クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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水滴

 私が笑い終わると、沢田綱吉がバジルを紹介し始めた。

 

「沢田殿からも紹介がありました。バジルと申します!」

「ん」

 

 妙な沈黙が流れた。「よろしく」とでも言えば良かったのかもしれない。

 

「か、神崎さんは人見知りっていうのかな……? えっと、悪い子じゃないんだ!」

 

 私が考えていると、慌てて沢田綱吉がフォローしたようだ。ナイスである。しかし、ずっと沢田綱吉に頼るのも悪い気がするので、私からも話しかける努力をする。そうは言っても、私に気の利いた言葉が出るわけがないので、沢田綱吉の言葉を借りることにした。

 

「……フラフラしてるが大丈夫か?」

「は、はい!! 初めての超モードでちょっと疲れただけです。心遣い感謝します!」

 

 沢田綱吉が声には出さず「言っちゃったー!?」という感じのリアクションをしていた。リング争奪戦のことを知ってる時点で、黙ってる必要はないと思うのだが……。

 

 そう思っているとリボーンがベルフェゴールのことを語りだした。それを聞き、獄寺隼人を心配していた沢田綱吉が、私の存在を急に思い出したようにこっちを見た。

 

「いろいろ知ってるから」

「そ、そうなんだ……」

 

 リボーンより知っているという言葉を含んでいたが、沢田綱吉は気付かなかったようだ。

 

「サクラ、おめーはどう思うんだ?」

 

 ここで私に聞くのかよと心の中でツッコミをしてしまった。内容は違うが、代わりに沢田綱吉がツッコミをしてくれたようだ。ナイスと思ったが、助言ぐらいはしてもいいだろう。

 

「頭脳戦」

「「え?」」

 

 私が呟いた言葉に沢田綱吉とバジルが驚いたような声をあげた。

 

「そのままの意味だ。今回は頭脳戦でもある」

「リボーンさんや親方様も相手は戦闘において天才と……」

「センスだけじゃなく、戦闘に対しても頭が回るから天才というんだ」

 

 頭が悪ければ、ワイヤーとナイフの両刀づかいなど出来るとは思えない。そういえば、マーモンも似たようなことを言っていたな。

 

「つまり言動に騙されるなってことだ」

「わ、わかった。でも、どうして神崎さんがそんなことを……」

「さぁ?」

 

 私にもわからない。なぜ私はこんな知識を持ってるのだろうか。沢田綱吉達は私が話す気がないと思ったようで、深くは聞いてこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 獄寺隼人が来ないことで沢田綱吉達が焦っている中、私は廊下に座り込み、本を読む。しかし、ヴァリアーの方から視線を感じ、集中できない。本当に私が眠ってる間に何があったんだ。怖くてもう聞きたいと思わないが。……少し気分転換を兼ねてトイレに行こう。私が立ち上がり歩き出そうとすれば、沢田綱吉が駆け寄ってきた。

 

「神崎さん、どこ行くの?」

「……トイレ」

 

 沢田綱吉は私が心配で着いてこようとしたらしい。挙動不審になったからな。

 

「彼らを見張ってくれればいい」

「で、でも……向こうは全員いないし……」

「今日、XANXUSは来ない」

 

 私の言葉にヴァリアーが反応した気がする。小さな声で話していたつもりだったが、暗殺部隊のヴァリアーには聞き取れる声量だったらしい。

 

「う゛お゛ぉい!! 今のは聞き捨てなれねぇぞぉ! うちのボスがなんだとぉ!?」

 

 リボーンが私の前に立ち、警戒していた。この状況で手は出せないだろうと判断し、私は無視をしトイレに向かうことにする。その時に「僕、ちょっとトイレ」という言葉を思いついたので、意外にも私は平常心のようだ。

 

 

 

 

 

 トイレから出ると沢田綱吉が居た。待たれると何とも微妙である。私の気持ちに気付いたようで、謝ってきた。

 

「ご、ごめん! その……心配で……」

「わかってる」

 

 私の言葉に彼はほっとしたような顔をした。

 

 コロネロに昨日の試合で大空のリングも取られたと聞いた。恐らく私のせいだろう。しかし彼は何も言わない。私が謝ったとしても、彼は私のせいではないと言うのだろう。周りに誰もいないので、今まで気になっていたことを聞いてみる。

 

「何も、聞かないのか?」

「え!?」

「私がどこか変だと流石に気付いてるだろ」

 

 沢田綱吉が弱弱しく頷くのをみて、隠し通せているとは思ってはなかったが、私は気付いてほしくなかったという気持ちの方が強いと知った。

 

「む、無理に話さなくていいんだ! 話さなくても神崎さんを守ることには変わりないから……」

 

 話している内に弱気になったのだろう。声が小さくなっていった。もっと自信を持てばいいのに。

 

「――サクラだ」

「え?」

「サクラと呼べばいい。死ぬ気の君は私の事をサクラと呼ぶ」

 

 慌ててる沢田綱吉を放置し、私は試合会場に戻ることにした。……自信をもたせるために言ったが、少し恥ずかしくなったのだ。

 

 

 

 

 

 先程より視線を感じるようになったが、あまり気にならず本に集中できそうだ。恐らく沢田綱吉のおかげなのだろう。

 

 本を読み出したところで爆発する音が聞こえた。獄寺隼人が来たようだ。知識のある私は話を聞く必要がないと判断し、このまま読み続けることにした。

 

「かわいい子ちゃーん! ぐぺっ!?」

 

 今回はハリセンが当たったようだ。痛がってるDrシャマルを放置し、本を読み続ける。が、「おめーら、何しに来たんだよ!?」と獄寺隼人に怒鳴られる。なぜかDrシャマルと一緒の扱いにされた。いろいろ失礼である。

 

「……わざとなのか?」

 

 獄寺隼人にいろいろ思うことがあったが、私はDrシャマルに向かって呟いた。知識では彼はチェルベッロのところに行ったはずだ。しかし、彼は私のところに来た。恐らくヴァリアーへの牽制という意味があったのだろう。

 

 感謝出来ないのは、今までの彼の行動のせいな気がする。決して私が素直じゃないからではない。これは断言できる。

 

 

 

 

 

 

 爆発音が響く。音楽プレイヤーでも持ってこれば良かったと後悔した。それにしても私が試合に全く興味のない様子を見せても、誰もツッコミを入れなくなったな。それほど獄寺隼人の試合に意識が向いてるのだろう。私も少し気になり、顔をあげれば、王子が豹変しているところだった。

 

 マーモンの解説を聞いていると、片割れは生きてるけどなとツッコミしたくなる。別に真6弔花ではないことを考えると、必死に黙ってる必要はない気もした。まぁ面倒になることになるので結局言わないが。

 

「ふぁ」

 

 あくびが出た。結果がわかってるものからすれば、この時間は長い。更に、リボーン達がベルフェゴールの身のこなしが凄いと言ってるが、私には全く見えず、目が疲れただけだったのだ。

 

「か……――応援しようよ! 獄寺君が頑張ってるんだよ!?」

 

 名前もはっきり呼べない沢田綱吉に怒られる。だが、私にだっていろいろあるのだぞ。私が無関心を貫き通してる1番の理由は、言ってはいけないことを黙ってるためである。

 

「見えねーが、サクラはおめーらと同じぐれー応援してるぞ」

 

 リボーンのフォローに頷きながら、再び私は本を開いたのだった。

 

 本を読み始め数分後、再び爆音が響いた。どうやら怒涛の攻めが終わったらしい。

 

「油断せずに行こう」

 

 ボソっと呟けば、反応したのはDrシャマルで「隼人!?」と叫んでいた。しかし、肝心の獄寺隼人は彼の焦りを察することが出来なかったようだ。知識通り、取っ組み合いになった。

 

「沢田綱吉」

「な、なに!?」

 

 声をかければ獄寺隼人のことで頭がいっぱいだったのか、焦っている返事だった。

 

「君の言葉なら彼に届く。頑張れ」

 

 驚いたような顔を向けられる。変な言葉を言っただろうか。……言った気がする。しかし、しょうがない気がした。もうハリケーン・タービンの爆破が始まっているが、Drシャマルが何も言わないのだ。私の言動のせいで迷ってる気がする。やはりリボーンから話を聞いてるのだろう。彼が勝てれば、私の気が楽になるからな。

 

「この勝負を負ければ、もう後がない。彼はそのことを理解している」

「獄寺君……!」

「……私は、死んで、ほしくない」

 

 声が震え、本に水滴がついた。たとえ私が存在していても、彼らが獄寺隼人を必ず説得する。それがわかっているはずなのに、怖くなったのだ。ベルフェゴールが生きていたからといって、彼が残れば生き残るとは限らない――。

 

「……サクラ……?」

「っ隼人! リングを敵に渡して引きあげろ!」

 

 沢田綱吉はDrシャマルの声を聞き、覚悟を決めたようだ。

 

「獄寺君! みんなとこれからも一緒に遊ぶんだ! 君が死んだら意味がないんだ! だから戻ってくるんだ!」

 

 リボーンにハンカチを渡され、有り難いと思いながら借りる。ふと視線を感じる。ランボが起きていたようで、沢田綱吉の足の隙間から心配そうに私を見ていた。

 

「ん。大丈夫」

 

 しゃがみこみ、視線を合わせて教える。沢田綱吉なら説得できるという意味も込めて――。

 

 

 

 

 

 

 沢田綱吉と山本武の後ろに出来るだけ隠れるようにする。獄寺隼人は自身で頑張れ。ボロボロかもしれないが、火事場の力を発揮し、爆発から逃げれた君なら大丈夫だ。

 

 ドガッドカッという音が近づいてくる。魔王降臨だな。

 

「校内への不法侵入、及び、校舎の破損。連帯責任でここにいる全員咬み殺すから」

 

 久しぶりに聞く彼の声はやはり美声だった。

 

「特にこそこそ隠れてる、そこの君。逃がさないよ」

 

 冷や汗が流れる。雲雀恭弥は私に未来がわかる力があると勘違いしているのだ。校舎がボロボロになることを知っていて黙っていた私を許すつもりはないのだろう。

 

 「ちょっと待て。私は未来がわかるわけじゃないんだぞ!とある知識がだけだ!そこを勘違いしては困る!」と、心の中で抗議する。『とある知識』の中に校舎がボロボロになることが入ってることに気付かれそうな気がするのだ……。

 

 少し考え、山本武とリボーンに丸投げする。私は口を開くだけで咬み殺されそうなのだ。

 

 

 魔王静まりたまえーと、祈っていれば、知識どおり進み、彼の怒りがおさまる。……私に対してはおさまっていないようだが。現在進行形で睨まれピンチである。

 

「ひ、雲雀さん……」

「うるさいよ」

 

 たった一言で沢田綱吉は言い返せなくなった。出来れば、先程のような感じで頑張ってほしかったのだが。

 

「か、彼の話を聞かなかったのは君だろ」

 

 更に視線を感じるようになった気がする。そして、ふと思う。なぜ私が睨まれられなくてはならないのだ。理不尽である。つい苛立ち睨み返してしまった。

 

 突如、雲雀恭弥はトンファーを直し始めた。いったいどういうことかと首をひねってる間に、彼は山本武に「負けないでね」といい、帰って行った。謎である。

 

「あれでもあいつはサクラのことをわかってるからな」

「あの、雲雀恭弥が?」

「ああ」

 

 リボーンに聞き返し確認をとってしまった。それほど意外だったのだ。確かに彼は最後の方では少し理解できる人物になっていた。それでも強い人物のみにだったはずだ。

 

 彼の中で何か変化でもあったのだろうかと、うんうんと唸ってるとヴァリアーが帰っていった。すると、少し気が楽になる。恐らく視線が減ったからだろう。

 

「いってぇ!」

 

 大声に思わず振り返るとDrシャマルが獄寺隼人の治療をしていた。男は診ないんじゃなかったのか。少し治療が荒い気がするので、イヤイヤなのだろう。

 

「いってぇんだよ! ヤブ医者!」

「可愛い子ちゃんを泣かせた罰だ。それに、おめーの治療も可愛い子ちゃんのためにしてるんだ」

 

 獄寺隼人だけでなく、この場にいる人物に見られ、顔が熱くなってきた。

 

「な、泣いてない!」

 

 墓穴を掘った気がする。視線が生温かいものにかわった。恥ずかしい……!

 

「そーいや、ツナ。神崎のことをいつの間にサクラって呼ぶようになったんだ?」

 

 山本武の発言で、沢田綱吉に視線が集まる。彼の顔が赤くなったのを見て、天然に初めて救われたと思った。

 




サクラがヒロインっぽくみえたw

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