クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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ダメツナ

「ツナさんの驚く顔が楽しみですー」

 

 語尾にハートマークがありそうだ。そう思いながら、私はなぜここにいるのだろうかと考える。沢田綱吉と一緒に学校へ行く途中で、彼の額にデコピンをしたまでは問題なかったはずだ。

 

「あなた達、行くわよ」

 

 やはり原因は沢田綱吉と別れて教室に向かってる時に、彼女に見つかってしまったせいだろう。昨日のこともあったので、断れなかったのだ。……感謝という意味ではなく、恐怖で。

 

 私が考えている間に、彼女達は屋上の扉を開け、沢田綱吉に駆け寄ったようだ。

 

 

 少し悩み、私は彼女達と離れ、隠れて見守っているリボーンの隣に座り本を開く。

 

「混ざらねーのか?」

「そのまま、そっくり返す」

「オレはこっちでも問題ねーんだ。おめーは違うぞ」

「私の日常はこんな感じだ」

 

 リボーンの言いたいこともわかるが、私は元々キャアキャアと叫ぶタイプじゃない。私は彼らの騒がしい声を聞きながら、本を読む。これが今の私の日常な気がする。……随分、変わったな。

 

「本当にそうなのか?」

 

 どういうことだと顔をあげれば、リボーンは屋上から飛び降りて行った。言い逃げである。途中で止められると気になる。

 

「ガハハハ! サクラみっけ!」

 

 ランボがいつの間にか隣にいて、私の顔を指でさしていた。全く、保育係は何をしている。人の顔に指をさすなとちゃんと教えろ。呆れながらも、ランボが褒めてほしそうだったので、飴を渡す。

 

「はひ! サクラちゃん、なんでそんなところにいるんですかー!」

「そうだよー。こっちにおいでよー」

 

 ランボの声が聞こえていたようで、しぶしぶ立ち上がり、ランボと一緒に彼女達の元に向かった。ランボに飴を渡してしまったので、イーピンとフゥ太にも渡すことにする。

 

「ぷっ」

 

 軽くふいた音が聞こえたので、その方向を見れば沢田綱吉だった。私の目があったことに慌てたことを考えると、私を笑ったのだろう。どこか変なところがあったのだろうか。

 

「その、いつもポケットに飴が入ってるんだなーって思って」

「……君達と出会ってからだ」

 

 確かに彼らと出会う前からも飴はよくポケットに入っていた。しかし、毎日欠かさずあったのかと聞かれると、それはない。でも、いつの間にか、これが当たり前になっていた。ポケットに飴が入ってることにすら、ツッコミしなくなった。だから、ふと思った。

 

「……いつか」

「ん?」

「いつか、君達と一緒にいるのが――」

「え? 最後の方、なんて言った?」

 

 周りの音が騒がしく聞こえなかったようだ。そのことに安堵し、どこか落胆した。

 

「気にするな。些細なことだ。それより、ランボがおねしょしたらしいぞ」

「えー!? ランボー!?」

 

 慌ててる彼らに苦笑いしながら、私は手伝うために一歩踏み出した。そして、一瞬だけだが動きを止め、笑ってしまった。どうやらリボーンの方が私のことをよくわかっていたらしい。

 

 

 

 

 

 私はランボを抱きかかえながら、沢田綱吉とリボーンと一緒に大空戦が行われる学校に向かっていた。いいタイミングだと思ったので、聞いてみる。

 

「少し迷ってる。私のせいでXANXUSがすぐに本気になるかもしれない」

「え?」

「だから、君の負担が大きくなる可能性もある」

「うん。わかった」

 

 今、私は相当マヌケな顔をしているだろう。しかし、これは正しい反応な気がする。私はかなりおかしなことを言ったはずだ。それをあっさり「うん。わかった」と済ませた沢田綱吉がおかしすぎるのだ。

 

「大丈夫。負けないよ」

 

 私の目を見て言った沢田綱吉は真剣だった。だから、私は言った。

 

「……ダメツナなのに?」

「えーー!?」

 

 叫んだ彼を見て私は笑った。これが大空なのだろう。いつか私は彼らと一緒にいるのが当たり前になる。そう思える日が来る気がした。

 

 

 

 

 

 初めて私は本を読まずにルールを真面目に聞いた。観覧席にいることになるが、今回は私も参加している気分なのだ。守護者は各バトルフィールドに移動するということになったので、声をかける。

 

「円陣、する」

「神崎も極限気合が入ってるな!」

 

 そうかもしれない。自ら円陣に参加したいと考えるとは私だって思わなかった。願掛けのようなものかもしれない。

 

「沢田ファイ!!!」

「……ォー」

 

 その割りに声が小さいのは気のせいである。

 

 円陣が終わったので、フィールドに移動しようとする彼らを引き止める。

 

「どうかしたのか? 神崎」

「これ、君達に」

 

 今日、学校へ行った時にDrシャマルから受け取ったのだ。人任せじゃなく、私から渡すべきと思ったからな。

 

「んだよ、これ。気色悪ぃ……」

「Drシャマルに頼んで用意してもらった。困ったときに飲めばいい」

「極限にこれは飲めるものなのか!?」

 

 笹川了平の気持ちもわかる。解毒薬がまさか怪しい色をした液体とは私だって思わなかった。まぁDrシャマルが用意したので、偽者という心配はない。まずそうだが。

 

「あれ? オレには?」

「君の分はなし。念のため、ランボの分は獄寺隼人が持ってろ」

「なんで……オレが!! それに10代目にはねーってどういうことだ!」

 

 獄寺隼人はキレているが、沢田綱吉は安心したような顔をしたぞ。全く、2人とも失礼である。

 

「彼には必要ないからだ。それに雲雀恭弥もいらないと思う。ほしいなら渡すけど」

「いらない」

 

 会話だけは聞いていたらしい。そして、雲雀恭弥は極力借りを作りたくないという考えはあっていたようだ。もっとも、得体の知れないものを飲みたくないという気持ちもあったと思うが。

 

「クロームもいらないの?」

「持ってる、ボス」

「そうなの!?」

「後は頑張れ」

 

 それだけ言ってバトルフィールドに向かう彼らを見送った。私に出来るのはもう応援しかないのだ。他にあるとすれば、リボーンから離れないようにするぐらいだろう。先程からヴァリアー側からの視線がきついのだ。何を企んでるか気になっているのだろう。

 

「リボーン」

 

 声をかければ、リボーンは私の肩に乗った。どうやら同じようなことを考えていたらしい。流石である。

 

 この状態でチェルベッロの話を聞いていると、守護者全員に毒が注入されたようだ。焦る人物が多い中、私はほっと息を吐く。毒の種類を『デスヒーター』とチェルベッロが言ったのだ。私のせいでずれていれば、どうしようかと思った。……たとえずれていても雲雀恭弥が何とかした気もするが。しかし、原作と違いランボの意識があるのだ。いつまで痛みに耐えれるかはわからない。早く解毒した方がいい。

 

 説明が終わり、沢田綱吉が吹っ飛ばされる。私の肩の上からリボーンが撃ったはずだが、全くわからなかった。銃を見るとサイレンサーがついていた。どうやら私の耳の心配もしてくれていたらしい。

 

「なめんなよ。オレを誰だと思ってる」

 

 特殊弾を撃ったことについて言ってるはずだが、私への心遣いについて納得してしまった。流石リボーンである。

 

 リボーンを肩に乗せたまま、観覧席に移動する。だが、観覧席に入ってもいいのだろうか。

 

「どうしたんだ?」

「入ってもいいか悩んでる」

「何かあるのか?」

「ん。観覧席に罠が仕掛けられてる」

「先に話せ! コラ!」

 

 私とリボーン以外はもう入っていたので、怒鳴られた。しかし、原作でも彼らは入っていたのだ。怒られるのは理不尽である。

 

「そのようなことはありません。急いでください」

「おいおい、どうするんだ……」

 

 沢田綱吉側は私の話を信じているようだ。しかし、どうすることもできないだろう。まだヴァリアーは罠を発動しているわけではない。そのため、チェルベッロは気付いていないのだ。入るしかないだろう。

 

 罠があるとわかっているのに入るのは妙な感覚だった。それにしても、リボーンは私の肩から動こうとしなかったので、私の行動に反対する気はなかったのだろう。一応、手を打っているが、ここまで信頼されると困る。困るといっても、沢田綱吉達を裏切るつもりはないのでそういう意味ではないが。

 

 しかし、私が試合を真剣に見ても本当に意味がないな。全く見えないのだ。沢田綱吉が垂直に校舎の上に立ったところで、やっと彼の姿が見えたレベルである。リボーンが憤怒の炎について語っているが、私は移動することにする。本当に知識がなければ、どうなっていたかと思う。

 

「サクラ殿?」

「頼んだ」

 

 バジルを盾にするように捕まる。なぜなら何かに捕まらないと、私の踏ん張りではガチンコ勝負の影響で吹っ飛ばされる気がするのだ。

 

「うわぁ!」

 

 来るとわかっていたのに、情けない声が出た。だが、ここまで爆風が来るとは思わなかったのだ。Drシャマルが、咄嗟に私の肩に手をまわしてくれて助けてくれたようだ。しかし、なぜか嫌悪感を抱いてしまう。不思議――ではないな。普段の行いが悪いからだ。だが、まぁ礼ぐらいは言うべきだろう。

 

「助かった」

「可愛い子ちゃんのためなら当然のことだ」

 

 ふとDrシャマルと兄は似ていると感じた。ふざけないところでは彼も兄も真面目だからな。範囲が可愛い子か私を優先するかの違いである。

 

「なんだ? さては、オレにほれたな」

 

 ジッとDrシャマルの顔を見ていれば、盛大に勘違いをしたようだ。頼むから兄はこのように歳をとらないでくれ。この場にいない兄に伝えたくなった――。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 ロマーリオは溜息を吐いた。自身のボスであるディーノが、大空戦を気にし、落ち着いていないのは誰が見ても明白だったのだ。ディーノの態度は部下の前で示しがつかない行動だったが、そのことについては誰も何も言わなかった。

 

 もしディーノが試合内容が気になっているならば、誰かが注意していただろう。試合が始まってしまえば、ディーノにできることはないのだから。

 

 しかし、ディーノが落ち着かない理由は観覧席にいるサクラのことだとロマーリオ達は理解していた。もちろん、ディーノの師であるリボーンがついているので、心配する必要はないとわかっている。が、ディーノがサクラが助ける時のために、修行していたことを。前回、守れなかったことに悔しい思いをしたのを知っていた。だからこそ、誰も言わなかった。

 

「ボス、ここはもうオレ達に任せてくれ」

「だが……」

 

 ついに見かねたロマーリオが代表し声をかける。しかし、ディーノは言葉を濁した。ロマーリオ達を信頼していないわけではないが、もしここで試合を見に行き、ロマーリオ達に何かあればサクラも傷付けることになる。さらにサクラはディーノを頼らなかった。正しくはサクラはディーノにスクアーロのことを頼んだ。この意味をわからないほど、ディーノは盲目ではなかった。

 

「お嬢さんもファミリーの一員と思ってるのはオレ達だけなのか?」

「……そうだな。オレが間違っていた」

 

 ディーノの体質改善は、ディーノがサクラをファミリーと同様に守ると決めたからである。つまり、ディーノが決めた時点で、サクラはロマーリオ達にとっても、大事なファミリーの一員だ。

 

 ファミリーを守るために、理由はいらない。至らないところを助け合うのがファミリーである。ファミリーを助けるために、遠慮する必要などないのだ。

 

「ここは任せてくれ。こいつが起きれば、すぐにオレ達も向かう」

「ああ!」

 

 ディーノは駆ける。守ると決めた1人の少女のために――。

 




花粉症でへばってました。すみません。

念のため補足。
桂さんは学校の敷地内にいませんが、サクラが見える位置にはいます。

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