クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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貸し借り

 病気でもないのに、病室で本を読んでいると迎えが来たようだ。ディーノは忙しいようなので、試合は諦めていたのだが、合間を縫って手配してくれたらしい。ズレのことを気にしている私のためだろう。試合をちゃんと見ていないため、気付かれていないと思ったが、バレバレだったようだ。

 

「見に行くぜ、コラ!」

 

 妥当な人選だなと思った。コロネロは霧の試合に興味があり、口がすべらない強い人物だからな。

 

「笹川京子とお風呂入ってきたのか?」

「は、入ってないぜ!」

 

 反応が微妙すぎて、どっちでもいいかという結論になった。コロネロが焦ってるのはスルーする。

 

 

 

 道中、コロネロに対戦相手のことを聞かれたが、答えなかった。どうせすぐにわかるからな。

 

 学校についてからは私が案内すれば、早く着いたらしい。沢田綱吉が頬にキスされているシーンだった。私のせいでコロネロの登場シーンをつぶすことになるので、1度扉を閉める。

 

 少しボーッとするしかないと思っていると、もの凄い勢いで扉が開かれる。

 

「は、入っていいから!!!」

 

 真っ赤な顔をした沢田綱吉だった。彼はいっぱいいっぱいのはずだったので、恐らくリボーンが教えたのだろう。別に気を遣わなくても良かったのだが。まぁいいというのなら、入るけどな。

 

 私が体育館に入ったのを見て、再びクローム髑髏を仲間にするかと話し合いが始まった。

 

「てめーもちったぁ考えやがれ!」

 

 いつも通りに本を読もうとすれば、獄寺隼人に怒鳴られた。しょうがないので、口を開く。

 

「じゃぁ賛成」

「じゃぁって……てめぇ!」

「まーまー。落ち着けって」

 

 答えたのになぜ怒鳴られる。理不尽である。もう山本武に任せて私は本を読もう。

 

 

 

 

 沢田綱吉達の声は慣れたので気にならないが、火柱は邪魔だ。

 

「……読めない」

「極限、平気なのか!?」

 

 火柱の近くにいながら、ボソッと呟いたことに気付いたようだ。沢田綱吉達に驚かれる。

 

「火柱は幻覚と理解すれば、これぐらいなら防げるだろ」

「そういわれたって……うわぁ!」

 

 火柱が凍るのを見て、沢田綱吉達は驚いた声をあげる。だから、それは幻覚だ。

 

「サクラが術士につえーんだ」

 

 リボーンとコロネロは幻覚にかかったようだ。……そういえば、そうだったな。まさか私がかからないとは思わなかった。もしかすると私の勘違いで知識だけではなかったのかもしれない。それぐらいでしか説明出来ないのだ。私がいくら相手の好み、これからの行動がわかるといっても、強力な幻覚にはかかるはずだ。そして、思った。……微妙すぎる。

 

 例え、私が術士に強くても、骸や幻騎士のように体術を使える術士なら一発でアウトだ。マーモンのファンタズマが興奮しないところを見ると、私は幻術を使えるような特殊な人間ではないのだろう。そして、見破ってるわけではないかもしれない。もし相手が術士と気付かなければ、私は攻撃に当たるかもしれない。実験したくはないので、するつもりはないが。そもそもそんな術士と戦うという危ない経験をする予定はいらない。

 

 だが、もしもの時と考えた時、私は知識とこの微妙な能力で生き残らなければならないのか。その前に、この知識は何だ。考えてもわからないので、溜息をつくことしか出来なかった。

 

「クフフ クフフフ」

 

 人が悩ませている時にこの笑い声は腹が立つ。しかし文句を言うと殺されるかもしれない。諦めて本を読むことにした。

 

 

 

 

 

 沢田綱吉の「え?」と驚いた声に顔を上げる。もう試合が終わってるはずなのだが。顔をあげれば、視線が突き刺さる。この場にいる人物全員に見られているようだ。

 

「君の仕業?」

「心外ですね。僕は事実を言ったまでです。あなたは彼の企てに気付いているのでしょう?」

 

 やはり余計なことを言ったのは六道骸だったようだ。私は黙秘権を執行することにした。しかし「クフフフ」と笑ってる姿に腹が立ち、ポケットに入っていたものを投げつける。

 

「チッ」

 

 思わず舌打ちする。不意打ちを狙ったはずなのに、キャッチされたことに腹が立ったのだ。もうさっさと用件を済ますことにしよう。

 

「彼女に、だ」

 

 六道骸は何も言わずに、ポケットにしまった。恐らく後で渡すのだろう。

 

「む、骸に何を渡したの……?」

「渡したというより、借りを作った、だな」

 

 私がいるからと骸が動かなかった場合が困る。ランチアが来なければ、沢田綱吉にリングを渡すタイミングがなくなるのだ。つまり、ボンゴレリングを砕く未来が出来ない可能性が出てくる。ラル・ミルチの反応からして、未来の沢田綱吉はランチアからもらったリングを使っていた可能性が高いからな。

 

「言っておくが、それを用意してくれたのは彼らの仲間だ」

「……いいでしょう」

 

 パイナップルバカと心の中で連呼していたが、本当のバカではないはずだ。今ので沢田綱吉達に借りを返せというのは通じているはずだ。そして、その借りを返す方法はXANXUSの企てではないこともわかるはず。六道骸は私がわざと黙ってることに気付いているはずだからな。

 

 六道骸との駆け引きが終わったので、ボーッとすることにした。少し疲れたのだ。

 

 

 

「――ラ、サクラ!」

 

 はっと顔をあげる。沢田綱吉が心配そうに私を見ているので、何度も名前を呼んでいたらしい。ボーッとしてるつもりが、これからのことを真剣に考えてしまったな。

 

 本当に9代目を助けなくていいのだろうか。原作通りに進めるのが正しいのだろうか。そればっかりが頭に浮かんでしまうのだ。

 

 リボーンはわかっていたのかもしれない。近くにいればいるほど、不安が強くなる。だから海外に行くかと聞いたのだろう。ルーチェ、アリア、ユニはどうしていただろうか。わかっていても何も言わずに、受け入れていた気がする。

 

 私には無理だ。そう思った。

 

 何を見てしまっても笑え。それがどれだけ難しいことなのか。まぁ、だからこそ影では泣いていたのだろう。

 

「本当に大丈夫!?」

 

 沢田綱吉に顔を覗かれ、一歩下がってしまう。もう限界かもしれない。原作を知っている私なら、彼らのために出来ることがあるかもしれないと思った。だが、実際はどうだ。私の存在が彼らの首を絞めてるのではないのか。私は彼らと近づきすぎたのだ。

 

「余計なことは考えるんじゃねぇぞ。サクラは10年後のランボの言葉を忘れちゃいけねーんだ」

 

 リボーンに言われ、思い出す。彼らは急に消えた私をずっと探していたことを――。

 

「ん。大丈夫」

 

 不安そうな顔をしている沢田綱吉に向かって、上手く出来たかわからないが笑いながら言った。

 

「……彼女は誰が運ぶんだ?」

 

 私の知識ではわからないため、聞いてみた。少し誤魔化したのもあったが。驚いた表情をしている沢田綱吉達に溜息が出る。彼らはチェロベッロに任せる気だったのか。流石にそれはないと思いたい。

 

「誰でもいいなら、笹川了平がするか? 君なら慣れてるだろ」

「えー!?」

「……妹がいるからという意味だ」

 

 まぁ未来でもお姫様抱っこをするからという意味もあったが。私は少し恥ずかしそうな沢田綱吉を放置し、笹川了平の手伝いをする。もっとも、私は三又槍を拾うぐらいだが。

 

「極限、どこに運べばいいのだ?」

「……病院」

 

 少し返事が遅くなってしまった。早めに仲良くなるために、笹川了平の家でもいいが、今から連れて帰れば問題になるだろう。山本武も同じ理由で無理だ。沢田綱吉の家には私がお邪魔している状況だ。流石に頼みにくい。獄寺隼人は警戒して寝れなさそうだ。……元々、あまり眠れなかった気もするけどな。

 

 結局、病院にいるディーノの部下にクローム髑髏のことを丸投げし、私達は帰ったのだった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 山本武達と別れ家に帰る途中に、ツナは横目でサクラを見た。一瞬だが、霧戦の後のサクラはツナを拒絶したように見えた。だが、今のサクラは、いつも通りに見える。ツナは気のせいだったんだと結論した。

 

「いってぇー!」

 

 ツナは頭を抱える。そして、原因は確認せずともわかるようになった。ツナはリボーンに文句を言おうとして時、サクラが視界に入る。サクラの驚いたような表情から呆れたような表情をしっかりと見てしまった。情けない気持ちが出てくる中、ツナはいつものサクラだと再確認した。

 

「……私の顔に何かついてるのか?」

「ち、違うよ!」

 

 ジッとサクラの顔を見ていたことに気付かれてしまったようだ。少し顔が赤くなりながらもツナは誤魔化すが、サクラがため息をついてしまった。

 

「だ、大丈夫だよ。本当に何もついてないから!」

「じゃぁ何?」

「……どこにも行かないよね……?」

 

 サクラの目が見開く。よくわかっていないツナが、核心をつくとは思わなかったのだ。しかし、それと同時に納得した。ツナならありえることだと――。

 

 ツナはサクラの反応を見て、変なことを言ってしまったと焦る。慌てて何か言い訳をしようとしたが、うまく言葉が出てこない。そんな、ツナを見てサクラが声をかける。

 

「もし私が急にいなくなれば、君達は探すんだろ?」

「当たり前だよ!!」

 

 サクラは笑った。嬉しそうにというわけではない。しょうがないという笑いだった。

 

「君が悪い奴だったら、良かったのに……」

 

 思わず呟いたサクラの言葉に、ツナが驚きの声をあげれば、サクラは楽しそうに笑った。その様子を見て、ツナも一緒に笑ったのだった――。




今回はちと短かったです。申し訳ないです。

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