桂はツナに近づきながら言う。
「仕方のないことなのだよ。恨まないでほしい。僕はサクラが1番大事なんだ」
死ぬ気のツナは鋼球を防ぎながら桂を見た。2人にはそれだけで十分だった。
「うおおおお!!」
ツナは叫びながら桂を――通り過ぎ、サクラをマヒさせたのだった。
一方、桂はツナと同じく素手で鋼球を受け止めるという離れ業をしランチアをマヒさせた。その後すぐに城島犬をマヒさせる。ディーノは負担が減ったため、雲雀恭弥をマヒさせることに成功した。「ヒバリっつったか? なめてると痛い目にあいそうだったぜ……」と呟きながら――。
全て片付き終わったと同時に桂はサクラに駆け寄り、死ぬ気モードが終わってしまったツナからサクラを受け取る。
「あれから怪我は増えていないと思います……。マヒさせちゃったせいで、しばらく起きないと思いますけど……」
「気にする必要はない。僕では躊躇して失敗すると思い、君に任せてしまった。それに彼の解放は君がしたかっただろう。すまなかったね」
「いえ、オレはみんなを解放したいと思ってたので……。だから、神崎さんも……」
「……ありがとう」
骸の話をランチアから聞いていたツナだったが、サクラを大事そうに抱きしめてる桂を見て、改めて決心する。
「六道骸だけは何とかしないと!!」
「ほぅ。僕をですか」
桂は瞬時にサクラを抱きながら六道骸から距離をとる。が、骸に予想されていたようで火柱に直撃した。
「!? 桂っ!」
「……桂さん!?」
桂の力量ならば逃げれることが出来たが、今はサクラを抱いていた。ディーノにサクラを押し付ける方を優先したため自身が逃げる時間はなかったのだ。
全身が焼け倒れこんだ桂を見て、表情には出さないがディーノとリボーンは怒りを覚える。が、2人より怒りを覚えた人物が居た。
「……お前みたいなひどい奴、許さない。骸に勝ちたい」
そう呟いたのはツナである。そして、レオンが羽化したのだった。
サクラが起きていたなら驚いていただろう。原作と違い、ツナはリボーンに導かれもせずに本音を出したのだから。
原因は単純で原作より短時間に続けて事件が起こったため、ツナの本音がすぐに出ただけだった。ただ言った本人は無自覚だったようで、レオンの羽化に「な、なに!? なに!? レオン!?」とパニックになっていたが。
「ツナ、落ち着け。これはオレも経験したことだ」
「ああ。オレの相棒のレオンは生徒に試練が訪れるのを予知するとマユになるんだ」
「そーだったの!? あ! だからマユになった時にディーノさんが真剣な表情だったんだ!」
「そういうことだ。今からお前専用の武器がアイテムが生まれるぜ。オレの場合はエンツィオとこのムチだった!!」
ディーノの語尾が強くなったのは、黙ってみてるわけがないと思い、ムチで骸を牽制をしたからだった。もちろんディーノはツナに任せる気でいる。ツナがもう大丈夫と思ったのもあるが、桂が必死に守り自身に預けたサクラを危険にさらすことは出来ないのだ。
「毛糸の手袋ー!?」
リボーンに言われツナが手袋をつけている間、ディーノはもう1度時間稼ぎするために動こうとしたが止まる。
「ふむ。なかなかのセンスだね」
「お、おまえ……」
驚きもあって止まったのもあるが、ディーノはいつの間にか隣に居る人物を見て何ともいえない気持ちになったのだ。元気なことは良いのだが、先程までの自身の中での怒りはなんだったのかと――。
しかし、その人物はディーノの気持ちに気付かず、骸を殴っていた。
「もうサクラを利用しようと考えないでくれ! それと確かに僕は目的のためには手段を選ばない人間だが、周りに助けを求めないほど愚かではない!! 後、少し痛かったじゃないか!」
「えー!? 桂さん、もう起き上がれるのー!?」
「当然だとも! でも後は君に任せた!」
「えええ!? あれ? 何か手袋に――」
「サクラァー!」
特殊弾があったといいたかったツナだったが、一発殴ったことで気が済んだらしい桂の声にかき消されてしまったのだ。ツナが横目で確認すれば、桂はもうディーノからサクラを受け取り、抱きしめていた。もしサクラが起きていれば、新アイテム披露の空気を壊すなとツッコミを入れていただろう。
この微妙な空気の中、リボーンは特殊弾を受け取り、ツナを撃ったのだった。
そして、特殊弾を撃たれたツナは聞いた。「すまない、サクラ。……沢田君、君に任せたよ」という悔しそうな桂の声を――。ツナは知る、桂は骸を一発殴っただけでは気が済むわけがなかったことに――。
考えればすぐわかることだった。桂はサクラのことをあれほど大事にしていたのだ。そのサクラが理不尽に傷つけられれば、許せるはずがないのだ。それでもサクラの安全を優先した桂の気持ちをツナは受け取ったのだった。
次に聞こえたのはサクラの声で「許してくれ」という一言だった。ただの中学生のサクラにとって、原作通りに進まないことは相当のストレスだったのだ。自身が間違えればツナ達が死ぬかもしれないという極限状態で骸と契約をしてしまい、気を失ってる中でもツナに謝っていたのだった。しかし、ツナは骸にのっとられたことについて謝ってると思い、サクラが謝っている全ての意味には気付かなかった。
全ての意味に気付かなかったことをツナが後悔するのはもう少し先のことである――。
ツナの様子が変わったことを確認した桂は行動を起こす。桂がツナに任せたのはサクラを守ることを優先する以外の意味もあったのだ。
「――死ぬ気の炎」
ツナを見守ることに決めたディーノが桂の手を見て呟いた。
「彼らに出会うまでは僕はずっと変なものと思っていたよ」
「……そうか」
桂はサクラの折れた腕に炎を灯した手を近づける。すると、腕の腫れが徐々に引いていく。
「傷が治せるのか!?」
「僕自身を治すのと比べると時間と炎の量が倍以上増えてしまうんだ。それに……体力は戻せない」
ディーノは納得した。素手で鋼球を受け止けたり、先程の火柱の攻撃もその力で治したのだろうと――。さらにケイタイを取り戻すために3対1で戦ったにも関わらず、怪我をした様子がなかったのもすぐに回復できれば説明できる。化け物と呼ばれた意味も――。
恐ろしい男だ。
ディーノは素直にそう感じた。
どのマフィアも桂をほしがるだろう。スペックの高さだけでも目を見張るレベルにも関わらず、怪我をしてもすぐに治るのだ。今まで目をつけられず、兵器として生きていないことが奇跡なのだ。
桂がこの力に満足していないのも大きい。桂はサクラをすぐに治せなければ意味がないと思っている。まだまだ成長できる。
満足していないのは桂の言動から見て、後悔したことがあったのだろう。それは恐らくサクラの事故だとディーノは予測した。
サクラへの執着が加速するほどの事故が起きたにも関わらず、怪我の痕が見当たらなかった。見えない位置だった可能性もあるが、事故のことを話した時に、サクラが気にする素振りを全く見せなかったことにディーノは違和感を覚えていたのだ。
桂は力をつかってサクラを治した。が、サクラの意識は戻らなかったのだろう。……力を隠すのは当然と思った。桂からすれば、もし自身の力のせいでサクラが狙われてしまえば、取り返しのつかないことになる。事故で力は万能ではないと気付いたのだから――。
サクラの事故は桂が初めて自身の力で思い通りにいかなかったことかもしれない。これほどの力があれば必ず慢心する。気付かせたのはサクラだ。だから――大切な存在になった。
どれだけ努力したのかはわからない。ただ、サクラがこれまで平和に生きていたのは桂が隠してきたからだろう。尊敬を込めて、ディーノは桂が恐ろしい男だと思ったのだった。
「困ったときは声をかけてくれ。力になるぜ」
サクラを治療している時に声をかけたのはディーノの優しさだった。
サクラの治療が終わったころ、ツナと骸の決着がつき、復讐者が現れたのだった。
「独りは寂しい、か……」
ディーノはサクラがこうなることを知っていたため、柿本千種を連れてきたことに気付く。ディーノは彼らがしたことは許されることじゃないとわかっているが、なんとかしたいと思った。しかし、相手が悪い。復讐者に逆らうのはファミリーのボスとして許されない判断なのだ。
「サクラ!?」
桂の声が響く。顔色は良くないが、サクラが目を覚ましのだ。そのことに桂の次に反応を示したのは復讐者だった。
「オマエハ、ナニヲシッテイル」
即座にディーノとリボーンは構える。骸達のことに手は出せない。が、サクラは何もしていないのだ。復讐者でも、もしもの時は手を出す覚悟をした。桂は復讐者が急に現れた力を警戒し、サクラを抱きしめる力を強め、ツナは状況がわからずサクラと復讐者を交互に見ていた。
「……私の目的……は……君達と……似ている……」
意識が朦朧する中で、サクラは必死に言葉を選んだ。そして、力尽きたように眠ったのだった。
「…………」
復讐者は何も言わず、骸たちを連れて行き帰っていった。が、彼らが消えたとしても安堵する者はいなかった。
こうして事件はサクラの未来に不安を感じる形で幕を閉じたのだった――。
……事故のことをしつこく書いたので、伏線とばれたかもしれませんね。
後日談が2話ありますが、一応これで黒曜編は終わりです。
ちなみに、もし獄寺君ルートだった場合は前々回のあの話からルート突入しましたw
ここからは桂さんの能力説明。
能力:超高速自己修復能力
リングがなくとも手に灯せるほどの晴の活性の炎が体内に流れているため、すぐに怪我が治せる。
回復ではなく修復能力といえるぐらい、怪我だけではなく病気にも強い。(ウイルスにも勝つほどの自然治癒力を活性することができる)
ただし、治療用匣兵器と比べると他人の治療には向かない。元々の自然治癒力が強い桂だからこそのスピードであるため。