クラスメイト K [本編&おまけ完結]   作:ちびっこ

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ハイキング

「たのもーー!」

 

 朝からうるさい。どこの道場破りだ。呼び鈴を使え。いや、呼び鈴もうるさく、朝から迷惑なのは変わらないので使うな。

 

「待たせたね! では行くとしよう!」

「ああ! 極限、今日こそはオレが勝ーつ!!!!」

 

 何でもいいからさっさと行け。それに毎朝同じ事を何度言うんだ。いい加減にしろ。そんな感じで言いたいことは山ほどあるが、寒いし眠いので布団から出る予定はない。

 

 これは兄が一晩中走った次の日から毎朝続いている。あの日、私と別れてから兄はいつの間にか笹川了平と走っていたらしい。そのままどこまで走れるかという競争をし、気付けば朝だったので帰ってきたと聞いた。バカと本気で思った。絶対に意気投合とかという次元の話ではない。断言できる。

 

 そもそも兄は今1番忙しい時期ではないのか。今日は23日だぞ。昨日は夜中に帰ってきたし、今日と明日は店で泊まることになるぐらい忙しいとか言っていたのに、なぜ今日も走る。本物のバカである。

 

 せっかくの休みなのでもう少し寝ようと思ったが、電話がかかってきてケイタイを見れば知らない番号だった。こういう時、やはりケイタイを買うんじゃなかったと思う。無視をしてもう1度寝ようとすればまたかかってきた。今度は知っている番号だった。しかし、相手はロマーリオだったので首をひねりながら出た。

 

「……もしもし?」

「わりぃ。オレだ。ディーノだ」

「ああ。壊れて番号がかわったのか……」

 

 先程の電話はディーノだったのか。そういえば、壊れた時のためにロマーリオの連絡先を教えてもらったが、結局自身から連絡する勇気がなかったのだ。

 

「お前が断った意味がわかったぜ……。あれは……来なくて正解だった……」

 

 それはそうだろう。巨大化したエンツィオに追いかけられると知ってて行きたいと思うのは少数派だ。現実で「一狩り行こうぜ!」と誘われても私には無理である。ただ、それにしても思う。

 

「……君は怒らないのだな」

 

 会話の流れからしてディーノは気付いている。私がこうなることを知ってるのに何も言わなかったことに……。この前、私が説明したからといっても知っているなら教えろと言いたくなるのが人間の性だと思うのだが。

 

「当たり前だろ。それより、今日もツナ達と出かけようと思うんだが……」

「多分、大丈夫」

「ツナん家で待ってるぜ!」

 

 ……切れた。何時に集合なのだ。もしかして今からなのか……。出かけると言っていたしな。諦めて布団から出て準備するとしよう。……動きやすい服にした方がいい気がする。スカートやブーツは却下だな。1番の被害は沢田綱吉だが、巻き込まれる可能性も否定できないからな。一応、私は女子なのでそこまでひどいことにはならないと思うが。

 

 それにしてディーノは簡単に当たり前と返事したな。『ボス』というのは恐ろしい。ここまで来るとそう思ってしまう。まぁその返事を聞いてすぐに大丈夫と言った私も『ボス』の器に引き寄せられているのだろう。そう考えると沢田綱吉が嫌いじゃないのも……。いや、あれは不憫で心配になるからだな。

 

 

 

 

 

 

 

 沢田綱吉の家に着いたが、どうするべきか。もちろん誰かと違って「たのもーー!」と叫ぶ気はない。しかし、こんな朝早くに呼び鈴を鳴らしてもいいのだろうか。

 

「ちゃおッス。待ってたぞ」

 

 いつの間にかポストの上にリボーンが居た。さっきは居なかったはずだが……。気にしても意味がないと思ったのでスルーする。

 

「桂はいねーのか?」

「兄は仕事。それに私達はいつも一緒にいるわけじゃない」

 

 あれでも兄は社会人なのだ。合間を縫ってはいつも私のそばにいるので勘違いされやすいが。

 

「兄をファミリーにいれようと考えるなよ。兄がハイスペックなのは知ってるが、裏の世界で過ごせるタイプじゃない。それに、兄は彼より私を優先すると思うし」

「もうサクラ以外には興味がないと断られたぞ」

 

 リボーンの口から恐ろしい言葉が放たれた。なぜ私は兄がこの場にいないのにドン引きしないといけないんだ。恐ろしい破壊力をもつ兄がいて悲しくなった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所はかわって山奥である。

 

「なんでまたここにこなきゃいけねーんだよ……」

「いいじゃねーか。この前はドタバタしてゆっくり出来なかったしよー」

 

 獄寺隼人の意見に激しく同意する。少し前に遭難した山奥に来て、平常心でいる山本武が恐ろしい。もちろん連れてきたディーノも恐ろしい。沢田綱吉なんて顔が真っ青になってるぞ。恐らくこの場所がトラウマになってるのだろう。まぁ乗り心地がよかったため車で起こされるまでずっと眠り、大物っぷりを発揮していた私も大概だが。

 

「それで何すんだ?」

「ん。リボーンも知らないのか?」

「ああ」

 

 リボーンが知らないとは珍しい。私も原作ではないので何をするかわからない。ディーノは一体何を考えてるのだろうか。

 

「この前、ツナのガールフレンドがここの山奥にあるケーキ屋の話をしてただろ? 明日クリスマスイブだしちょうどいいと思ったんだ」

「ガールフレンドじゃないですから!! あれ? でもそれなら……ハル達も誘えばよかったんじゃ……」

「それも考えたんだが……山道を歩くのは辛いと思ったんだ。だからお土産に何個か買ってかえるつもりだ。後でお前らが届けてやってくれ」

「じゃ、私のも」

 

 さて、車の中で待機するか。

 

「お前は心配しなくていいぜ。疲れたらオレがおぶってやるから」

 

 ちょっと待て。それはもっと嫌だ。

 

「ツナのファミリーを誘ったのは体力強化も兼ねてるんだ。無理はしなくていいが、お前も少しは鍛えた方がいい」

 

 恐らくディーノは私が言ったことを気にして、原作より沢田綱吉達を鍛えようとしているのだろう。そして、私も最低限の体力をつけたほうがいいと考えた。ケーキをエサにするとは中々の腕前である。ただ、私は引きこもり体質なのだ。登らずにケーキを食べたい。しかし、ディーノの言い分もわかるので少しだけ駄々をこねることにする。

 

「きゅ、急に山奥に入ってはいけない病が……」

「ははっ! 神崎は面白いこと言うんだな!」

 

 なんということだ。私の全力の回避ボケを天然スルーだと!?これだから天然は恐ろしいんだ。クソ、せめて「くだらないこといってないで、さっさと覚悟決めなさい!」という感じでツッコミをいれてほしかった。この中でツッコミ属性が高い沢田綱吉は何をしているんだ。沢田綱吉を見れば、私と同じように胸を押さえて「オ、オレも入っちゃいけない病が……」と呟いていた。まさか山道を歩くと聞いて私に便乗してボケにまわるとは……!そして、リボーンは密かにパチンコを持ち長鼻に変装にしていた。

 

「――ツッコミ不在か!!!」

「うるせー! お前、さっきから何1人ごちゃごちゃ言ってんだよ!!」

 

 哀れむような目で獄寺隼人を見れば、たじろいでいた。全く、ボケもツッコミもせず水を差すとは右腕失格だぞ。

 

「はぁ……。わかった。疲れたら私はその場に残るから帰りに回収してくれればいい。もちろんその時は私の分も忘れずに」

「ああ。それでもいいぜ」

 

 獄寺隼人は私の最初の溜息が自身に向かって放たれたことに勘付いたようで怒っていた。ちなみに、最後まで無事に私が話せたのは山本武が抑えてくれていたおかげである。

 

 

 

 

 

 はぁはぁ……、と自身の息遣いだけが聞こえる。汗をかいてるのも嫌だ。もう帰りたい。

 

「神崎さん、大丈夫?」

 

 辛うじて大丈夫と返す。しかし、まさか沢田綱吉に心配されるとは――。

 

「先に、行って、いい」

「気にしなくていいよ。オレもこれぐらいのペースがいいし……」

 

 沢田綱吉の視線の先を見てそうかもしれないと思った。競争といい、ハイスピードで登っていく山本武と獄寺隼人に付いていくなら私と一緒の方がいいだろう。

 

「あんまり無理すんじゃねーぞ。ディーノも無理はするなと言ってたしな」

 

 リボーンの言葉に曖昧に頷く。私だって途中で諦める気だった。しかし、ディーノが保護者として山本武と獄寺隼人に着いていったので、今ここに居るのは沢田綱吉とリボーンだけなのだ。私がここでリタイアすれば沢田綱吉は私を置いて登っていくとは思えない。

 

 私もディーノと同じで少しでも沢田綱吉には鍛えてほしい。しかし、それは私が原因のせいなので無理矢理に鍛えさせたくはない。今回の山登り、最初は私に乗ったが、彼はそこまで嫌がってないのだ。このチャンスを逃すのはもったいない。これぐらいの辛さは我慢する。

 

 

 

 

 と、思ってた時もあった。もう無理だ。兄に甘やかされて育った私には根性というものがない。兄よ、なぜ今日に限って私のそばにいないのだ。おんぶプリーズ。

 

「私はここで休んでるから、買ってきて。出来れば大量に」

 

 残念ながら兄がここに居ないので、沢田綱吉に現実的な話をする。

 

「え……で、でも……」

「大丈夫。ここは休憩所を兼ねた広場だと思うし」

 

 ここはぽっかりと道が開けて分かりやすい場所なので1人で残っても問題ないだろう。いくらなんでも私の存在を忘れて帰ることはないと信じている。もし置いていかれたと思ったなら一人で降りて帰るけどな。普段なら忘れられても問題ないのだが、兄は今日帰ってこないのだ。迎えは期待できない。だから置いていかれたと判断した時点で帰る気満々だ。そういう意味でもこの場所ならば、1人で戻れる距離でちょうどいいのだ。

 

「じゃ、楽しみにしてる。よろしく」

 

 沢田綱吉に気にするなという意味で淡々と別れを言った。

 

「サクラがそういってるんだ。行くぞ」

「うん……わかった……」

 

 チラチラと沢田綱吉が振り返りながら登っているので、手をシッシッという感じで振る。さっさと行ってくれ。私のためにケーキを買ってきてくれるなら多少のことは許すから。ケーキを買わず、さらに存在まで忘れたら許す気はないけどな。

 

 沢田綱吉の姿が小さくなったので、その場に座り込む。これからどうするべきだろうか。引きこもり体質の私は、外で過ごす方法は何も思いつかない。寝ることは出来るが、ここで寝るのは勘弁である。

 

「……小説でもいいから持って来るべきだったな」

 

 文庫サイズだとポケットに入っただろう。読みが甘かったなと1人反省する。……することがないので反省するしかないともいう。

 

 反省も数秒すれば飽きてしまったので、好きなキャラランキングでも考えよう。難しいのが、顔や声だけにするか、性格もいれるのかだ。それで微妙に順位がかわってしまうのだ。今度、フゥ太に正確なランキングをしてほしい。

 

「うおおおお!!!」

 

 大きな声が聞こえたので顔をあげる。もの凄い勢いで沢田綱吉のパンツ一丁がこっちに向かってやってきた。二度目だが、怖すぎる。木の後ろに隠れたが、すぐに見つかった。はぁはぁ……と、言いながら迫ってくるパンツ一丁。何度も言うが怖すぎる。沢田綱吉は私の心境に興味がないようであっさりと私の動きを封じた。まじで怖すぎる。

 

「ど、どうし……ひっ!」

 

 いつの間にか沢田綱吉の死ぬ気状態の顔が目の前にあった。怖すぎて声が裏返る。

 

「死ぬ気でサクラをケーキ屋に連れて行く!!」

「ちょ、ちょっと待ってぇぇぇぇぇー…………」

 

 私の悲鳴は無視され沢田綱吉に横抱きで運ばれる。所謂、女子の憧れのお姫様抱っこ状態である。しかし、私はこの手のタイプの空気は読めないようだ。

 

「酔う! 酔うって! せめてゆっくり運んでくれ!」

 

 ハイスピードで運ばれたせいで、上下に揺さぶられ、私はいろんな意味で危険なのだ――。

 

 

 

 

 

 

 

 揺れること5分。何とか私の女の尊厳は守られ、ケーキ屋にたどり着いた。しかし――。

 

「……しまってるな」

「そうみたいだね……」

 

 諦めて帰った後で知ったが、クリスマスにわざわざ山奥に買いに来る人もいず、店主も年末は山奥で過ごさないので20日ごろから閉めているらしい。

 

 私に残ったのは次の日の筋肉痛だった。下山をなめた結果である。

 

「すまん! オレがちゃんと調べていれば……」

「……気にするな」

 

 最近、この言葉ばっかり使ってる気がすると思いながら、クリスマスイブに私の家の玄関前で謝ってるディーノを許した。それに私より沢田綱吉のところに謝りに行ったほうがいいと思うぞ。リボーンに聞けばが彼は歩くのも辛いぐらいの筋肉痛で寝込んでるらしいからな。

 




たまには主人公を痛い目に合わせようと考えた話
なぜかツナ君も痛い目にあう。不思議ですねw

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