟まれ、見上げると雲雀がいつでも1階に飛び降りれる状況だった。
「これってピンチじゃね?」
そう呟いたベルフェゴールは山本達の活躍により、拘束された。残ったのは不完全燃焼した雲雀の不満だけだった。
レヴィを倒しランボを助けた獄寺は、山本達と合流し体育館に向かっていた。
「おめーらも、あれを飲んだのか?」
「ああ。そうだぜ?」
山本の返事を聞き、獄寺は思わず舌打ちをした。
獄寺はサクラのおかげで助かっただろうと薄々わかっていた。そして、自身を含め2人があっさり飲んだのはサクラが渡したから。彼らとサクラにはそれほど信頼関係があったのだ。だが、サクラのことがわからない。そのことに苛立ちを抑え切れなかった。
「ヒバリ、てめぇは―― 」
「あいつは気になることがあるといい、どこかへ行ったぞ」
「はぁ!?」
「極限、団体行動が出来ん奴だ」
獄寺は頭をかく、雲雀がサクラのおかしな行動に気付いているかもしれないと思っていたのだ。実際はとっくに雲雀は気付いてるのだが、そのことを獄寺は知らない。
獄寺は雲雀がサクラに何かするかもしれないと考えたが、今は試合中。観覧席にいるサクラに聞き出すのは難しい。なぜ、雲雀が今向かう必要があるのか。雲雀が行く可能性があるとすれば、校内で死なれると風紀が乱れるということ。そこで1つの可能性が生まれた。
「あのバカッ!」
XANXUSの前で解毒薬を渡し、それを飲んだ自身達が回復すれば、怪しまれるに決まっている。しかし、あのタイミングで渡さなければ、確実に飲むか怪しいところだった。
「くそっ! おめーらは体育館の方へ行け!」
普通ならば、優先事項は体育館にいる霧の守護者の様子を見に行くことだ。しかし、獄寺はUターンし、安全なはずの観覧席に向かうことにした。山本たちの呼び止める声を無視して――。
獄寺には何か考えがあるだろうと判断し、山本達は体育館に到着した。このまま乗り込もうとしたが、出来ずにいた。
「ねぇねぇ。行かないのー?」
獄寺が忘れ――置いていったランボの存在である。
「ここは年長者のオレが! 極限ー!」
どちらかがランボと残るべきだろうと判断したのは同じだったが、相談もせずに了平が体育館に突っ込んでいく。それを唖然という表情で山本は見送ったのだった。
了平が特攻してから数分後、体育館から光が漏れ、爆発が発生した。それは了平の技、極限太陽だった。しかし、了平とクロームの姿は見えない。
「ちょっとここで待ってくれねーか?」
様子を見に行くため、山本がランボに声をかける。が、足元にいたはずのランボがいないのだ。
「ガハハハ! ランボさんも手伝うもんね!」
声がした方向を向けば、体育館に手榴弾を投げるランボがいた。
すると、体育館の方から、地震のように地面が振動しはじめる。これは了平の仕業だった。マーモンによる幻覚のせいで闇雲に技を放っていた了平が、ランボの手榴弾の光で一瞬だけ解放されたのだ。そのスキをつき、足元に今までの何倍もの威力の極限太陽を放った。
「やべっ」
山本はランボを抱え、体育館から少しでも離れようと走る。爆風に煽られながらも、持ち前の運動神経でバランスを保ち、振り返る。
「地面がえぐれてる……」
体育館が吹っ飛んだことも驚きだったが、地面にクレーターのような穴が出来ていたのだ。
「先輩!? ドクロ!?」
あたりを見渡せば、瓦礫の下から二つの影があった。1つは了平、もう1つは骸だった。あまりにも至近距離だったため、骸は幻覚でクロームを守ったのだ。
「やれやれ……」
骸があきれたように呟くと、すぐにクロームに戻る。力があまり残されていない状況で、入れ替わったのだ。かなりの無茶になり、クロームのことを頼むことも出来なかった。
もちろん、山本と了平は駆け寄り、クロームは無事に保護された。ただ、マーモンの姿と霧のリングは見当たらなかった。
……戦闘描写は本当に難しい。