クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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兄は私の兄

 今日はどうするべきか――。

 

「「はぁ……」」

 

 溜息がかぶったのでお互いに顔を見合わせる。

 

「お前ら、どーしたんだ? 悩みでもあんのか? オレでいいならいつでも聞くぜ!」

「10代目! 何か悩みでも!? 右腕のオレに話してください! 右腕のオレに!!」

 

 本当にいつも山本武は元気だな。……獄寺隼人はそれ以上沢田綱吉を前後に揺さぶるのは止めておいた方がいいと思うぞ。魂が出て行きそうな気がする。

 

 私の念が通じたのか、獄寺隼人は動きを止めた。今日も彼は不憫だな。

 

「か、神崎さんから……」

「多分、君と一緒。今日の授業参観が憂鬱なだけ」

「10代目がそんなくだらねー悩みなわけねーだろ!! ですよね! 10代目!!」

「え!? あ……まぁ……うん……」

 

 完全に脅しである。「10代目はお前みたいに能天気な頭じゃねーんだ」と私に文句をいっている獄寺隼人の後ろで沢田綱吉が手を合わせて謝っていた。気にするなという意味で頷けば、「今度から気をつけろよ」と獄寺隼人に言われた。反省したと勘違いしたのだろう。ラッキーである。

 

「そろそろチャイムが鳴るから」

「……あ! そうだね! みんなも席に戻ったほうがいいよ!!」

 

 獄寺隼人に悩みを聞かれると困ると思ったので助け舟を出してあげた。私の意図に沢田綱吉が気付くか心配だったが、問題なかったようだ。恐らく彼も私と同じで時間を理由に逃げたことが何度もあるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕は来た!」

「……来なくても良かったのに」

「僕以上にサクラの授業参観に来るのに相応しい人物はいないよ!」

 

 思わず出た本音はきゃーきゃーと叫ぶ声に紛れたと思ったのだが、兄には聞こえていたようだ。聞こえているならなぜ帰らないのだ。不思議である。「そもそも1番相応しいのは専業主婦のお母さんの方だろう。保護者だし」と言えば、兄はキョトンとした顔で言い放った。

 

「知らなかったのかい? 毎年行われる『サクラちゃんクイズ大会』で僕は1度も優勝の座を譲ったことがないのだよ。母上はなかなかの強敵だが、いつも僕には叶わないのさ! だからここに来るのは僕が1番相応しい!」

 

 なんだ、その大会は……。家族揃って何をしている。サクラちゃん大会という名前からして、考えたのはお母さんだろう。何というバカなことを考えてしまったんだ……。いや、毎年あるという話からしてお母さんが1番後悔してる気がした。お父さんは完全に巻き添えだな。

 

「……そろそろチャイムが鳴るから」

 

 いつものように時間を理由に私は逃げることにした。

 

 席に着き、後ろを振り返る。……なぜ兄はここまで目立つのだろう。血が繋がってることが不思議なぐらいだ。実際、私達は兄弟に見られないしな。しかし、私も兄も両親に似ているといわれる。本当に世の中不思議である。まぁ似ていなくてもあまり気にしない。似ていなくても私の兄ということにはかわらないからだ。ただ、兄ほど容姿端麗じゃなくてもいいが、もう少し美人だったら良かったなと思う時がある。

 

 考えているとチャイムが鳴ったので正面を向く。これで兄は私に手を振るのをやめただろう。

 

 

 

 

 

 

 そろそろ恐怖の授業参観の始まりだ。ランボが教卓で遊んでる様子を見て笑っているのも今のうちだ。最後まで兄は余計なことしないことを願いたい。

 

「あれぇ? 京子だけじゃなくサクラもいるもんね! ランボさん遊んでいく!」

 

 ……原作と違い私の名前も増えたようだ。沢田奈々に抱き上げられてるランボに言われてしまった。笹川京子は優しそうに手を振っているが、私はシッシッという感じで手を振る。

 

「あ!」

 

 沢田奈々の声が響いたと思うとランボが私の目の間に居た。先程の声は腕からランボが抜け出したせいらしい。

 

「お年玉ちょーだい!」

「コラ! ランボ!!」

 

 沢田綱吉の怒鳴る声を聞きながら、ランボとはしばらく会っていなかったことを思い出す。そして、ランボの願いのお年玉は私がほしいと思った。ポケットにあった飴を渡すことにしよう。

 

「……久しぶり。これで我慢しろ。ほら、イーピンも」

「あらぁ~。良かったじゃない。ありがとうね。ええっと――」

 

 沢田奈々がジッと私の顔を見てるので首をひねる。すると「サクラだもんね」とランボが言えば、沢田奈々がポンッと手を叩き「サクラちゃんね! ほんと、ツナも隅に置けないわ~」と言った。沢田綱吉が驚き叫んでいたが、私は先程の視線は名前を知りたかったのかと納得していた。

 

 私が納得している間に椅子が倒れた音が聞こえたので、その方向を見れば獄寺隼人が倒れていた。これはビアンキが入り口に居たせいだった。あちらこちらでドタバタしすぎだろと本気で思った。緊急事態といって先生が教室から離れようとしたので「私も手伝います」と言った。これ以上、巻き込まれるのは面倒なのだ。

 

「先生、私が獄寺君の手伝いをします!!」

 

 その後に「私が!」「私が!」という声が続いたので、先生が呆れながら教室に居るようにと言った。獄寺隼人がモテモテなことに初めてイラっとする。

 

 逃げれなくなり、諦めの境地に入っているとリボーンの授業が始まった。瞬く間に黒板いっぱいに計算式が書かれていた。難しそうに見えて答えが普通というのが不思議である。

 

 パンッと音がしたので、リボーンのチョーク攻撃が始まったらしい。全く見えなかったが、クラスの男子が倒れていたので間違いないだろう。

 

「あまり感心しないね! 私語はつつしむのは当然のことだが、教師が恐怖で黙らようとするのは褒められることじゃないよ!!」

 

 正論だった。正論なのだが、頭を抱える。兄よ、黙っててほしかった!クラスに居る連中も「おおー! すごい……。流石、桂さん……!」といって兄を煽るな!

 

 頭をしらばく抱えていたが、兄が倒れるような音がしない。恐る恐る振り返ると兄は元気そうだった。リボーンは兄のことを知っているので見逃してくれたのだろう。思わず安堵の溜息が出た。

 

 その後、ランボが現れたりして最後には原作通り沢田綱吉が死ぬ気で教えていた。これには兄は口出さなかった。恐らく沢田綱吉が人を傷つけなかったからだろう。

 

 私は原作通り進んだことに安堵して気付かなかった。これがまだ序の口だったことに――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事?に授業参観が終わったので兄が余計なことをする前に帰ることにしよう。帰る前に居心地の悪そうな沢田綱吉に声をかければ「また明日!」と返事をし、少し元気になっていた。

 

「やはりサクラはいい子だね」

 

 兄は私の頭を撫でて呟いたが、よくわからなかった。それに私は「帰りにケーキでも買って帰ろうか」と兄が続けた言葉に反応した。小さくガッツポーズし少し急かせば兄が苦笑いしていた。それを見て物につられる姿を見た時の反応が一緒で兄弟だなと思った。

 

 兄にエスコートされながら歩いていると校門の様子が少し変なことに気付く。何事かと見渡せば、雲雀恭弥の姿を発見してしまった。彼は風紀が乱れないように見張っているらしい。生徒達は群れていないことを証明するかのように家族と離れて歩いていた。彼はしばらく動かないようだったので、帰るためには私達もそれに習うしかないのだろう。

 

「……少し離れて歩こう」

「どうしてだい!? ……僕は何かしてしまったんだね!!! 今すぐ直すよ!!!」

 

 雲雀恭弥が兄の大きな声に反応したようだ。目があってしまった……!

 

「お、お兄ちゃん。今すぐ離れて!! 群れると危険だから!!」

 

 私の必死の叫びも兄には届かず、逆効果だったらしい。抱きしめられた。このまま泣いても許されるような気がする……。

 

「君達――」

「すまない。今は取り込み中なんだよ。少し向こうに行っててくれないかい?」

 

 ……もう泣いてもいいだろう。話を聞いてももらっても咬み殺されると断言できる。

 

 ガン!という音が響き、先程まで感じていた温もりが消えた。正確には離れたといったほうがいいのだろう。しかし、倒れてる兄を見てそんなことはどうでも良かった。

 

「……お、お兄ちゃん!!!!」

「呼んだかい?」

 

 「は?」と、間抜けな声が出る。そして、私の横で立ってる兄を頭の上からつま先まで眺めた。いつも通り元気そうに見える。先程、兄が倒れたように見えたのは気のせいだったのだろうか?

 

「……へぇ」

 

 美声を聞き、彼の存在を思い出す。慌てて美声がしたほうを向けば、トンファーを持ち不適な笑みを浮かべていた。その姿を見て腰を抜かしそうになったが、兄が支えてくれたので倒れることはなかった。

 

「やめておけ。死人が出る」

 

 今まで聞いたことのない兄の低い声だった。こんなに怒ってる兄を私は見たことがない。兄の挑発に「それは僕のことをいってる?」と返事を返した雲雀恭弥も怖かったが、私を優しく支えてくれる兄の方が怖いと感じた。

 

「もちろん――私のことさ!!」

「花のおっさんか!?」

 

 懐から出したハリセンで叩く。ドキドキした私がバカだった。いい音が響いたが「最近、ネタの種類が偏りすぎだ!」といい、倒れてる兄の頭にもう一発叩く。完全に八つ当たりである。

 

 頭にバツマークが2つある兄の首根っこをつかみ、重くはないがズルズルと引きずる。

 

「どこへ行くんだい?」

 

 残念ながら逃亡は失敗と知らせる美声が聞こえた。もう少し呆気に取られてほしかったのだが……。

 

「それに校則違反だよ。武器の携帯が認められているのは基本的に僕だけだ」

 

 ハリセンも武器になるのかよ……。恐怖より呆れの方が強かった。

 

「サクラ、彼はなぜここまで怒ってるのだい?」

「彼は人が群れてる姿を見るのと風紀が乱れるのが嫌いなんだ。まぁ群れてる方はそこまで厳しくはないが、風紀が乱れる方は許さない。後、彼は退屈している」

 

 いつの間にか起き上がってる兄に教える。概ね間違ってないはずだ。学校行事で群れていることには彼は怒らない。そう考えると厄介なのは風紀を乱す方なのだ。しかし、兄はそれより私が最後に言った言葉に反応したようで「退屈?」と聞き返してきた。

 

「彼は飢えてるといってもいい。今はあまり彼の相手が出来る人物が現れていないからな」

 

 もう少しすればましになるはず。という言葉を心の中で続ける。彼は沢田綱吉、リボーン、ディーノと出会い変わっていくはずだ。譲れないところは変わらないが。

 

「君は僕の何を知ってるっていうんだい?」

 

 本能的に危険と思った。悠長に話しても大丈夫だったのは、ただの彼の気まぐれだったのだ。もう諦めるしかない。救急車は呼んでもらえるだろう……多分。

 

 兄は武器を所持していなかったので逃げれる可能性が高いと判断したので「お兄ちゃん、逃げて!」と叫ぶ。盾になってほしいと思っているが、それは冗談の範囲である。本音は逃げてほしいのだ。しかし、『お兄ちゃん』と叫んだにも関わらず兄は話を聞かずに私を抱きしめていた――。

 

「そこまでだぞ」

 

 リボーンの声が響く。兄の腕の隙間からのぞくと『リボ山』の姿が見えた。恐らく大勢の生徒が見ているので変装したまま来たのだろう。雲雀恭弥は素直に動きを止めたので、リボーンの変装を見破っているようだ。……あの変装は見破るとかの話ではないと思う気もするが。

 

「赤ん坊、邪魔しないで」

「ヒバリは賭けに負けてサクラの話を聞く約束をしてるんじゃねーのか?」

「話? 僕が納得するようなことはこれから聞けるとは思えないけど」

 

 私を見ながら言ったので、彼にとって私は『これ』扱いらしい。賭けに勝ったにも関わらず扱いがひどい。咬み殺されそうになってる時点で扱いがひどいと思う気持ちもあるが。

 

「サクラはヒバリのことをどれぐらい知ってんだ?」

 

 兄に離れてもらいリボーンを見る。真っ直ぐ私の顔を見ているので話せということなのだろう。大きな声で話す内容ではないので小さな声で言った。

 

「……誕生日は5月5日。好きな言葉は咬み殺す、ワオ。好きな寿司ネタはかんぱち、ヒラメのえんがわ。好きな食べ物は和食、ハンバーグ。好きなカキ氷は宇治金時。小さい動物は嫌いじゃない。ケイタイの着信音は校歌。学校の屋上でよく昼寝をし、冬でも日向があたれば寒くないらしい。学ランが落ちないのは気合。4月4日に入学早々、風紀委員長になった。群れたり風紀さえ守れば意外と優しいらしい。家は和風で並盛と書かれた掛け軸がかかってると思う。興味があるのは赤ん坊と呼ぶリボーン、沢田綱吉はよくわからない。まだあるけど今言えるのはこれぐらい?」

 

 身長と体重も知っているが、それは今ではないので言わなかった。後は桜や六道骸が嫌いになることも知っているがこれも今のことではないので話せなかった。

 

「――言っておくが、サクラはオレのこともどれだけ知ってるのか気になるぐれーだからな」

「…………」

 

 リボーンと雲雀恭弥の反応を見ると話しすぎたらしい。中途半端では意味がないと思ったのだが、限度というのがあったようだ。これでも考えてトンファーの秘密などは黙っていたのだが……。

 

「サクラ、僕のことはどこまで知ってるんだい!!」

 

 兄は私が話してる内容に気にもせず、期待を込めた目で私を見ていたので「私の兄」と答えた。

 

「ほ、ほら……もう少しあるだろ? 彼みたいに――」

「兄は私の兄。それ以外に何か必要? それだけで充分――お兄ちゃんは私のお兄ちゃん」

 

 号泣しだした兄を放置してリボーン達を見る。少し顔が熱いが彼らはそれには何も反応しなかったので助かった。

 

「……気がかわった」

 

 雲雀恭弥はそう呟き、校舎の中に入っていった。どうやらリボーンのおかげでうまく逃げれたようだ。

 

「助かった。リボーン」

「オレは何もしてねーぞ。サクラ自身で回避したんじゃねーか」

「……じゃぁ借りはなしで」

「ああ」

 

 以外にもあっさりと返事をした。リボーンに借りが出来ると碌なことがないと思っていたので助かるのだが……。なぜか裏がありそうと思ってしまう。

 

「あれ? 神崎さん? まだ帰ってなかったんだ」

 

 怪しんでリボーンを見ていれば沢田綱吉達が来た。獄寺隼人はビアンキがいるので山本武に運ばれていた。

 

「いろいろあって」

 

 適当な返事をしたが、兄の姿を見て沢田綱吉達は納得したようだった。面倒なので誤解したままにしておく。

 

「サクラ! 僕が腕によりをかけてケーキを作ってあげるよ!」

「ん。時間がかかると思うから今日は買って、それは明日でいいよ」

「そうだね! 今日、仕込みをしておくよ!」

 

 沢田綱吉の「ぇ……」と呟いた声は聞こえなかったフリをしてケーキ屋に向かった。

 

 

 

 

 

 家でケーキを食べながら気付く。助けるつもりなら沢田綱吉を死ぬ気にしても良かったのではないかと――。

 

「……やられた」

 

 恐らくリボーンは私の知識のレベルを知りたかったのだろう。今頃になって気付いた。特に問題はないのだが、少し悔しくなった。

 

「それはサクラを唸らせるぐらい美味しいのかい?」

 

 私のつぶやきを兄は勘違いしてくれたので訂正せず頷くことにした。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 一般的に人々が寝静まるころ、部屋でチョークを触る1人の男が居た。

 

「……これは僕の力を量りたかったのかな? 彼はまだいい、サクラと仲が良さそうだし、サクラが頭を抱えてる時にしか投げてこなかったからね。……やんちゃそうな彼はどうしようか。サクラを傷つけようとしたのだから――」

 

 サクラの知らないところでどうやって痛い目にあわせるかな。と、しばらく悩んでいたが、「彼がサクラの好みの声と忘れていたね」といい、今回は未遂だったので見逃すことにした。

 

「最近、賑やかだ。これは力を持つ僕のせいなのかな? それともサクラの――」

 

 男は思考を止めるために頭を横に振る。何かを隠していることには気付いているが、男と違い弱い。身体も心も――。気付かぬフリをし話してくれるまで待つことしか男には選択肢が残されていないのだ。

 

「本当にいつからサクラが飛びぬけたんだろう。僕は両親も同じぐらい大事に思っていたはずなのに――――」

 

 男の疑問に答えるものはいない。ただ、夜が更けるだけだった――。

 




もう少し原作と絡めても良かったかもしれない

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