クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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デコピン

 ムクリと起き上がり、首をひねる。私はいつの間に眠ってしまったのだろうか。ベッドに入った記憶が全くない。最後に覚えているは沢田綱吉の焦る声だった気がする。

 

「!?」

 

 気を失ったことを思い出し、私は慌てて起き上がり1階に降りたのだった。

 

 1階に降りると家族全員そろっていた。お母さんが私を見て、お風呂入ってきなさいという。それはありがたいのだが、昨日のことをなぜ何も聞いてこない。私の疑問に気付いたようで、兄が教えてくれた。

 

「昨日、サクラは眠ってしまい、沢田君が運んでくれたのだよ。ちゃんと、お礼をするんだよ」

 

 よくわからないが、リボーンが気を利かせてくれたのだろう。しかし、運んだのは沢田綱吉なのか。今回は筋肉痛になっていないことを願う。あの時は、遠回しに重いと言われてる気がしてショックだったのだ。

 

 とりあえず、詳しくは獄寺隼人にでも聞こう。彼は保健室にいるはずだ。兄に頷き、私は風呂に入ることにした。

 

 

 

 学校へ行こうとすると兄がついてきた。

 

「ランニングは?」

「笹川君の怪我の具合のこともあるからね」

 

 兄は暇なようだ。そして、寂しいのだろう。今まで私は兄とあそこまで息があった人物を見たことがない。笹川了平が守護者になったため、これからは過ごせる時間も少なくなるかもしれないな。

 

「……マフィアとか興味ある?」

「マフィアかい? ……ふむ。サクラが興味あるのならば僕もある!」

 

 兄は興味がないようだ。それならば、私から詳しく教えるつもりはない。笹川了平に任せよう。

 

「サクラは興味があるのだろう! さぁ! 話したまえ!」

「興味ない。マフィアとか物騒だからな」

 

 沢田綱吉達のことがなければ、関わりたくもないのだ。何度も言うが、私は死にたくないのだ。

 

「すまない、さくら! さっきはウソをついたよ! 僕はマフィアに興味がある!」

「そう」

 

 返事をすれば、なぜか兄がネガティブホロウ状態になった。面倒だったのでスルーし歩けば、ネガティブホロウ状態で着いてきた。……気持ち悪い。

 

「全力で他人のフリするぞ」

「ぼ、僕が悪かった! 許してくれたまえ!」

 

 すぐさま立ち上がり、懇願してきたので許すことにした。私は心が広いのだ。それにしても、他人のフリというキーワードも兄には効果があるのか。覚えておこう。

 

 

 

 

 学校の校門をくぐると、なぜか兄も一緒に入ってきた。余程、暇なのだろう。しかし、いくら雲雀恭弥が学校にいないと言ってもこれはまずい。後日、咬み殺されるだけである。

 

「不法侵入」

「僕とサクラは一心同体さ。ほら、誰も気付いてないだろう!」

 

 兄の言うとおり誰も気付いてない。私の存在をだが。恐らく兄が周りの視線を集めているため、私の存在感が薄くなったのだろう。

 

「学校に何かあるの?」

「僕達の間には誰にも入れ込めないのさ」

 

 直訳?すれば、私と離れたくないという意味なのだろう。……はっきり言え、面倒である。

 

 しかし、兄がここまで我侭を言うのは珍しい。この前の夜も変だったので、いつもより気になる。

 

「……少し待ってて」

 

 嬉しそうに待ってる兄を見て、今日は休むことにした。両親は兄が許可を出した場合は何も言わないしな。

 

 

 用事を済ませるために保健室に向かう。知識通り、獄寺隼人が折り紙を作っていた。

 

「お前、大丈夫なのか?」

「ん。私が気絶した後のことを教えてくれ」

「……おめーが心配するようなことはねーよ」

 

 一瞬、獄寺隼人が迷った気がした。口は悪いが、彼も女子に甘い。チョイスの時も笹川京子達には話さないほうがいいと言っていたしな。

 

「なら、今日の試合も見に行こう」

「バッ! 来るんじゃねー!」

「私の勝手だろ」

「……き、気が散るんだよ!」

 

 私が気絶している間にあまり良くないことが起きたようだ。今日は兄と一緒に過ごす予定だったが、リボーン達と一緒に居た方がいい気がする。後で連絡しよう。

 

「それ」

「んだよ」

「その紙は折り紙じゃなくメモ用紙だ」

「んなの、わかってんだよ」

 

 ブツブツ文句を言いながら、折り紙をつくり始めたので、私の助言は聞き流されてしまったようだ。しょうがないので、飲みすぎで眠ってるDrシャマルをハリセンでスパーンと殴り起こす。

 

「もうちょっと優しい起こし方が、オレの好みなんだが……」

「ちゃんと教えず寝たのが悪い」

「何やらかしたんだ、お前」

「紙ヒコーキを折ってるだけだろーが!」

 

 Drシャマルが気まずそうに私の顔を見ながら頭をかいていた。何も教えずに眠ったことを思い出したようだ。

 

「隼人、気合を入れろよ。可愛い子ちゃんがオレ達のところに来たんだ」

「はぁ~!?」

 

 今の言い回しは気になる。Drシャマルはいろいろリボーンから聞いているかもしれない。しかし、獄寺隼人には伝わらなかったので、口論になりかけていた。私は巻き込まれると面倒なので、帰ることにする。だが、一言だけ言わさせてもらう。

 

「油断せずに行こう」

「なにいってんだ、おめー」

「可愛い子ちゃんにおめーはねーだろ、ったく。可愛い子ちゃん、このバカにはオレからちゃんと教えとくから」

 

 Drシャマルには伝わった気がしたので、任せることにした。遠まわしで獄寺隼人にどれだけ伝えられるかは全て彼次第だな。そう思いながら、私は保健室から出て行ったのだった。

 

 

 

 保健室から出てすぐにリボーンに電話をかける。急いだほうがいい気がしたのだ。

 

『ちゃおッス』

「カオス」

 

 あえてこの言葉を使う。状況によっては間違ってないはずだ。

 

『……コロネロがおめーについてる』

 

 対策を立ててるところを見ると、恐らくリボーンは私に隠す気だったのだろう。私が普段どおり過ごせるために。

 

「どうりで獄寺隼人が何も話さないくせに、試合には見に来るなと言うわけだ」

『……そうか。サクラはどうしたいんだ?』

「目をつけられたなら、君達と行動した方が安全な気がする」

『じゃ、夜にツナと一緒にむかえにいくぞ。そのままツナの家に泊まるからな。準備もしてろよ』

「ん。わかった」

 

 打ち合わせが終わったので、さっさと電話を切る。これ以上、修行の邪魔をすれば、私の死亡率があがるからな。

 

 

 校門へ戻ると兄とコロネロが一緒に居た。リボーンの話では私に隠れて護衛してるはずではないのか。

 

「サクラ、おかえり! 彼にサクラとは知り合いと聞いたよ!」

「久しぶりだな、コラ!! お前の兄貴はおもしろい奴だな。了平が認めるのも理解できたぜ、コラ!」

 

 兄は面白いというより変態と思うのだが。そして、変態なところを認められても困る。本気で他人のフリをしたい。

 

「サクラ、本当に休めるのかい?」

「あ」

 

 兄に言われて思い出す。職員室に行くのを忘れた。もう1度行こうとすれば、引き止められた。兄が電話をかけることにしたらしい。

 

 兄に任せてる間にコロネロに話しかける。

 

「隠れて見張る予定じゃなかったのか?」

「……お前の兄貴に気付かれた」

 

 アルコバレーノが素人の兄に見つかるのは問題だろ。コロネロは私が怪訝な目で見ているのに気付いたようだ。

 

「気付いてねーのか? コラ」

 

 話がわからず首をひねっていると急に肩を引き寄せられる。兄が電話を終えたようだ。

 

「さぁ! デートしようではないか!」

「……家に帰りたい」

「わかったよ! では、僕達の愛の巣に帰ろう!」

 

 コロネロの負担を考え、家の方がいいと判断したが、兄の言い回しを聞きデートの方が良かったと思ってしまった。

 

 

 

 

 

 チャイムが鳴ったので、沢田綱吉達が迎えに来たのだろう。玄関に向かおうとすれば、また兄に引き止められる。

 

「サクラ、どうしても行ってしまうのかい!?」

「毎日電話かけるから」

「……っ!? サクラからの電話……いつでも待ってるよ!」

 

 兄が嬉しそうにクルクル回ってる姿をみると、私の心配しすぎなのかもしれないと思い始めた。ツッコミが面倒になったので放置し、玄関に向かうことにした。

 

 少し待たせたと思っていれば、両親が沢田綱吉達に挨拶をしていたようだ。リボーンはいつも通りだが、沢田綱吉はどこか居心地が悪そうだ。恐らく両親に私をよろしくと頭を下げられ、困ったのだろう。

 

「神崎さ……」

 

 沢田綱吉の言葉が止まる。恐らく私が見えたので声をかけようとしたが、私の後ろでクルクルと回ってる兄も一緒に見てしまったからだろう。沢田綱吉がドン引きするのも無理はない。血の繋がった家族でさえ、兄の行動は予測不可能だからな。

 

「行ってくる」

 

 両親とクルクル回ってる兄に見送られながら、私は出かけたのだった。

 

 外に出てすぐ、沢田綱吉の腕の中にいるランボのことを聞けば、昼に遊び疲れて眠ってるだけらしい。ランボらしい理由で安堵していると沢田綱吉に名前を呼ばれた。

 

「ん。何?」

「絶対、勝つよ。だから安心して」

 

 私は驚き、沢田綱吉の顔をジロジロと見てしまった。彼は冗談ではなく。本気で言ったようだ。恐らく、私がリング争奪戦のことをリボーンから聞いたと思って、わざわざ言ってくれたのだろう。

 

 少し悩み、手を伸ばす。沢田綱吉はまた私に頭を撫でられると思ってるようだ。しかし、今回は違うぞ。

 

「いてっ!」

 

 そこまで痛くないだろう。眉間に皺があったのでデコピンしただけなのだ。しかし、私達の様子を伺っていたバジルがかなり驚いていたので、予想外すぎる行動だったのかもしれない。

 

「無理してカッコつけなくていい」

 

 私は笹川京子達と違い、彼らと関わると決めた時点である程度は覚悟しているのだ。

 

「……無理なんかしていないよ。オレは本気でみんなと――君といつもみたいに過ごしたいと思ってるんだ!」

「……ん。悪かった」

「え!? や、オレこそ……ごめん!! 急に大声出しちゃって……」

 

 沢田綱吉は何も悪くないだろう。私が彼の覚悟をなめていたのが悪いのだ。それにまたどこかで私は彼らと違うと一歩引いていたのようだ。それを彼は感じたのだろう。

 

「本当に君は内側に入ってくるのが上手い」

「え?」

 

 私の言葉を聞き逃したようだ。しかし、もう1度言うつもりはない。ただ、これだけは伝えた方がいい気がした。

 

「褒めた、だけだ」

 

 内容を聞き逃したのに、沢田綱吉は顔が真っ赤になった。彼には悪いが、褒められ慣れをしていない反応に、笑ってしまった。

 




『ネガティブホロウ状態で着いてきた』……ゴ○○リを想像してしまった。

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