帰りたい。今すぐ帰りたい。……帰ると面倒なことになるので帰らないが。
「……最悪」
「ご、ごめん……」
謝られたが、沢田綱吉が悪いわけじゃない。1番最初のきっかけはまた兄が余計なことをしたせいなのだ。
今日、私は学校が終われば家から出ないと誓っていたのに、ランボが私の家で兄の作ったお菓子を食べていたのだ。それを見て慌てて沢田綱吉の家に連れて帰るはめになった。なぜなら今日はヴェルデの光学迷彩で暗殺されそうになる日なのだ。ランボが居なければ話が進まないと思ったのである。無事に家に連れて行った時点で私のミッションは終了したはずなのだが、ランボが私から離れないのでしぶしぶ2階にあがったのが間違いだった気がする。
……なぜ私がチビになってるのだ。
どうやらランボは私の家に来る前に10年バズーカをジャンニーニに預けていたらしい。原作と違い、ランボは嬉しそうに受け取り試し打ちすれば、ランボを抱き上げてる私が被害になるのは予想できる範囲だろう。もちろん私は逃げようとしたが、遅かったのである。ちなみに、見上げて確認すると獄寺隼人は大きいままだった。
そもそもランボが居なくても、最終的にはリボーンが何とかした可能性も高い気がする。今日は厄日のようだ。
「……つーか、ちっこくなった癖に落ち着きすぎだろ……」
その言葉にイラッとする。元々は君がチビになるはずだったのだ。それなのになぜ私が……!
「ご、獄寺君! 今日は帰って!! せっかく来てもらったのにこんなことになっちゃったし!!」
「そうスね……。武器もダメになっちまったし……。今日のところは帰ります。また明日学校で! レポート楽しみにしています!」
この状況で平常心で沢田綱吉がレポート作れば怒るぞ。そもそも君は私と同じ班だろ。私の心の広さでやめておこうと判断していたが、ピアニストになりたいと書いてやる。と、心に決め睨んでいれば沢田綱吉が慌てて獄寺隼人を送り出した。恐らく私の機嫌の悪さを感じているのだろう。
「か、神崎さん……元に戻るまでオレの家でゆっくりしていいから……」
「……ここで大人しくしてるから、彼女の相手してあげなよ」
遠い目をしながら返事をした。彼が降りた後に暗殺者のことをリボーンに相談しよう。
「京子ちゃんには帰ってもらうよ。神崎さんに何かあったら怖いし……」
彼は笑って言ったが、恐らく心の涙を流しているのだろう。不憫すぎると思ったので提案する。
「彼女にはリボーンの友達が遊びに来てるって言えばいい。私は彼女から見えなくて君には見える位置で本を読んでいるから。せっかく、彼女が来てるんだ。悪いだろ……」
「神崎さん……!」
感動するような目で見られたので、後ずさる。沢田綱吉にされても今まで何も思わなかったが、身長差のせいで威力が増え、兄が喜ぶ時のような感覚になったのだろう。
「そういうわけだからリボーンも付き合って」
「わかったぞ」
リボーンを1階に連れて行くことに成功したようだ。私にしては頑張ったほうだろう。自画自賛しながら沢田綱吉のズボンを引っ張る。
「どうしたの? 神崎さん」
「連れてって。1階に降りれない」
普段なら嫌だが、沢田綱吉に抱き上げてもらった。なぜここに住んでいる人物は器用に階段を降りれるのだ。謎である。
「ねぇねぇ、もう1個ちょーだい」
階段を降り終わり地面におろしてもらうと同時に、ランボにせがまれる。小さくなってすぐにランボに飴を渡し誤魔化したが、食べ終わってしまったらしい。ポケットから飴を取り出し渡せば、また大人しくなった。どうやらランボは飴をあげ続ける限り、私にケンカを売るようなことはしなさそうだ。
リビングにお邪魔すると、山本武が居て暗殺者も侵入していた。原作より1階に降りるのに時間がかかったせいだろう。笹川京子達が無事なようで安心した。リボーン近づき、どうにかしろと言う。
「武器が全部使いもんにならねー」
「……君の腕なら物を投げるだけで倒せるだろ。レオンだって居るし」
リボーンは私の言葉が聞こえてないような態度をとりはじめた。殴ってもいいだろうか……?
「神崎、お前も来てたんだな!」
「違う。私は神崎サクラの従兄弟だ」
山本武にツッコミしながら彼の顔をジッと見る。私は獄寺隼人みたいに高くジャンプすることは無理だな。そして、山本武が今の私の話を聞くとは思えない。
「わー。サクラちゃんの従兄弟なんだね。こんにちは」
「こんにちは」
返事をして、すぐ却下だと思った。彼女に危険なことを頼むのは出来ない。そうなると……やはり沢田綱吉に教えるしかないだろう。この場合は私の話を信じてくれると思うが、沢田綱吉が倒せるかどうかである。姿も見えない状態で後悔するとは思えない。
……なぜ私はここまで真剣に悩んでるのだ?
ギリギリのところでリボーンが助けるだろう。私が悩む必要なんてない気がする。
よし、本を読もう。部屋の隅に座り本を広げているとランボがやってきた。
「オレっちのアメ!」
いつの間にか私のポケットに入ってる飴はランボの物になったらしい。溜息をつきながら渡そうとポケットに手を突っ込んでいると、ふと気付く。ランボにはあれが見えてるはずだ。
「あれ、倒せない? 当てれば全部あげる」
「楽勝だもんね!」
そういった後、ランボは手榴弾を頭から取り出して投げた。全員、距離が離れるから大丈夫だろうと思いながら、本で頭を守ることにする。沢田綱吉がランボの名前を叫んでいるのは気のせいだ。
スガン!!という音が響き、煙が凄いことになった。
「……ランボの奴……京子ちゃん、みんなも大丈夫ー!?」
「うん。凄いおもちゃだね。ビックリしちゃった」
「ハハッ。オレも驚いたぜ。最近のはすげーのな!」
……天然、恐るべし。私と同じような反応をしていた沢田綱吉が、ついに暗殺者の存在に気付いたようだ。そして、リボーンがなぜか私の隣に居た。
「出来ねぇと決め付けてすぐに諦めんな。おめーにだってやれば出来るんだ」
「やっとオレっちを見直したな! リボーン!」
「お前じゃねぇ。黙ってろ!」
「……ガ、ガマン……うわああああ!」
ランボの泣き叫んでる姿をみて、不憫だと本気で思った。光学迷彩にダメージを与えて見えるようにしたのは彼のはずだが……。思わず殴り飛ばされたランボに駆け寄った。
「君は出来る子だ」
「グスッ……。オイラは凄腕のヒットマンだもんね……」
「ん、凄かった。約束どおり飴あげる」
私がランボを慰めてる間に沢田綱吉の死ぬ気によって暗殺者は倒されていた。沢田綱吉は2人にすごいと褒められていたが、一瞬だけこっちを見た。
「いや……今日のはオレじゃなくて――」
「ランボ」
「――うん。ランボとこの子のおかげだよ」
思わず溜息を吐く。私は何もしていないのに褒められればランボと獄寺隼人が可哀相だ。そう思ってると、またリボーンが私の隣に立っていた。
「わかってねーようでツナはわかってるんだぞ。おめーが頼んだからランボは投げたってな」
「……元々は小さくなった獄寺隼人が活躍した」
「ここに獄寺はいねーぞ。あいつは帰ったからな。今回はランボとおめーが活躍して褒められるようなことをしたんだ。誰も攻めはしねーぞ。素直に喜んどけ」
言い終わると同時にリボーンはベランダへ向かった。恐らく暗殺者の後始末をしに行ったのだろう。
「凄かったよ!」
優しい手つきで頭を撫でられたので顔を向けると、しゃがんだ笹川京子だった。気分は悪くなかったので、そのまま撫でらることにした。私は心が広いのだ。
原作通り、時間がたっても元の姿に戻らないので晩ご飯をご馳走になる。意外と箸が難しかったので、スプーンとフォークを使いモグモグ食べた。食べ終わり一息ついた時に呼び鈴がなる。
「食事中に失礼! 今日もサクラが世話になってすまないね! これは僕からのほんの気持ちだ」
兄が他人の家にも関わらず、ズカズカとリビングまで踏み込んできてしまった。隠れる時間もなかったな。それに沢田奈々に渡した物はなんだろうか。お菓子なら、家に帰れば私の分があるのだろう。楽しみである。
「おや? サクラは?」
「えっと、神崎さんはそのー……」
沢田綱吉が必死に誤魔化そうとしていたが、兄は私と目が合ってしまい、私に釘付けになった。チビになっているのが、私と気付いたのだろう。私は諦めて説明することにする。面倒だが、兄は私が話せばわかってくれるはずだ。そう思い、口を開きかけた瞬間、兄は膝をつき私の手をとり言い放った。
「大きくなったら、僕と結婚してほしい!」
冗談と思ってる沢田奈々とよくわかっていないランボ以外は固まった。なぜなら兄は色気を撒き散らして言っているので、真剣と気付いてしまったのだ。最大級のドン引きである。身内の私でそう思うのだ。沢田綱吉達は恐ろしいほどドン引きしているだろう。
「急に驚かしてすまないね。しかし、君は僕の心というとんでもないものを盗んでいったのだよ」
微妙な言い回しである。これは私に「はい」と言えということなのか。恐らく1日の終わりという時間帯というタイミングのせいで、兄の中のとっつぁん感が出てきたのだろう。……とっつぁん感ってなんだ。
兄のせいで私はツッコミ能力がおかしくなったようだ。このモヤっと感をなくすために、ハリセンを取り出し、スパーンと兄を叩いて一言。
「また、つまらぬものを斬ってしまった」
「……無念……」
「神崎さん達なにやってんのーー!?」
……しまった。沢田綱吉の家にいることを忘れて、いつのもノリでやってしまった。
「これが僕とサクラの愛情表現なのさ!」
「兄がひとりでやってるだけ」
「……そうだよね」
沢田綱吉の中で私の言葉は聞かなかったことにしたようだ。普段の行動のおかげだろう。そして、兄はハリセンで叩かれたことによって、私がサクラと気付いたらしい。
「ふむ。何となくだが、状況は理解したよ。理想の女性と思って口説いてしまったのはしょうがないことさ」
サラっと問題発言をするな。
「心配しなくてもいい。両親には僕が説明するさ。食べ終わってるようだし一緒に帰ろう!」
思わず本当に大丈夫かと兄を見る。私の手をとった時のような色気はなくなっていたが、不安である。
「家にミルフイユがあるのだが……」
「世話になった」
沢田奈々に頭を下げ、すぐさま帰ることにする。片付けなどに気をつかわなくていいのはチビにしか出来ないことだしな。
兄に抱きかかえられ、帰ろうとすれば、玄関まで沢田綱吉とリボーンが見送りしてくれるようだ。
「元に戻ったら連絡してね?」
わかったと、返事をしようとした瞬間に身体が戻ったので兄から離れる。すると、兄がネガティブホロウ状態になった。
「小さいサクラの写真を撮りたかった……!」
沢田綱吉達に「また明日」といい、ハリセンで叩いた兄を引きずりながら私は帰ったのだった。
ヅラさんのインパクトは恐ろしい。
主人公の成長話だったのに……。