サクラが連れ去られ姿が見えなくなった途端、えぐられた死体が襲ってこなくなった。1人冷静なリボーンの指示により、集まることになった。
そんな中、ディーノは自身の至らなさに腹を立てていた。なぜなら、煙で見えなくなった時に、サクラを掴んでいれば防げた可能性もあったからだった。
あの時、ツナだけじゃなくサクラにもえぐられた死体が襲ってきていたことにディーノは気付いてたが、自身に襲ってくる死体を倒してからでも間に合うと判断し、問題視していなかった。死体なので一撃さえ当てれば倒せるからだ。
問題は煙で何も見えなくなったことだった。ダイナマイトでツナに襲ってくるえぐられた死体は倒せたが、またすぐにツナに襲ってきていたのだ。それでもディーノは冷静に伏せろと2人に指示を出した。しかし、2人とも動く気配がなかったため、ディーノは自身に襲ってくる死体には目もくれず、ツナとサクラを襲ってくる死体を倒すことを優先することにした。そして、多少のダメージを受けたが、2つの死体には一撃を当てた。が、サクラは連れ去られてしまう。
他に近づいてくる気配はなかった。近づいてきたなら、視界が悪くてもディーノは気付く自信がある。考えられるとすれば……サクラを襲ったのが死体ではなく城島犬だった――。
城島犬はディーノ達の周りにダイナマイトが転がったのを見て、えぐられた死体と入れ替わり、自ら突っ込むことにした。予定外の行動になるが、城島犬は賭けにでたのだ。一撃をもらうだけでスキをつける可能性が高く、サクラを拉致できると思ったのだ。
今回、いくら血の臭いで鼻が機能していないからといっても、ディーノはサクラから城島犬の情報は聞いていた。それなのに動作が同じだったというだけで警戒を怠り、狙いがツナではなくサクラと気付けなかったのがディーノの敗因だった。
こうしてディーノの一瞬のスキをつき、サクラは連れ去られた。
「た、大変だ……神崎さんが……。ど、どうしよう……」
「ツナ、悪い。9代目にはオレから説明して謝る。だからもうオレに任せてくれねーか? 守ると約束したのはオレだ」
即座に獄寺隼人は反対したが、ツナはディーノの発言に了承したのだった。
「行くぜ」
そう言って先頭を歩き出そうとしたディーノが転ぶ。
「そうだったーー!! 神崎さんが居ないとディーノさんってダメダメだったんだーー!!」
思い出したようにツナは叫ぶ。ディーノはなぜ転んだかもわからないようだった。
「サクラが心配だが、ディーノはヘナチョコでオレは掟で手がだせねー。死ぬ気弾も後2発しかねーし、ウルトラヤベェ状況だな」
頼りになるディーノがダメダメになったことや今の状況を聞き、精神的に1番のダメージを受けたのは沢田綱吉だった。ちなみに、少し前から目が覚めていた柿本千種がディーノに転んだことにより肉体的に1番のダメージを受けた。縛られているため何も出来なかったのだ。
「わ、わりぃ……。足がすべっちまったんだ。大丈夫か?」
敵にも関わらず、心配するディーノ。自身のせいというのもあるが、サクラの言葉が気にかかるのもあったのだ。そして、襲撃される直前にサクラが話そうとしていたことも思い出す。
「M・Mって奴のことを――教えるわけねーよな……」
もう少し詳しく話を聞くべきだったとディーノは後悔する。危険な相手として、六道骸、城島犬、柿本千種、ランチアのことは教えてもらった。が、ディーノから見ればヂヂとジジは十分危険な相手だった。M・Mもかなり危険な相手かもしれないと思ったのだ。
「とにかく……行くしかねぇ」
悩んでも状況がよくなるわけではない。進むしか道しか残されていない。そう思い気合を入れて再び先頭を歩こうとしたディーノだったが、ツナ達に必死に止められ最後尾を歩くことになった。
ツナは恐怖で震える足をおさえながら、必死に歩いた。サクラが連れ去られたことに後悔しているのはディーノだけではない。ダイナマイトを投げた獄寺もそうだが、手を出せなかったことを山本も後悔している。怖いという理由で逃げ出すことも出来ない空気が流れていたのだ。そして何より、ツナがサクラに着いて来てほしいと目で訴えなければ、こんなことにはならなかったという思いの方が、恐怖よりはるかに強かったのだ。
ツナはふと足を止める。前方を歩いている獄寺と山本の足が止まったからだった。
「ど、どうしたの?」
「この先で話し声がします」
「え!?」
ツナは驚きながらも聞き耳を立てる。男女の声のようだった。気付かれないよう少しずつ近づいていけば、声がはっきり聞こえはじめる。そして、片方の声はツナ達がよく知る人物だったので慌てて走り出したのだった。
「ば、化け物――」
「……そうかもしれないね。さて、これ以上やるのかい? 僕は君が持っているケイタイを返してもらえればいいのだよ。それはサクラのだからね」
ツナ達の予想通りで片方は桂の声だったが、あまりにも状況がおかしい。片方の声の主はディーノの部下が調べてくれた脱獄囚の女だった。その脱獄囚が桂に怯えてる。桂が強いことは雲雀との戦いで理解はした。が、脱獄囚は怪我をしているようにも見えない。一体、何に怯えてるのかわからないのだ。
「ありがとう」
ケイタイを返してもらった桂は誰もが見惚れるような笑顔で礼をいった。3人に向かって――。
ここでツナ達は理解した。詳しくはわからなかったが、桂は3人を相手にしていたのだ。サクラのケイタイを返してもらうためだけに――。それだけでもどこか恐怖を覚えるのだが、桂だけじゃなく3人も怪我をしている様子がないのだ。それがますます恐怖を増大する。
「君達は彼らに用事があるようだね。……ふむ。出来れば、僕じゃなく沢田君が相手をしたほうがいいと思うよ。僕がこれ以上手を出すと壊してしまいそうだ」
桂はツナに頼んだ後、M・Mの近くに移動し「邪魔するよ」といい声をかけ隣に座った。理由は城島犬より相性が良くないことと、M・Mならば隣に座るだけで動けなくなると判断したからだった。桂なりの手助けである。獄寺からすれば、桂のを行動はどんな状況でも口説こうとするシャマルと同類にしか見えなかったようだが。
ツナは桂が倒してくれないことにショックを受けたが、ツナを指名し壊してしまうと言った時の桂の目が、辛く悲しそうだったので何も言えなくなった。
「10代目、任せてください」
ツナ達が止める間もなく、ランチアにダイナマイトを投げる獄寺だが、鋼球を振り回され当たることはなかった。そして、そのスキに城島犬が獄寺を狙おうとしたが、山本武によって憚れる。
「おまえの相手はオレな」
「邪魔だびょん!」
こうして2つの戦闘が開始したのだった。ちなみに、ディーノは獄寺が狙われてることに気付き、ムチを振っが自身に当たり「おめーは手をだすな」とリボーンに釘をさされていたのだった。
戦況はすぐに傾いた。
城島犬は山本のスキをつき、ツナを狙おうとしたため、原作とは少し違った形だったが、肉を切らせて骨を断つ作戦で1分も経たずに勝利したのだった。サクラが連れ去られたことで、珍しく山本が怒っていたのもあったが。
もう一方は厳しい状況だった。獄寺の攻撃はことごとく鋼球によって防がれるのだ。そして、ここでも狙われるのはツナであり、獄寺は一歩も動けなかったツナを突き飛ばし庇ったため、木に叩きつけられ気絶した。
残ったのはツナと負傷しながらも城島犬を倒し合流した山本武、役に立たないディーノ、掟で手が出せないリボーンだけだった。
溜息を吐きながら桂は立ち上がる。このままではツナ達が死んでしまうかもしれないと判断したのだ。ツナはその様子を見て喜んだのだが、まだ桂は手を出すつもりはなかった。
「沢田君、僕は君を評価しすぎたようだ。君の感じた違和感のせいかもしれないけど、彼は沢田君を守って倒れたのだよ。そのことを理解してるのかい?」
「え……」
「ツナ!?」
ツナの声は山本の声にかき消される。スキを見せたツナに鋼球が迫っていたからだった。そして、ツナを守るために今度は山本が盾になろうとしている。その時になって、ツナはどこか楽観視していたことに気付く。雲雀がやられ、サクラが連れ去られたにも関わらず――。それはランチアがあったかくて怖い感じがしなかったせいだった。だが、ランチアの攻撃により獄寺はツナを守って気絶している。
「今しかねーな」
桂の言葉に導かれ、ツナは後悔する。死ぬ気弾のリスクがなくなったためリボーンは躊躇なく撃ったのだった。
ツナが死ぬ気になり、やっと勝負になったことに安堵する桂。
桂は自身の力に嫌悪している。それは相手に恐怖しか抱かせないからだ。だからこそ、桂は手を出すことを望まない。そして何より、彼が最も恐れたのはサクラに怯えられることだった。
「羨ましい――」
誰にも聞こえないような声で桂はささやく。桂はツナやディーノの戦い方に惹かれるのだ。決して、自身には手に入れられないと思い――。
そして、桂は笑う。
一歩踏み出し使い方さえ間違わなければ、桂の力は恐怖ではなく希望を与える種類なのだ。しかし、サクラに怯えられたくないという思いだけで、そのたった一歩が踏み出せない自身の弱さに笑ったのだった。
戦闘に意識を向ければ全てが終わっていた。桂やツナが感じた通り、相手は迷いながら戦っていたようだった。桂はツナが勝った姿を見て安堵する。もし自身が本気を出し戦うことになれば、相手も本気を出すことになるため迷いがなくなり、戦闘マシーンのようになる可能性が高かった。そんなことをしてしまえば、一歩を踏み出すことが一生出来なくなる。
そして気付く。桂は相手のためではなく、自身のためにツナに戦ってほしかったことに――。
「やはり僕の弱点はサクラだね」
桂は自身の弱さを認め、今まで以上に何があってもサクラは守ると決意した。
その時、桂の前にサクラが現れたのだった。
サクラが現れたことに気付いたのは、もちろん桂だけではなかった。が、誰も駆け寄ることはなかった。
ツナは何か嫌な感じがし、リボーンはサクラが解放されたことに違和感を覚え、ディーノは最悪の状況を想像し、桂は直感でサクラではないと気付いたからだった。そして、山本はランチアの鋼球で倒されていた。
「や……山本ォ!? ランチアさ――」
一瞬、ツナは状況についていけなくなった。完敗と宣言し、六道骸に操られていたということや本当の名前を教えてくれたランチアとはもう争うことはないと思っていたのだ。しかし、ランチアを見て何か嫌な感じがすることに気付く。――そう、今のサクラと同じような感覚に。
「憑依弾だ! 六道骸に身体をのっとられている! 神経をマヒさせろ!」
唯一、サクラから骸の切り札を聞いていたディーノは、すぐにツナ達に知らせ、自身が運んできた柿本千種の神経をマヒさせる。サクラが現れたことでディーノの体質が改善され、対処する動きが誰よりも早かったのだ。もっとも、のっとられたサクラで戻るのは皮肉な話でもあるが。
ツナはディーノの言葉で違和感の正体がわかり「どーしよー」と焦る。が、リボーンは「おめーが止めてやれ。これ以上苦しませるな」という言葉に冷静になった。その姿を見て、リボーンは最後の死ぬ気弾を撃つことにした。
本来ならばこのタイミングで使うべきではない。六道骸がまだ現れていないのだ。それなのにリボーンは撃つことを選んだ。意外な人物が足手まといになったせいだった。
「神経をマヒできれば、今すぐこいつを解放できるんだ!」
ディーノは桂に叫んだ。雲雀恭弥と城島犬の相手をしながら――。
しかし、それでも桂は動けない。M・Mには簡単に出来たのだが、サクラには出来なかったのだ。ディーノが変わりにしようと思っても、2人が邪魔をする。先に片付けようとしても息が合ったように2人が動く。骸がのっとっているのだから、意思の疎通が完璧なのは当然のことだった。さらに幻術まで相手はつかうため簡単に駆けつけられない。何より厄介なのは、雲雀恭弥がディーノと手を合わせるたびに強くなるのだ。
「こいつは覚悟していた! もし誰かが憑依されるような状況になれば自分にさせろ。そして、さっさとマヒすればいい。のっとられても自分は弱いから簡単だろ?って言ったんだ!」
これはサクラが乗り込む前にディーノにいい、怒られた内容だった。サクラはディーノがのっとられた方が死ぬと理解していたために言ったのだ。もちろん当然のように、サクラはその後に「運んで連れて帰れよ」と言っていたのだが。今の状況では話す必要がないのでディーノは伝えなかっただけである。
リボーンは状況を不利と感じる。ツナはランチアの相手しかできない。ディーノは2人の相手をし、この密集した場所のせいでツナの戦いを邪魔しないように気を遣わなければならないのだ。自身が手を出せない今、桂の行動で戦況が左右する。
「桂! おめーがサクラを助けてやらねーでどうするんだ!」
ディーノとリボーンの説得により桂が決意を固めようとした時、ゴキッという音が響く。サクラの腕が腫れていた――。
「動けば彼女がどうなるかわかりませんよ。僕は痛みを感じませんから、こういうことが簡単に出来るのです」
「「っ!?」」
ツナとディーノは一瞬動きを止めたが、戦うことを選んだ。サクラの能力は低い。桂の腕があれば、次にサクラを傷つけられるまでに神経をマヒできると信頼しての行動だった。
「おや? 彼らは止まりませんね。君はどうしますか? クフフフ。迷う必要はありませんよ。君は僕と同じですから」
「……そのようだね」
骸に賛同し桂は動く。サクラを通り過ぎツナのもとへ――。
すみません。補足です。
ヅラさんはサクラと連絡がとれなくケイタイのGPS機能を使って探したため、あそこにいました。(サクラとケイタイを買いに行った時にいろいろしていたという裏設定)
本文に入れれそうなら、どこかで入れます。