今日は私の密かな野望を実現するために原作に介入する。この前、沢田綱吉の家に行ったのに会わなかったからな……。今度こそと思い、学校に残っているのだ。と、言っても原作が終わるタイミングに顔を出すだけだが。
私はこの日のために本を読んで勉強した。……身についたとは思えないが、やらないよりはいいだろうと思っている。他にも最終手段として準備している物もある。わざわざ昨日買い物に行ったのだ。普段、私が食べているものとは違うしな。……兄からもらったお小遣いで買ったことは気にしてはいけない。あれはもう私のお金だ。
しかし、少し後悔することがある。実は昨日会ってるのだ。その時に関わればよかったと思ったが、あの空気の中で私は動くのはきつい。それに、野望のために彼に会いたいとは思っているが、保育係になる気はないのだ。
「うわああああ!!」
凄い泣き声が聞こえてきた。原作が終わるまでリボーンに気付かれないようにしたいと思っていたが、問題なさそうだ。このまま2階の廊下で音を拾えばいい。視線を送れば気付かれると思うしな。
しばらくボーッとしながら聞き耳を立てていると、泣き声が1度止まり静かになったと思えば、また泣き出した。恐らく最初の泣き声は獄寺隼人のせいで、2度目が山本武のせいなのだろう。そろそろ1階へ降りる準備をしよう。
靴を履き替えてゆっくりと行けば、原作のずれはなかったようで大人ランボが泣いていた。完璧のタイミングだな。自画自賛してもいいかもしれない。
「か、神崎さん!!」
「はひ! サクラちゃん逃げてください!! その人、エロくてヘンタイです!! 近づくのは危険です!!」
「うわあああああ!!」
……出直すか。わかっていたつもりだったが、思っていたより状況がひどい。しかし、三浦ハルの言葉で更に傷ついていたはずのランボの顔が不意にあがる。
「……サクラさん?」
大人ランボは私のことを知っているらしい。……反応が妙だな。泣いていたはずのランボが目をパチパチさせている。……驚いて涙も止まった?
「も、もしかして……若きサクラさん……ですか?」
聞かれたので頷く。が、三浦ハルはすぐわかったのに、なぜここまで自信がないのだ。サクラさんと呼んでる時点で交流はあった気がするのだが。……10年後の私はそれほど変わったのか?
「!? ど、どうした!?」
思わず大きな声を出す。私が頷けばランボがまた泣き出したのだ。いつものように泣き出したのなら驚かなかったのだが、ランボは声も出さずに泣いているのだ。
「ラ、ランボ? どうしたの!?」
「あほ牛……?」
「おい……大丈夫なのか……?」
「はひ……。エロい人ですが、どうかしたのでしょうか……」
私だけじゃなく彼らもランボの反応に困っているようだ。しかし、その空気は一瞬で壊れる。リボーンがランボを蹴って、倒れたランボを引きずって行ったのだ。
「お、おい!? どこ行くんだよ!?」
慌てて沢田綱吉が彼らの後を追いかけようとしたが、足が止まる。理由は私が行くなと手で制したからである。
「私が見にいく」
「で、でも……」
「私のことだ。話す必要があれば必ず伝える」
私の言葉に沢田綱吉は何も言えなくなった。ランボの泣き方を見て彼も嫌な予感がしているのだろう。私は彼の頭を撫でてからランボ達の元へ走った。
「来たのか」
時間が少ないので頷くだけにし、大人ランボを見る。泣き止んで真剣な表情だった。
「あまりこういうのはよくねーんだが……未来で何があったんだ?」
そういえば、原作でランボは未来のことをあまり話さなかった気がする。ランボ自身もこういうことはよくないと理解しているのだろう。一瞬、ランボは迷った表情をしたが「オレも詳しく知りません……幼かったので」と、前置きしてから話し始めた。
「急に居なくなったんです。若きボンゴレ達も手を尽くして探したようですが――」
最後に言葉を濁したのはそういうことだろう……。しかし、居なくなっただけでは情報がなさすぎる。
「……兄は? 私の兄は?」
私が居なくなったとなれば、兄は大丈夫だろうか。1番心配したのはそこだった。
「桂さんは今もサクラさんを探して……時々、ご両親に会いに日本に帰ってるようですが――」
「そう」と、返事をしたつもりだが声は出なかった。……ランボが幼い時と言っているんだ。何年探してるんだ……。それに日本以外にも――。
「今でもボンゴレ――ツナさんはみんなで撮った写真を大事に持ってます……。みんな、必死に探して……。オレもいっぱいお世話になったのに……。サクラさん! 気をつけてください! お願いします!!!」
私は時間をかけゆっくりと頷いた。真剣に受け止めたとわかってほしかったからだ。ランボが安心したような顔をした瞬間、幼いランボに戻った。時間切れなのだろう。
「あれれ? お前だぁれ?」
「……ん。私はサクラだ」
ランボと視線を合わせるために私は座り込み、買ってきた飴をあげようとカバンの中を探った。ブドウ味があったので手に広げ見せながら「あげる」と言った
「ママンとツナが知らない人に貰ったらダメって言うもんね!!」
チラチラと飴を見ながら話すランボに苦笑いしながら「さっき名前教えただろ?」と言えば、嬉しそうに受け取り食べ始めた。その様子を微笑ましく見ていると、失敗したことに気付く。つい声を出してしまったので「どうしたんだ?」とリボーンに聞かれた。
「……物で釣るのは良くないと本で書いていたな、と――」
何のために勉強したのか……と本気で思った。最終手段として用意していたのにすぐやってしまうとは……。悔やんでもしょうがないので、わかっていても出来ないこともあると、開き直ることにする。
「子ども好きなのか?」
「あまり」
恐らく私の返事にリボーンは疑問を浮かべただろう。表情は変わらないが。
少し沈黙が流れたので飴を必死に食べているランボを見る。……彼に手伝ってもらおう。本当はこんなタイミングで密かな野望を実行するつもりじゃなかったのだが。
「ランボ、お願いがあるんだ」
「ランボさんはウルトラ強いヒットマン!! オレっちを雇うのは高いんだぞ!!」
私のカバンにまだ飴があることに気付いているのだろう。目がカバンに一直線だ。「飴でいい?」と返事をすれば「今回はそれでいいもんね!!」と物に釣られていた。
「……だってばよ。って言って?」
「だってばよってなぁに?」
大量の飴をランボにあげた。あげる前に小さくガッツポーズしてるところをリボーンに見られていたが気にしない。それほど余は満足なのじゃ。……口調も変になったな。
「……今のは何か意味があるのか?」
「私のテンションをあげる効果はあった」
私の返事を聞けばリボーンは気にしなくなった。彼も今から沢田綱吉のところへ戻らないといけないことをわかっているからだろう。
飴に目を輝かせてるランボを抱き、彼らの元に戻れば驚かれた。飴の量もあるが、私のテンションが高かったのもあるだろう。鼻歌を歌っていたからな。
「ど、どうだったの?」
「もう私は問題ないと思う」
この私は今の私はという意味である。未来の私は残念だが、パラレルワールドとして割り切る。今の私はこれからリボーンが目を光らせるので大丈夫だろう。素晴らしいほどの他力本願である。それにリボーンを見れば私の言っていることが伝わったようで、「ああ」と返事していた。
沢田綱吉達はまだ心配してそうだったが、最終的に私の態度とリボーンの言葉を信用したらしいので、安心してランボをあずけて帰った。
ランボにはあげなかった不思議なアメを食べながら考える。ケイタイを持ったほうがいいかもしれない。マンガを買う量が減るかもしれないが、両親に頼んでみよう。
今回もタイトル詐欺に見えるw