最高である。堂々と学校を休み、本屋に来れる日が来るなんて思っていなかった。
「本当に本が好きだな……」
ディーノの声は無視する。私は今本選びに忙しいのだ。おごってもらう立場というのは気のせいである。最近、人の目ばかり気にするところで本を読んでるせいで、未読の小説がなくなったのだ。もう一度読み直すのもいいが、買ってもらえるなら買うという選択しか私には残ってない。
そもそも私を連れ出したのはディーノだ。気を遣う必要がないと思う。……まぁ連れ出したのは、私が沢田綱吉の修行の邪魔になるかもしれないと考えていたからだと思うが。
「ん? これだけでいいのか?」
ディーノに数冊見せれば、少ないような反応をされる。が、買うのは漫画じゃないのだ。斜め読みが出来ない私にはこれで十分である。
ホクホク顏でディーノから本を受け取る。最初はディーノが持とうしたが、持ちたいのだ。これは私の物である。必ず試合中に読もう。沢田綱吉の家だと子ども達がいるからな。
「お前の兄貴が甘やかす理由がわかったぜ……」
物に釣られやすい性格で悪かったな。腹は立つが、これは離さない。
「そういえば、雲雀恭弥に私のことを何か話したか?」
「いや、話してねぇが……。恭弥がどうかしたのか?」
「学校がボロボロになることを知っていた私を咬み殺すのをやめた」
ディーノが何かしたと思ったのだが、違うようだ。やはり雲雀恭弥はよくわからない。
「わかったんだろ。黙っていたのは、恭弥のためだったってな」
少し理解できた気がする。憶測だが、雲雀恭弥は頭がいい方だろう。私が睨み返したことによって、察したのかもしれない。雲雀恭弥が学校にいれば、修行の進行具合が変わったはずだからな。
「自信がなさそうだったが、ちゃんと師匠になってると思うぞ」
「オレは……まだまだだ」
リボーンと比べてるのかもしれない。ディーノはまだ若いのだ。そこまで気にする必要はないと思うが、目標は高いほうがいいのだろう。
「ん。頑張れ」
「ああ」
頭をガシガシ撫でられながら、沢田綱吉の家に戻ったのだった。
暇である。とてつもなく暇である。
巨大スクリーンの光で本を読んでいると、ディーノに没収されたのだ。とりあえず、返せと視線を送り続ける。
「目、悪くなるだろ? なっ」
そうかもしれないが、読みたいのは読みたいのだ。どれだけ我慢したと思ってる。それに山本武にラッキーナンバーを教えた時点で私の役目は終わったのだ。
「サクラも一緒に山本の応援しようよ!」
「応援はしている。だから読む」
断固たる決意を持って、ディーノの前に手を出す。使い方を間違ってるかもしれないがそれは気のせいである。
2人は顔を見合わせた後、諦めたように本を返してきたのだった。
笑い声が響く。
「……うるさい」
しまったと思ったときは遅かった。肌にビリビリ感じるのは恐らく殺気というものなのだろう。まさか笑い声が、スクアーロの負けで笑ったXANXUSの声だったとは。本に集中しすぎて試合が終わったことに気付かなかったな。とりあえず、ディーノに丸投げしよう。困ったときは助けてもらう約束だったからな。
「ヘルプ、ミー」
「……おまえなぁ……」
棒読みで言えば、ディーノに呆れられた。それでも守ってくれるようだが。もっとも、私が狙われるようになると友達思いの沢田綱吉達が黙ってるわけがないので、チェルベッロが慌てて止めることになったけどな。
落ち着いたのを見て、うむ、ご苦労。という感じで殿様気分を味わってるとディーノに注意される。
「頼むから、もう少し後先考えてから発言してくれ……」
失礼な。私は考えているから、いろいろ黙ってるのだぞ。
「――すまん。今のはオレが悪かった」
急にディーノが謝ってきた。謎である。よくわからないが、許すことにした。
私達が話している間に山本武はスクアーロを助けようとしていた。チラッとディーノを見る。今日は私と一緒にいたが、大丈夫だろうか。いや、ディーノのことだ。必ず山本武のために行動しているだろう。
モニターに視線を戻せば、視界をふさがれる。ディーノの手のようだ。チョイスの時、笹川京子達のために似たいようなことをするはずだからな。見せない方がいいと判断したのだろう。
「私はただの一般人じゃない。だから大丈夫だ。それに、だろ?」
「……それでもだ」
やはりディーノは対策を立てていたようだ。それでも、もし私の知識とずれた時のことも考えての行動だった。ディーノは甘いな、と思いながら、ゆっくり息を吐く。知らぬ間に、肩に力が入っていたらしい――。
「え!? ディーノさんのところで泊まるの!?」
「ん。君のお母さんには伝えてある」
「……オレは初耳なんだが――」
とりあえず、ディーノの言い分は無視する。
「高級ホテルに興味があるんだ」
「それは、そうかも……」
「おめーは朝から修行だからな。行けねーぞ」
興味がありそうな沢田綱吉の気持ちを、リボーンは簡単にへし折った。流石である。まぁ彼も高級ホテルに何度か行くことになるからな。継げといわれたり、ヴァリアーと隣でご飯を食べることになったり――なかなかの不憫である。久しぶりに同情した。
「ちょ、なにその目はーー!?」
沢田綱吉の肩をポンッと叩き、ロマーリオに山本武の治療を任せ、私とディーノは学校から出たのだった。
しばらく歩き出すと警戒しながらディーノが声をかけてきた。私が無理を言ったのだ。何か用事があると思っているのだろう。
「もう1度確認する。部下を忍び込ませてるんだろ?」
「ああ。山本を救うためにだったけどな。今、オレの部下達が動いてくれている。オレもすぐに向かうつもりだったが――」
「わかってる。私は病院のベッドを1つ借りれればいい」
「――そうか」
高級ホテルという話はウソと気付いているはずだが、ディーノは少しすまなさそうな顔をした。気にするなという意味で「話は車の中の方がいい」と声をかける。ディーノは何も言わずに頷いたのだった。
車に乗り込むとさっそく話し始めることにする。
「沢田家光に助言。そこにいるのは『影』だ」
ディーノは息を呑んだ。いったい誰が影なのか、わかったのだろう。
「影とわかっても、本部に突入しなければならない。だろ?」
「あの人は……イタリアに居ろってことか……」
首を横に振る。居ろというわけではない。日本に戻ればどうなるかわからないだけなのだ。9代目の姿を見た沢田家光が手を出さないとは限らないからな。
「大丈夫だ」
頭をガシガシと撫でられ、身体が揺れる。酔いそうになるから止めてくれ。
「君にも助言。スクアーロは死なせるなよ」
「そのつもりだが――」
よくわかってなさそうなので、はっきりという。
「彼が死ねば、私達の死亡率が大幅にあがるぞ」
「なっ!?」
驚いてるディーノを無視し、私は目を閉じた。ポケットの中にあるものを触りながら、大丈夫と自身に言い聞かせる。そして、思った。
「……元々得意じゃなかったが、人と話すのが嫌いになりそうだ」
『ちゃおッス』
目を開くとディーノの手が私の頭上にあった。またガシガシ撫でようとしたのだろう。車内のどこに隠れているのかと、リボーンを探しているディーノに教える。
「ただの目覚まし」
「は?」
「リボーンに頼んだんだ」
生徒時代の名残で探してしまったのだろう。ドンマイである。
「……こんな時間に目覚ましなのか?」
「兄に電話するのを忘れそうだから」
毎日電話すると約束したからな。もし忘れてしまうと面倒なことになるから、わざわざ目覚ましをしてるのだ。
「なんで、リボーンの声なんだ……?」
「目覚ましだから」
首をひねってるディーノを無視し、兄に電話をかける。
『サクラ、今日はどうだったかい!?』
「……ん。ディーノに本を買って貰った」
兄のテンションの高さに若干引きならがら、今日の出来事を教える。もちろん、リング争奪戦のことは話さないが。
しばらく兄と話していると視線を感じ、ニヤニヤしていたディーノをハリセンで叩く。当たったがディーノはケロっとしていた。無性に腹が立つ。兄がうるさいが、切ることにした。
「悪かった。兄が好きなんだなっと思っちまってよ」
「逆だろ」
兄が私のことが好きなのだ。そこを間違っては困る。
「もしあいつに彼女が出来れば、どうする?」
ディーノはいったい何を言い出すんだ。よくわからないが「好きにすればと思う」と返事をする。
「お前と話す時間が減ってもか?」
「減るわけないだろ」
「優先順位が変わる可能性があるだろ?」
よくわからなくて首をひねる。兄が私を優先しないことがあるのだろうか。
「お前だって、ツナ達と仲良くなって、桂と話す時間が減ったんじゃないのか?」
そういえば、私に友達が出来ても、あまり変わらなくて嬉しいねという感じのことを言われた気がする。
「あいつは寂しいと思うかもしれないが、引けるってことだ」
つまり、ディーノは私が引けないと思ってるということなのか。兄は笹川了平と友達だろ。そのことに私は文句を言ったことがないはずだぞ。
「私は兄と笹川了平の友情?の邪魔をしたことはないぞ」
「よく考えろ。笹川と話している時にお前がやってきたら、どっちを優先していた?」
「当然、私だろ」
『お兄ちゃん』と呼べば、必ず私の方に来るからな。
「そういうことだ」
ディーノは何か納得しているようだが、私には兄が私のことが好きと再確認した話にしか思えなかった。
雲雀さんと桂さんの話になると執筆スピードがなぜかあがるw