ディーノとロマーリオは原作と違い、学校にいた。サクラの様子を聞き、試合を見に行った方がいいと判断したのだ。もちろん、スクアーロの病院移動は済ませ、部下に見張らせている。
今のところ異変はないので、ディーノは試合前の教え子に声をかけることにした。
「よぉ、恭弥」
「何しにきたの」
「恭弥の試合を見に来たといいてーが、ちょっと気になることがあるんだ」
「……ふぅん」
雲雀はサクラのことを頭に浮かべた。が、一瞬で消え去る。目の前に獲物がいるのだ。特に椅子から動こうとしない男に用がある。自身の邪魔さえしなければ、好きにすればいいと判断したのだった。
ディーノはいつもと変わらない教え子にやれやれと思いながら、まわりを警戒する。まだ異変はない。ルール説明を聞いても、フィールドが了平の言ったようにまるで戦場ということ以外、不審な点はなかった。
ついに勝負開始という声がチェルベッロから宣言された時、ディーノのケイタイが震える。画面を見れば、サクラからだった。慌てて電話に出る。
『学校に救急車を呼べ!』
ディーノが口を開くよりも先に、サクラの助言が耳に入ってしまった。瞬時に、教え子に目を向ければ、モスカを倒した爆発音が響く。その爆発音の中、ディーノは「お兄ちゃん」というサクラの声が聞こえた。
サクラは学校に向かいながら、学校に救急車を呼ぼうとしたが、手を止める。9代目が入院したことは世間に知られてはいけないことだろうと思ったのだ。そのため、ツテがあるだろうディーノに連絡したのだった。
「サクラ、どうしたんだい? そんな格好で」
「……お兄ちゃん」
そっと耳からケイタイをおろし、通話を切る。サクラは先程の会話を聞かれたのかもしれないと思ったが、桂の様子を会話からして、知らないと判断する。
「沢田君とケンカでもしたのかい?」
桂はパジャマの上にパーカーを羽織っただけのサクラが、この場にいても不思議ではないような理由を口にする。
もちろん、そんなわけがないと桂が1番わかっていた。なぜなら、ヴァリアーに宣言してすぐ、桂は仕事を辞めてずっとサクラの護衛をしていたのだ。ツナ達を信用していないわけではないが、仕事に手がつかなくなるのは目に見えていた。だからあっさりと辞め、まだ時間に融通ができる父親の仕事を継ぐことを選んだ。
そこまで覚悟を決めたからこそ、サクラから話してくれるその日まで、桂は知らないフリを続ける。サクラに自身の気持ちを押し付けないために――。今回は詳しくはわからないが、抜け出してきたのだろうと推測したため、サクラの前に姿を現し声をかけたのだ。
「……違う。行かなくちゃならないんだ」
初めは適当に誤魔化そうとした。ウソをついでも、桂を振り切ってでも、サクラは学校に行こうとした。でも口から出たのは正直な気持ちだった。
「そうかい。ならば、僕も一緒に行こう!」
サクラは首を横に振る。桂の目は見れなかった。悲しそうな顔をしていると思ったからである。だから、もう1度正直な気持ちを伝える。
「『いってらっしゃい』って言って。……私から送り出してほしいと頼むのはレアだぞ」
途中で恥ずかしくなり、サクラは威張った。桂は浮かれることもなく、サクラの後ろに移動する。そして、その背を押した。
「さぁ! 行って来るがいい!!」
振り返らずに頷く。怖いが、必ず自身の味方をしてくれる桂に背を押されたのだ。サクラはもう逃げない。彼らとこれからも過ごすためには、この目で見なければならないのだ。何が起こっても、だ。サクラは覚悟を決め、走り出した。
桂は動かない。サクラを守るため、自身も学校に行かなければならないが、すぐに追い抜くことはできる。だから、この光景を目に焼き付けることにしたのだ。
「まるで、羽が生えたようだよ」
誰がなんと言おうとも桂の目にはそう見えた。桂はサクラがまた一歩大人になったと実感しているのだ。いずれ、桂の助けもいらないぐらいサクラは成長することになるだろう。しかし、そのきっかけの1つに自身の力が必要だった。それが何より桂は嬉しかった。
サクラが学校にたどり着いた時にはモスカが暴走していた。崩壊の危険を考え、建物から距離をとりながら、山本武達と合流をまず目指した。
「あぶねぇ!」
ディーノは叫んだ。この騒ぎの中、近づく足音が聞こえたのだ。目を向ければ、サクラに向かって爆弾が落ちるところだったのだ。しかし、サクラに爆弾が当たることはなかった。無事に回避したのだ。もちろん、サクラが避けれるわけがない。助けてもらったのだ。
「邪魔だよ」
「雲雀、恭弥……」
急に引っ張られ、尻餅をついた状態で、サクラは上から下まで雲雀を観察した。助け方がかなり手荒だったことを踏まえると、本人の可能性が高い。が、雲雀の足には怪我がなかった。
これはサクラの助言のおかげだった。救急車が必要になる理由がXANXUSと戦っている教え子だと、ディーノは勘違いたのだ。そして、モスカが起動したことにいち早く気付き、ロープを使って助けていたからだった。ちなみに雲雀がサクラの近くに居たのは偶然である。雲雀はXANXUSより暴走し学校を壊すモスカを優先し、フィールドから出ていただけだった。
そんなことを知らないサクラは雲雀を怪しむ目で見る。その視線に気付いた雲雀がトンファーを構えたことにより、サクラは本人と確信したのだった。
「ん。それでこそ君」
失礼な言葉を吐きながら、サクラは雲雀の腕を掴む。もちろん、雲雀は振り払った。
「君の腕を見込んで頼みがある」
「いやだ。僕はあれを壊す。君を助けたのは学校で死なれると風紀が乱れるからだ」
「それを私がわかってないと思ってるのか」
時間にして数秒、にらみ合った。そして、「早くいいなよ」と雲雀が折れた。これはサクラの今までの言動。そして、サクラとディーノに借りを返すためである。
もし事情の知っているディーノが近くにいれば、サクラは雲雀に頼まないだろう。だが、ディーノは今、XANXUSを牽制している。XANXUSはツナの守護者や同盟のディーノ達には手を出せない。だから、モスカを暴走させた。しかし、サクラは違う。この中で唯一サクラは曖昧な立場である。もしサクラに何かあってもモスカの暴走を止めようとして起きた事故と押し通せることができる。雲雀を助け、サクラが無事だと確認できた時から、XANXUSの近くにいたディーノは動けなくなったのだ。
「強者の気配を感じないか?」
雲雀はサクラの質問の意図を理解した。見える範囲ではない人物を探していることに。雲雀が真っ先に気付いたのは今にでも飛び出しそうな桂だった。まさか兄の強さを理解していないと思わず、雲雀は口に出さなかった。
一方、サクラも雲雀の返事を待つ間も、あたりを見渡し探していた。視界にディーノとXANXUSが対峙しているように見えたが、後回しにした。夢で見た男の方がXANXUSより危険なのだ。
「……本当にいるの?」
「わから――」
ただの夢だったならそれでいい。そう思いながら、サクラはわからないと言おうとした。自身より強者を求める雲雀の方が見つけれる可能性が高いと判断したからである。しかし、男を見つけたのはサクラだった。
「……?」
雲雀はサクラの目線を追った。が、何も見えない。ただの空だった。
男は空中に浮いているため、サクラは見上げることしか出来なかった。男を見ても、夢の時のような恐怖は感じない。ただ、そこにいる。それだけだった。
男に意識が向いたのはサクラだけでなく、桂もだった。雲雀と同じようにサクラの目線を追えば、桂には見えたのだ。
2人の視線を感じたのか、男は口を開く。
「素晴らしい愛だ。精々、楽しむがいい」
サクラは振り返る。夢の時のように耳元で言われた気がしたのだ。しかし、男はいない。慌ててもう1度見上げれば、ただの空だった。
桂も男から目を離したつもりはなかったが、背後をとられ囁かれた。桂は数秒考え、違うと首を振る。男の気配は感じず、サクラも同じような反応をした。同じタイミングで、だ。つまり、あれは耳元で囁かれたわけではない。脳に響いたのだと桂は気付いたのだった。
男の言葉からして、この場にもういないと2人は判断する。2人は先程の言葉の意味を考える。サクラはツナ達に対してと捉え、桂はサクラに対して捉える。
2人が完全に一致したのは、あの男はもういないことと敵という認識だけだった。
雲雀がサクラの頼みを聞いたことにより、モスカの暴走を抑えたのは原作通りツナになってしまった。
ツナの涙を見て、サクラは罪悪感が募った。夢で見た男が実際に居たことを考えると、話さなかったことが正解かもしれない。が、サクラが上手くやれば、夢の通りにならない可能性もあった。もっとも、リボーンに眠らされた時点で、その可能性がほぼなくなったが。
「……僕は君に死んでも感謝はしない」
サクラの近くに居た雲雀はトンファーを構えながら呟いた。いきなりのことでサクラは怪訝な目で雲雀を見る。サクラからすれば、雲雀が感謝するはずないとわかっていた。そのため、雲雀の言葉は当然のことを言っているとしか思えない。
「だけど、役に立つとは思ってる」
雲雀はツナを見ながら言った。サクラはツナが強くなる、この状況を作った――壊さなかったことを言っていると理解した。が、サクラはもう1度考え直すことにした。リボーンとディーノが雲雀はサクラのことをわかっていると発言していた。あの雲雀が呟いたのだ。サクラのために言った、他の意味が含まれているかもしれないと思ったのだ。
そして、本当の意味でサクラは雲雀の言葉を理解した。誰、もしくはどこに基準を置くかによって、サクラの気持ちは変わることを――。
もしサクラが雲雀を基準に見ていれば、そこまで罪悪感は持たなかっただろう。先程のサクラはツナ達を基準に見ていた。だから、辛くなった。
サクラは深呼吸する。1度、原点に戻ろうと思ったのだ。ツナ達と友達になると決めたはサクラの意思である。イレギュラーの自身がいるからこそ、ツナ達には原作のようなハッピーエンドをむかえてほしいとサクラは思っている。そのためにはこの状況が必要なことだと思えるようになり、気持ちが軽くなった。
「咬み殺されるのは嫌だが、君みたいな奴がいて良かった」
サクラは本音を漏らした。サクラにとって、雲雀の存在はとてもありがたかった。なぜなら、ツナ側でこの状況を喜んでいるのは雲雀ぐらいなのだ。もちろん、雲雀がXANXUSに強者と戦いたいという気持ちを利用され、ムカついてることはわかっている。が、最後まで大人しくしていたことを考えると喜んでいる方が強かったことは、原作を知っているサクラにはわかることなのだ。
雲雀はサクラに興味がなくなり、もう何も答えない。サクラはそれもありがたい思ったのだった。
蛇足な気がして、原作でわかるところはカットしました
次の話はどこから始めようw