黒曜の事件が落ち着いたため、ディーノはイタリアに戻ってきていたが、浮かない顔をしている。その様子をみたロマーリオが心配し声をかけることにした。
「ボス」
「ロマーリオか……」
ロマーリオの顔を見ても浮かない顔をするディーノ。今でもディーノは黒曜事件のことを反省している。なぜなら、桂の能力のおかげでサクラは怪我が治っただけなのだ。自身を頼ったサクラを守れなかった事実をなかったことにはできない。
さらに桂の手助けも出来なかった。サクラが桂を巻き込みたくないと相談された時に、桂は頼ってほしいと思ってると話そうしたが言えなかった。もう巻き込んでることをしれば、サクラが苦しむ気がしたからだ。そして、桂はサクラが何も覚えていないことを理由に話さないと決めた。知らない方が安全という理由で……。
ディーノは不器用な2人に何も出来なかったと落ち込んでいたのだった。
「落ち込むなというのは無理があるかもしれねぇが、お嬢さんは無事で本人も気にしてないんだ。ボスが気にすれば、お嬢さんが気に病むことになる」
「……わかってはいるんだ。だけどよ――」
ディーノは理解しているが、感情が追いついていないのだ。ボスといってもディーノはまだ若い、ロマーリオは導き、時には見守るのが自身の役目だと思っている。そして、今回は導くことを選んだ。
「ボス、次に取り返せばいいんだ。また頼むと言われてるんだろ?」
「……そうだな。その時のために鍛えることにするぜ」
「ああ。オレも――オレ達も付き合うぜ」
ロマーリオの返事を聞き、ディーノは顔をあげた。そして、心配をかけていたのはロマーリオだけじゃなかったことを知る。
「お前ら……。行くぜ!」
その時のために、ディーノ達は修行に適した場所に出かけたのだった。
―――――――――――――――――
一方、サクラはディーノ達のことなどを全く気にする様子もなく、事件が落ち着いたのでツナの家に訪れていた。
ツナは上機嫌でサクラを家にむかえる。今日は珍しくサクラからツナの家に行きたいと言ったのだ。ツナはサクラを巻き込んでしまったことに後悔し、明日からの学校をどうすればいいか悩んでいた。そのため、ツナは退院する時にサクラに声をかけられ、喜んで承諾していたのだ。
「神崎さん! あがって、あがって!!」
「ん。これ、兄が作ったケーキ」
「え? 本当に!? ありがとう!」
サクラは兄に強請り作らせたケーキをツナに預け、見かけたランボとイーピンとフゥ太に「君たちの分もある」といいながら飴を渡す。そんないつも通りのサクラの様子に再びツナは安堵したのだった。
ツナはサクラとチビ達が遊んでる様子を眺めていると、リボーンがいつの間にか隣に居たため身構える。気配を消しながら近付いてきたため、ロクなことではない気がしたのだ。
「サクラのことが気になるのか?」
ツナは拍子抜けする。もっと恐ろしいことを言われると思っていたのだ。しかし、なんとなくリボーンが気配を消して近付いた意味に気付く。サクラに聞かれたくない話だと――。
ツナは事件があった時はいっぱいいっぱいで気付かなかったが、よく考えるとサクラの行動はどこか変だった。そういう意味を含めツナはリボーンに「気になるよ。友達だし」と正直に答えた。
「聞かないのか?」
「聞きたいような、聞かない方がいいような……うーん……」
ツナは優柔不断だった。しかし、ふと何か思いついたようにリボーンに目を向ける。
「お前はなんとなく知ってるんだろ? ディーノさんも何か知ってそうだし……。オレはリボーンとディーノさんの判断に任せるよ。もちろん、神崎さんが話すって決めたなら聞くよ。友達だから」
「……そうか」
ツナの答えは他人任せのようだが、サクラの心を優先させていたためリボーンは何も言わなかった。何より、ツナの答えはリボーンの機嫌を良くさせるには十分だった。悲しそうにサクラとの関係を曖昧に言っていたツナが何度も「友達」と言ったのだ。ツナがサクラのことを受け止めれる日は近い。成長していく姿を見れるのは家庭教師のリボーンからすれば、嬉しくないはずがないのだ。
「ビシビシ鍛えるからな。覚悟しろよ」
「なんでそうなるんだよ!?」
ツナは上機嫌なリボーンの言葉に項垂れたのだった。
そこに2人の会話が聞こえたサクラがやってきたので、ツナは少し浮上したが叩き落される。
「今から腕立て伏せをするだけでも効果はある」
「確かにな。ツナ、やれ」
「えーー!? ――いってー!!」
文句を言った途端、ツナはリボーンに蹴られる。サクラに助けを求めようとしたが、腕立て伏せの話題を出したサクラが手助けするわけもなく「君なら出来る」と応援されてしまい、諦めて腕立て伏せを始めるツナだった。
ツナがヘトヘトになった頃、またチビ達と遊んでいたサクラが戻ってきたのを見て、少し気持ちが浮上する。しかし、疲れた自身を労わってくれるのではなく、ツナに頼み事あるため戻ってきたようで密かに落ち込む。それでもサクラからの頼み事だと思い真剣に聞けば、頼み事というほどの内容ではなかった。
「写真? オレの部屋で?」
「そう」
「それぐらいなら別にかまわないけど……」
「ありがと。後、君が写ってくれると嬉しい」
「う、うん?」
ツナはサクラに言われるままベッドの前に移動すれば、パシャっという音が部屋に響いた。
「ええ!? もう撮ったの!?」
「ん。日常っぽいのがほしかっただけだし」
「そ、そうなんだ……」
サクラは1枚だけで問題なかったらしく上機嫌だった。ツナはその姿を見て、神崎さんってどこか変だよな、と再確認したのだった。
―――――――――――――――
家に帰りながら思う。本当にあれはレアだった。なぜなら、この前に部屋を片付けを手伝った時にはあのカレンダーはなかったのだ。この時期にしか見れないのだろう。
レアというのは恐ろしい。見れただけで喜んでいたのだが、つい写真まで撮ってしまった。少し沢田綱吉に疑問にもたれてしまったが、今回はしょうがないと言い聞かせる。レアだからな。
上機嫌で歩いていると、曲がり角で人と衝突しかけた。誰だと思ってみると、持田剣介だった。衝突しかけただけなのに、少しビクビクしているようだ。そういえば、彼は沢田綱吉に髪の毛を抜かれ、今回の事件で歯を抜かれるという不幸の連続だったな。
「沢田綱吉」
ボソッと呟けば、キョロキョロとあたりを見渡し始めた。かなりの重症のようだ。不憫すぎるので助言する。
「――と、関わりたくなければ――」
驚いて私を見ている気がするが、そのまま続ける。
「『クフフフ』と笑えば、沢田綱吉から逃げていくかも」
「……クフフ?」
「そう。カリスマ性を溢れさせた感じで」
「クフフフ」
「おお」
つい声を上げて喜んでしまった。これは助言ではなく、私の好奇心だったようだ。喜びすぎて大事なことを伝え忘れそうだったしな。
「彼の前でしばらくの間は有効。だけど、雲雀恭――」
最後までは言えなかった。もう遅かったらしい。
「ドンマイ」
イラついてる雲雀恭弥に向かって言ったのか、不運な持田剣介に言ったのかはわからないが、言いたくなった。
「……何してたの?」
過去形で聞かれた。あれから会っていなかったが、すぐに咬み殺さないところをみると彼の中で私の話を聞くのは悪くないことと判断したのだろう。
「ちょっとした出来心で」
いかにもバカな犯人が言いそうなことを言えば、雲雀恭弥は溜息を吐いていた。彼は私をバカと思っているようだ。失礼である。今のはボケたのだ。
「……怪我はもういいの?」
「――頭、大丈夫か?」
私の発言に雲雀恭弥は怒ったようだ。苛立ちながら去ろうとしてる。
「怪我はないから」
私に背を向けて歩き出した雲雀恭弥に向かって叫んだ。一瞬、私の声に反応したようだが、彼はそのまま振り返りもせずに去っていった。
「悪いことをしたか……」
少し反省する。流石に「頭、大丈夫か?」はひどい。咬み殺されずにすんだのが奇跡だと思う。
しかし、雲雀恭弥が私を心配するような発言をするとは……。かなり驚いてしまったが、彼なりに思うことがあったのだろう。
彼は私を睨んでる途中から意識がなくなったはずだ。そして、意識が戻れば閉じ込められいれば、何があったのか想像がついてしまったのだろう。
恐らく彼は私を咬み殺しても罪悪感はない。が、のっとられた状況で私を咬み殺すのは嫌なのだ。……私からすれば、たいして変わらないのだが。
「サークラー!」
後ろから聞こえたと思い、振り返れば溜息が出てしまった。兄が手を振りながら駆け寄ってくる姿が見えたのだ。恐らく私を迎えに来たのだろう。
「サクラ、まだ退院してから日がたってないんだ。疲れただろう? 僕が抱っこしてあげるよ!」
「歩けるから」
「無理はしてはいけないよ! さぁ、僕に任せたまえ!」
「恥ずかしい」
「堂々とすればいいのさ! 僕らの愛を見せ付けることが出来るのだから!」
兄を説得する方が疲れると思いながら、嫌なので説得する。面倒だったが、なぜか日常に戻った気がした。
これで黒曜編が完結です。
また書き溜めに入ります。予定では2月下旬からVSヴァリアー編をします。
気長にお待ちください。
レアのヒントは13巻にあります。