教室で笹川京子が沢田綱吉に詰め寄ってる姿をみて、今日からリング争奪戦が始まると思った。もちろん、私は今日から始まると知っていた。昨晩もリボーンからの連絡で、誰も怪我を出さすにランボを保護をできたと聞いていたからな。ただ、間近で原作シーンを見てしまうと、今日から始まると実感させられたのだ。
「神崎、大丈夫か?」
山本武に声をかけられ首をひねる。これでも頭は大丈夫なつもりだぞ。
「真っ青じゃねーか」
自身が思ってるより、不安になっているようだ。そういえば、胃が少し痛い気がする。
「……保健室、行ってくる」
山本武は付き添うつもりだったが、丁重に断った。彼と一緒にいる方が、リング争奪戦のことが気になってしまうからな。
廊下を歩いているとリボーンが居た。相変わらず神出鬼没すぎるだろ。
「心配すんな。ツナ達はぜってぇ勝つぞ」
「ん。ありがと」
「……サクラ、しばらく日本から離れるか?」
礼をいい、保健室に向かおうとした足がリボーンの言葉で止まる。しかし、たとえ日本から離れたとしても私は気になるだろう。それならば、彼らの近くに居る方がいい。小さな声になってしまったが、「大丈夫」といい保健室に向かった。
保健室に行けば、獄寺隼人が居た。そういえば、飛行機を作っていたな。このタイミングでも作ってるとは思わなかったが。
「……Drシャマルは?」
「便所だ」
「そう。ベッド借りるから、襲わないようにしてくれよ」
ブツブツと文句をいっていたが、ここで寝るなと言わなかったので、了承ということなのだろう。少し眠ることにした。
起きるとDrシャマルの顔だったのでハリセンで叩くことにする。兄にもすることなので、私にしては動きがいい。が、簡単に避けられる。
「あぶねーあぶねー。少しは元気になったようだな。けど、無理はしちゃいけねー。まだ眠ってろ。眠れねーなら寝転んでるだけでもいい」
あっさりと離れたので、診察していただけなのかもしれない。少し悪いことをした気もするが、普段の行いのせいだろう。自業自得である。
「そこまで酷くはねぇが、薬を用意しておく。ただ、薬を飲んで完治するとは思わないほうがいい。原因はストレスだ。それを取り除くのが1番だが――」
「んだよ!?」
Drシャマルがを呆れたような目で見たことに彼は気付いたようだ。
「かー! これだからお前はガキなんだ」
私が思うのは変だと思うが、察しろというのは無理があるぞ。2人が言い合いすると思ったので、呟くことにする。
「これ以上、修行が遅れてどうするんだ。恐らく君が1番遅れてるぞ」
獄寺隼人の反応を見る前に私はカーテンを閉めたのだった。
ボーっと天井を見ながら考える。私はこれからどうするべきなのだろうか……。原作でDrシャマルが言ったとおり、人に教えられたものでこれから生き残れるとは思えない。しかし、私が出来ることといえば、それぐらいしかないのだ。ディーノのように修行をつけれる強さもないしな。
あまりにも自身が無力で少し泣いてしまった――。
……いつの間にか眠っていたらしい。ケイタイを見るともう放課後の時間だった。目をこすりながら身体を伸ばす。昼寝をしすぎて夜に眠れないかもしれないと思いながら、カーテンを開けると獄寺隼人とDrシャマルだけじゃなく、沢田綱吉達も居た。
「あっ! 大丈夫!?」
沢田綱吉の質問には答えず、彼の頭に手を伸ばす。顔を赤くしながら驚く彼を見て、なぜか安心して笑ってしまった。
「君を見ていると、しっかりしないといけないと思えるんだ」
私の言葉に沢田綱吉はショックを受けたようだ。恐らく間違ってとらえたのだろう。助けたいという気持ちが強くなるという意味で言ったのだが。しかし、面倒なことになるので勘違いさせたままにする。
「リング争奪戦、頑張って」
驚いて固まった彼らを無視して、私は家に帰ることにした。保健室を出ると「リボーン、神崎さんを巻き込むなよ!!」というツッコミが響いたのは気のせいだろう。
帰るとき、学校の校門に兄が居るのが見えた。何をしているのかと思って目をこらえると、笹川了平と何か話しているようだ。
「応援しているよ!」
「ああ! 任せておけ! 極限、オレが勝ーつ!!」
……ちょっと待て。兄はどこまで知ってるのだ。聞こえた会話がかなり怪しい内容だった。
「お兄ちゃん!!」
「サクラぁ!」
思わず叫べば、嬉しそうな顔で駆け寄ってくる。いくら兄が美形でもドン引きし、足が一歩下がってしまう。が、これでも我慢した方である。先程の会話が気になるからな。
「……何の話してたの?」
「笹川君の応援さ! 今日は相撲大会らしいからね!」
私の心配しすぎだったようだ。安心して兄のエスコートで帰った。
――――――――――――――――
サクラの部屋から漏れる光で眠っていることを確認してから寝るのが桂の日課である。
今日はいつもの時間帯で消えることがなかった。普段ならば、ふざけたフリをして部屋に入る桂が躊躇した。サクラが眠れない原因に想像がついたからである。
もちろん桂はサクラの知識のことは知らない。が、リング争奪戦の話を笹川了平と一緒にリボーンから聞いていたのだ。ツナと仲がいいサクラがこのことを知れば、眠れるわけがない。何よりサクラは誰かと話していた声が聞こえた。それは笹川了平の試合を見に行き、桂が帰ってきた時のことだった。
桂はサクラのことを1番わかっていると自負している。もしリング争奪戦のことを知ってるならば、サクラは心配になり、必ず見に行くだろう。サクラのことを考えれば、止めるべきである。しかし、桂はサクラの意思を尊重したい。そのため、桂はサクラに気付かれないように守ることにした。
――無意識に桂の手に力が入った。
桂は自身を抑えるのに必死になる。心のどこかで、リング争奪戦が起こる元凶を壊せばいいと思うのだ。ヴァリアーだけならばまだ自身の中で納得できるところがあるが、その中にサクラの友達のツナ達が含まれていた――。
「ふぅ……」
落ち着かせるために息を吐く。ただ、妹のサクラを守りたいだけなのだ。それが徐々に狂いだしている。桂はツナ達を傷つけば、サクラの心が傷つくことを理解していたはずなのに――。
「……何をしている」
「サ、サクラ!」
サクラの声で現実に引き戻され、桂はサクラのドアの前で立っていたことを思い出す。とっさに言い訳をしようとしたが、珍しく頭が回らず言葉が出ない。
冗談も言わない桂を見て、サクラは偶然だったと判断する。しかし、冗談だけでなく言葉も返って来ない。桂の顔を見ればその理由がすぐに判明した。
「顔、真っ青」
サクラは背伸びをし、額に手を伸ばそうとしたが出来なかった。届かなかったわけではない。桂に伸ばした手を掴まれたのだ。
桂が拒絶する反応を見せると思わなかったサクラは驚いた。しかし、よく見てみると手を振り払われたわけではなかった。大事そうに手を掴んでいたのだ。
「……少し、このままでもいいかい?」
サクラは頷いた。手を離せば何か取り返しのつかないことが起きる気がしたのだ。
「……一緒に、寝る?」
「いいのかい? 僕はサクラを抱きしめて眠っちゃうよ!」
いつものような兄の返答を聞き、サクラは「布団は別に決まってるだろ」とツッコミを入れた。
床に布団を敷けば一緒でもいいという言葉を含んだ返答を聞いた桂は、苦笑いする。サクラに気を遣わせていることにやっと気付いたのだ。そして、さっきまでどこか歪んでいた気持ちも消えた。心に余裕が出来た桂はこのチャンスを逃すわけもなく、サクラの部屋で眠ることにした。
サクラは布団を敷き終わった桂にゲームのコントローラーを渡す。
「もう遅い時間だよ」
「たまにはいいだろ。同じ部屋で寝ることなんて滅多にないんだ」
「本当にいいのかい? 落とし神モードに入っちゃうよ!」
「ギャルゲーじゃないから」
くだらないことを話しながらゲームを楽しんでしまったため、父親に怒られるまで2人は眠ることはなかった――。
ひとつ前の話の桂の言動が少しわかったと思います。